空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act31.4 - 新たな目標ゲットです

 

「おい、リック! もうみんな起きてんぞ!」

 

「うえっ!?」

 

 朝。

 

 ジェイドさんの作ってくれたクリームパフェを食べる夢を見ていた俺は、頭上から響いたルークの声で飛び起きた。

 寝癖のついた頭を手で押さえながら、寝台の脇に立つルークに向き直る。

 

「お、起こしてくれればいいのにルーク!」

 

「俺だってそう思ったよ!」

 

 するとちょっと顔を赤くして怒鳴り返してきたルークに、彼も寝坊したらしいことを知る。

 

 見渡せば部屋の中には俺とルークとミュウしかいなかった。

 一応軍で生活してきた身として、いつもならこんなことはなく早朝起床なんだけど、昨日はジェイドさんが禁書を読み終わるまで待ってようと思って遅くまで起きてたから、寝過ごしてしまったんだ。それにしたって軍人として不覚すぎる。

 

 

 どたばたと準備をしてルークと一緒に部屋から飛び出ると、宿のロビーにはすでにみんなが揃っていた。

 

 脳が溶けるんじゃないか、お前は口が曲がるんじゃねぇの、なんてアッシュと言い合うルークの隣で、俺は所在無く大佐に会釈した。

 

「ヒラ兵士が重役出勤とは、いやはや……」

 

 肩をすくめて鼻で笑った大佐の言葉に返す言葉もなくうなだれる。

 うう、いっそ「いい身分ですね」とか言い切ってほしい。変に濁されるとよけいダメージが大きいです。

 

 

 気を取り直してみんなで大佐の話を聞くと、そもそも魔界の液状化の原因は地核にあるということだった。

 だけどユリアの預言やプラネットストームの稼動に伴う問題で、ユリアシティの人々はそれを改善しようとすることはなかったんだとか。

 

 だけどイオンさまがくれた禁書には、その改善策が書かれているらしい。

 

 セフィロトのほうはなんで暴走しているのかよく分からないので、とにかく液状化のほうをなんとかして外殻大地を魔界に降ろすしかないだろう、と大佐は言った。

 

「もっとも液状化の改善には禁書に書かれている音機関の復元が必要です。この街の研究者の協力が不可欠ですね」

 

 禁書の表紙を指でなぞりながらそう結論を出した大佐に、俺はほうっと息をつく。

 

 本当に一晩であれを読破してしまったんだ。

 途中脇から覗き込んだりしたけど、俺は理解の前に読めすらしない。……いや、読めはするのだが、本当に読めるだけで意味なんかさっぱりだ。正直言うと難しい専門用語が多くて読めさえしないところも多かった。

 

 やっぱりジェイドさんはすごい、と一人で目を輝かせて拳を握る。

 

 

 その後、アッシュがインゴベルト陛下のことを「父上」と呼んだことでルークに驚かれアニスさんにからかわれ、怒って出て行ってしまったりしたが、俺達はガイの提案でヘンケンという研究者を捜すことになった。

 

 

 そして第一音機関研究所。

 

「へえ、それじゃこの禁書の復元はシェリダンのイエモンたちに任せるか」

 

「イエモンだと!?」

 

 そこにいた科学者のおじいさん達、通称『ベルケンドい組』は、通称『シェリダンめ組』と呼ばれているらしいイエモンさん達とライバル関係にあるらしく。

 

 最初は渋った彼らだが、ガイが言葉巧みにそれを煽った結果、協力してくれることになった。

 本来ファブレ公爵側であるはずのベルケンド知事も彼らが説得してくれて、情報が漏れないようにしてくれるという。

 

「め組……」

 

 シェリダンで別れたイエモンさん達の姿が脳裏を過ぎった。

 どうしてるだろう。無事でいるかな。

 

 ずっと考えないようにしていた心配が再び頭をもたげた瞬間を見計らったように、後頭部をぱしりと叩かれた。

 

 音は軽いのに痛いこの平手。

 頭を押さえて振り返ると、そこでは大佐が叩いた手の位置もそのままに立っていた。

 

「は、はい」

 

「何も言ってませんよ」

 

 とっさに頷いた俺に呆れた目を向けて、大佐は身をひるがえした。

 今の一撃を持って、言おうとしたことを俺が理解したのを感じたらしい。

 

 先を行く大佐の背中を見ながら、軽く自分の頬をはたいた。

 今の俺が考えてどうなることでもない、だ。

 

 

 

 

 研究所の外に出たところで、俺はひょいと手を上げる。

 

「あの、俺、アッシュさがしてきます」

 

「え、なんで」

 

 先頭を歩いていたルークが振り返って不思議そうに首をかしげた。

 

「作戦会議するなら一緒のほうがいいと思うし……」

 

 敵か味方か微妙によくわからないアッシュだけど、今のところ目的は同じみたいだし、何より昨日の様子を見る限りヴァン謡将とは本当に繋がってなさそうだった。これを一時休戦とみていいなら彼も一緒で問題ないだろう。

 

 そんなわけで探して知事邸まで連れてくる、というと、ガイが明るく笑って賛成してくれた。

 

「いいんじゃないか? そろそろ話も纏まったことだし、もう呼んでも怒りゃしないだろ」

 

 もし間に合わずに話が終わってしまったら先に宿へ戻っているからそこにアッシュも連れてきてください、という大佐の言葉を受けてから、俺はみんなと別れてベルケンドの町並みにくり出した。

 

 

 

 

 にしても、どこいったんだろう。散歩に行くと言っていたけど。

 

 まあこの臆病な性格と、日々執務から逃げ出す陛下のおかげで、隠れる場所や人を見つけるのは得意だ。数分も捜せば人目につきにくい街角にたたずむ緋色を見つけた。

 

「アッシュ!」

 

 思わず駆け寄ろうとすると、すっとこちらを見たアッシュの目が、鋭く俺を突き刺した。

 

「…さ、ん……」

 

 その翠のきつさに、思わず足を止める。

 ほうけながら付け足した敬称が、頼りなく空気にとけた。

 

 少しの間、奇妙な沈黙が降りる。

 

「なにか用か」

 

 だけどそう言って溜め息をついたのは、いつもの不機嫌なアッシュだった。

 先ほどの静電気が走るような感覚の余韻をまだ首の後ろに感じつつ、今度はゆっくりと彼に歩み寄る。

 

「ぅえと、さ、作戦会議するから、知事邸まで……」

 

 少しうろたえながらも一緒に来て欲しいという旨を伝えた俺をその翠に映しながら、アッシュは苦いものを噛み締めるような顔で、目を細めた。

 その表情を見て俺は、ああ、と手の平に拳を打ちつける。

 

「大丈夫だよ、アッシュ…さん」

 

「……あ?」

 

「父上っていうの確かに顔には似合わないと思うけど別に照れる事はないと思うしぅわーー!!」

 

 真上から力強く落とされた銀に輝く剣身を慌てて避けた。

 

「ば、抜刀すんなよ!」

 

「黙れ滓がッ!!」

 

「ルークはクズで俺はカスか!?」

 

 目にも留まらぬスピードで剣を抜いたアッシュが、その抜き身の剣を手に切りかかってくるので、俺は涙目で全力疾走しながら逃げ続ける。

 

 変な顔してるから、まだアニスさんにからかわれたの気にしてるのかと思ったんだけど、もしかして本当に気にしてたのか!

 

「ほ、ほんと大丈夫だよ! そりゃその顔でパパとか言われたらちょっと怖いけどギャア!」

 

「そこで止まってろ! 真ん中からキッチリ両断してやる!」

 

「イイイイヤですー!」

 

 泣いて首を横に振りながら背後のアッシュを肩越しに かえりみていると、前から走ってきたらしい人に思い切り肩がぶつかってしまった。

 

 たたらを踏んで立ち止まる。

 

「す、すみませっ……あれ?」

 

 すぐに謝ろうとその人のほうを向いたが、人影は俺に一瞥もくれることなく一目散に走り去っていく。

 

「……あいつ」

 

 ふと聞こえた声にアッシュを見やると、彼は剣を下げてさっきの人が走り去ったほうを見つめていた。

 

「アッシュ?」

 

「今のやつ、スピノザじゃなかったか」

 

 その言葉に目を丸くする。

 さっきは一瞬のことだったために顔まで確認できなかったが、言われてみればそうだったような……。

 

 かちりと剣身を鞘にアッシュは、スピノザとおぼしき男の走ってきた方向を確認すると、思案するように眉間の皺を深めた後、ふいと身をひるがえした。

 

 いつのまにここまで来ていたのか、そのすぐ先にはベルケンド知事邸が見える。

 そこで邸前にたたずむルーク達の姿を見つけたので、俺もアッシュの後に続いてみんなのほうへと走った。

 

 

 





>もしかして本当に気にしてたのか!
アッシュ的に大変不名誉な勘違い。

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