空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act32.2 - 俺ができること

 

 その後、場は一気にせわしくなった。

 

 パメラさんの治療をしながら、急いで部屋へ運ぼうと動くルークたち。

 青い顔でまだ立ち上がれずにいるガイに声を掛ける大佐。

 

 その真ん中で、俺はさっきからなぜか眉間に張り付いている重い気持ちを持て余していたけど、動き始めたみんなを視界におさめて、ぶるっと首を横に振った。

 

 気付けをするように、軽く己の頬をたたく。

 

 『本当に頑張りたいと思うなら、自分の頭で考えて動いてみるのも良いんじゃないのかい』

 

 脳裏に蘇るのはノワールの声。

 

 そうだ、呆けるのは後にしろ、リック。

 何をするべきかを、自分の頭で考えるんだ。

 

 俺は気持ちばかり顔を引き締めて、パメラさんを抱き上げようとしているルークの傍に駆け寄った。

 

 

 

 

 そして今、俺は礼拝堂の扉の前で体育座りをしています。

 

 パメラさんのことはナタリア、ティアさん、ルーク、アニスさんが見てくれている。

 そうなると治癒術も使えない俺は部屋の中にただボケッと突っ立っているしかない。

 

 だからルークと二人でパメラさんを自室へ運んだ後、ティアさんにその旨 言伝を残してこっちへ来た。今の俺ができそうなことはガイの様子を見ることだと思ったから。

 

 ……なんだけど、気まずくて何となく入れずにこの扉前にいる。

 だめじゃないか、とノワールが呆れたように言う声が聞こえた気がした。

 

 はぁと溜息をはく。

 とりあえず礼拝堂の中でなにか話してるのは分かるけど、内容までは聞こえない。

 

 さっきイオン様に言われてアリエッタを偉い人に引き渡しに行った大佐は、その足でガイの様子を見てくると言っていたから、話している相手はたぶん大佐だ。

 

 中には知り合いしかいないのだから気がねすることはないと思うけど、あんな弱ったガイを見るのは初めてだったから、深刻な話題かと思うとどうしても扉を押せなかった。

 

 どうしたものかと膝を抱え直しつつも、そろそろ扉の両側を陣取るオラクル兵たちの視線が痛くなってきた、そんなとき。

 

「リック!」

 

「ぅわあハイぃい!!」

 

 中から名を呼ばれて、思わず返事をしてしまった。この声は大佐だ。

 気付かれてないつもりだったのに。いや、大佐だからか。

 

 突然声を上げた俺をやかましそうに見る兵士たちに、気まずさをごまかすためへらりと笑って会釈してから、そろりと扉を開けて中を覗き込む。

 

 すると、輝かしい笑顔を浮かべておいでおいでと手で示す大佐の姿が目に入った。

 その笑顔にあまり良い予感がしなくて、ひきつる笑みを浮かべながら俺かと自分を指して見せると、大佐はいつもの笑顔で頷いた。

 

 そうなると逃れようもなく、おそるおそる礼拝堂の奥へ足を踏み入れる。

 

 大佐の脇、教壇前の短い階段に腰を下ろしていたガイは、当然ながら俺の存在には気付いていなかったらしく目を丸くしていた。うん、普通は気付かないんだよな。大佐だからなんだよな。

 

 まだ顔色の悪いガイを気にしつつ傍まで近寄ると、突然ぽんと肩を叩かれた。

 

「じゃ、そういうことで」

 

「……はい?」

 

 言うが早いか、ひらりと片手を上げて場を後にしようとした大佐は、途中でふと振り返って、また笑った。

 

「ルークたちが迎えに来るまで貸してあげますよ。くっつけときなさい」

 

「え、ちょっ、ジェイドさっ、大佐?」

 

 だがそれはガイに向けられた言葉だったらしい。

 ガイが何も言わずに苦笑したのを見て、大佐は今度こそ部屋を出て行ってしまった。

 

 扉が軋んだ音を立てて閉じた後、残された俺はすこし途方にくれる。

 

 なんだ。なんだったんだ。

 説明を求めようにも大佐は部屋の外、ガイはまた顔を俯けていて、何か聞ける状況じゃなさそうだ。

 

 とりあえず俺は、ガイの隣に腰を下ろしてみた。

 

 でも無言のまま過ぎていく時間がいたたまれない。

 ガイがいつも気を使って喋ってくれていたから、旅の中でこんなふうに沈黙のままでいることは少なかった。

 

 じんわりと冷や汗が首の後ろに滲む。

 

「あ、あのさ」

 

 目を泳がせながら、俺はなにかきっかけを掴もうと口を開いた。

 

「その、なんていうか、ナタリアの治癒術ってすごいし、パメラさんきっと大丈夫だよ」

 

 自分の声だけが礼拝堂の中に木霊する。

 一向に戻ってこない返事に、また焦って喋り始めた。

 

「ていうか、なんか思い出したんだってな! いや、なんだか分かんないけど、やっぱり思い出して嬉しいことばっかじゃないよな!」

 

 しどろもどろになりながら言葉を紡ぐも、ガイはまだ俯いたまま。

 が、ががががんばれ俺。まけるな俺。

 

「ほらっ、俺なんかさ。さっきアマンゴカレー覚えたって言ったけど、それ覚えるまで山あり谷折りで!」

 

 いや、谷折っちゃだめか。

 

「試作アマンゴカレーと食事用につくった普通のカレー間違えてジェイドさんに出しちゃって! でもまたそれが試作品だったからひどいもんでさ、まあ怒られて、いやちょっと思い出したくないくらい、怒られて……ほんとに怒られて……」

 

 フリジットコフィンは久々だった。

 

 思い出しすぎて自然と遠い目になった俺の視界に、俯いたまま肩を震わせているガイの姿が目に入り、ざっと頭から血の気が引く。

 

「ガ、ガイっ」

 

 また何かやらかしてしまったのだろうかと、あたふたする俺の耳に次の瞬間 届いたのは、空気が勢いよく漏れる音だった。

 

「ぶっは……!」

 

 思わず目が丸くなる。

 泣いているのかと思ったガイは、なぜか口元を押さえていた。

 

 な、なんだよ。

 

 いぶかる俺をちらりとその空色の目に捉えたガイはどう見ても笑っている。込み上げる笑いをかみ殺しながら、今度は片手で顔の半分を覆った。

 

「ぶっ……、は! ははっ! お、おま…うっざ……!」

 

本当になんなんだよ。

あれ、俺、慰めたよね?慰めてたよね?

 

「な、なんだよ! 俺 慰めてるのにウザイとか大佐以外の人に言われたの初めてだよ!?」

 

「ぶはっ、ジェイドには言われてんだ、ハハハッ」

 

 ああ、ついこの間言われた。

 まだお腹を抱えて笑うガイを憮然と見下ろす。

 

「心配してきたのに! 俺もうしらないからなー!」

 

 熱くなる顔を隠すついでに腕を組んでそっぽを向いたけど、ガイは笑い続けている。

 

「ははっ。ハハハ……こりゃ効くよ、旦那」

 

 小さく呟かれた言葉が聞き取れず、眉間に皺を寄せた。

 

「なんか言ったかよ! ていうかいい加減笑うの止めないと俺泣くからな!」

 

「ああ、悪い悪…ぶふっ」

 

 謝るのと同時に再び噴き出したガイに、俺はもう少しちゃんと怒ったほうがいいのかと悩んだけど、まあ笑ってくれるならそれでいいか、とつり上げていた眉をひょいと下げて、苦笑した。

 

 

 





▼リックは称号『ウザい人』を手に入れた!
癒し効果はゼロだけど、なんかウザすぎて色々どうでもよくしてくれる。

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