空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act39 - すすんでメジオラ・ロード

 

 降下作業を続けるため、俺達はユリアシティの技師さんがみつけてくれたセフィロトの内のひとつがあるという、メジオラ高原に向かう事になった。

 

 やっぱりティアさんの体は心配だけど。

 そう考えてから、ぺたりと自分の頬に手を当てた。

 

 真っ直ぐな青の瞳。

 ヴァン謡将やイエモンさん達のような、痛いほどの強固さではなかったものの、そこにあったのは確かに“覚悟”だった。

 

 たぶん、ティアさん自身も怖いんだと思う。怖くないわけない。

 青は確かに少し、揺らいでいたようにも見えたのに、それでも降下作業を止めるという選択肢を取る気持ちはちっともないようだった。

 

(強い、なぁ)

 

 それに比べて俺は、ティアさん差し置いて号泣だ。自分のヘタレっぷりにまた涙が出る。

 

 いやいや、俺が落ち込んだところで何も変わらない。

 気を取り直して、目の前に広がる大地を映した。

 

 メジオラ高原。

 

 前の時はお留守番だったから、俺にとっては初めての場所だ。

 ダアト式封咒の扉を探して意気揚々と歩き出しはしたが、これが内部はおそろしく広かった。

 

 そうしてまがりくねった自然の道を進む途中のこと。

 

「ティア。これ以上無駄なことは止めろ」

 

 再び俺たちの前に現れたリグレット。

 彼女はティアさんの体のことを知っているようだった。そして、自分の身を犠牲にしてまで守る価値のある世界か、と問う。

 

 ルーク達の行動を阻止にきたのかと思いきや、その語り口はまるで、ティアさんの身を案じているようだった。

 話し終えるが早いか、すぐさま場を去ったリグレットの消えた方向を睨んで、ぐっと拳を握る。

 

 なんで、そんなこと言うんだよ。

 どうしてティアさんの心配なんかするんだ。

 

 だって、あんたは……あんた達が、イエモンさん達を。

 

「リック」

 

 大好きなひとが付けてくれた大好きな名前を呼ぶ、なによりも大好きなひとの声に、俺はそろりと振り返った。

 その先で僅かばかり顰められた赤とぶつかって、泣きそうになるのを堪え、ひとつ大きく深呼吸をする。

 

「はい!」

 

 そして、めいっぱい笑って返事をした。

 

「……まだ何も言ってませんよ」

 

 大佐はそう言いながらも目の端をすこし緩めてから、身をひるがえしてすでに歩き出していたみんなの後に続く。

 俺は、いつもどおりぴしりと伸びた背を見つめて、もうひとつ笑みを深めてから、その後を追って地面を蹴った。

 

 ジェイドさん。俺だって本当は分かってるんです。

 “悪い人”は、同時に誰かの“大切な人”でもあること。

 

 『俺はジェイドさんのこと、大好きですからねっ!』

 

 分かっていても苦くて、苦くても変えられない願いが、あることを。

 

 

 

 どうにか見つけたセフィロトへの扉を、いつものようにイオンさまが開いてくれたのだけど、そのあと彼はまた青い顔で座り込んでしまった。

 

 聞けば病気であるわけではなく、それもレプリカゆえの劣化なのだという。

 

 そんな会話を聞いていた大佐が、ふいに言葉を零した。

 自分が始めた研究がこんな形で広がってしまうのは妙な気分だ、と。

 

 それは妙じゃなくて、辛いっていうんです。

 どれだけそう怒ってしまおうかと思ったけど、大佐の性格上、言葉でいっても分かってくれないだろう。というか言葉で分かってくれるなら、俺はこれほど切ない思いをしなくて済んでいるはずだ。

 

「……アッシュは怒ってると思うけど、」

 

 今までのアレやコレやを思い出してちょっと涙ぐんでいた俺の耳に届いたのは、控えめなルークの声。

 

「俺、マジ感謝してる」

 

 その言葉に思わず目を見開いて、それから、微笑んだ。

 ほら、大佐。俺だけじゃないんですよ。

 

「……ホントは生まれてちゃダメなんだろうけどよ」

 

 だけど今の発言から三秒と経たない内に零されたルークの台詞に、みんなできゅっと眉をつり上げる。

 卑屈反対、と半眼で言ったガイに続いて、俺も身を乗り出しながら人差し指を立てた。まったくもう、大好きを信じてくれないのは大佐だけで十分だ。

 

「そうだぞルーク! そんなこと言ってると大佐のミスティック・ケージが飛んでくるからなっ!」

 

「リック……」

 

 ルークがこちらの勢いを受けて困ったように、でも少しだけ照れ臭そうに苦笑する。

 言ったらもっと照れそうだから言わないけど、やっぱりそういう顔のルークのほうが俺は好きだ。

 

「ちなみにマルクト軍人の家庭内では『言うこと聞かないと死霊使いに改造されるぞ』が我侭な子供への常套句として広まってるんだ」

 

「そうなのか!?」

 

 そうするとどんな子供もぴたりと泣きやむとのことで、どのご家庭でも大変重宝なされているとかしないとか。

 

「おやー、それは初耳ですねぇ」

 

 背後から聞こえた柔らかな声色と、同じ方向で渦巻き始めた強い音素の気配にぎくりとする。

 

「ではご要望にお答えして。――旋律の戒めよ、ネクロマンサーの名の下に…」

 

「たたたたすけてフリングス少将ぉー!!」

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

「アスラン、どうした?」

 

「あ、いや、空耳だったみたいだよ、ジョゼット」

 

 

 

 

 

 さすが秘奥義、普段くらっている譜術とは威力が桁違いだ。

 しゅうしゅうと煙を上げて地面に突っ伏しながらも、頭の片隅で「すごいですジェイドさん」と男惚れする。でもちょっと本気で泣きそうです。

 

「ちなみにそれを言い出したのは誰ですか?」

 

 ミスティック・ケージを放った手を胸の前に掲げたまま、輝かしい笑顔を浮かべた大佐を見て、俺はひっそりグランコクマに向けて念じてみる。

 

 ジェイドさんはお見通しみたいですよ、陛下。

 

 謁見の間で炸裂するインディグネイションが、瞼の向こうに鮮明に浮かんで、消えた。

 

 

 

 

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