空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act39.3 - ベルケンド、フロム、ワイヨン

 

 残りのセフィロトのひとつはダアトにある。

 そんな研究員さんからの言伝を知事に聞き、みんな休むのもそこそこにダアトへ向かった。

 

 イオンさまも知らなかったというセフィロトは、ダアトにあった譜陣から通じるザレッホ火山にあった。

 今回は目立ったアクシデントもなく、あっさりとパッセージリングの操作を終えることが出来たのだけど、その間中、アニスさんの様子がおかしかったのが少し気がかりだった。

 

 彼女の歯に衣を着せない言動は、そのままアニスさんの真っ直ぐさを現してる。

 見ないふりはしない。だから自分を守る言葉も使わない。いつだって真っ向から物事にぶつかる彼女なのに。

 

(ずっと、目が合わなかったなぁ)

 

 ザレッホ火山……というより今回ダアトに来たときから、一度もアニスさんと視線が合うことがなかった。

 

 らしくない。

 そうだ、そのときのアニスさんを一言でいうなら、まったくもってらしくなかったんだ。

 

 だけどその後、ベルケンドまで戻ってくるころには、もういつものアニスさんだったから安心したけど。

 

「リック~?」

 

「わ。……はい」

 

 思考の真っ只中にいた少女がふいに目の前に現れた。

 寸の間驚きに目を丸くして、それから改めて返事をする。

 

 アニスさんがくいと片眉を引き上げた。

 

「どーしたの。なんか調子悪いとか?」

 

「あ、いえ、ちょっとボーっとしてました」

 

「もぉ。ただでさえおっもーくなっちゃう人達ばっかりなんだから、リックまで深刻な顔しないでよね~」

 

 そう言って腕を組んだアニスさんに思わず笑ってしまう。

 ルークやナタリアは真剣だからこそ落ち込みやすくもあるし、ティアさんや大佐は軍属であるがゆえにまず最悪の場合を想定をする。

 

 そんな中で努めて場を明るくしようと奮闘しているアニスさんやガイ。

 お世話になってます、と内心で二人に手を合わせた。

 

「リック暗くなったらそれこそ空気重いじゃん」

 

 その言葉に俺はまたきょとんと目を丸くして、それからちょっと考える。

 

 瘴気をどうにかする方法を思いつく頭も、ヴァン謡将を退ける力もない俺が出来ること。

 

 それはやっぱり、いつもどおりであることかもしれない。

 俺はなんの力もないけれど、ジェイドさんいわく間抜けな顔で笑うことは出来るはずだ。

 

「……はい! 俺は元気ですよ!」

 

「ん、その意気」

 

 結構、というように頷いたアニスさんと顔を見合わせて、二人で笑いあった。

 

「ところでアニスさん、なんでここにいるんですか?」

 

「さっき遊びに来たよって言ったじゃん」

 

 現在、ベルケンドの宿屋、の男部屋。

 

 ほんとにボーっとしてたんだ、と半眼で俺を見やるアニスさん。

 窓辺のテーブルについていた大佐がいつもの呆れ顔で肩をすくめたのが見えた。

 ……すみませんボーッとしてました。

 

 

 

 

 そして寝て起きたら、ティアさんが行方不明になっていました。

 

 いつもどおりでいようという昨日の思考もなんのその、見事にパニック状態に陥りあたふたと部屋をうろつき回った俺は、最終的に大佐に首根っこを掴まれたところで少し落ち着きを取り戻した。

 

 ……もしかしたら、いつもどおりってすごく難しいことなんだろうか。

 

 研究所の人の話によればティアさんはアッシュと一緒にワイヨン鏡窟へ向かったらしい。突然出てきたアッシュの名前には驚いたけど、とにかく今はティアさんだ。

 

 みんなで取り急ぎワイヨン鏡窟に行くと、すぐにオラクル兵やリグレットと行きあった。

 だけどリグレットは俺たちに攻撃を仕掛けることなく、それどころかティアさんを捜しにきたなら進めと促してくる。

 

 通せというのがヴァン謡将の指示なんだと聞いて、ぎしりと体が固まった。

 ヴァン謡将。ここにいるのか。

 

 決着はロニール雪山でつけると言い残し、リグレットは去っていった。

 

 みんなが先へ進み出す中、大佐がふと俺を振り返る。

 

「……残りますか?」

 

 すがめられた赤の瞳に、ぎゅっと口を一文字に引き結んだ。

 そしてすぐに大佐を見返して拳を握る。

 

「い、いきますっ」

 

 すると大佐は何か言いかけたけど、ひとつ息をついて身をひるがえした。

 

 怖くない。怖くない。

 怖くないったら、怖くない。

 

「……迎えが来たようだ。もう行きなさい」

 

 こわい!

 脳内は0.2秒でくつがえった。

 

 奥にはティアさんと、アッシュ、ヴァン謡将の姿があった。

 俺たちの到着と同時に、謡将に切り伏せられたアッシュが地面に倒れこんでいる。

 

「このまま続ければ兄さんの体だって瘴気でボロボロになってしまうのよ!」

 

 ティアさんが叫ぶ。

 だけど謡将の声は、一欠けらも揺るがなかった。

 

「私は、人類がユリアの預言から解放され生きる道筋がつくならそれでいい」

 

 覚悟。痛いほど真っ直ぐな、青の瞳。

 

 ざわりと背筋が一気に粟立つ感覚に、俺はとっさに剣の柄を掴む。

 握り締めた手は小刻みに震えていた。

 

 あとずさる事すら出来ずに固まる俺を一度見た大佐が目を細めて、再びヴァン謡将に視線を戻す。

 

「フォミクリーは大量の第七音素を消費する。この星全体をレプリカ化するには世界中の第七音素をかき集めても足りませんよ」

 

 レプリカ。第七音素。

 ローレライの消滅。

 

 みんなの話はほとんど頭に入ってこなかった。

 

「お前とは戦いたくなかった。残念だよ、メシュティアリカ」

 

 そしてヴァン謡将が立ち去ったところで、俺はようやく息を吐いて剣から手を離す。なんだか、会う毎に苦手になっていく気がする。

 

 その後アッシュは引き止める間もなく、時間がないとか言ってまたどこかへ行ってしまった。

 

 ヴァン謡将と遭遇した動揺が中々覚めやらずに突っ立っていると、ふいに頭のてっぺんに軽い衝撃を感じた。

 

 大佐に叩かれたにしては軽すぎるそれに目を上へやる。

 そこには黄色の毛並みをしたチーグルが乗っかっていた。

 

「ちょうどいいですから、あなたがもってなさい」

 

「え、は?」

 

 事情を飲み込めず目を白黒させる俺に、ガイが補足してくれる。

 

「ヴァン達がここ引き払っちまうだろ? そうすると誰も来なくなるからさ、つれてってやろうって話になったんだよ」

 

 このチーグルは実験に使われた子らしい。

 頭の上からおろして、目の高さに抱き上げてみる。

 

 みゅう、と可愛い鳴き声がした。

 

「…………あれ」

 

 なんだろう、この微妙な違和感。

 まじまじと彼(彼女?)を眺めてみたが、特に変わったところはない。というかチーグル族の違いは俺には分からない。

 

 分からないんだけど、なんかこう、もそもそする気がする。

 落ち着くような、落ち着かないような……。

 

「リック! いくよー!」

 

「はいー!」

 

 ま、いいや。

 

 そのチーグルを腕に抱き直して、俺はみんなの後を追った。

 

 

 




レプリカと一緒にいると落ち着くリック。だけどスターは体がレプリカ、心はオリジナル。
なんとなく腑に落ちない感じはしているものの、根があほのこなのであまり深く考えない。
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