空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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ジェイド視点+α


Act43.3 - それは僕がおかした罪のはなし(後)

 

 

 そこでジェイドはまたひとつ息をついて、顔を上げた。

 

「リックが何より怖いのは死ぬ事なんですよ」

 

 唐突に変わった会話の方向性に首を傾げつつも、ガイはとっさに言葉をさがしてそれに続ける。

 

「死ぬのは誰だって怖いだろ?」

 

「そうですが、あれの場合は特別です。異常といってもいい」

 

 死への恐怖、生への執着。

 生まれた理由がそこにあるからなのか、リックはひどく死というものを恐れた。

 

 それは到底軍人であるには向かない性質かとも思われたが、ジェイドは()()()()()軍人で在れたのだろうと思っている。

 彼は自分の命を優先するがゆえに、人を殺すことに迷わない。

 

「だから解せないんですよ。どうしてアブソーブゲートであんなことをしたのか」

 

あのときの行動は、それこそ彼自身のアイデンティティを踏みにじるに近いものだったはずだ。

 

 死ぬつもりでヴァンと対峙したわけではないだろうが、それでもその先にどういう可能性が待ち受けているかは想定できただろう。

 

 『大切なひとを守れないのは、もう、嫌なんだよっ!!』

 

 しかし、あの子供の中で何かが変わりつつあるのに、気づかなかったわけじゃない。

 旅の中で少しずつ、少しずつ、雲が形を変えるように。

 

 その後に散った赤を思い出して眉を顰めていると、ガイがふと苦笑を零した。

 

 仕様がないなとでも言いたげな空色が、ソファに間抜けな顔で眠っている子供を映して、それからまたこちらを見た。

 

「忌まわしいとか解せないとか言ってるが、それなら、なんで旦那はリックを連れてるんだ?」

 

 金だけ出してどこか目の届かない場所で暮らさせることも出来たろうに。

 そう言う青年からふと視線をそらし、考えた。

 

 窓の向こうから響く水音が、静寂の代わりに部屋中に横たわる。

 

 少ししてジェイドはようやく口を開いた。

 

「何故……そうですね。理解が出来ないから、かもしれません」

 

 殺したくないと泣くあの赤毛の子供も、死にたくないと震えるこの子供も。

 自分とは正反対のところにいるから。

 

 呟くように言えば、ガイは少し考えるように目を細めた後、ふと笑いを零した。

 

「報われないよなあ」

 

 その言葉にジェイドは視線をやることで続きを促すと、彼は込み上げる笑みを堪えながら、言葉を続けた。

 

「なあジェイド、理解できないってことはないんじゃないか? こいつはずっと言い続けてるだろ」

 

 そして空色の瞳が柔らかく緩む。

 

「バカみたいにさ、何度も何度も、その理由をあんたに伝えてるんだから」

 

 バカみたいな笑い顔が、瞼の向こうに浮かんだ。

 十歳児らしく幼稚なことばで、子供はそれを口にする。

 

「そろそろ信じてやれよ」

 

 ジェイドはひとつ息を吐いて、目を伏せた。

 

「……やはり、分かりませんね」

 

「ジェイド」

 

「分かりません。どうしてあれほどまでこの私を慕えるのか」

 

 目を丸くしたガイに向けて小さく苦笑を浮かべてから、たとえば、と口にした。

 

「笑うんです」

 

 

 

 

 空からふわふわと言葉が降ってくる。

 俺の大好きな、声。

 

「声を掛けただとか、名前を呼んだだとか。そんなささいなことでバカみたいに嬉しそうに笑うんですよ」

 

 体が浮かぶような曖昧な感覚の中、その声だけは確かに響いている。

 優しい赤色が脳裏にちらついた。

 

「それが私には、分からない」

 

 告げられた言葉に、その声と話す誰かが喉の奥で低く笑ったのが聞こえた。

 

「なに、ゆっくり気づいたらいいさ。こいつはアンタを待つのには慣れてるよ」

 

 その言葉に、彼が表情を歪めるのが見えた気がして、深い夢の中でそっと微笑んだ。

 

 「……そうですね」

 

 続いて聞こえてきた静かな呟き。

 

 「時々嫌にもなりますが、教わる事も、あります」

 

 静かで、優しい声。

 

 ああ、この夢が醒めたら俺はまず彼にこう言おう。

 

 俺はあなたが大好きですよ、って。

 めいっぱいの笑顔で、伝えよう。

 

 

 『 お兄ちゃんの偽者! 』

 

 瞬間、暖かいものに浸ろうとする俺を引き止めるように、また夢の中から聞こえてきた泣き声。ぴくりと指先が揺れる。

 

 ごめん。ごめんなさい。

 俺は、あなた達にとてもひどいことをしてしまった。

 

 謝って許されることじゃない。

 分かってる。でも、それでも、いつか。

 

 

 いつか……――あの子に会いにいってみようか。

 

 

 

 瞼の裏に浮かんだ雫が、すっと頬を伝って落ちていった。

 

 

 

 

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