時に、西暦2021年8月1日。
平和に暮らしていた人類の前に、海上から突如、謎の勢力が攻撃を仕掛けてきた。
人類は持てる全兵力を投入し抵抗。しかし、抵抗虚しく、彼らを止めることは出来なかった。
彼らは20世紀初期の艦艇のような姿をしており、更に、人類が辛うじて撃破した敵を調査したところ、表面に深海に生息する生物が付着していた。これらの理由から、人類は彼らを「深海棲艦」と呼ぶようになった。
一方、その頃。人類内部でも変化があった。人類の中から“新人類”が見つかったのだ。彼女らは、ある特定の兵器と強い“繋り”を持っており、その兵器の運用に関しては群を抜いていた。「深海棲艦」に抵抗しうる者。人は彼女らを「艦娘」と呼んだ。
2023年5月1日。
日本で「対深海棲艦戦闘特別許可法」が成立。と同時に、日本の海上自衛隊で「艦娘」を主戦力とし、それを人間が支援する形で運用する特殊部隊、「第五七独立特殊戦闘艦隊」が編成された。深海棲艦に対抗しうる唯一の部隊である。
これは、そんな彼らの、戦いの記録である。
【2024年2月18日・日本・四国沖】
「後部艦橋、通信途絶!被弾した模様!」
「艦尾VLS付近の甲板に被弾!ミサイル庫への注水急げ!」
「『ふゆつき』被弾!沈みます!」
バカな事をした。自分でも、そう思う。現代艦船で20世紀前半頃の艦と同等の砲戦能力を持つ巡洋艦に近距離砲撃戦を仕掛けるなど、自殺行為だ。分かっていた。だが、敵艦隊をこれ以上本土に近づけぬ為には、我々が時間を稼がねばならないのだ。たとえ、死んででも。
「ハープーン発射管被弾!使用不能!」
「左舷短魚雷発射管付近に被弾!使用不能!」
「艦首に被弾!主砲、使用不能!」
次々と上がる被害報告。この『きりしま』も、もう虫の息だ。最新鋭イージス護衛艦ですら、この有り様。流石、近距離砲撃戦“だけは”最強なガン・クルーザー様だ。クソッタレ。
「総員、退艦命令。後続の艦に指揮の引き継ぎを命じろ。」
指揮官としての最後の仕事だ。これだけは、これだけでも、しっかりやらねば。
「艦長。残っていたのは、本艦だけです・・・」
あぁ、畜生。ボコボコにされてた本艦ですら、“まだ耐えていた方”か。
「・・・分かった。もういい。総員退艦だ。」
これで、日本が保有するイージス護衛艦は0。あとに残っているのは、数隻の旧式ミサイル護衛艦程度、か。
「レーダーに新たな反応!これは・・・航空機です!およそ一個中隊規模!」
今、分かったことは2つ。
1つ目。レーダーはまだ、辛うじて生きていたということ。
2つ目。「ヒーローは遅れてやって来る」と言う文句が、事実だと言うこと。
「・・・遅れすぎ、だな。」
誰にも聞かれぬ呟きが、自然と口から溢れた。
《敵艦隊、前方に見ゆ!数は、巡洋艦3、駆逐艦3!『筑摩』艦載2号機の報告と一致!》
「よぉし、よく聞けお前ら!敵は直掩の戦闘機が一機も居ない雑魚だ!艦攻一個中隊で攻撃するのは勿体無いが、スコアにはなる!」
《確かに。スコアには、なりますね。》
「あぁ!さぁ、お前ら!空母『赤城』航空隊の実力、存分に発揮しろ!」
《了解!》
良い部下。良い上司。良い職場環境。これこそが、良い仕事の極意。
そんなことを、どこかで聞いた気がする。実際、今の仕事は良い。職場環境を除いて。
「全機、突入!」
ミスをすれば、その対価は自分の命でもって払わされる、この世界。いや、仕事。それこそが、兵士ということであり、パイロットということである。
素晴らしきかな。
軍隊万歳。
《敵艦隊、対空射撃開始!》
敵の高角砲弾が、自機の右で、左で炸裂し、バラバラになった鉄の破片を超高速で撒き散らす。鉄の破片といっても、鉄屑なんて物じゃ無い。実質、ナイフの刃をばら撒いてるに等しい。
ま、VT信管じゃ無いだけマシ。相手は“お祈り”で当てにきているのだ。ならば、こちらがかわす方法も、“お祈り”しか無い。
「敵艦隊まで、あと2000!」
操縦桿を奥へ押し倒し、機体を降下させる。緩やかに、正確に。高度20mまで。海面が迫る。次の瞬間には海面に激突しているのではないか?と、思う。が、まだだ。海面とぶつかると見えた瞬間、操縦桿を引き、機体を水平に戻す。
高度計は?
高度20m。
完璧だ。
「後ろはちゃんとついてきてるか?」
指揮官として、部下の生死確認は怠らない。
「墜落無し!全機、しっかりついてきてます!」
よし、順調。
「敵艦まで、1500!」
敵は単縦陣を組んでいる。さっきまで、味方と砲撃戦をしていたからだろう。
「敵艦まで、あと1000!」
だが、それが仇となった。単縦陣は艦隊単位の対空火力が低下してしまう。つまり俺達は、敵にとって最悪のタイミングで現れたということだ。
「900・・・800・・・700・・・600・・・500・・・」
ならば、戦果を優先すべきか。
「400・・・300・・・200・・・」
接近雷撃。これに尽きるな。
「100!」
「撃てっ!」
魚雷を投下。軽くなった機体が一瞬、ほんの僅かに浮く。すぐに高度を戻し、低空で離脱する。ここまで来て墜とされるのはごめんだ。
数十秒後、後ろの方から何回か爆発音が聞こえた。
「命中!命中です!」
「よしっ!」
やはり、接近雷撃に尽きる。
「巡洋艦2、駆逐艦1撃沈。巡洋艦1大破。残存する敵艦は撤退中。以上が、『赤城』第一次攻撃隊の戦果報告です。」
「村田がやったか。」
予想より、戦果が大きいな。
「はい、村田 大佐です。流石、『雷撃の神様』と呼ばれているだけはありますね。」
「確かにな。」
喜ぶべきだろう。本来ならば。
「だが、俺達が不利な事に依然、変わりは無い。皆、くれぐれも油断するなよ?」
少し、油断の見えた艦橋内のメンバーを引き締めさせる。
事態が発覚したのは、およそ2週間前のこと。台湾沖を航行中の深海棲艦空母機動部隊を現地の漁船が発見したのだ。漁船が報告してきた敵艦隊の移動方向から、日本に向かっている事が判明。政府は急遽、各方面艦隊に対し、臨戦態勢をとるよう命じた。政府は当初、俺達『五七の艦隊』を使う予定だったようだが、生憎、主力たる第一艦隊が青森で訓練中だった。そこで、呉に残っている部隊と、急遽俺だけ青森から飛行機で戻ってきて対抗することとなったのだ。呉に残っていた部隊から俺が選んだのが、第一航空戦隊。正規空母『赤城』『加賀』を基軸として編成された機動部隊だ。そして、今朝。周辺の長距離哨戒飛行を行っていた哨戒機から、敵艦隊発見の報が入った。報告によれば、敵は正規空母2、巡洋艦3を基軸とした、標準的な空母機動部隊。対してこちらは、正規空母2、巡洋艦2、駆逐艦12。数字の上では互角に見える。が、問題は艦載機の数だ。一航戦の航空機隊は戦時編成への移行途中。定数を満たしていないのだ。
「さて、どうやって追い払おうか・・・」
敵の目的は恐らく、愛媛にある松山航空基地への空襲。無差別爆撃では無いだろう。だが、近くには民家もある。誤爆が無かったとしても、墜落機が民家に直撃、なんてことはよく聞く話だ。そんな事は絶対に避けなければならない。
「どうかしましたか?提督。」
加賀が少し不安そうに聞いてくる。まぁ、普段考え込むなんて事がないから不安になるのも当然か。
「大丈夫だ。作戦を思い付いた。」
それを聞いて艦橋内に安堵の声がした。どうやら、加賀以上に不安がってたヤツがこの中にいたらしい。
「さてそれじゃあ、“クソ真面目に”戦争でもしますかね。」
そう、“クソ真面目”に戦争をする。
英国紳士だって、戦争と紅茶淹れとスポーツだけは真面目にやるのだ。
日本人なら、尚更、しっかりやらねば。
変則的な編成。
人類の長きにわたる戦争の歴史において、それは決して珍しい事では無い。
だが、今回の攻撃隊編成の意味を理解するには、若干頭のよさが必要なようだ。説明は受けた。理解もできる。だが、新人どもはピンと来てないようだ。そんな“理解できた”俺達ベテラン勢と、“理解できていない”新人どもで編成された空母『加賀』第一次攻撃隊。編成の内訳は何と、全て戦闘機。うちの部隊の司令官殿は、本当に、何を言い出すのか分かったモンじゃ無い。
《全機、聞こえてますか?》
無線越しに問いかけてくる女性。彼女こそが、今俺達を率いている部隊長であり、第三航空戦隊空母『瑞鳳』戦闘機隊指揮官、十六夜 咲夜 大佐である。
《第二小隊、異常無し。》
《第三小隊、異常無し。》
《第四小隊、異常無し。》
各部隊から上がってくる状況報告。中隊長が行うものだが、無線機越しに聞こえてくるのは、若者の声ばかり。海外の状況は酷いと聞くが、人的資本に関しては、我が国もどっこいだ。
「第一小隊各機、異常無し。」
俺も第一中隊隊長として、しっかり報告を上げる。
《全機へ通達。間もなく、予定会敵空域です。各機、全力を尽くしなさい。》
《了解!》
彼女の機体は「二三試特殊艦上戦闘機『震電』改」。陸上用防空戦闘機の震電を空母艦上でも運用できるようにした機体、らしい。よくもまぁ、あんな機体を使いこなせるもんだ。それに対し、俺達の機体は「零式艦上戦闘機二一型改」。所謂「ゼロ戦」の初期型である「零式艦上戦闘機二一型」の改良機だ。一見、大佐殿の方が高性能な機体に乗っているように見える。まぁ、実際そうなのだが。しかし、深海棲艦の戦闘機どもを相手するには、兎に角格闘戦で勝てる機体が必要とされる。したがって、俺達の機体は防御を除けば、まさに、理想的とされている機体だ。
《こちら、空中管制機『海鷲』。接近中の機影あり。数、およそ一個中隊規模。敵の迎撃機と思われる。》
空中管制機からの連絡で、俺は悶々と考えていたことを振り落とし、目の前の状況に集中する。敵機が、来た。“司令官殿の狙い通り”。
《了解、『海鷲』。交戦許可を求める。》
《了解、交戦を許可。ウェポンズ・フリー。》
さぁ。
空中管制機からの許可が出た。
あとは、大佐殿の命令のみ。
《戦闘機隊全機、交戦を許可。蝿を全て墜としなさい。》
敵にとって1つ目の不幸。それは、空母『加賀』第一次攻撃隊の高度が、予想より高かった事である。その為、深海棲艦迎撃部隊は高度を取り直す羽目になり、上昇に運動エネルギーを消費してしまった。
先に仕掛けたのは『加賀』隊だった。咲夜の震電を先頭に、17機の戦闘機が敵編隊の正面から襲いかかり、銃口を光らせる。敵も負けじと発砲。しかし、正面からの射撃は、双方共に空振りに終わる。ところが、先に被撃墜機を出したのは深海棲艦側だった。
2つ目の不幸。それは、深海棲艦側の敵機に関する情報の信憑性だった。深海棲艦は敵側が震電を投入している事は知っていた。だが、彼らがその震電に関して共有していたのは「大戦におけるオリジナルのスペック」だったのだ。実際には、五七の艦隊の技術陣によって機動性、特に縦方向の旋回性能が大幅に強化されていたのだ。
咲夜大佐は突入時、予め機体の速度を落としていた。そして、低速のまま敵機とのヘッドオンに挑んでいたのだ。敵編隊と交差した次の瞬間、震電が一瞬で180゜方向転換した。クルピット。一部のジェット戦闘機のみが可能な、失速機動である。彼女はそれを応用して反転に使い、更に、大戦機で演じて見せたのだ。一瞬で敵機の後ろに付いた震電は、スロットルをフルに開き、速度を上げながら追撃。2機を撃墜し、そのまま下方に離脱。咲夜機が離脱し終えた時には、零戦隊も方向転換を終え、混乱の中にある敵編隊に襲いかかる。戦闘機同士の激しい乱戦が始まった。が、状況的には混乱している深海棲艦側戦闘機を『五七の艦隊』側戦闘機が一方的に攻撃しているに過ぎない。徐々に味方の数が減っていく空域の上空を、悠々と飛ぶ機体が居ることなど、深海棲艦戦闘機隊は知る由も無い。
「敵部隊、味方部隊に食いついた模様。味方が優勢です。」
後席の谷田部 勉 一飛曹が報告を上げる。ひとまず、作戦は予定通りに進行中。
「一番機より各機。このまま進撃し、敵空母を攻撃する。」
《了解!》
部下の意気込みは上々。俺達、空母『加賀』第二次攻撃隊、九九式艦上爆撃機改16機の編隊は、敵空母機動部隊を目指し、洋上を進む。
1時間後、『加賀』第二次攻撃隊が敵艦隊上空に到達した。本来ならば、ここで上空直掩の戦闘機が迎撃に来るところだが、その戦闘機達は、艦隊より先に海底に居た。
第二次攻撃隊を率いる小泉 志郎 小佐の機体を先頭に、8機ずつ2組に分かれた九九艦爆改が急降下を始める。2隻の空母目掛けて、文字通り、一直線に。2隻の空母が対空射撃を始めた。無数の高角砲弾が打ち上げられ、艦爆隊の左右上下いたるところで炸裂する。そこから飛んでくる断片はナイフのように鋭く、しかも高速だ。当たればまず、命は無い。その中にあっても、艦爆隊は臆する事無く降下し続ける。
一番機が、深海棲艦の空母の一隻を狙いに投弾し、引き起こしをかけた。海面スレスレで水平飛行に戻ると、そのまま離脱する。直後、空母の甲板で爆発が起きた。それも、凄まじい量の炎と共に。二発目、三発目と被弾する毎に、空母は火達磨と化していく。実はこの時、一航戦は戦時編成への改変前で対艦用250㎏爆弾を十分に搭載していなかった。そこで、今回考案されたのが、対地用250㎏爆弾の信管を遅延信管とし、艦内部で爆発することを狙った現地応急改修の爆弾だ。巡洋艦や戦艦などの重装甲艦ならば、通用しなかっただろう。だが、今回の相手は空母。速度さえつけてやれば、甲板を貫通可能だ。そして、この爆弾の“考案者”の目論見通り、この爆弾は更なる被害を空母にもたらす。甲板を貫通し、内部で大爆発を起こした爆弾は、そのまま格納庫内に居た航空機を誘爆させた。この爆弾の“考案者”は余程、嫌がらせが得意なのだろう。
爆撃終了時、最早、二隻の空母を救える者はこの世に存在しなかった。
【翌2月19日】
「『敵艦隊壊滅!傲る深海どもに振り下ろされた聖剣!』ねぇ。全く、これじゃいつぞやの頃と同じじゃない。」
確かに勝った。壊滅も正しいと思う。でも、これじゃあまるで・・・
「まるで、『深海棲艦なんて、もう怖くない』って言ってるようね。」
現場の意見は同じ、か。
「でもまぁ、分からなくはないよ。ずっと負けっぱなしだった訳だし・・・」
「それでも、これで皆に油断されちゃ困るのよ。貴女達と違って、私達空母の相手は同じ空母だけじゃ無いからね。ホント、何で空母になんかなったんだろ・・・」
そっか。航空機を運用するのは何も空母だけじゃ無かった。瑞鳳ちゃん達は、航空基地とも、航空戦をやるのか。
「・・・僕も勉強不足、か。」
「ま、貴女が護衛なら安心だけどね。」
微笑みかけてくる親友。
「そんな、大袈裟だよ。」
果たして僕は、本当に、守れるのか。
「期待してるわよ、時雨ちゃん。」
彼女はそう言って、立ち上がった。
はい。(←?)
お久しぶりです。タクネモ・シグレでございます。
あ、始めましての方は、始めまして。タクネモ・シグレでございます(二回目)。
はてさて、『五七の艦隊』第一話でございましたが、いかがでしたでしょうか?こっからが「ほんへ」ですから、戦闘もガッツリです。今回は航空戦がメインディッシュでした。次もメインは航空戦です(壮絶なネタバレ)。砲撃戦は待っててね?(更なるネタバレ)。
何はともあれ、今後とも、よろしく。
あ、お冬さんは許して?()