《左舷下方!敵艦隊!》
「・・・居たな。」
目指していた物。これから、破壊する物。
ここは戦場。敵に情けをかければ、次に死ぬのは自分になってしまう。
本当は、殺したくなど無いのだが。
「全機、突入体勢。『栗田艦隊』、『西村艦隊』の奮闘に報いる為にも、あれは仕留めろ。」
《了解!》
指示、後、突入。普通の流れ。
の、筈だった。
《正面より、敵戦闘機!50以上は居ます!》
来たか、迎撃機。『スペア隊』の連中があれだけ暴れまわったにも関わらず、依然としてあの機数。
「攻撃隊、こちらを気にせず突入してくれ。戦闘機隊、俺に続け。」
ならば、こちらも暴れるまで。
「お友達の歓迎だ!受け止めてやれ!」
【5時間前・フィリピン・スリガオ海峡】
暗い、暗い海。
聞こえるのは・・・波の音、艦首が海面を切り進む音、機関の音。まるで、いつぞやの海戦のよう。味方少なく、敵は多い。まさに、破滅の予感。
「・・・大丈夫か?」
いや、それは無いか。
「問題無いです。それより、どうやって切り抜けるつもりですか?」
一番気になるところ。
「妙案なんか無いぞ。ただ突っ込んで、砲撃して、勝つ。あとは少し捻ってやる程度か。」
全く。この人はいつもこう。
「はぁ・・・ま、良いですけど。扶桑姉様が怪我したら、ただじゃ済ましませんからね。」
「安心しろ。扶桑にも、お前にも、皆にも、対地砲撃してもらう予定だからな。」
・・・どう安心しろと?
「前方見張りより、艦隊右舷前方より敵艦隊接近中!」
来た。
「全艦へ通達、砲雷撃戦用意。進路そのまま、右砲戦。」
「艦橋より砲術。右砲雷撃戦、ヨーイ!」
「進路そのまま、ヨーソロー!」
「各艦へ!進路そのまま右砲雷撃戦!」
「「扶桑」、「最上」へ通達!観測機、発艦せよ!」
いよいよ砲撃戦。提督の言葉で慌ただしくなる艦内。艦尾からは小さな爆発音が聞こえる。着弾観測機をカタパルトで射出した音。
「このまま始められれば良いが・・・」
漏れ出た言葉を私は聞き逃さなかった。
「提督、それってどういう・・・」
「報告!急速に接近してくる艦影多数!これは・・・魚雷艇です!」
まさか!
「PTボート!?」
「来やがった!全艦、個別に砲撃を開始!目標、接近中の敵魚雷艇!」
《複数の敵魚雷艇が接近中。各砲、戦闘配置につけ。》
「急げお前ら!戦闘配置だ!」
砲台長の一声で動き出すメンバー。俺も急いで砲尾の所に立つ。
「伝声、配置につきました!」
「操砲、配置につきました!」
「一、二番各射手、配置につきました!」
「一、二番各装填、配置につきました!」
それぞれに報告を上げ、次の指示を待つ。
「伝声!高射装置に報告!『右舷2番高角砲、準備完了。』!」
「『右舷2番高角砲、準備完了。』、高射装置に報告します!」
復唱し、報告する伝声員。ここからが本番だ。
『高射装置より各砲、砲撃準備。目標、敵魚雷艇4。左30度、距離2500。』
「左30度、距離2500!」
「了解!」
指令と共に動き出す砲台。その砲口は暗い海へと向けられる。
「砲弾、着弾信管!」
俺達にも指示が飛ぶ。
「了解!着弾信管に調整!」
本来、この山城には14基の15㎝単装砲が備わっているはずだった。だが、前回の近代化改修で副砲を全て撤去し、高角砲と対空機銃が増設されたのだ。必然的に、副砲の仕事は高角砲に回ってきた。
「調整完了!一番砲、装填完了しました!」
山城に搭載されている高角砲は『40口径八九式12.7㎝連装高角砲A1型改』。本来ならば、同型高角砲のA1型が搭載されているのだが、前述の改装でA1型改に載せ変えられていた。
「二番砲、装填完了しました!」
この砲の最も優れている所は信管の調整機が備わっている所。従来の倍以上の早さで調整が可能だ。
それは必然的に、砲撃速度、投射弾量の向上にも繋がる。
「右舷2番高角砲、射撃準備完了!」
『各砲、砲撃始め!』
報告と同時に砲撃指示。
「砲撃始め!」
「射てーっ!」
合図と同時に、砲口に火炎が迸る。射撃と同時に凄まじい音と風圧が操作員を襲う。だが、それに構っている暇などない。すぐに次の砲弾を装填する。
「装填完了!」
「射てーっ!」
再び衝撃。この繰り返しだ。特に、夜戦において、この艦内で敵が見えているのは夜戦に特化するべく猛訓練をした見張員のみ。俺達に見えるのは、自分の居る砲台と被弾した敵の火災炎だけだ。
「装填完了!」
「射てーっ!」
そんな中でも、着実に個々の仕事をこなしていく。まるで、機械のように。
『目標変更。前方より接近中の敵魚雷艇。左30度、距離同じ。』
「目標変更!」
「了解!目標変更!」
この砲撃の最中でも冷静な高射装置の指揮官。あんな精神力なら、俺も欲しい。
「装填完了!」
「射てーっ!」
砲撃を再開。再び襲ってくる衝撃。繰り返し、繰り返し、同じ作業。
そう、思っていた。
『各砲、衝撃に備え!』
珍しく声を上げる指揮官。
何事だ?
まさか、被雷するのか?
その答えは、被雷とは少し違った。
艦全体を包み込む轟音と共に、艦首と艦尾、さらには艦中央から舷側に向かって伸びる炎。続いてきたのは、高角砲と同等か、それ以上の偉力の風圧。
間違いない。主砲の砲撃だ。
「目標、「山城」敵戦艦1番艦、「扶桑」敵戦艦2番艦、「最上」敵戦艦3番艦。主砲、砲撃始め!」
先手は取られた。だが、勝利までは取らせない。絶対に。
「砲撃開始!」
直後、主砲が火を噴く。各主砲の1番砲からの発砲。観測射撃だ。
「着弾まで、あと30秒!」
まあまあ離れている、か。
「砲術、斉射のタイミングはそちらに任せる。」
『了解!敵艦の大火災、ご覧に入れましょう!』
砲術長の意気込みは充分。
あとは・・・“あっち”と“こっち”、どちらが先に敵を捉えるか。
「弾着・・・今!」
炎は無し。命中せず、か。
「引き続き砲撃だ!撃ちまくれ!」
『了解!砲撃続行!』
再び発砲。今度は2番砲からの発砲だ。その時、敵艦上が一瞬光る。
「敵艦隊、砲撃開始!」
撃ってきたか。
「総員、衝撃に備えよ。」
「右舷高射装置より報告!『敵魚雷艇の離脱を確認。魚雷艇3隻を撃沈。』!」
「他艦に被害は?」
「ありません!全艦健在!」
一先ず、安心。
「敵艦の砲撃、来ます!」
してられなかった。
着弾に備えて身構える。が、あまり大きな衝撃ではない。
「敵弾、左舷に落下!距離600!」
相手の砲撃精度は高くない。レーダー射撃か?
「間もなく弾着!」
敵を見る。着弾の瞬間、一瞬敵艦が完全に闇夜に消え・・・再び現れたのは、オレンジ色にぼんやりと照らし出された艦影。
『命中!次より斉射!』
「良いぞ砲術!そのままやれ!」
修正一回で命中させる技量。やはり、砲撃訓練に力を入れておいて良かった。斉射の瞬間、これまで以上の衝撃と轟音が艦を包み込む。流石にキツい。
ふと、隣を見ると・・・不気味な笑顔が1つ。コイツ、こんな状況で笑ってるのか。
「山城、ニヤけてるぞ。」
冗談混じりに言う。
「提督も人の事言えませんよ?」
以外な返答。
何?俺も?あぁ、口元を触れば成る程。俺も余程な戦争狂らしい。無自覚に笑うとは。
「弾着・・・今!」
敵艦上の2ヶ所で光る。命中弾は確実に増えている。これならいけるか?そう思った矢先。
「敵弾、来ます!」
不意な報告の直後、艦を衝撃が襲う。被弾したか!
「後部艦橋、及び航空作業甲板に被弾
!」
「火災は?」
「ありません!」
とりあえず、恐れていた事は起きなかったようだ。こんな暗闇の中、火災炎は格好の標的になるだろう。
『砲術より艦橋!そろそろ敵一番艦は射界から外れます!次の目標の指示を!』
ふむ、ここでか。
予想より早かったが、まぁ、良い。
「全艦、一斉回頭!目標そのまま!全艦、左砲戦用意!」
『了解!・・・って、えぇ!?』
「このタイミングで一斉回頭ですか!?」
うんうん。普通な反応ありがとう。
「二度は言わない。一斉回頭だ。」
「りょ、了解・・・全艦、一斉回頭!」
さて、決着をつけよう。
「旗艦「山城」より『全艦、一斉回頭。面舵一杯。』とのこと。」
来た。
「面舵一杯、回頭せよ!」
これで、同航戦。敵艦隊に僕らが合わせた事になる。
「・・・最上。お前はどう見る?」
「順調だと思うよ?“敵に回頭させない”という目的は達せられる。」
「だと良いんだが・・・」
不安がる気持ちも、まぁ、分かる。
こちらは僕も、扶桑も、山城も、斉射に移行していた。対して、敵で斉射に移行できていたのは一番艦のみ。あのまま殴っていても良いけど、でも・・・
「あれじゃあ、勝ち目がない。」
そう。数で絶対的に不利なのはこっち。仮に、一、二、三番艦を仕留められたとしても、残り5隻に滅多撃ちにされて終わる。
では、どうするか?
ヒントは、「武器は大砲だけじゃない」ってこと。
じゃあ、答え合わせ。
くぐもった爆発音。
大きな光。
遅れて来る、衝撃波。
一ヶ所じゃない。複数?いや、多数。
「決まった!」
提督が、敵に“回頭させたくなかった”理由。
起死回生の、頼みの綱。
強力無比な、酸素魚雷。
ホント、魚雷様々だ。
砲撃戦開始直後、『西村艦隊』は「最上」、「時雨」、「満潮」、「朝雲」、「山雲」の5隻から魚雷を発射していた。
標的は、戦艦。
「最上」から6本、駆逐艦各艦から8本ずつ、計38本。
扇状に広がった魚雷の網は、見事、敵艦隊を捉える。
敵一番艦は、難を逃れた。先頭に居たからだろう。だが、他の艦はそうはいかない。
二番艦には3本が命中した。致命傷では無いものの、電気系統が損傷した。傾斜も酷く砲戦続行は困難だ。
三、四番艦は命中と同時に速力がみるみる低下していった。恐らく、機関に損傷を受けたのだろう。助かる見込みは無い。
五番艦の命中は1本だけだったが、不運なことに弾薬庫に誘爆した。一際、大きな火柱を上げ、轟音と共に沈んでいく。
前四隻に振りかかった厄災を避けようと舵を切った残り3隻にも魚雷は襲いかかる。艦首、艦橋脇、機関室、弾薬庫、艦尾・・・舐められるように被雷した六番艦に、運の悪い七番艦は艦首から突っ込んでしまう。六番艦弾薬庫跡に七番艦の弾薬庫が重なった瞬間、強烈な衝撃波と大量の破片をばらまきながら、七番艦は轟沈した。
結果。残された戦艦は、わずか2隻。
八番艦はその場で何とか止まり、衝突は免れた。
一番艦は、残った護衛艦達と共にそのまま逃げて行く。その先に、何が待っているのかも知らずに。
「『西村艦隊』より、報告。『戦艦六隻撃沈、一隻拿捕。残ル一隻ハ、残存艦艇ヲ引キ連レ、ソチラニ向カウ。』とのこと。」
驚異的・・・失礼。“脅威的”な戦果。少数精鋭なんてレベルじゃない。
「はぁ、命令し辛い・・・『志摩艦隊』各艦、砲雷撃戦用意!」
「了解!司令部より各艦へ。全艦、砲雷撃戦、用意!」
これ聞かされた後の俺達の士気を考えてくれ・・・ま、やるしかないが。
「那智。敵が見え次第、始めてくれ。手加減は無しだ。」
「分かった。任せろ。」
いつも、奴等の仮想敵をやっていた。練度なら自信がある。
「全艦へ。敵に、死を。」
負けてたまるか。
【8時間後・レイテ島沿岸】
『間もなく上陸開始だ!総員、戦闘用意!』
レイテ島。
フィリピンを構成する島々の1つ。
先の太平洋戦争においては、人類史上最大の海戦が行われた激戦地でもある。
まさか、再び戦地になろうとは・・・
「レミリア、主砲チェック。」
「主砲、準備よし。」
「フラン、エンジンの機嫌取っとけ。」
「ご機嫌だよー。凄い調子良いみたい。」
「パチュリー、無線封鎖解除、指揮下の隊に通達しろ。『俺達の番だ。』と。」
「了解。」
車内の面子も、“愛車”も、準備よし。後はただ、戦うだけ。
砲塔のハッチを開け、外に顔を出す。見えてきたのは、戦場の狂気。
上陸用舟艇の周辺に着弾した敵の砲弾が巻き上げる海水。所々から炎が上がっている。味方がやられているのか?上を見上げれば、敵味方双方の航空機が入り乱れて空中戦。被弾し、落ちてきた機体もまた、俺達上陸部隊にとっては危険極まりない。そんな狂気の中、微かに聞こえるのは・・・叫び。人が、死の間際、最期に発する声がこれか。何とも、おぞましい世界に来ちまったもんだ。
不意に襲ってくる衝撃。上陸開始の合図。舟艇正面のハッチがゆっくりと下がり、徐々に見えてきたのは無数の塹壕線。
あれを、突破する。
「全車、前進!」
逃げ場は無い。
腹を括ろう。
せめて、蒼矢と同じくらいの武運を祈って。
【2日後・この世のどこか】
円い机が1つ。
それを囲むように座る女性達。
「では、始めましょう。」
その中で、一際美しい装飾を施された椅子に座る女性が声を発し、会議が始まる。
「ではまず、軍令部長官の言い訳でも聞きましょう。」
そう言って、軍令部長官を鋭い目付きで睨み付けた人物。彼女こそが、深海棲艦の女王、本拠地棲姫である。
「敵の新鋭部隊の侵攻によりフィリピンは陥落。防衛にあたっていた第四、五砲戦艦隊、第七航空艦隊は事実上の全滅。これにより、我が軍は戦線を後退せざるを得なくなりました。以上が、南方における現状です。」
その眼光にも臆することなく、ただ淡々と事実を述べたのが、深海棲艦の軍事全般を取りまとめている本拠地泊地棲姫。
周りが今回の大敗への追及に怯える中、彼女が平常心でいられるのは、本拠地棲姫の実の妹だからであろうか?
「はぁ・・・もう良いわ。次の一手を考えましょう。」
本拠地棲姫の一声で会議の議題が変わる。
「それについては、私から提案が。」
そう言って手を挙げたのは、太平洋方面の指揮を行う太平洋深海棲姫。
「私の指揮下で編成中の試験部隊が実戦投入可能なレベルまで達しました。これを用いる事が出来れば、敵の進撃の阻止は可能かと。」
有り難い提案。だが、1つ問題が。
「運用の条件は?」
「艦載は無理です。どうしても、大型の陸上基地が必要です。」
あくまでも“試験”部隊。まずは陸上基地での運用から、ということだ。
「・・・分かりました。本拠地泊地、戦線をニューギニアまで下げなさい。こちらが立て直す時間を稼ぐと共に、試験部隊の運用を開始します。」
方針は決まった。そうなれば、後は速い。
【2日後・ミッドウェー島深海棲艦試験飛行場】
「レ級、朗報よ。M-01と『ソル隊』の実戦投入が決まったわ。場所はニューギニア。」
「本当!?やったぁ!」
子供みたいにはしゃぐ彼女は、これでも一応、私達深海棲艦の軍事技術を担う科学者。
「C-01を満載状態にしなくちゃ♪あ、補給とかどうしようかな?一々着陸させるかぁ。『ソル隊』の方は、通常兵装に加えて・・・」
いや、子供か。遠足ではあるまいし・・・。
「あまり色々は持っていけないぞ。あくまでも、正規の運用だからな。」
「大丈夫大丈夫。“ちょっと”持ってくだけだから。」
全く。これからどうなる事やら・・・。
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とりがー
はい、真面目に書きます。()
第三話、いかがでしたか?
砲撃戦は書くの大変です。ついでに、つまらなくならないか心配。と言うのも、砲撃戦って動きが殆ど無いんですよね。だからキツい。航空戦なら一杯動くので面白いのですが。。。
さて、次回はそんな航空戦です。あと、新キャラ出ます。凄いのが。察しの良い人は、第二話読めば分かるかな?
では、次回。