朽ちぬ花   作:粗茶Returnees

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11話

 

 海で遊び終えた一向は、宿泊する宿にチェックインした。勇者部が泊まる宿と新聞部が泊まる宿が一緒なわけだが、グレードは勇者部の方が上になる。元々質の高い旅館なため、新聞部が泊まる部屋も食事も十分豪華なものと言える。

 勇者部が最高グレードのプランで宿泊できるのは、12体のバーテックスを倒したから。それは極秘裏に行われたものであり、知っているのは勇者部と大赦の関係者。つまり、大赦の一員である凛のみ。大赦に縁のあるこの旅館だが、勇者のことは伏せられている。最高のもてなしをする事を指示されているだけだ。

 

「納得がいかん」

「お前まだ言ってるのか……」

「だって下田が犬吠埼と買い物してたんだぞ!」

「かき氷を買っただけですけどね」

 

 温泉に浸かりながら部長に事実を伝える。頭では理解していても、心では納得できない。そんな状態らしい。半分近くはこれをネタにしているだけだが。

 

「下田をどうしたものか……」

「どうもするな」

「決めた! ここは合宿らしく先輩の背中を流せ!」

 

 そう言って湯船から部長の川崎が上がる。やれやれと首を横に振った大田が、凛に指で指示を出した。とりあえずは付き合ってやれということらしい。

 凛も湯船から上がって川崎の下へ。近づいたらすぐに物を渡されたわけだが、それを見て困惑する。

 

「川崎部長」

「どうした下田後輩」

「これたわし(・・・)なのですが」

「ツッコミが緩い!」

 

 たわしを回収し、今度はタオルを渡す。大したハプニングもなく背中を流し終え、再び湯船に。先輩後輩のこうしたやり取りをやってみたかった川崎は、これで気を良くした。

 ふと壁を見る。木の板の壁を隠すように岩のレリーフがある壁。その向こうが女子風呂なわけだが、残念ながら向こうから声が漏れてくることはない。騒がなければ聞こえないのだ。だが合宿で温泉となればこの男が動かないわけがない。

 

「覗きを決行する!」

「通報すればいいのでしょうか?」

「慈悲も夢もねぇな!」

「そんなことするからお前は彼女ができないんだ」

「なっ……! 大田お前……!」

 

 ショックを受けて打ちひしがれる川崎。それを放置して大田と凛は浴場を後にした。夕食時に田上と結美の視線が冷たかったあたり、覗きを決行したのか、会話が聞かれていたかのどちらかだと考えられる。凛は真相を聞かないことにしておいた。

 部屋へと戻ると食事が用意されており、凛は大田と雑談しながら川崎と女子二人を待つ。話は日中に海で遊んでいたこと。大田が東郷と二人で砂を使って本格的な城を作ったり。田上が風と夏凜の競泳に混ざり接戦を繰り広げたり。スイカ割りで川崎がどう誤ったのか自分の足を叩きつけたり。新聞部vs勇者部でビーチバレーしたり。

 

「お前が遠藤に人工呼吸されたりな」

「その話は止めましょう」

「カナヅチだったのか?」

「いえ。海藻に足を取られただけです」

「何がどうなってそうなった」

 

 友奈が考案した『東郷さんが喜ぶものを海中から取った人が勝ち』という遊びをした後。凛は結美と海中散策をしていた。息づきのために地面を蹴って浮上しようとした際に、なんの因果か海藻が凛を逃すまいと足に絡みついたのだ。

 それにいち早く気づいたのは、一緒に海中散策をしていた結美。結美も息つぎのために浮上しなければならず、一旦海上に出てからすぐに潜ったのだが、その時には凛の意識が飛んでいたのだ。浜辺に引き上げてからすぐに心臓マッサージと人工呼吸を繰り返し、他の人が気づいてAEDを持ってこようとした時、凛が目を覚ましたというわけだ。

 

「漫画の世界でもなかなか無い体験をしたな」

「したくなかった体験ですけどね」

「そりゃそうだ」

「ただいま〜」

 

 二人で苦笑していると、話していた結美が部屋に入ってくる。田上も一緒だ。女子二人は本来別部屋なのだが、食事の時だけ同室にさせてもらっている。

 なんの話していたか聞かれるが、それは内緒にすることに。表情を変えず、目だけで必死に大田に訴えて合わせてもらった。それから数分もせずに川崎も部屋に戻り、五人で食事を取り始めた。

 

「あ、そうだ。凛は後であたしとお出かけね」

「どこにですか?」

「部内恋愛は推奨だぞ!」

「そういうのじゃないです。勇者部の部屋にお邪魔するんです」

「え、ズルい」

 

 心の声を隠すことなく抗議しだす川崎。それを三年生組が黙らせるまでがワンセットだ。巫山戯て言う時もあるのだが、今回は本当に羨ましいらしい。

 

「どういう経緯でそうなったんですか?」

「さっき一緒に温泉入ってるときに、友奈からお誘いを受けたんだよね。他の部員の人もOKくれたし、これは行かないとな〜って」

「それでなぜ私まで?」

「風先輩からのご指名だよ。なんか気に入られるみたいだね」

 

 風からの使命とあり川崎がまた騒ぎ出す。今度は他の三年生が左右から体を抑え込んで沈めていた。目の前で繰り広げられる騒動をよそに、凛はそれなら仕方ないかと首を縦に振る。

 風には何かと気にかけられている。新聞部が休みの日で、勇者部も特に活動がない日にうどんを奢ってもらったりしているのだ。家に呼ばれて夕食をご馳走になることもしばしば。火に油を注ぎたくないため黙っているが。

 ともかく、日頃から世話になっている風に呼ばれたのだ。行かないという選択肢はない。

 

「そんなわけで呼んできたよー!」

「いらっしゃーい!」

 

 部屋に入った途端結美と友奈が手を取り合ってはしゃぐ。凛の想像を上回る仲の良さだ。とりあえず扉を閉め、手招く風の側に。

 

「風先輩に呼ばれたと聞いたのですが、何か御用ですか?」

「別に大した用でもないわよ。せっかくだし、結美だけじゃなくて凛も呼んでみようかなーってだけ」

『迷惑だった?』

「別に迷惑だとは思っていませんよ。少し部長が賑やかになっただけです」

「そうなったか〜」

 

 予想できていた。そんな具合に苦笑する風。勇者部は三年生が風だけだ。新聞部との接点としても、風が一番多い。だからこそ、ある程度予想ができるのだ。

 

「それじゃあ、みんなで適当に遊びましょうか」

「はいはい! トランプ持ってきました!」

「でかした友奈!」

 

 全員で輪を作り、友奈がカードを配る。これから大富豪で遊ぶことになったのだが、ここで一つ問題が出た。

 

「え。凛知らないの?」

「ババ抜きとか7並べとかなら知ってますが、大富豪は知らないですね」

「それなら結美とペア組んで。夏凜は知ってる?」

「私は知ってるわよ」

「なら問題ないわね」

 

 凛のカードを分配し直し、大富豪を始める。トランプゲームのほとんどは声を出さなくていいため、声を失っている樹も混ざって遊ぶことができる。友奈はその辺りも配慮しているのだろう。

 横文字のものは避けている東郷なのだが、戦略的にカードを出していくそのプレイスタイルは強かった。想定外のことには弱いようだが、それを狙ってできるプレイヤーがこの場にはいなかった。

 トランプゲームも程々に終わると雑談が始まったのだが、所謂女子トーク……にはならなかった。

 

「やはりここは国防──」

「それはまた今度ね〜」

「というか、気になる相手がいる人っているの?」

 

 結美の言葉に全員が目を逸らす。凛は勇者部の面々に浮いた話がないことに、意外だとキョトンとする。友奈は誰からも親しまれやすい。その手の話が多くても不思議ではない。そしてそれは風にも言えたこと。それなのに誰もその手の話がないのは、何とも意外なのだ。それに気付いた結美がクスッと笑い、凛にこっそり耳打ち。

 

「友奈は東郷ガードがあるし、夏凜はまだ転入してから浅いからね」

「犬吠埼先輩は?」

 

 風はどうなのかと結美に聞き返すも、その答えが返ってくる前に当の風が不敵な笑いを溢した。

 

「あんたら花の女子中学生が浮いた話の一つもないだなんて。なんと嘆かわしいことか!」

「そういう風はどうなのよ」

「あるわよ」

「……はぁっ!?」

 

 どうせ無いだろうとタカを括っていた夏凜は、予想と正反対の返しに驚愕する。友奈と美森も目を丸くしているのだが、妹の樹だけ呆れている。結美も内容を知っているのか、ニヤニヤと風の言葉を待った。

 

「アタシがチアをやったことがあってね。その時にアタシの魅力に落とされた男子がいたのよ。もちろん告白もされたわ」

「それで、どうしたのよ」

 

 夏凜が固唾を飲んで先を促す。

 

「断ったわよ。同年代でも男子たちが年下に見えるというか。そいつ、他の男子もだけどエッチなサイト調べたりしててね〜」

「凛は?」

「そういうサイトがあることを今知りました。興味もないですが」

「なんてピュアな子! そのまま育ちなさい!」

 

 樹が素早くスケッチブックに何やら文字を書いていく。

 

『阿田和くんってそういう話しないの?』

「彼はあれでいてその手の話を嫌いますよ。下着までがセーフらしいです」

「変態紳士だね!」

「結城先輩。それ彼には言わないであげてください」

「ほぇ?」

 

 友奈はなんでか分からないようだが、わざわざ説明しようとも思わない。分からないままでいて、そして言わないであげてほしい。言ったら阿田和は灰になる。不気味にほくそ笑む美森にも、夏凜が釘を差していた。

 

「ま、アタシに告ってきたの、あんたらの部長なんだけどね」

「あっはっは! ですよねー! 予想通りです!」

「だから川崎先輩ってあんなに荒ぶってたんですね」

「あいつに関しては、灯台下暗しってだけなんだけどね」

 

 どういう意味か結美は理解し、凛はさっぱり理解できなかった。

 一旦話が途切れたところで、夏凜が首を傾げながら凛を見つめる。何かが引っかかるようで、美森が声をかけた。

 

「夏凜ちゃん。下田くんがどうかしたの?」

「おっ、青春ですかな」

「そうじゃないわよ風。……どこかで……」

「マンションではないでしょうか? 同じマンションに住んでますから」

 

 凛が記憶している限り、夏凜と大赦で出会った覚えはない。仮面をしているため、出会っていてもそれが凛だと分かることもないのだが、出会っていれば声で分かるだろう。だがそれはもしもの話。大赦で一度も会ったことはない。一応念を入れて、中学生活でしか接点がないと主張した。

 

「あっ! 二つ隣だったわね!」

「二人って家近いんだね!」

「むしろよく忘れてたわね夏凜!」

「全然会わないんだから仕方ないじゃない」

 

 バツが悪そうにそっぽを向く。凛は気にしていないことを伝え、そろそろ部屋に戻った方がいいのではないかと結美に声をかける。

 

『あ、その前に一ついいですか?』

「なんでしょう?」

『タロット占いをしてみませんか?』

 

 事前に準備していたのだろう。スケッチブックをめくるだけで、その誘いの文章が現れた。その準備を反故にすることもできず、結美に許可をもらって樹のタロットを占いを受けることに。クラスでも少し話題だ。樹のタロット占いは当たりやすいと。

 

『好きなカードを一つ選んでください』

 

 タロットカードでの占い方はいくつかの種類がある。今回は簡単な方法として、カードを一枚選ぶだけ。凛は樹がバラけさせたカードの中から一枚選ぶ。

 描かれているのは、獅子と共にいる人間が一人。これがどういうカードなのか分からない。樹の解説を待つのだが、書く時間が発生……することはなかった。鞄から取り出されたスケッチブックには、表紙に『占い用』と書かれている。いつでもできるように準備していたようだ。

 

『力のカードの正位置。困難が起きても、強い意志を示し続けることで乗り越えられるでしょう。大切なのは、強い心を持って行動に移すことです』

「なるほど。ありがとうございます犬吠埼さん」

『できることは手伝うよ。協力しちゃいけない、なんてことはないから』

「困ったら勇者部に来なさい。力になるわよ!」

「分かりました。その時にはお世話になりますね」

 

 部屋に戻っては川崎に部屋で何をしたのかを根掘り葉掘り聞かれ、それが終わるとすぐに就寝した。翌日には予定通り、宿の従業員たちに取材し、午後には合宿を終えたのだった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 合宿を終えた暁葉は、新聞部と途中で別れて大赦へ。夏休みの残りのほとんどを、実家で過ごす決めている。そして実家から大赦はまだ近いため、合宿終わりでも大赦に行けるのだ。

 仮面や制服は用意してなかったが、使用人に頼んで持ってきてもらった。車の中で制服に着替え、到着すれば仮面をつけて建物の中へ。

 

「もう〜。合宿終わりなら家で休んだらいいのに」

「合宿の話をするというお約束でしたので。それに、疲れが出るような合宿ではありませんから」

「頑固だね〜。まぁでも、合宿楽しかったみたいだし、大目に見てあげようかな」

「ありがとうございます」

 

 暁葉は合宿での出来事を話した。一日目は海で遊んだことを。宿は勇者部と同じだったこと。二日目には部活動を行ったことも。唯一、海で溺れたという一件だけは話さなかった。それは話さない方がいいのだと、直感が告げたから。

 

「海いいな〜。私がミノさんとわっしーと海に行った時は、勇者の訓練をするための合宿だったから遊べてないんよ。プールでは遊んだけど」

「そうだったのですか」

「うん。たぶん泊まった宿も一緒じゃないかな」

 

 勇者をもてなす宿として指定されているのだろうか。園子の口から告げられた宿の名前は、たしかに暁葉たちが泊まった宿の名前と一致していた。

 図らずして園子が宿泊した宿と同じ。そんな偶然がちょっぴり嬉しい暁葉。下田凛を知っている人が今の暁葉を見たら、さぞや驚くだろう。

 

「園子様」

「なーに?」

「来年は、一緒に海に行きませんか?」

 

 暁葉の誘いに僅かに口が開く。閉じた時には口角が上がっていた。暁葉が誘ってきたことへの驚き。誘ってくれたことへの喜び。そして、自分から誘えなかった僅かな寂しさ。いくつもの感情が混ざったが、最終的には喜び一色に染まる。

 

「それってデートのお誘いかな?」

「え……!?」

「あれ? 違ったの? 私はてっきり、あっきーと二人で行くのかなって思ったんだけどな〜」

「うっ……」

 

 誘ってくれたのは嬉しい。だが、それはそれとして暁葉は揶揄いたい。悪戯心に従い、園子は暁葉を追い詰めていく。暁葉が期待通りに反応するため、揶揄いがいがあるのだ。

 

「ふふっ、じょうだ──」

「デートです」

「へ?」

「来年。園子様と海でデートするお誘いで相違ないです」

「ぇ……そ、うなんだ……」

 

 思わぬ反撃を食らった。自分で言うには問題ないのだが、暁葉に面向かって言われると固まってしまう。不意打ちということもあったのだが、改めて想像するとなんだか照れくさい。

 それでも、楽しみができるのは良いことだと割り切る。すぐに冷静さを戻し、暁葉に一つ真面目な話を振った。

 

「あっきー。一つお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「もちろんでございます。園子様のお願いとあらば、お断りしません」

「ありがとう。それでね──」

 

 先輩勇者として、一つやっておきたいことがあるのだ。

 

(あっきーが隠してることは、また今度にしてあげようかな)

 

 

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