朽ちぬ花   作:粗茶Returnees

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14話

 

 暁葉が週末に帰省しないときは、電話かアプリで連絡を取るようにしていたのだが、暁葉から連絡が来ない。不安を募らせながら、かなたは帰りの車に乗り込んでから端末に電源を入れる。

 修行に入る際には、いつも電源を落とすようにしている。そして帰りの車に乗ってから電源を入れるのだ。その時にある通知が入っていることに気づいた。それはボイスメッセージであり、数十分にも及ぶもの。

 

「なんなのかしら?」

 

 悪戯の類だろうか。自分の周りにそういうことをする人間は…………少なくともこんな悪戯をする人間はいない。それでは、それだけ長い用件を伝えないといけないものだったのか。いっそ文面にしてくれた方が楽なのだが、相手にとって急ぎの用だったのかもしれない。

 なんにせよ、誰からのボイスメッセージかで内容にも見当がつく。そう思って端末を操作すると、ボイスメッセージの相手が弟の暁葉だと分かった。暁葉という文字を見た瞬間心がざわついた。溺愛する弟ということもあり、浮かれてしまうのと同時に、何かあったのではないかと考えてしまう。そして思い出されるのはあの夢。

 そんなことはない。あれは趣味の悪い夢だ。頭を横に振る。繋がってしまいそうになる夢と現実を引き離すように。だが、嫌な予感というものはしつこく残る。さらには当たってしまうことが多い。

 

(これを再生すれば……分かるのよね……)

 

 震える指で再生させる。自分の予想は外れていてくれと願いを込めて。

 再生しても何も聞こえず、音量を上げていく。車の走る音が大きい。速度を上げたのだろうか。違う。今自分が乗っている車の音ではない。ボイスメッセージでも車の走る音が再生されているのだ。

 しばらく待っても車の走る音。少しずつ飛ばしていくが、車の走る音は30分近くもあった。暁葉が運転手に礼を述べて車から降りた。この辺りからは飛ばさないほうがいいのだろう。

 かなたは神妙な面持ちでボイスメッセージを聞き続けた。

 音が少し乱雑だ。走ってるようにも聞こえるから、きっとそうなのだろう。

 

『…い…ごき』

『これでも一応は鍛えておりますので』

 

 聞き取りづらい。今のはなんと言ったのだろう。分からないが、その声が暁葉の声ではないことは分かる。かなたの知らない誰かの声。はっきりと聞こえるのは暁葉の声だ。そのやり取りから連想できるのは、考えたくもない事態だけだ。

 

『初めまして。ですが、さようなら』

『一般的な意味であれば穏やかでしたね』

 

 これで確定だ。暁葉個人を狙った襲撃。

 

(なぜ? 暁葉は人に恨まれることなんてしていないのに……!)

 

 混乱する。誰かも分からない誰かに向けた怒りが湧いてくる。

 

『──火色舞うよ』

「なっ!」

 

 言葉だけは知っている。それは赤嶺家の人間が、仕事(・・)をする際に言うとされる言葉。言わばスイッチだ。

 嫌な物音が聞こえてくる。暁葉がどんな目に合っているのか想像してしまう。思い浮かべたくないのに、まるで見ていたかのように脳内に浮かび上がる。

 

『──あの家と……関係のある人ですね』

 

 襲撃者と暁葉の会話から、襲撃者の裏に誰かいることも分かった。そして、暁葉本人がこうなる事も分かっていたということも。

 

(分かっておいて、どうして……)

 

 分かっていたなら回避できた。しかし暁葉はそうしなかった。そうできない(・・・・)何かがあったのだ。それも重要だが、今はこのボイスメッセージに集中しよう。

 分かっていたからこうしたのだ。暁葉はかなたに情報を渡そうとしている。それを聞き逃すわけにもいかない。

 暁葉が与えた情報は部分的だが、どれも重要なものだった。

 

 ・暁葉が襲われていることから、暁葉個人に何か恨みのある人物

 ・それは赤嶺家の人間を派遣していることから、パイプを持ちそれなりに力のある人物でもある

 ・襲撃者は赤嶺家ではない(半分正解とのこと)

 ・暁葉が名をぼかす対象となる家と関係のある人物

 

 絞り込むのに時間はかかるかもしれないが、特定するのも時間の問題だろう。だが、相手の逃げ道を塞ぐことが難題だった。

 

『悪いな』

 

 襲撃者のその声の後、壮絶な音が響いてボイスメッセージが止まった。端末も壊されたのだろう。かなたは涙を流しながら自分の端末を握りしめる。

 

「……かなた様。いかが致しましょう(・・・・・・・・・)?」

 

 運転手から聞かれる。犯人をどうするのかと。運転手も上里家の人間だ。暁葉を6年間神樹館小学校に送迎し続け、帰省する時にも必ず送迎している。何も思わないわけがない。ハンドルを握っている手に力が入り、震えていることも見て取れた。

 

「母さんは……?」

「本日は先にお戻りになられています」

「まずは……母さんと、話すわ」

「かしこまりました」

 

 涙声でなんとかこの後のことを伝え、かなたは屋敷に着くまで膝を抱えた。まだ暁葉がどうなったのかも分からない。だが、状況からして可能性が一つしかないのだ。

 屋敷に着き、運転手はいつも通りかなたを先に降ろそうとしたが、かなたはそれを断った。車庫に車を戻し、共に屋敷に戻ろうと。それに従い、運転手は車を車庫に戻してから、かなたと共に屋敷に戻る。

 屋敷に戻ると、広間に使用人たち全員と両親が集まっていた。これにはかなたも目を丸くし、運転手に視線を向けるが、運転手も手を横に素早く振って否定する。どうやら先に連絡した、というわけではないようだ。

 

「かなた。帰ってきたわね」

「はいただいま。あの、なんでみんながここに?」

「女の勘よ。かなたから話があるんでしょ?」

 

 ぽかんと口を開けて驚いた。一切何も情報はなく、前触れとかもなかったはずだ。それなのに葵は予測を当ててみせた。女の勘とは恐ろしいものだ。母としても何か感じ取ったのかもしれない。

 そういえば、葵にはそういった能力とも呼べる直感力があったと、かなたは思い出した。巫女の素質がなかろうと、その異常なまでの直感力を武器に、大赦内での自分の立ち位置を確立したのだと。人間離れもいい程で、葵を敵に回したら負けると言われている。

 かなたは自分の母親の怪物ぶりを認識し、喉をごくりと鳴らしてから暁葉から届いたボイスメッセージを再生した。再生が終わると、暁葉から伝えられた情報から分かることも、整理して伝えていく。

 

「かなた。暁葉の言うあの家がどこか分かっているかしら?」

「はい。乃木家(・・・)です」

 

 使用人たちがざわつく。今回の件で乃木家の名前が出てくるとは思っていなかったからだ。なにせ、暁葉と園子の関係は良好なのだから。

 葵が手を二度叩いて静かにさせる。視線は葵とかなたにそれぞれ集まった。

 

「とりあえず、かなたの予想を聞きましょうか」

「暁葉が家名を伏せたということは、伏せたい理由があったから。乃木家に悪印象を抱いてほしくないのでしょう。乃木家を庇うその行為からして、乃木家と関わりを持つ人物が行っただけであり、乃木家自身は動いていない。おそらくはこの件すら知らない」

「私の見解と同じね。乃木家がそんな事をする理由もないのだし、無関係で間違いないでしょう。そして、私に(・・)連絡が来なかった」

 

 その意味は聞かずとも分かった。上里家の長男が襲撃されたのに、上里家の当主に何一つ連絡が入っていない。それはつまり、大赦もこの件を知らないということ。もしくは黙っているか。葵は前者だと踏んでいる。自惚れではないが、自分の存在が周りにどう認識されているか分かっているつもりだ。黙っていた場合ただでは済まないことなど明白。

 そして、もう一つの意味もかなたは理解していた。大赦という組織ですら気づかないように行われた今回の一件。その厄介さ。

 

「大赦が知らない以上、当主である私は動くことができない。目立ってしまうもの」

「乃木家にも迷惑がかかってしまう……」

「そういう事。そんなわけで、かなたが主体となってこの件を処理しなさい」

「私が?」

 

 そんな事できるだろうか。かなたの中ですぐに不安が大きくなる。たしかに当主である母は動けない。それは父も同じだ。実質的に上里家で第二位の発言力を持っている。母ほどではなくとも、動けば目立つのも同然。

 だが、かなただって巫女だ。二人ほどでなくとも目立つ。下手に動けば上里家の立場が怪しくなってしまう。300年の重みを背負うことになるのだ。

 

「失敗については考える必要はないわよ。その時は私が動くから。可能な限り最小限に終わらせるには、かなたにやってもらうしかないのよ」

「でも……」

「乃木家ことも考える必要はない。ね?」

『そうですね』

 

 葵がかなたに見せつけるように端末を持ち上げる。その画面に映っているのは、園子の両親だった。つまり、乃木家の当主たち。それが本物なのかと目を疑ってしまう。

 

『お話は聞いていました。私たちはこの件に何も言及しません。どうなろうと、です』

 

 それはつまり、元々は関係があった犯人と、今この場で縁を切るということ。犯人が乃木家に縋ろうとも、乃木家は知らぬ存ぜぬを貫いてくれるということ。それはこれ以上ないバックアップだった。

 

『うちの園子と仲良くしてくださっている方を襲ったのだ。慈悲はない』

「ありがとうございます。さて、そんなわけでかなた。やりたいようにやりなさい。上里家の力を使いたいだけ使っていいわ」

「そんなことしたら──」

「家の力は家族のために振るわれるものよ。遠慮なんていらないわ。そして思い知らせてやりなさい。上里家を怒らせるとはどういうことかを」

 

 聞くまでもなく葵はガチギレしていた。かなたに任せると決めているのと、話し合いをしているということで抑えているだけだった。本音を言えば、自分の手で犯人を追い詰めたかったのだろう。

 

「ご先祖様も、なんだかんだで仲間のために我儘を押し通してたみたいだしね」

「えぇ……」

 

 初代のイメージが崩れた瞬間だった。

 そしてそれは、親近感が湧いた瞬間でもあった。

 

『暁葉くんを襲ったのは、我々乃木家を敵に回したのも同義なんだよね』

「そうなのですか?」

「その節はお世話になりました。妻が断固として譲らなかったもので」

『いいんですよ。私達としても嬉しく、そして誇らしい事でしたから』

 

 親同士の会話についていけない。暁葉が命名される以前から仕えている使用人たちは知っているのだが、かなた同様話についていけていない使用人もいた。

 そんなかなたに気づいた園子の母が、上品に笑みを溢しながら説明してくれた。

 暁葉の名前は、乃木家がつけたのだと。

 

「え!?」

『乃木家と上里家の友好の証として、つけさせてもらいました』

『恐れ多くも、若葉様の名前から一字いただく形でね』

 

 かなたのキャパシティを超えた。目を丸くして口をパクパクさせる。唯一生存した初代勇者にして伝説の勇者である乃木若葉。そんな人物から一文字いただいていたとは、全く想像したことがなかったのだから。

 

『ちなみに、あき(・・)の部分は園子がつけたんですよ』

「赤ちゃんですよね!?」

『当時はまだ片言だったのだけど、二人で名前を悩んでいる時に園子がハイハイしてきてね。あっきーと言い続けたんだ。話を理解していないだろうと思ったのだが、驚くことに分かっていたようでね。娘の案をもらうことにしたんだよ』

 

 頭がパンパンだ。普通ならおかしいだろうと疑い続けるのだが、あの園子なら赤子の時から天才ぶりを発揮していてもおかしくないと納得できてしまう。いやしかし、たしか幼少期までは園子の才覚を、両親は気づいていなかったのではなかったか。失礼ながらに、鈍感という言葉が頭に浮かんだ。

 しかし、それならなぜ全く乃木家と交流がなかったのだろう。両親との繋がりがあったのなら、自分たちも幼少期から繋がりができていてもおかしくなったはず。むしろ、去年まで接点がなかった方がおかしい。

 

「それは大人の汚い話でね。少し面倒な時期だったんだよ」

 

 父が遠い目をする。母は見るからに不機嫌になった。なるほど、たしかに面倒なことがあったのだろう。これ以上は踏み込まないほうがいい。

 使用人たちにも動いてもらうことになった。情報収集に事欠かない。情報分析もお手の物。なぜ使用人をしているのだろうと思ってしまうほど、能力の高い使用人ばかりだ。祖母がスカウトしていたらしい。

 実際に動いてみると、巫女たちにはやはりすぐに気づかれてしまった。情報をもらせば容赦できないと先に説明し、それでも話を聞くと言われた。部屋周辺に目を配り、他に人がいないことを確認する。それから話をすると、全員が憤慨した。

 

「私達の暁葉くんになんて事を!」

「ギルティよギルティ!」

「私達のアイドルに手を出すだなんて!」

 

 気持ちが一緒だったことを喜べばいいのか。それともツッコミを入れたらいいのか。なんにせよ思いが一緒だったことは嬉しい。

 

「暁葉は私の弟よ!」

 

 だからいつも通りの調子でいられた。少し肩が軽くなった気がする。重圧と怒りによって視野が狭まっていた。それが今解消された。一人じゃないということを、やっと認識できた。

 

 

 もしかしたら時間がかかるかもしれない。調べをつけ、逃げ道を塞いでから捕える。長丁場になる可能性もあった。しかしそれは、かなたも葵も、他の誰もが思わなかった形で早々に決着がつくことになった。犯人すら想像していなかった流れで。

 

「どうかされましたか? 上里様」

「しらを切る必要もないでしょう? 私があなたを呼び出した。一対一のこの状況です」

「ふむ。冤罪となってはあなた方もただでは済みませんよ?」

「百も承知です」

 

 大赦内にある一室。机を挟んで向かい合うように椅子が置かれている。かなたとその人物は、そこに腰掛けてお互いを見据えている。

 上里家の人間にこの状況を用意された。その時点で詰んでいることは明白なのだが、その人物はまだ認めていない。話が長引くと、自分を抑えられないかもしれない。それが分かっているかなたは、すぐに証拠を叩きつけることにした。

 

「あなたが暁葉を手にかける計画を立てた」

「証拠は?」

 

 仮面で表情こそ見えないが、その声色から嘲笑っていることが分かる。証拠など存在しないからだ。計画は全て口頭で伝えた。機器に残ることもなく、書面も存在しない。そして犯行は大橋の近くで行われた。この人物とは別の人物の手によって。その現場にも何も残されていなかった。あったのは暁葉の血痕のみだ。

 その余裕も次の瞬間には崩れ去った。

 

「証拠はありませんが、証人(・・)ならいます」

「は?」

「入ってきてください」

「……っ!? お前……!」

「小物感満載な反応だな」

 

 かなたが呼んだ人物。それは暁葉を襲った人物だった。つまり、暁葉襲撃の計画を立てた人物と直接の接点があった赤嶺家の少年だ。唯一にして絶対の証人。仮面は外しており、愉快そうにニヤついている。

 

「滝谷あんたは何も残していないつもりだろうが、俺はそうでもなくてな」

 

 赤嶺はポケットから機器を取り出し、犯人との会話を再生した。それは暁葉襲撃について語られていたものであり、動かぬ証拠となる。言い訳などできない。滝谷は椅子から立ち上がり、赤嶺を指差して声を荒らげる。

 

「拾ってやった恩を仇で返すのか!」

「拾われただけだ。俺を育ててくれたのは赤嶺家。お前じゃない」

「何を……!」

「それに、俺を赤嶺家に引き取らせたのも、今回のように使える駒が欲しかったからだろ。生憎と俺はそれに付き合う気もない。拾われた恩は一つの頼みごとでチャラだ」

 

 堂々と言ってのけた。赤嶺の口から言われたことも図星だったようで、滝谷は声をつまらせてドカッと勢いよく椅子に座った。赤嶺はかなたに視線を向ける。やる事はやった。そんな事が言いたげな視線だ。かなたもそれに頷き、滝谷を睨みつける。

 

「なぜ暁葉にこのような事を?」

「ふん。私は上里暁葉を殺させたのではない。下田凛を殺させたのだ」

「そのような詭弁が通るとでも?」

「通す。そのつもりでいたのだよ」

 

 実際にはそうならない。そんな事は考えれば分かるはずなのに、よっぽど思考が短絡的になっていたようだ。それはかなたも分かる。巫女たちのおかげで、怒りを鎮めて視野を広げられたのだから。

 

「あの男は余計な存在だった」

「は?」

「あの男によって、園子様は変わられた。神に等しいあの方を、あろうことかあの男は人として接した! それにより園子様は変わられて(・・・・・)しまった(・・・・)! だから私は、園子様の神聖さを戻すためにもあの男を排除したのだ!」

「そのような……くだらないことで……!!」

 

 滝谷を言い分を、かなたはくだらないと吐き捨てた。

 

(そんな考えのせいで暁葉は……!)

 

 怒りがこみ上げて来る。今すぐ殴ってやりたい。歯ぎしりし、手が震える。しかし、ここで感情的になってしまっても仕方ない。かなたは自分を落ち着かせるために、息を細めながら深呼吸した。こみ上げていた熱を抑え、逆に冷淡にすらなる。

 その変化に滝谷は気づいていないが、横から眺めている赤嶺は感じ取った。そして背筋が凍りついた。戦えば勝てるはずなのに、敵に回してはいけないと脳が警告を鳴らす。

 

「あなたの妄想は聞くに堪えません」

「妄想だと!?」

「園子様……園子ちゃんは勇者ですし、今は神に近い存在になっているのも事実です。ですが、彼女は人として生まれ人として生き、人類の代表として戦ったのです。彼女が神に近づこうと神にはならない。私達と同じ人間です」

「園子様のことを……! お前まで──」

「そんな曇った眼だから大切なことを見落とすのです。あなたは園子ちゃんの何も分かっていない」

 

 冷ややかな視線が滝谷に突き刺さる。冷淡になった今のかなたにやっと気づき、滝谷は声を詰まらせた。蛇に睨まれた蛙のような。そんな心地になる。

 

「分かっているのですか……私はあの乃木家と繋がりを持つ人間ですよ」

「それがどうかされましたか? あなたこそ分かっていないようですね。あなたが、何を敵に回したのかを」

 

 必死の抵抗だったが、それすら正面から叩き伏せられた。滝谷はもはや生きた心地がせず、完全にかなたに呑まれた。自分がやったことを認め、その場に項垂れる。同情の余地などなく、かなたは両親と話し合って決めた処置をくだした。

 

「大赦から追放します。今後大赦に関わらないこと。我々上里家や乃木家にもです。それを守れないのなら、こちらもそれ相応の処分をさせてもらいます」

「……わかり、ました」

 

 声が震え、完全に萎縮している。かなたのような子供相手なら勝てると思っていた。その油断もあり、自分の予想を大きく上回るかなたの強さを前に、滝谷は呆気なく自分の犯行を認めたのだ。

 かなたは上里家の使用人に滝谷を任せ、赤嶺を連れて部屋から出ていった。しばらく歩き、周りに誰もいないことを確認してから礼を述べた。

 

「別にいらないって。俺もあいつとおさらばできて感謝だし」

「素直じゃない人ですね」

「悪かったな」

「いえ、それもいいと思いますよ」

 

 どうにも調子が狂う。小声でボヤいた赤嶺は、かなたから視線を逸らす。何かを見つめているわけでもないのだが、その目は何かを見ているように見えた。

 

「あぁそうだ」

「ひゃぃ!?」

「……何驚いてんだよ」

 

 何を考えているのだろうと覗き込むようにしていたかなたは、赤嶺が急に顔を向けてきたせいで恥ずかしい声を上げてしまった。先程の雰囲気は欠片もなく、その変化の大きさに赤嶺はまたもや調子を狂わされる。

 

「俺を引き取ってくんね?」

「え?」

「今回の件は赤嶺家も知らなくてな。恩を仇で返しちまったし、責任取って家を出ることにしたんだよ。元々養子だしさ」

「それは…………できません」

「なんで?」 

 

 スッと視線を鋭くする赤嶺。スイッチを入れる寸前の鋭さだ。たいていの人ならこれで恐怖に震える。しかしかなたは平気だった。このタイミングでそうしたことが、何だか可愛らしいとすら思える。かなたは少し厳しい目をして赤嶺を見つめた。

 

「悪いと思っているのなら、これからも赤嶺家の人間として生き、赤嶺家のために動いてください。赤嶺家から出てしまっては、それこそ恩を仇で返すというものです。一人が怖いのでしたら、私もお願いに同行してあげますよ?」

「子供扱いすんなよ。……ありがと。そうする」

「ふふっ、私の方が恩が大きいんですけどね。ありがとうございます」

 

 赤嶺は感謝の言葉を言うことにあまり慣れていない。照れくさそうにポツリとぶっきらぼうに呟いた。かなたはそれをしっかりと聞き、お礼で返す。

 

「っと、これも伝えないといけないんだった」

「もしかして忘れっぽいんですか?」

「録音するくらいには」

「あ〜」

 

 あの会話が残っていた理由はそういう事だったのか。思わぬ形で裏事情を知り、くすっと笑ってしまう。半分の理由は、滝谷を嵌めれたらな、という理由なのだが。

 それについては話さず、赤嶺はかなたに真っ直ぐ向かい合った。

 大切なことだから。

 

「あんたの弟、暁葉に頼まれた伝言がある」

 

 




 次回、最終回です!
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