朽ちぬ花   作:粗茶Returnees

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 今回は短いです。




4話

 

 上里家の屋敷は、乃木家の屋敷に引けを取らぬほど大きい。来客者は案内がなければ迷うほどだ。それほど大きい屋敷なのだが、部屋の全てが用途別で分かれており、荷物一つない空き部屋などない。大家族なのかと聞かれても、そうではないという返答になる。血筋で言えば分家なども増え、一緒に暮らしていれば大家族にもなろう。

 しかし、上里家の屋敷に住んでいるのは本家だけであり、4人家族だ。両祖父母は別の家に住んでいる。たった4人で全ての部屋を使っているわけでもなく、部屋の半数近くは使用人の私室となっている。住み着くものもいれば、休憩のためだけに使うものもいる。家族がいる人であれば、後者となることが多い。中には、週の何日かは住み込み、という人もいるのだ。

 数ある部屋の中で、姉弟であるかなたと暁葉の部屋は隣同士である。部屋は防音となっており、聞き耳を立てたところで隣の部屋の様子は伺えない。

 

「暁葉、起きてる?」

『起きていますよ。どうぞ入ってきてください』

「お邪魔します」

 

 扉を開けて暁葉の部屋に入る。部屋の中は広く、生活に必要な家具の他、ピアノが置かれていても狭く感じない程だ。一人で使うには広過ぎる。暁葉も部屋を変えたいと思っているのだが、残念なことにここより狭い部屋はあれど、ほぼ大差ないのが現状である。

 机に向かって業務日誌を書いていた暁葉は、ペンを止めてかなたへと向き直る。お互いに部屋を訪れることがしばしばあるが、就寝前に部屋を訪れるのは珍しい。それこそ、暁葉が変わってからはなかった。

 

「どうぞ、ベッドにでも腰掛けてください。ご存知の通り余っている椅子はありませんので」

「そうね。そうさせてもらうわ」

 

 園子と会話した。何かしらの変化があるのでは。そんな期待をしていたかなただったが、さすがに速攻で変化が訪れることはない。暁葉に気づかれぬように内心で落胆し、ベッドに座ってから深呼吸する。暁葉は椅子を回転させ、ベッドに座るかなたと向き合った。暁葉からは口を開かず、かなたの用件を無言で待つ。

 

「お役目、どうだったかしら?」

「どうと言われましても、役目である以上こなしていくだけです。幸いにも人として合わない、ということもありませんし」

「そう。……あの方への印象はどうかしら?」

「印象、ですか?」

 

 なぜそんな事を聞くのか。姉の質問に疑問を抱くも、答えない理由もない。顔を合わせた時から帰る時までのやり取りを思い返し、言葉を整理していく。かなたは姉として聞いているのだが、暁葉はやはり仕事の一環と考える。

 

「……掴みどころがない、ですかね」

「掴みどころがない?」

「はい。感情表現は豊かですし、会話を楽しんでおられるように見えましたが、底が見えないって思いました」

「まぁ、一回で分かるほど分かりやすい人間もいないものね」

 

 乃木園子という少女の人物像を掴みきれない暁葉。そんな様子を知って、かなたは楽しそうに頬を緩ます。暁葉の性格を知り、一日目の印象があやふやだと知ったからだ。

 暁葉は、分からないものを分からないままにしたがらない。それが今回も当てはまるのであれば、園子のことを知りたくなるということに置き換えられる。園子には暁葉のことでお願いをしており、園子自身にまつわる話を園子からするのは、極力控えてもらっている。自分を抑えている暁葉は、園子のことを知るためには自分の殻を自分で壊さないといけないのだ。

 

(理想形を思い描いているけれど、それに近いことになればいい)

 

 暁葉は公私を分けられる。自分で自分を制御できる。暁葉自身から行動するまで、どれだけの月日が必要になるのか。もしかしたら年単位かもしれない。だが、かなたもそれは承知の上だ。

 

「一つ、聞きたいことがあるのですが」

「答えられることなら答えるわよ」

「なぜ私なのですか? 同年代で同性の人物の方が、園子様も話しやすいと思うのですが」

「それに該当する人が私以外にいないからよ。私は巫女である以上、あまり時間が取れない。次に考えられるのは近い年代の人。そして彼女が勇者であると知っている人。それに当てはまるのが暁葉、あなただった。それだけのことよ」

「そうですか」

 

 聞かれた時用にと備えていた答えだ。怪しまれないように、説明する間隔に気をつけた。早過ぎず、遅過ぎず。かなたの演技に暁葉は気づかず、そういう理由なら納得だと頷いた。暁葉自身、園子の話し相手という役目に不満は抱いていない。異性よりは同性のほうがいいのでは、と純粋に思っただけだ。

 

「彼女とどんな話したのか、私にも教えてくれる?」

「……秘匿しろとは言われてませんし、おそらく大丈夫かと」

 

 

 

 

「そんな事してたんだ?」

「はい。あの子は話す内容も選んでましたし、恥ずかしいようなことを言うような人でもないでしょ?」

「まぁね〜。ところで、かなりんは私のことなんて呼んでくれるの?」

「あだ名呼びを諦めてなかったのね……」

 

 翌日、かなたは学校に通わずに園子の下へと訪れていた。初めて顔を合わせた時、気楽に話し合う関係を代価として園子が要望を出した。かなたはそれくらいでいいのなら、と要望を飲み込み、現在のように気さくに話している。あだ名で呼ぶことを課題とされており、かなたは頭を悩ませていた。

 

「園子ちゃん、では駄目なのですか?」

「うーん……それでいいよ〜」

「ほっ」

「あはは、かなりんってこういうの慣れてないんだね」

「園子ちゃんがユニーク過ぎるのよ」

 

 ため息まじりに言うかなたに、園子は目を細めて楽しんでいた。なんでもないようなやり取りができるのは、それこそ勇者として前線に立っていた頃以来だ。何気ない日常を過ごす。そんな日々を彼女は楽しんでいた。それに近い状態を今体感できている。

 

「園子ちゃんがこちらの要望を受け入れてくれたのは、他に理由があるからだよね?」

「かなりんにはお見通しか〜。せっかくだし、クイズ形式で! なんだと思う?」

「普通に教えてよ……」

 

 文句を言いつつ、かなたは頭を捻って考える。真面目に付き合ってくれるのは、姉弟揃って同じなようだ。

 

「……婿養子?」

「ふふっ、あはははは! かなりんってば面白いこと言うね〜! あははは!」

「笑いすぎよ!」

「だってー、弟のことが絡んでるのに、婿養子って……。ふふっ」

「思いつかなったのよ。あなたの考えてることを当てられる人なんて、それこそあの二人だけじゃない」

「うーん、二人にも分かんないって言われたことあるよー?」

 

 遠足の日に言われた。取り扱い説明書を作るなら、どれだけのページ数になるか。そんな会話をしていた時に、『そのっちは……分からない』『たぶん、一生分からない』と二人に言われている。それでも、分かるときはあると言われ、園子はそれだけでも嬉しかったのを今でもよく覚えている。

 

「私、学校には行けてないけど中学生だよ〜? 結婚のこととか考えないよ〜。かなりんは真面目過ぎるんよ」

「それじゃあ答えは?」

「なんだと思う?」

「まだやるの!?」

「冗談だよじょ〜だん。……上里家の人とね、関係を作っときたかったんだ〜」

 

 その一言でかなたは理解した。園子が言いたいことを。しかしそれを口には出さず、園子が最後まで話すのを待つ。

 

「ご先祖様同士では、繋がりがあったみたいだし、今では一応繋がってるって程度。風習として仲良くなるより、本当の意味で仲良くなったほうがお互いに風通しがいいでしょ? そのきっかけを提示されて、これだ! ってなったんよ。だから、ありがとう」

「お礼を言われるほどじゃ……。それこそ偶然の産物だったのだし、私は私の個人的な都合を優先しただけなのだから」

「ふふっ、かなりんはあっきーのこと大好きだね〜」

「っ! そういうつもりじゃ……!」

「美味しい反応ありがとうございますー! 小説のネタにしていい?」

「駄目!」

 

 もし園子が動ける状態だったら、速攻でメモを書き始めていただろう。今はそれができないため、園子は脳内に保管するしかない。もし、体が動かせるようになったら、二人のことをもっと観察しよう。そんな事を考える園子に、かなたの鋭い視線が刺さった。

 その後もしばらく雑談し、かなたは学校へと向かった。放課後に車でまた戻ってくるのだが、その時に車に乗っていなければ暁葉に怪しまれるのだから。

 

「あっきーによろしく言っといてね〜」

「言ったら私が学校に遅刻したことがバレるでしょ」

「あ、そっか〜」

 

 学校へと向かうかなたを、園子は声だけで送り出した。本来なら、一緒に着ていたであろう制服を見つめながら。

 

「あっきーは、中学校どうするのかな〜」

 





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