デート・ア・オルガ   作:宮本竹輪

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今年最後の投稿、そして2020年初めての投稿です!

遅れてしまい申し訳ありませんでした!

前置きがいつもより全然短いですがどうぞ!


第九話 暴虐なる姫君(プリンセス)

「なぁ士道、だからさっき俺も言っただろ」

 

「......そりゃそうだよな、普通に考えりゃ休校だよな......」

 

士道は後頭部をかき、オルガとともに高校前の坂道を下っていた。

 

士道が精霊・十香と会い、名をつけた次の日。

普通に考えれば、昨日目の前で破壊現場を目撃したわけだし、休校だということが分かるはずだが、士道たちはいつも通り登校してしまったのである。

 

あの後〈フラクシナス〉に回収された士道たちだったが、オルガは希望の華を咲かせた状態で〈フラクシナス〉に転送されたのである。恐らく十香と折紙の攻撃に巻き込まれたのだろう。

その後昨日の夜はずっと十香との会話の録画ビデオを見ながらぶっ通しで反省会をさせられていた。

 

「やっぱミカの言う通りだっただろ?」

 

「......ほんとにな」

 

今朝三日月を呼びに言った際に「....今日学校ないでしょ」と、短く返され戻されてしまったのである。学校までの道のりでオルガも「ミカが言うんだから今日ねぇだろ」と言われたのである。

 

「はあ......ちょっと買い物でもしていくか」

 

「何か切れてんのあったけか?」

 

「確か卵と牛乳が切れてた気がするけど......」

 

そのまま帰ってもすることが特にないので、買い物でもしていくことにした。だが士道たちはすぐに再び足を止めることになる。

 

「っと、通行止めか」

 

だがそんなものがなくとも、アスファルトの地面が滅茶苦茶に掘り起こされ、ブロック塀は崩れ、雑居ビルは瓦礫の山へと成り果てていた。

まるで戦争でもあったかのようだ。

 

「____いや、ここであったな」

 

この場所には見覚えがあった。初めて十香に会った空間震現場の一角である。

まだ復興部隊が処理をしていないのだろう。

 

「........」

 

頭の中で少女の姿を思い浮かべる。

 

_____十香。昨日まで名を持たなかった、精霊と、災厄と呼ばれる少女。

 

昨日、前よりずっと長い間話をしてみて____士道の予感は確信に変わった。

あの少女は確かに、普通では考えられないくらいに、常人離れしている力を持っている。国の機関が危険な怪物だと敵視するのも理解できる。今士道たちの目の前に広がる光景がその証拠だ。

 

「......ドー」

 

だけれどそれと同時に、彼女がその力をいたずらに振るうとは、折紙があの時言った慈悲なき怪物とは到底思えなかった。

 

「......い、......ドー」

 

あの時三日月が言い放った言葉が脳裏をよぎる。

 

__________だったら俺は力を持つからには、精霊を救うため、あんたたちと戦う

 

三日月が精霊を救うために戦うと決めたのである。

士道たちも十香の笑顔を守り抜いてみせる。士道が嫌いなあの憂鬱そうな表現にさせないために。それだけはなんとしても士道にとって許容できなかったのである。

 

「おい、シドー!」「士道おい!」

 

......まあ、そんなことをずっと考えていたから、気づいたら校門まで歩くハメになったわけだが。

 

「.......無視するなっ!」

 

「______え?」

 

視界の奥_____通行止めになっているエリアの向こう側からそんな声が響いてきて、士道は傾げた。

凛とした、とても美しい声。

......今、聞こえるはずがない声。

 

「_____ええと」

 

士道は自分の記憶と今しがた響いた声を照合しながら、その方向に視線を変えた。それと同時に身体を硬直させる。

 

視線の先にある、瓦礫の山の上に。

明らかに街並みに似つかわしくないドレスを纏った少女が、ちょこんと屈み込んでいた。

 

「と_____十香!?」

 

そう、士道の目か視覚に異常が無ければ、その少女は間違いなく、昨日士道が出会った精霊____十香だった。

 

「ようやく気づいたか、ばーかばーか」

 

「俺も何回かお前のこと呼んだぞ」

 

「悪い、普通に気付かなかった。そ、それよりも何してんだ.......、十香......」

 

「ぬ?何とは何だ、お前から誘ったのだろう、デェトとやらに」

 

「なっ........」

 

こともなげに言い放った十香の言葉に、士道は肩を震わせた。

 

 

「.......」

 

三日月は自室にて、この世界での自分の過去を思い起こす。

 

先日自分のアルバムを見たときは、幼少期の三日月の姿が写されていた。因みに三日月の両親は五河家と同じようにたびたび家を開けている。そのため食事は五河家でとっている。

 

この世界で生まれたとき、三日月は前の世界の記憶を保持していた。最初はなぜギャラルホルンに討たれたはずの自分がこうして生きているのか疑問だった。

しかし、三日月にはそのことよりも気になることがあった。

 

それは_______オルガがこの世界で生きているのかということだった。

 

自分が生きているのだから、先に死んでしまったオルガはもしかしたら生きている、そう思いたかった。

 

三日月がオルガと再び出会ったのは小学校に入学してからである。再びオルガに会い、三日月は自分のことを話したが、オルガは全く自分のことを覚えていなかったようだった。

 

最初は家族のことを忘れていると知って少し悲しかったが、それからはあまり気にしないようにしながら、オルガと接していた。

 

その間に士道や琴里とも仲良くなり、本当の家族のようになっていた。

 

あの日までは________、と。

 

「______ッ!」

 

唐突に聞こえた軽快な着信メロディに体を震わせる。誰かからのメールが来たのだろう。結局今日は学校が休校士道とオルガからだろうか。

 

「誰だろ」

 

小さく呟きながら、携帯を手に取る。三日月は携帯の画面に映されている名前に目を開く。なぜなら映されていた名前は______。

 

「鳶一?」

 

 

 

 

数分後。

 

「......なぁ士道」

 

「なんだ?」

 

「デートって男女が二人一組でするもんじゃねぇのか?」

 

「......そうだな」

 

士道はオルガの問いに力無く答える。

 

「おーい、二人ともこっちだ!」 

 

前方にいる十香がこちらに向けて手を振る。士道とオルガはぎこちない足取りで向かう。

 

今、士道たち三人は天宮大通りにいた。あのあと士道と十香はデートを始め、オルガは家に戻るつもりだったのだが、戻ろうとした時に十香に悲しい目つきで見られてしまい、結局オルガもデートに同行することになったのだ。(こらそこ、作者デートを何か本当に分かってるのとか言わない)

 

「______シドー、オルガ。全く遅いぞ」

 

「いや、お前が止まんねぇからよ......」

 

「よいではないか、それよりも次はこの店はどうだ?」

 

十香が指差した店はとあるカフェだった。

 

「まぁいいけど......」

 

「そうか!」

 

士道たちはそのまま店内に入っていく。店員に誘導されるまま席に着く。

 

「ほう、この本の中から食べたい物を選べばいいのだ」

 

「ああ、そうだな」

 

「きなこパン。きなこパンは無いのか?」

 

「.......や、さすがにねぇだろ。てかお前、最初のパン屋で食いまくったじゃねぇか」

 

「また食べたくなったのだ。一体なんだあの粉は.......あの強烈な習慣性......きっと人々は禁断症状に震え、きなこを求めて戦が起こるに違いない」

 

「ねぇよ」

 

「ねぇだろ。だけど、俺たちそこまで金はねぇから全部合わせて三千円までな」

 

そんな会話を聞いて、琴里ははぁと息を吐いた。その隣にいる令音は三人の様子を監視していた。琴里と令音は小洒落たエプロン姿をしている。

 

なぜこの二人がこのような姿をしているかというと、二人は元々この店で過ごしていたが、タイミング悪く、この店に入店してしまったのだ。そのため緊急事態に対応するために店側と交渉し、琴里たちが店員として振る舞うことになったのである。

 

「.......ふむ、順調そうだね」

 

令音があごに手をあてて、口を開く。

 

「そうね、あの二人がヘマをしないといいけど」

 

琴里は口にチュッパチャプスをくわえたまま声を発した。

 

 

 

 

士道たちが琴里たちのいる店に入店する数十分前。

 

「それで話って何?」

 

三日月は向き合いながら折紙に問う。そう、折紙が三日月の家にいるのは先程送られてきたメールの内容によるものだった。 

 

どうやら折紙は訊きたいことがあると言うことらしい。三日月の家で話がしたいということだった。

 

「私は昨日、空間震警報中に五河士道とオルガ・イツカを見た。その他にもあなたの姿も」

 

折紙は三日月の目をじっと見つめながら言ってくる。

 

「昨日、なぜあんなところにいたの」

 

「少し教室に忘れ物して、オルガたちに探すの手伝ってもらってた」

 

「非常に危険。ケガはしていない?」

 

「うん。俺もオルガたちも無事だよ」

 

「そう。良かった」

 

折紙はぴくりとも表情を変えずに続けて口を開く。

 

「───昨日、あなたは私を見た」

 

「.......っ。ああ」

 

「誰にも口外しないで」

 

別にここで彼女の言葉に逆らう理由も無いわけだし、三日月は首を縦に倒した。

 

「それに、私のこと以外にも、昨日見たこと、聞いたこと。全てを忘れた方がいい」

 

恐らく、精霊のことを指しているのだろう。

 

「.......あいつのこと?」

 

「.........」

 

折紙は、三日月のことを無言で見つめてくるだけだった。

 

「.......鳶一。あいつってなんなの?」

 

精霊のことは一通り〈ラタトスク〉からは、聞かされていたが、それはあくまで〈ラタトスク〉側の見解であって、三日月は折紙たちのの考えを知りたかった。

 

「あれは、精霊。私が倒さなければならないもの」

 

「.........そいつって悪い奴なの?」

 

三日月は質問を投げかけてみた。

すると微かにだが、折紙が唇を噛み締めた気がする。

 

「______私の両親は、五年前精霊のせいで死んだ」

 

三日月は折紙の言葉に表情一つ変えない。そんな様子を気に掛ける様子もなく、折紙は言葉を続けた。

 

「私のような人間は、もう増やしたくない」

 

「......そう」

 

三日月は、小さく呟く。

しかし、三日月には少し気になることがあった。未だこちらに視線を送ってきている折紙に訊ねる。

 

「そういえば、さっき言ってた精霊のこととか、俺に言っていいことだったの?」

 

「.............」

 

折紙は、一瞬黙った。

 

「問題ない」

 

「そうなの?」

 

「あなたが口外しなければ」

 

「もし話したら?」

 

「............」

 

また、一瞬だけ言葉を止める。

 

「困る」

 

「そう、分かった。気を付けるね」

 

こくり、と折紙が首肯する。それを最後に互いにしばしの沈黙が流れる。二人とも向かい合ったまま黙り込み続ける。それから二十秒後ぐらいだろうか。

 

「.......お茶入れようか?」

 

「ありがとう」

 

その場から立ち上がる。と、そこで、

雰囲気の明るいメロディによって三日月の声が遮られた。メロディの正体は三日月の携帯からであった。

 

「ごめん、ちょっと待ってて」

 

三日月は自分のスマートフォンを取り出し、部屋を出て行った。

 

「もしもし?」

 

『三日月かしら?』

 

「琴里。どうしたの?」

 

『少し頼みたいことがあるのだけど_______』

 

 

 

 

現在

 

「........」

 

「......ま、待ってくれ」

 

士道は手にした伝票に書かれた数字と、自分の財布の中身を交互に見ながら、ふうと息を吐いた。ほとんど残らないが、辛うじて二人で払いきれる額だった。

 

「会計お願いします」

 

オルガはレジに立っていた店員に声をかけ_____

 

「.....ッ!?」

 

思わず言葉を詰まらせた。

 

なぜなら、声をかけた店が見覚えのある顔をしていたからだ。

 

「はい、お預かりいたします」

 

そこに居たのは、制服を着た三日月だったからだ。

 

「お、おい!ミk.....(殴」

 

オルガは三日月の名を呼ぼうとした途端、見事なくらいの右フックでオルガの顔を殴る。そのままオルガは床に倒れ込む。

 

「だからよ......止まるんじゃねぇぞ......」

 

いつものように最後の団長命令を口にしながら、散った。

 

店員が三日月だと気づいた士道は三日月の方へ視線を移す。すると三日月は「次、自分の名前を呼んでみろ、オルガみたいに殴るぞ」みたいな視線をよこしてきた。

 

一方の十香は不思議そうに倒れ込むオルガを見つめる。

 

「どうしたのだ?オルガなぜ寝ているのだ?」

 

「こちら、お釣りとレシートでございます」

 

士道が十香たちのやりとりに苦笑を浮かべているうちに三日月は会計を済ませ、お釣りとレシートそしてカラフルな紙を一枚、手渡してくる。

 

士道がレシートの下に目をやると、『ラタトスクがサポートするから、士道は十香と二人でデートを続けて。オルガはこっちで回収する』という文字がしたためられていたのである。

 

「こちら、商店街の福引き券となっております。この店から出て、右手沿いに行った場所に福引き所がありますので、()()()()()()()()()()()()

 

「どうした?」

 

「そうだ、オルガ」

 

士道はたった今起き上がったオルガに声をかけると、レシートを手渡した。オルガは渡されたレシートを見ると小さく頷く。

 

「シドー、なんだそれは?」

 

十香が、福引き所に物凄く興味深そうに見つめてきた。

 

「行ってみるか?」

 

「シドーは行きたいのか?」

 

「......おう、行きたくてたまんねぇ」

 

「オルガはどうなのだ?」

 

十香はオルガに質問をふってきた。オルガは腕を組み、一瞬思考する。

 

「え?あー、いやその、俺は用事があって行けねぇんだー」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ」

 

目を泳がせながら、適当な言い訳を口に出す。

 

「そうか、ならば仕方ないな」

 

オルガの言い訳を十香は納得してくれた。

 

「ならば、またな!オルガ」

 

「おう」

 

十香の元気な声にオルガは返答すると、士道たちと別の方向に踵を返し歩いていった。

 

 

 

 

「なぁ琴里」

 

「何かしら?」

 

「この落とし前.....どうつけるつもりだ?」

 

「落とし前って......あそこまで行って引き返すものかしら?」

 

オルガが士道たちと別れて数分後。

〈フラクシナス〉に戻ったオルガは士道たちのデートの様子を見ていた。

士道と十香は先程三日月から渡された福引き券で『ドリームランド』とかいう未成年お断りな大人なホテルのペアチケットを当てた、当てされられたのである。

 

「二人の初デートになんつーとこ行かせてんだよ。初デートで行くようなとこじゃねぇだろ!」

 

「でも、士道もちゃんと順を理解してるみたいだし、よかったじゃない」

 

「なんも良くねぇだろ!」

 

琴里の満更でもない様子にオルガは叫び声を上げる。『我が妹ながら、たちが悪い』と小さく思った。

 

「ったく、だけど初デートってのにいくらなんでも無茶だろ。次はもう少しまともなのにしてくんねぇか」

 

「善処するわ」

 

会話を終えると、二人のデートの様子が映されているモニタに視線を戻す。

 

「ん?」

 

先程から黙り込んでいた三日月が不思議そうに声を上げた。

 

「どうした?ミカ」

 

「いや何あれ?」

 

「ん?なんだありゃ?」

 

「どうかしたの二人とも」

 

「いやミカがありゃ何だだってよ。映像をアップできるか?」

 

「ええできるけど______」

 

琴里が手元のコンソールを操作し、三日月が指した地点の映像をアップさせる。

 

微かにだが小さい光が確認できる。だが何の光なのかここからでは分からない。

妙な胸騒ぎがする。神妙な面持ちになる。

 

「も、もう少しアップできるか」

 

さらに映像をアップさせると、何の光か分かった。それはスナイパーライフルのスコープが夕日を反射させた光だった。

 

「........ッ!士道ッ!」

 

オルガが叫ぶが、もう遅い。弾丸は士道の腹部を掠め取り、風穴を開けた。

 

 

 

〈神威霊装・十番〉(アドナイメレク)

士道が撃たれる少し前。

 

「おお、絶景だな!」

 

士道と十香は夕日に染まった高台の公園にて、オレンジ色の街並みを眺めていた。

その後〈フラクシナス〉のクルーたちの巧妙(?)な誘導するルートを辿ってきたところ、この見晴らしのいい公園に辿り着いたのである。

 

士道も、ここに来るのは初めてではない。というか、密かなお気に入りの場所であった。

 

「_____それにしても」

 

十香が話を変えるように背伸びをすると、屈託のない笑みを浮かべる。

 

「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

「..........っ」

 

不意を突かれ頬を赤く染める。自分からは見えないが、真っ赤に染まっているだろう。

 

「どうした、顔が赤いぞシドー」

 

「い、いや、なんでもない」

 

「む?そうか」

 

士道は額に滲んだ汗を袖で拭いながら、チラッと十香の顔を一瞥した。

十日前、そして昨日、十香の顔に浮かんでいた鬱々とした表情は、随分と薄れていた。

 

「______どうだ?お前を殺そうとする奴なんていなかっただろ?」

 

「_______うむ、皆優しかった。正直に言えば、まだ信じられないくらいに」

 

「あ.......?」

 

士道が首をひねると、十香は自嘲気味に苦笑した。

 

「あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。世界がこんなに優しいだなんて、こんなに楽しいだなんて、こんなに綺麗だなんて.......思いもしなかった。メカメカ団......ええとなんといったか。エイ......?」

 

「ASTのことか?」

 

「そう、それだ。ASTとやらの考えも分かったしな。だから奴らが私を狙う理由も分かった。私はこの世界に現れる度にこんな美しいものを壊していた」

 

士道はすぐには言葉を発せなかった。

十香の悲痛な顔に胸が引き絞られ、上手く呼吸ができなくなる。

 

「シドー。やはり私は______いない方がいいな」

 

言って_____十香が笑う。

その顔は昼間のデートに見せていた、無邪気な笑みではなかった。

まるで自分の死期を悟った病人のような_____弱々しく、痛々しい、悲壮な笑顔だった。

 

「そんなこと......ないッ.......!」

 

士道は力を込め、喉を震わせる。

 

「だって......今日は空間震が起きてねぇじゃねぇか!きっといつもと何か違いがあるんだ......ッ!」

 

しかし十香は、ゆっくりと首を振った。

 

「例えその方法が確立しても、不定期に存在がこちらに固着するのは止められない。限界の数は減らないだろう」

 

「じゃあ......!もう向こうに帰らなければ良いだろうが!」

 

士道が叫ぶと、十香は顔を上げて目を見開いた。そんな考えなど全く持ってなかったかのように。

 

「そんなことが______可能なはずは......」

 

「試したのか!?一度でも!」

 

十香が、唇を結んで黙り込む。咄嗟に出た言葉だったが______それが可能なら、空間震は起こらないはずである。

確か琴里の言葉では、精霊が異空間からこちらの世界に移動する際の余波だという話だった。

 

「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」

 

「そんなもん、俺が教えてやる!それに俺だけじゃなくオルガと三日月だってそうだ!」

 

「寝床や、食べる物だって必要になる」

 

「それも......どうにかする!」

 

「予想外の事態が起こるかもしれない」

 

「そんなもん起きてから考えろッ!」

 

十香はしばらく黙り込むと、小さく唇を開いた。

 

「......本当に、私は生きていいのか?」

 

「ああ!」

 

「この世界にいてもいいのか?」

 

「そうだ!」

 

「......そんなこと言ってくれるのは、シドーたちだけだぞ。ASTはもちろん、他の人間たちだって、こんな危険な存在が、自分の近くにいたら嫌がるに決まっている」

 

「知るか!ASTだぁ!?他の人間だぁ!?そいつらがお前を否定するってんなら______それを超えるくらい俺たちが!いや俺がッ!お前を肯定するッ!」

 

叫んで、十香に向かってバッと手を伸ばす。十香の肩が、小さく震える。

 

「握れ!今は______それだけでいい......ッ!」

 

十香は顔を俯かせ、数瞬の間思案するように沈黙したあと、ゆっくりと顔を上げ、そろそろと手を伸ばしてきた。

 

「シドー_____」

 

と。

士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。

 

「______」

 

士道は、ピクリと指先を動かした。突然とてつもない寒気を感じた。ざらざらの舌で全身を舐められるような、嫌な感触。

 

「十香!」

 

無意識のうちに十香の名を呼ぶ。

 

「.......っ」

 

士道は、両手で十香を突き飛ばす。十香は突然の衝撃で尻もちをつく。

 

 

「___________________あ」

 

 

士道は、胸と腹の間くらいに、凄まじい衝撃を感じた。

 

「な______何をする!」

 

十香が非難の声を上げるが、士道の耳にはよく聞こえなかった。途方もなく、気持ちが悪かった。

 

「シドー?」

 

十香の呆然とした声が聞こえ、ない。

震える右手を脇腹にやってみる。

 

おかしい。

 

だって、なにも、な

 

 

 

 

 

「シドー......?」

 

名を呼ぶが、返事はない。そうはそうだ。

士道の胸には、抉られたように大きな穴が開いている。

意味が、分からない。

 

「シ____ドー」

 

十香は士道の頭の隣に膝を折ると、その頬を突っつく。

反応は、ない。数瞬前まで十香に差し伸べれていた手は、一部の隙間無く血に濡れていた。

 

「ぅ、ぁ、あ、あ_______」

 

ようやく理解する。

辺りから漂う焦げ臭い匂いで今し方士道を殺した者が誰なのかも。

いつも十香を殺そうとする一団_____ASTのものだ。

 

「_______やはり、駄目だった」

 

十香は、この世界で生きられるかもしれないと思った。

 

もしかしたら、士道がいてくれたら、なんとかなるかもしれないと思った。

 

きっととても難しいだろうけど、できるかもしれないと思った。

 

だが______やはり、駄目だった。

 

世界は_______やはり十香を否定した。

 

「________〈神威霊装・十番《アドナイ・メレク》〉.......ッ!」

 

喉の奥から声を絞り出し、その名を呼ぶ。

 

瞬間。世界が、啼いた。

 

世界が、歪み、十香の身体に絡みついて、荘厳なる霊装の形となる。

 

「ああ」

 

 

喉を、震わせる。

 

 

「あああああああああ」

 

 

天に響くように。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああ________ッ!!」

 

地を轟かせるように。

 

「よくも」

 

自分の頭を麻痺させ、自我を摩滅させるような感覚。

 

「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも」

 

十香は剣を握る手に力を込めると、天使の名を吼えた。

 

鏖殺公(サンダルフォン)______【最後の剣】(ハルヴァンヘレヴ)!!」

 

 

刹那、十香が足を置いていた玉座に亀裂が走り、バラバラになって砕け散った。

そして玉座の破片が十香の握る剣にまとわりつき、そのシルエットを巨大にさせる。全長十メートル以上もあろうかという、長大過ぎる剣。

 

十香は一人はその場にいた少女に向けるように静かに言う。

 

「______嗚呼、嗚呼。貴様だな、貴様だな。我が友を、我が親友を、シドーを殺したのは、貴様だな」

 

真っ黒に淀んだ瞳で静かに、冷静に狂う。

 

「_____殺して(ころ)して(ころ)し尽くす。死んで()んで()に尽くせ」

 

そして______災厄(プリンセス)は、降臨した。

 

 

 

 

「司令......ッ!」

 

「分かってるわよ。三日月、一応バルバトスを出すわ。被害を抑えるわよ」

 

「分かった」

 

琴里の言葉に返答すると、さっそうと艦橋を出て行く。

 

「な、なぁ、琴里」

 

「何かしら?」

 

呆然とした様子でモニタを見るオルガに視線を移す。

モニタには身体をごっそりと削り取られた士道と、精霊・十香の戦闘映像が表示されていた。

 

「お、おい、琴里。今......し、士道が撃たれた......よな?」

 

「そうね。ま、ちょっと優雅さが足りないけど、騎士《ナイト》としては及第点かしらね。今のでお姫様がやられてたら目も当てられなかったわ」

 

琴里のさほど深刻でない調子の言葉で打ち震えるオルガの何かを壊した。

 

「......なん、だと、てめぇ今なんつった!?」

 

オルガは艦橋の壁をドンと勢い良く叩く。

 

「何が優雅さが足りねぇだよ!?何が騎士《ナイト》としては及第点だよ!?ふざけんじゃねぇ!」

 

激怒したオルガは叫ぶ。

 

「士道はモノじゃねぇんだぞ!今のは十香を守るためにアイツが、自分の意思でしたもんだ!それなのに優雅さが足りないだぁ!?こんなときになってんのに優雅さもクソもあっかッ!!」

 

「オルガくんッ!」

 

神無月は食いつくオルガを抑える。オルガが琴里に必死で食いついている様子を戦慄したような視線を向けてくる。

しかしそれでもオルガは声を続ける。

 

「お前は悲しくねぇのかよッ!?目の前で殺されたんだぞ、家族が!!それなのになんで、平然としてられんだよ......!」

 

黙り込んでいた琴里はオルガを制するように言う。

 

「落ち着きなさい。あんたの言い分も分かるけど士道がこれで終わりな訳ないでしょう?」

 

「はぁ?」

 

琴里は半眼を作って告げる。琴里の言葉の意味が分からず、呆けた声を漏らす。

 

そう。ここからが士道の本当の役目なのだ。

 

「し______ッ、司令!あれは.......!」

 

と、艦橋下段の部下が、画面左側にある______公園が映っているものをみながら、驚愕に満ちた声を発してきた。

 

「_____なっ......!?」

 

「_____来たわね」

画面に映っているものを見ながら、オルガは驚嘆の声を上げる。

 

画面の中には、公園に横たわっている、かけられた制服が、突然燃え始めたのである。

制服が燃え落ち________、

 

「き、傷が_______」

 

傷口が。ぽっかりと消失した欠損の断面が、燃えている。その炎は士道の傷を見えなくするくらいに燃え上がってから______徐々にその勢いを無くしていった。

そしてその炎が舐めとったあとには、完全に再生された士道の身体があった。

 

『___________ん、』

 

画面中に横たわった士道が、

 

『ん................ぉ熱っちゃぁぁぁ!?熱っつ!?』

 

と、未だに燻っていた火を見て、跳ね起きた。

慌てた様子でバンバンと腹を叩き、火を消し止める。

 

「.......どうなって、やがんだ.......?」

 

「言ったでしょ。士道は一回くらい死んだって、すぐニューゲームできるって」

 

クルーたちは訝しげな視線を向けてきて、オルガはその場に崩れ落ちて安堵していた。

 

「すぐ回収して。______彼女を止められるのは士道だけよ」

 

 

 

 

「............ちッ!」

 

三日月はバルバトスのコックピット内で舌を打つ。

かろうじて身を翻し十香の斬撃を避ける。衝撃は凄まじく余波だけでも十分威力がある。余波の威力も防ぐだけでモビルスーツの巨大で、後方に飛ばされそうになるくらいだ。

 

「ミカ......なぜ、私の邪魔をする」

 

「多分、士道は自分の敵討ちをしてほしいなんて、思ってないと思うよ……」

 

真正面から放たれる十香の一撃を防ぎ続けていたのもあって、少し疲弊していた。

 

「……そうかもしれん。だがその女はシドーを……私の前に立つのならば、お前もその女ごと殺すのみ」

 

十香の言い分も三日月には分からなくもなかった。後ろで茫然としているコイツ(折紙)家族(士道)を撃った。三日月も心の中では殺そうかと思っていた。

 

だが、これ以上十香を暴れさせるわけにもいかなかった。恐らく、ここで止めなければ十香は絶対の一撃で折紙を討ち滅ぼそうとするだろう。

そうしたら、街がどうなってしまうか。それは三日月にとってもあまり好ましくない。

 

それに____()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

十香は、巨大な剣で連撃を繰り出してくる。同じようにメイスで防ごうとするが、連続ともなれば話は別。メイスが剣の威力に耐えきれず、とうとう砕けちってしまう。

 

「ぐっ……」

 

一撃をモロにくらってしまい、大きな振動が機体を揺らす。今の一撃でバルバトスの右肩の一部が吹き飛んだ。

防ぐ手立てを失ってしまった以上、次の一撃はもう防ぎきれない。絶望的な状況に立たされてしまった。

 

すると、インカムから琴里の声が聞こえてくる。

 

『三日月、準備ができたわ』

 

「……分かった。十香……ッ!」

 

三日月が叫ぶと、十香は訝しげな表情を作る。

 

「あいつは___士道は、まだ止まってない」

 

「何?」

 

瞬間。

 

「十ぉぉぉぉぉぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁあああああああ___________ッ!!」

 

空から、そんな叫び声が聞こえてきた。

空を見上げると、一人の少年が落下してきた。

 

「シ______ドー______?」

 

状況が理解できないような声で呟く。

落下してきた少年は先ほど撃たれたはずの五河士道その人だったからだ。〈ラタトスク〉からのサポートだろう。そのおかげでだんだんと落下速度が緩やかとなっていき、士道は十香の肩に手を置いた。

 

「よ、よう......十香」

 

「シドー......ほ、本物、か......?」

 

「ああ......一応本物だと思う」

 

士道が言うと十香は唇をふるふると震わせた。

 

「シドー、シドー、シドー.........っ!」

 

「ぐうぅうぅうぁぁぁぁぁぁああああ________ッ!!」

 

またもや上空から誰かの叫び声が聞こえた。士道と十香が見上げるとオルガ・イツカが降ってきた。

 

そのままオルガは十香のもつ長大な剣に落下し、もたれかかる形で倒れ込んだ。

 

「.......止まるんじゃねぇぞ......」

 

「お前も、来たのか_____」

 

と、言いかけたところで士道と目覚めたオルガの視界に、凄まじい光が満ちた。十香の剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに真っ黒な輝きを放っている。

 

「うおっ!?な、なんだこりゃ.......」

 

「ッ.......!しまった.......!力を_____」

 

「と、十香、これは______」

 

【最後の剣】(ハルヴァンヘレヴ)の制御を誤った.......!どこかに放出するしかない.......!」

 

「どこかってどこだ!?」

 

「________」「ん?」

 

十香は無言でオルガと、視線が合う。

 

「ままま、待ってくれ!頼む!俺に撃つのだけは!てかここで俺に撃ったら士道も巻き込まれっぞ!?」

 

「十香、お前......!だ、駄目だぞ、ここで撃っちゃ!」

 

「で、ではどうしろというのだ!もう臨界状態なのだぞ!」

 

言ってる間にも、十香の握った剣は黒光りの雷を撒き散らしていた。

オルガは大剣になんとかしがみついている状態で士道に話し掛ける。

 

「し、士道!あの方法をやるしかねぇ!」

 

「え!?ま、まさか俺にやれって事か!?」

 

「剣にしがみついている俺ができると思うか?」

 

「で、できねぇな……」

 

「頼んだぞ」

 

オルガに言われ、思い出した。

琴里から教えられた_______十香を封印できる唯一の方法。

士道は腹を括り、口を開いた。

 

「そ、そのあれだ!十香!俺とキッ、キスしよう......ッ!」

 

「_____何!?」

 

「す、すまん忘れてくれ。やっぱり他に方法を______」

 

「キスとはなんだ!?」

 

「は.......!?」

 

「早く教えろ!」

 

「.......っ、唇と唇を合わせ_______」

 

と、士道の言葉の途中で。

_________十香が何の躊躇いもなく、桜色の唇を、士道の唇に押し付けてきた。

 

「__________________________ッ!」

 

力一杯に目を見開き、声にならない声を上げる。だって十香の唇が、柔らかくてしっとりとしてて十香が昼間に食べていたパフェの味がした。

 

すると、十香が纏っていたドレスのインナーやスカートを構成する光の膜が、弾けるように消失した。

 

「な______」

 

「「___________ッ!?」」

 

十香が狼狽に満ちた声を発し、士道とオルガの声が重なる。士道と十香そしてオルガの身体が、ゆっくりと落ちていく。逡巡しながら、士道は十香を抱いた。かなり弱々しく。おっかなびっくり。  

 

「ぷは.......っ!」

 

息継ぎをするように、十香との唇を離した。慌てて胸元を起こす。

 

「ち、ちちちち違うんだ十香、俺は______」

 

「み、見るな、馬鹿者.......ッ!」

 

キスの意味を知らないわりに、人並みの羞恥心はあるようだった。十香が頬を染めながら睨んでくる。

 

「す、すまん.......っ!」

 

裸になった十香がぴたりと、身体を触れあわせている。

 

「........これで見えまい」

 

「っ、あ、ああ.......」

 

本当にこれでいいのだろうか、と思ったが、身動きを取れず、そのまま固まる。

 

 

 

二人のいい雰囲気をぶち壊すわけにはいかないと、オルガは、少し離れた場所から見ていた。

すると、オルガの横に三日月が来た。

 

「ミカ、バルバトスはどうした?」

 

「〈フラクシナス〉に預けてきた──ねぇ、オルガ」

 

「ん?」

 

三日月に声をかけられ、オルガは顔を向けた。

 

「ここが俺たちの居場所なの」

 

「……ああ。ここもその一つだ」

 

「そっか」

 

「ミカ、俺はこの場所をこれからも守っていきてぇ。十香の、あいつらの居られる場所を」

 

居場所のなかった十香にとっての新しい居場所を守る。

それが今のオルガの願いだった。

 

「……そうか。なら、俺も手伝うよ」

 

その言葉を聞いて、三日月は小さく笑みを浮かべた。

 

「オルガが守りたいって言うんだったら俺もやる。オルガのやりたいことが、俺のやりたいことだ。それは今も昔も変わらない」

 

「ミカ……サンキューな」

 

抱き合う二人を見つめ、オルガと三日月は満足そうに拳をコツンとぶつけた。

 

 

           十 #1

           香

           デ

           ッ 

           ト

           

           

           

 

 




いかがでしたか?今回で十香デットエンド編が終了しました。次回からは『四糸乃アグニカ』編です!

来年もデート・ア・オルガをよろしくお願いします!
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