士道「いきなり自虐!?というかどういうこと!?」
オルガ「ああ、お前には詳しく話してなかったな。俺が鉄華団の団員たちを地球に逃がそうと話を付けてた時に、車で移動しようとしたら、急に現れたヒットマンに撃たれてよ」
士道「そうだったのか.........ところで死亡フラグってそのときなんて言ったんだ?」
オルガ「あ?確かな.......。『なんか静かですねぇ、街の中にはギャラルホルンもいないし、本部とはえらい違いだ』『ああ。火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな』『まっそんなのもう.........』」
士道「これ絶対長くなる奴だ!と、とりあえず第十四話スタート!」
オルガ「『だからよ........止まるんじゃねぇぞ.......』」
「ふぅ、ここでいいのか?」
『ええ。精霊も建物内に入ったわ。ファーストコンタクトを間違わないようにね』
「......了解」
「ああ、分かってる」
二人はそう言うと、インカムから手を離した。
話によると、なんでも〈ハーミット〉は、比較的出現回数が多い精霊らしく、その行動パターンの統計と、令音の思考解析を組み合わせれば、おおよその進路に予想がつくという。
無論、ASTの出方によっては微妙に進路が変わってしまう可能性も否めなかったが、そのときはまた士道とオルガを回収して、次の予測地点に向かえばいいとのことだった。
今も、デパートの周囲にはASTが待機している。十香の時と同じように無理矢理建物ごと潰そうとしてくる可能性はあったが、しばらくは精霊が建物内から出てくるのを待つらしい。
もしもの際は先程琴里が口に出した『彼』がASTを抑え、精霊と会話できる時間を作ってくれているらしい。
しかし、琴里の話した『彼』が何者なのか、ずっと引っかかていた。
あの後、琴里にその人物が何者か詮索したが、何故か教えてもらえず、結局何者か分からずじまいでこの場に転送されたのである。
三日月にも、聞いたが知らないようだった。
と、オルガが思案していると______。
『_______士道、オルガ。〈ハーミット〉の反応がフロア内に入ったわ』
「「.......!」」
不意に響いた琴里の声に、二人は身体をこわばらせる。瞬間。
『_______君も、よしのんをいじめにきたのかなぁ........?』
「.....ヴウゥゥアアア!?ヴゥ.......ッ!」
急に頭上から聞こえた声にオルガは叫び声を上げた。そして思いっ切り後頭部を床にぶつけ、
オルガの体はリセットされてしまう。
「.......だからよ.......止まるんじゃねぇぞ.......」
いつも通り団長命令を残した。一方の士道は声のした頭上へ顔を上げた。
そこにいたのは、件の少女〈ハーミット〉が逆さまになりながら、浮遊していた。
『ありゃりゃ?驚かせちゃったかなー?』
「.......い、いや、こんくれぇなんてことはねぇ」
『ちょっとちょっとー、腰でも抜けちゃったんじゃないのー』
と、逆さになっていた少女は空中でぐるんっ、と元に戻して、床に降り立った。そしてオルガの元に歩み寄ってくる。
『おにーさん大丈夫?』
「お、おう........」
『よしのんのステルススキルが高すぎちゃったかなー。ごめんねー』
「.......い、いや大丈夫だ........」
そう言うと、オルガはゆっくり立ち上がる。
『随分とまあ、陽気な精霊ね』
「あ、ああ........」
士道たちが思ったままの言葉が聞こえてくる。やはり、琴里も同じことを思ったらしい。
大人しそうな見た目とは裏腹に、パペットの演技はとても陽気なものだった。
と、〈ハーミット〉の言葉の中に、気になる単語が混じっていた。
「なあ、よしのんってなんだそりゃ?あんたの名か?」
『そのとーり!よしのんはよしのんのナ・マ・エ。可愛いっしょ?可愛いっしょ?』
「お、おお、いい名前じゃねぇか」
右耳から三日月の怪訝そうな声が聞こえてくる。
『よしのんって、十香と違って名前持ってんだ』
「あ.........確かにな.......」
言われてみればその通りだった。十香は、名前を持っておらず、士道がつけた。
『ぅんで?おにーさんたちは名前なんてーの?』
「俺はァッ.......鉄華団団長ォッ........オルガ・イツカだぞッ.......。んで、こっちは_______」
「あ、ああ。俺は士道。五河士道だ」
『オルガくんと士道くんねー。カッコイイ名前じゃないの』
「サンキューな」
「お、おう。ありがとう」
士道はふと、思いついたことを口に出す。
「な、なあ。よしのん」
『うん?どったの?士道くん』
「いや、大したことじゃないんだが、ええと、よしのんっていうのは______このパペットじゃなくて、君の名前なんだよな?」
言って、青い目をした少女に目を向ける。
『............』
すると、今まで陽気に話していたパペットが、急に黙りこくった。
次いで、右耳のインカム越しに、ビーッ!ビーッ!という警報音が響いてくる。
『_______っ、士道、オルガ、機嫌の数値が一気に下がっているわ。士道、あなた一体何をいったの?』
「え.......っ?いや、俺はただ、なんでずっと腹話術でしか喋らないのかと思って........」
士道がそのまま素直に口にすると、パペットがゆらりと士道に顔を近づけてきた。
『_______士道くんの言ってることが分からないなぁ.......。腹話術ってなんのこと?』
穏やかな口調のままだが、とてもつもない圧を感じた。
オルガは慌てて叫び、士道の頭をわしゃわしゃと掴む。
「わーわーわー!そうだよなー!あんたはあんただよなー!悪ぃな、こいつが訳分かんねぇこと言ってよ」
「ちょ......っ!オ.......オルガ。いきなり何すんだよ........ッ!」
「.........すまねぇ。だが今はこっちに話合わせろ」
小さくそう言い、士道を制する。
すると。
『ぅうんっ、もー、士道くんったらおちゃめさんなんだからー』
さっきまでの凄味が嘘だったように霧散し、パペットが甲高い声を響かせた。
「........な、なんだったんだ、今の」
「さぁな。だけど精霊が相手なんだ。油断大敵ってことだろ」
士道は小さく頷くと、『よしのん』に視線を戻す。
「ええと______」
士道が言い淀んでいると、琴里が苛立たしげに声を響かせてきた。
『間を開けないの。とにかく、精霊に逃げられないようにして』
「.......ど、どうやって......」
『そんなの、決まり切ってるでしょ。せっかく大型デパートの内部にいるのよ?時間あったらちょっとデートしよう、でいいのよ。あ、そうだ』
「.......どうした.......?」
何か思いついた琴里が声を上げる。それに嫌な予感を感じたオルガは恐る恐る聞く。
『十香の時は士道がデートに誘ったわよね。だから今回はよしのんとのデートをオルガに誘ってもらうわ』
「はぁ!?」
その言葉に、珍妙な声を上げてしまった。その声に目の前にいるよしのんが首を傾げる。だが、今のオルガはそれすら目に入らなかった。
『だってそうじゃない。あんたにもこれから精霊をデートに誘えるようになってもらわないと』
「く.......っ」
琴里の言葉に、唇を引き結ぶ。確かに正論であった。
恐らくオルガはこれからも士道と共に精霊をデートに誘わなければいけないときが来るだろう。そう考えると、デートに誘うということに今の内に慣れておく必要があった。
それを理解し、オルガは渋々ながら頷いた。
『物分かりがよくて良かったわ。いい?「デートしない?」じゃなくて「デートしよう」って言うのがポイントよ。選択肢を相手に渡さないの』
「お、おう.......」
オルガは少し躊躇しながらも、『よしのん』に向き直る。
「時間があったらちょっとデートしよう」
なんの脈絡なく、そのままの台詞を発してしまう。
『なんか「しよう」ってオルガっぽくない』
『.......そのままって。もうちょっと柔軟に対応なさいよ』
「……うっせ」
そのまま口にしてしまったが、『よしのん』はさほどオルガの台詞に気にしてない様子だった。
『ほっほ~!いいねー。見かけによらず大胆に誘ってくれるじゃーないの。うふん、もちろんオーケイよん。ていうか、ようやく話せる人に出会えたんだし、よしのんからお願いしたいくらいだよー』
「そ、そっか........」
『.......ま、結果オーライにしといてあげる』
琴里の溜息交じりの声を聞きながら、オルガたちは『よしのん』と共に、デパートの中を歩いていった。
◆
「............」
折紙は、ワイヤリングスーツと、ありったけの弾薬を積んだアウトレイジ装備を纏った臨戦態勢で、デパートの上空を浮遊していた。
周囲には、同様の武装を装備したAST隊員が数名デパートの上空を浮遊していた。その他にも四機のグレイズが待機しており、あたりに気を張っている。
グレイズは320mmバズーカ砲を肩部にマウントした機体と120mmライフルとシールドを装備したスタンダードな装備の機体が数機ほどビルの影に隠れている。
ASTは、空想を現実に再現する装置・
〈ハーミット〉がビル内に侵入してから、約一時間が経過しようとしていた。〈ハーミット〉が潜伏したまま全く出てくる様子がなかった。
『───随分と粘るわね』
通信機越しに隊長の日下部燎子の声が聞こえてきた。
『〈ハーミット〉にしては珍しいわね。こんな一所にとどまっているなんて。いつもはビュンビュン飛び回ってるイメージだったわ』
〈ハーミット〉の行動パターンは、ほぼほぼ逃げているだけだった。折紙たちがいくら攻撃を加えようとも、この反撃をすることもなく、ただ逃げ回るだけ。
すると、珍しいと言えばと燎子が声を発した。
『今日は、まだバルバトスが出てこないわね』
そう。バルバトスは精霊が現界する度に姿を現していたが、一時間近く経過しているにも関わらず、反応どころか姿すら見せていなかった。
『精霊が現界すると必ず邪魔してくるからね。破壊命令が出ているとは言え、相手するのも苦労するから、できれば出て来ないでほしいわね』
燎子の言葉に眉をひそめる。
折紙がずっと気になっていたのはバルバトスのパイロットのことであった。燎子が先程述べたようにバルバトスは精霊が現界する度にASTの邪魔をしていた。だが今日は現れていない。どういったいきさつがあったかのかは知らないが、AST側としてはとても好都合である。
「攻撃許可は」
折紙は静かな声で問うと、燎子が嘆息めいた声を返してきた。
『一応要請はしてみたんだけどね。待機だって「ピピッ」なに?どうしたの?』
突如入ってきた通信に燎子の怪訝そうな声が聞こえてくる。燎子の首肯する声が聞こえる。
『──そう。分かったわ』
「どうかしたの?」
『ようやく攻撃許可を出してくれたわ。流石に上もこのままじゃ埒が明かないって』
「そう」
折紙が短く言うと、燎子は指示を出す。
『───AST各員に通達。攻撃許可が降りたわ。〈ハーミット〉を叩き出すわよ』
「───了解」
折紙はそう返すと、両手に装備した対精霊用ガトリング〈オールディスト〉を構え、油断なくビルディングと、網膜に直接された精霊反応を注視する。
瞬間、精霊とは異なる反応が表れた。
「........ッ!?」
突如として表れた反応に驚愕の表情を作る。直後にビーッというブザーが鳴り響く。
「この反応、〈エイハブリアクター〉........?」
『味方の反応じゃない........まさか──』
『───うわああああああああッ!!』
燎子の言葉を聞き終える前にパイロットの叫び声が聞こえる。声のした方を振り向くと、一機のグレイズの右腕が切り裂かれていた。切られた右腕が地面へと落ちる。その様子を見ていた折紙の横を何かが通り過ぎる。
『くっ........、総員〈アンノウン〉に目標変更。撃てッ!』
燎子の声で折紙たちはそれに向かって、トリガーを引く。しかし一発も当たらず、それはスラスターを噴出しながら空を駆ける。
『何よ、あれは........』
燎子は呻くように声を発すると、それは空中で静止する。その姿を捉えた途端、折紙たちは呆唖然とする。
白銀と青のカラーに背部の特徴的な巨大なスラスターウィングを広げ、紅き双眼が光り輝く。
洗練されたフォルムを持つモビルスーツ。
「.......ガンダム..........」
折紙が、忌々しげに呟く。
そこに居たのは、アグニカカイエルの魂そのものにして、ギャラルホルンの正義。
最古のガンダムフレーム───ガンダムバエルだった。
どうも宮本竹輪です。今回特に進展もなく、雑な終わり方で申し訳ありません。
バエルッ!(CV.タカヒロサクライ)を今回で登場させたくて、次回大暴れ!みたいな流れにしようとしたら、思いの外話が進んでませんでした。
突然ですが、この世界での団長の設定を少しだけ説明。
オルガ・イツカ(五河 御留我)
鉄華団を率いてきた団長。団員の一人、『ライド・マッス』を庇いヒットマンからの致命傷を受けて、亡くなる。
その後、どういう訳か空間震が起きる世界に転生し、この世界でも孤児だった。後に士道と共に五河家に引き取られる。四月十日にバルバトスを視認するまでは鉄華団のことはおろか、自分が鉄華団団長だったことも覚えていなかった。
士道と同じ精霊の霊力を封印する能力の他にも自分の傷を修復する力を持っている。
まぁ、オルガのこんな感じです。他のキャラやモビルスーツの設定も書けたら、設定集みたいなのを作るつもりです。その時に詳しい設定を書けたらいいなと、思っております。
それでは第十五話もお楽しみに~。