琴里「ざっと、半年くらいね。作者、今年の1月に上げるとか言ってた割に結局2022年始まってからもう二ヶ月終わっちゃったじゃない」
三日月「というかこのコーナー結局残ったんだね」
オルガ「前回のあらすじのことか?これがいるか、いらないかのアンケートとったのもう一年以上前だぞ?」
三日月「ほんと今まで何やってたんだろ」
琴里「まぁその分、今回の話は長めだから最後まで読んでいただけると幸いだわ。それじゃ第十七話スタート!」
「……………はい?」
マクギリスが今し方発した言葉に士道は目を白黒させた。
精霊ハーミットことよしのんの対話から一日が経過した。士道と十香はマクギリスに呼ばれてプラグシナスに来ていたのだが……
今この男は『精霊〈ハーミット〉に心奪われた』と言っていた。
士道の記憶が正しければ、昨日会ったよしのんの見た目は琴里と同じ中学生くらいの少女だった(そもそも年齢という概念があるかよく分からないが)。
一方でこの男は恐らく20代前半くらいの青年である。
そんな彼女にこの男が心奪われたということは年の差的に事案である。ロリコンである。
と、そんな思考をしていると、マクギリスの隣に立っていた茶髪の男が口を開いた。
年齢はマクギリスと同じ、或いは一つ、二つほど年上だろうか、寡黙そうな風貌に肩に掛かるほどに伸ばした茶髪の男だった。
「___准将、その言い方は誤解を生むのでは?」
男はマクギリスの放った言葉を指摘する。するとマクギリスは小さく笑った。
「ふっ、確かにそうかもな。ならこう言い換えよう、精霊〈ハーミット〉に惚れてしまったとはどうだろうか」
「いえ准将、一番問題の所が訂正されていません」
男は半眼を作ると、額に汗を浮かべた。
「えっと……すいません、そちらの方は……?」
二人のやり取りに士道は困惑気味に眉をひそめる。
「あぁ、すまなかった。自己紹介が遅れてしまった。彼は
「よろしく頼む」
紹介された石動という男が頭を下げる。
「そして、改めて私はマクギリス・ファリド、このラタトスクでガンダム・バエルのパイロットをしている」
士道も「……ど、どうも」といった感じで小さく会釈する。
だが十香は怪訝そうな表情を浮かべて、マクギリスのことを睨みつけている。
「それで貴様か、私とシドーをここに呼んだのは?」
「そうさ、今日君たちを読んだのは〈ハーミット〉と一つ助言をしたくて君たち二人を呼んだ」
「助言だと……?」
マクギリスの言葉に十香は目を細くする。
「と、その前に先に〈ハーミット〉についての話をしておこう」
「そうだ、さっきから貴様が言う《ハーミット》とは一体なんなのだ?」
「そうか、彼女にも話さなければいけないな、丁度いい。その前に君のことを十香ちゃんと呼んでもいいかね?」
「うむ、構わないぞ」
マクギリスの言葉に十香は頷く。そして彼女の目を見つめながら話し始める。
「では十香ちゃん、私の言う〈ハーミット〉とは君と同じ精霊のことだ」
「なに?精霊だと……?」
「見てもらった方が早いな。石動」
「___はっ」
マクギリスの言葉に十香は目を大きく目を見開いた。するとマクギリスは石動にそう言って石動は手元の端末を操作して、士道たちの目の前のテーブルに置く。端末には破壊された街の中で佇むよしのんの姿が映されていた。
「この娘が精霊なのか……?」
「そう。実は私、以前に〈ハーミット〉と対話したことがあってね」
「え?マクギリスさんがですか!?でも、どうして……?」
「特に理由などないさ。偶然、彼女と対峙した機会があったそれだけだ」
士道の質問にあっけらかんとした様子で小さく笑って答える、マクギリス。
先程の言葉に驚いた十香は画面の中の少女をじっと見つめ続けていた。
「その時に彼女と会話を交わし、その時に私は彼女の姿に心奪われた」
どこか遠い目で淡々と言葉を並べていった、恋焦がれているような目をしながら。
「だが、何故、シドーがこの娘のことを知っているのだ?」
「……え?いや、それは……」
「あぁ、それは士道くんたちは先日の空間震の際に彼女に会っていたからさ」
「なんだと!?」
どう答えればいいのか士道が戸惑っているとマクギリスが十香の問いに答える。すると十香は声を上げた。
「……し、シドー、貴様私が心配していたというのに他の女と会っていたというのか……?」
「ち、違う!十香!そういう訳じゃなくて___」
「大事な用事というのも、まさかこの娘と会うことだったというのか?」
「いや、そ、それは……」
あながち十香の言ってることはその通りではあるのだが、本当のことを話した所で、十香に伝わってくれるかどうかは分からなかった。
士道の言葉に食らいついてくる十香に割り入ってくるマクギリス。
「確かに君の言う通りだ、彼とオルガ団長らは昨日、彼女と会うためにわざとシェルターに避難しなかった」
「ちょ、ちょっと!?マクギリスさん!?」
「やっぱりそうなのか、シドー!?」
マクギリスの(間違ってはいない)言葉を聞いた十香の表情は不安の色に染まる。
「私よりもあの娘といた方がいいのか!?」
「そ、そんな訳ないだろ……!」
「まぁ二人共落ちつきたまえ」
さらに詰め寄ってくる十香に士道は困惑して声を上げてしまう。と、ここでマクギリスが二人を制する手ぶりをして声をかける。
「貴様!邪魔をするな!これは私とシドーの問題だ!」
「落ち着きたまえ。君の言い分も分かる。ひとまず私の話を聞いてもらいたい。十香ちゃん、君は今苛立ちを覚えている、それは彼らが君に黙って他の女の子と出会っていたことが原因かい?」
「っ、そ、それは___」
マクギリスの言葉に十香は息を詰まらせてしまう。
「おや、では違ったかね?」
「…………」
十香はテーブルに肘を突くと、観念したように頭をくしゃくしゃし、大きな溜め息を吐いてから、重苦しい様子で唇を動かした。
「……わからないのだ」
「わからないとは?」
マクギリスが、首を傾げながら聞き返す。
「貴様の言うとおり、シドーたちが私を置いていって他の女の子と会っていたこと、それが原因でもある……のだが____しかし、それとは別に何故、私は今こんな気分になってしまっているのか、わからないのだ……」
頭を抱えながら、言葉を続ける。
「少し思ってしまったのだ……。シドーやオルガ、ミカは私と初めて話をしてくれた……私に名前を付けてくれた人間だ。でもこの娘の方が大切なんじゃないかと思ったら、悲しくて、怖くて、何がなんだかわからなくなってしまったのだ……こんなことは初めてだ」
十香の言葉に顎に手を当てながらマクギリスは声を発する。
「……なるほど」
「私は……どこかおかしいのだろうか」
「いやそんなことはない。むしろ君が今感じているその感情はいたって正常なものだ」
「そ、そうなのか?」
「あぁ、心配する必要はない。だが一つ、誤解は解いておこう」
「誤解……?」
君は自分が大切だと思われなくなることを危惧して、不安に思ったのかもしれないが、彼らが君のことを大事に思っていない、という証拠はない」
「っ、ほ、本当か……?」
「あぁ、そうでなければ、初めてのデートの日、士道くんが君を庇って、自ら撃たれに行くような行動はとらないと思うがね」
「__あ……」
すっかり怒りで頭から抜け落ちてしまっていたが、士道は、先月のデートで十香を庇ってくれていたではないか。
「……っ、私は__」
十香はうめくように喉を震わせると、再び頭をくしゃくしゃとかきむしり、士道の方に向き直ると、謝罪の言葉を発した。
「すまない、シドー……」
「……十香」
「私は、よく分からないまま勝手に苛立ってしまって……その、シドーたちから見放されるんじゃないかって……それが怖くて……お前に当たってしまったのだ、本当にすまなかった」
そう言って十香は小さく頭を下げた。
「や……お前に本当のことを言わなかった俺が悪かったんだ、そのせいでお前に勘違いさせちまった。ゴメンな」
「シドー……」
言うと、同じ様に士道も頭を下げた。どうやら勘違いによるわだかまりが消えたようだった。
「……ていうか__」
デート時に自分がとった行動の話を聞いて士道は、頬に汗を垂らした。
「俺が十香を庇ったこと、知ってたんですか……」
「君たちの話は既に聞いていたからな。自分の身を顧みずに撃たれに行くとは少々驚いたが」
マクギリスは前髪をいじりながら、小さく笑う。
そして再び神妙な面持ちになると口を開いた。
「十香ちゃん、士道くん、我々の目的は、君と同じ、自分の意思ではどうにもならない力に苦しんでいる精霊たちを救うことにある。そして精霊の霊力を封印できるのは、士道くんとオルガ団長、二人だけだ」
二人の方を見つめながらマクギリスは言い放つ。
「恐らく彼らはこれからも他の精霊と接していく機会があるだろう。その時は互いに支え合っていってくれ」
「__はい!」
「__うむ!」
マクギリスの言葉に二人は強く首を縦に振った。
◆
雨の中で傘をさしながら、オルガは一人商店街に向かっていた。それからどれくらい歩いただろうか。
「あ?……なっ!?」
突然オルガは道の途中で足を止めた。見覚えがあるウサギ耳の付いた緑色のフードの姿があったからである。
「よ、よしのん……?」
オルガは小さく声を発した。するとこちらの気配に気付いたのかハッとした様子で振り向いてきた。
「ひっ……い……」
そして、顔を青くしながら今にも泣き出してしまいそうな顔を作り、右手を天に掲げる。
あの動作には見覚えがあった。あれは昨日よしのんが、巨大な人形を顕現させた時のものだ。
「ま、待ってくれ!俺だ!鉄華団団長、オルガ・イツカだ!」
「………っ!?」
オルガのことを思い出したのか、右手をゆっくりと元の位置に戻す。そしてオルガの様子を窺い始めた。
「……よ、よう。今日はどうかしたのか……?」
「…………」
「……あーその、なんだ……今日はスゲぇ雨だよな」
「…………」
よしのんは何も言葉を返してこようとしない。ただこちらを警戒するように睨んでくるだけだった。
「……ったく、こんな感じじゃ、どうすりゃ……ん?」
そう言って頭を掻く。
と、ここでオルガの目にはあるものが留まった。
それはよしのんの左手だった。昨日、会ったときは確かに左手にパペットを付けていた。しかし今、見間違いじゃなければ昨日見たパペットの姿が見当たらなかったのである。
「おい、アンタ、もしかしてあの人形を探してんのか?」
「…………!」
そうオルガが尋ねると、よしのんが力強く何度も頷いた。そしてオルガにパペットの居場所を問うような不安げな表情をオルガに向ける。
「悪ぃな、すまねぇけど俺もどこにあるかは知らねぇんだ……」
オルガがそう言うと、よしのんはこの世の終わりのような表情をすると、その場にへたり込んでしまう。そしてそのままうつむきながら、嗚咽を漏らし始める。
「どうすりゃ……そうだ。ちょっと待ってくれるか?」
オルガがそう言うと、よしのんは嗚咽しながら小さく頷いた。そしてオルガは携帯電話のボタンを押した。
『____もしもし、オルガどうしたの?』
しばらく呼び出し音が続くと、三日月が電話に出る。
「ミカ、琴里を呼んでくれるか?」
『いいけど、どうしたの?』
「……よしのんを見つけた」
『わかった』
オルガの言葉にすぐに答えると、電話の向こうから『琴里〜』という声が聞こえてくる。すると眠たげな声がした。
『……なぁに〜?三日月……?』
『___オルガがよしのん見つけたって』
三日月がそう言うとパチン!パチン!と頬を思いっ切り引っ叩くような音がした。
そして先程とは違う凛とした声が響いてくる。
『____オルガ、詳しく状況を聞かせてちょうだい』
「お、おう」
少し気圧されながら、これまでの状況を説明した。
『……なるほど。静粛現界か、十香の時と同じね。インカム持ってる?』
「あ?一応、持ってるぜ」
『よろしい、ちょっと待機してなさい___』
「お、おい!待機って……」
あまりに適当な指示にため息をつく。
しかし他にできることもない。大人しくインカムを装着するとよしのんの方を見る。
先程よりは落ち着いたが、まだ小さく体を震わせていた。
しかしパペットをどうにかしなければ、よしのんの封印どころか精神状態が不安定なままになってしまう。それはオルガとしてもあまり気が進まない。
「な、なぁ、よしのん」
「……っ!」
オルガが声を掛けようとした途端、よしのんはまたも体を震わせた。そして手を振りかぶると、辺りの水溜りが隆起し、弾丸のように炸裂し、オルガに被弾した。
「ぐぅうぅッ!?」
「………っ!?」
オルガのうめき声に驚いたのか、さらに近くの水溜りが隆起して地面の破片がオルガに炸裂する。
「ぐぅうっうぐぅううぐっ!!」
それが連鎖し続けて計4回、オルガの体に炸裂した。
何回か意識が吹っ飛びかけたが、なんとかして(身体に破片がささってるけど)立ち上がる。よしのんはそんな様子を奇妙そうに油断なくじっと見てくる。
「……わりぃな、驚かせちまったみたいで……。でもこんくれぇなんてことはねぇ……」
そして額に冷や汗を浮かべながら、力無く両手を上げたままで言葉を続けた。
「その……よ、もしあんたが良かったら、俺もあんたのパペット探すの手伝ぜ」
「…………!」
オルガがそう言うと、よしのんが驚いたように目を開いた。
そして数秒後、初めて顔を明るくし、力強く縦に首を振り、ようやく濡れた地面から腰を上げた。
と、ここで妹様の声がインカムに響いてきた。どうやら家からフラグシナスに移動していたらしい。
『___聞こえる?オルガ』
「おう、聞こえるぜ」
『このまま彼女を放っておくことはできないわ。とりあえず今、三択表示されてるからそれに従って……』
「わりぃ、今からパペット探すことになった」
琴里の言葉を遮り、オルガが重ねてくる。すると琴里は声を上げた。
『___はぁ!?何勝手にあんた一人で話進めてんのよ!?』
「仕方ねぇだろ、こいつがパペットを無くしちまって困ってんだ。探してやるのが通すべき筋ってもんだろ」
『それはその通りだけど……はぁ、分かったわ。あんたの言うとおりね。でも次は気をつけなさい、勝手に行動されて精霊の機嫌を損ねられたら溜まったもんじゃないわ』
「わーったよ」
『でもあんたに正論で返されるのはなんか腹立つわね』
「なんでだよ!?」
オルガに正論で返されたのが少し気に食わなかったのか、琴里は不機嫌そうに言い放つ。
『それよりよしのんのことを忘れないであげてちょうだい』
よしのんからオルガを見ると、オルガは大きな独り言をしているように見えたのか、不思議そうにこちらを見つめていた。
「おっと、すまねぇな。そんでだけど、パペットをいつ無くしちまったか分かるか?」
そう問うと、よしのんは逡巡するように視線を泳がせてから、その桜色の唇を開いた。
「……き、のぅ……」
そしてうさ耳付きのフードをギュッと握って、たどたどしく言葉をつむぐ。
「こわい……人たち、攻撃され……気づいたら……、ぃなく、なっ……」
「ってことは、昨日、ASTに襲われたときか」
オルガが言うと、よしのんはこくんと首を縦に倒した。
辺りの様子を見回すと、崩落した建物や、ヒビの入った道路が、広がっている。この中からパペットを探すのは骨が折れそうだった。
『__こっちからもカメラをあるだけ送るわ。できるだけ彼女とコミュニケーションを取りながら捜索してちょうだい』
オルガは了解を示すようにインカムを小突くと、再びよしのんに目をやった。
「んじゃあ、行くか、よしのん」
「…………!」
よしのんが首肯し、しばし口をモゴモゴさせてから、声を発してくる。
「わ、たし……は、」
「ん?」
「私……は、よしのん、じゃなくて……四糸乃。よしのんは……私の、友だち……」
「四糸乃……?そうか。あっ、そうだ」
そう言うと、オルガはさっき倒れたときに落とした傘を拾うと、四糸乃に差し出した。
「無いよりかは、あった方がマシだろ?」
そう言うと、四糸乃がオルガに問いかけるように目を向けてきた。
「あ……?いいんだよ、俺は別に大丈夫だから使えよ」
四糸乃はしばしの間逡巡するように傘と士道を交互に見た後、
「ぁ……り、が……ぅ……」
『格好いいことしちゃって』
「べ、別にいいだろ。それより士道たちとマクギリスはまだそっちにいるのか?」
『えぇ、十香と士道はマクギリスと話しをしてるわ。マクギリスにも連絡はしたけど、とりあえず精霊の精神状態も安定してるからまだ話してていいと伝えておいたわ』
「了解、んじゃサポート頼んだ」
オルガは言うと、捜索を開始した。
「____そっちはパペット見つかったか?」
『駄目ね。こっちからも探しているけど見当たらないわ』
しばらく捜索を続けて、時刻は既に十二時半を回り、オルガが四糸乃とパペットの捜索を始めてから二時間が過ぎていた。
ラタトスクも協力してパペットを探しているが、話を聞く限りだと目立った収穫も無さそうである。
『とりあえずこっちで昨日の映像の方も確認してみるわ。そっちは引き続き捜索を続けてちょうだい』
「了解」
そう言って捜索に戻ろうとしたが、この雨の中での作業ということもあって疲労が溜まってきた。
すると、その時。
きゅるるる、という可愛らしい音が響いてきた。
「あ?」
「…………!」
オルガが四糸乃の方に視線を向けると、またも怯えるように肩を震わせた。
「……お前、腹減ったのか?」
オルガが問うと、四糸乃は顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振った。しかしそのタイミングで再びお腹から音が鳴る。
「…………っ!」
四糸乃はその場にうずくまると、フードを引っ張って完全に顔を隠してしまった。
どうやら精霊もお腹が空くらしい。
「どうしたもんか……そうだ。四糸乃、一回休憩するか?」
オルガが言うと、四糸乃は首を横に振った。だが、またもお腹が鳴ってしまう。
「……!」
「あまり遠慮すんな。ここであんたが倒れでもしたらよしのんを探すことができねぇぜ?」
四糸乃は少しの間考えを巡らせると、躊躇いがちち首肯した。
「なら、決まりだな。つってもこの格好じゃ流石にマズイな……」
財布は持ってはいるが、今のオルガの格好は雨でびしょ濡れである。こんな格好では店に入るのは困難だろう。
「琴里。休憩する場所だけど、俺の家でも大丈夫か?」
『わお。少し見ない間に随分大胆になったわね。押し倒す気なら気を付けなさいよ』
「……んなわけねぇだろうが」
『分かってるわよ。……ま、他に場所も無いでしょうし、なんかあったら三日月に殴ってもらえばいいし』
「……お前の中で俺ってそんなに信用ねぇのか?」
琴里の言葉に対し、小さくため息をこぼすと、四糸乃に声を掛けた。
「そんじゃあ……行くか!」
四糸乃は、無言のまま、小さく頷いた。
◆
「さてと、鶏肉と……それに卵があるな。確か昨日炊いたご飯が炊飯器にあったっけな。なら親子丼にでもするか」
冷蔵庫の中を見回し、必要な材料を取り出す。
そして調理を始め、作っている途中でちらりとリビングの方を見る。
とりあえず三日月には家に戻ってもらってた。
リビングにはソファに座りながら、物珍しそうに辺りを見回す四糸乃の姿があった。オルガは家に帰ってから着替えたのだが、あれだけの雨を浴びていながら、四糸乃の格好は先程と変わらないままだった。
「すぐにできるから、少し待ってくれ」
四糸乃に待つように言うと、慣れた手付きで親子丼を作っていく。水で割っためんつゆを熱し、そこに切り終えたタマネギと鶏肉を投入。火が通ったところに溶き卵を流し入れる。
そしてご飯を盛ったどんぶりを流し入れ、最後にみつばを散らすと完成である。
「コイツで完成っと。ほらよ、飯食ったら早いとこよしのんを見つけに行こうぜ」
そう言うと、二つのどんぶりを持っていく。よしのんの分とオルガの分である。そしてスプーンを二つテーブルに置くと、オルガは手を合わせた。
「そんじゃ、いただきます」
オルガが言うと、オルガを真似るように四糸乃もオルガと同じようにペコリと頭を下げる。
そしてスプーンを手に取ると、オルガのお手製親子丼を一口、口に運ぶ。
「…………!」
すると四糸乃はカッと目を見開いて、テーブルをペシペシと叩いた。
「どうだ、うまいか?」
オルガが言うと、首をこくこくと縦に振る。どうやら気に入ってくれたらしい。
「(そういや、こういう料理とか家事ってタービンズの奴らとかに任せっきりだったな……)」
食べ進めながら、オルガはそう思っていた。
タービンズとはかつてオルガたち鉄華団との兄弟組織であり、地球に向かうまでの航路の手助けをしていた組織である。
そこのリーダーが『ここが俺のハーレムだ』とか言っていてタービンズの船員は全員女性だった。
オルガたち団員も洗濯の手伝いぐらいはやらされていたが、率先して家事をしていたのは基本的にタービンズの船員の女性たちだった。
五河家では両親が仕事の都合で家を留守にすることが多いので、士道と一緒に家に三人だけでも生活できるようにと、家事を教わっていたのである。
「(昔の俺だったら、こんなに家事をやってるなんてあり得なかったかもな……)」
一人小さく思っていると、よほどお腹が減っていたのか、それともオルガお手製の親子丼が美味しかったのか小さい口を目一杯開いて、すぐに親子丼を平らげた。
「そうか、アンタのお気に召したなら俺としても何よりだぜ」
そう言って笑うと、四糸乃が食事を終えるのを見計らうように琴里が喋りかけてくる。
『まだ少し休憩するでしょう?できるだけ精霊の情報が欲しいわ。丁度良い機会だし、いくつか四糸乃に質問してみてくれない?』
「質問?……おう、分かった」
皿を空にして満足そうにする四糸乃に聞いてみる。
「そういや四糸乃。アンタが無くしたパペット、よしのんだったか。アンタにとってどういうもんなんだ?」
オルガがそう聞くと、四糸乃は恐る恐るといった感じで唇を動かした。
「よしのん、は…………友だち、です。そして…………ヒーロー……です」
「ヒーロー?」
「よしのんは……私の……理想、憧れの自分です。わたし……みたいに、弱くなくて……私みたいに、うじうじしない……強くて、格好いい……」
「なるほどな……」
確かに昨日、パペット越しで話していた時の陽気な性格とは打って変わって、今の四糸乃では口調といい、態度といい、全くの別人のようであったが____
「でも、俺は今の四糸乃の方が好きだぞ?」
よしのんのモードの時の陽気さは悪くはなかったが、オルガ自身、なんとなくあのうさん臭さにはあまり慣れそうにない気がした。
それにたどたどしくても正直に打ち明けようとする四糸乃の方がどちらかと言うと好感が持てた。
だがオルガがそう言った途端、四糸乃は顔をボンッ!と真っ赤に染めて、フードで顔を隠してしまう。
「あ?どうした?四糸乃」
オルガが声をかけると、フードを握っていた手を離してゆっくりと顔を上げた。
「……そ、んなこと、言われたの……初めて……っ……た、から……」
「……そうなのか?いや、そうか……」
四糸乃は精霊だ。今まで普通の人間と接する機会というものがなかったのなら、もしかしたらそう言われるのもオルガの言葉が初めてだったのだろう。
『オルガ、今の計算?』
「あ?計算ってなんだよ?」
『……いえ、違うならいいわ』
「あぁ……?」
相変わらずあまりよく分からないことを言う妹である。
『とりあえず、もう少し質問を続けてみて』
「おう、分かった」
返事をして、四糸乃の方へと向き直った。
「そんで、えっと、四糸乃はなんでASTの連中に襲われても反撃しようとしないんだ?お前、あいつらに攻撃されてんのによ」
そう訊くと、四糸乃はまた消え入りそうな声を発した。
「……わ、たし……は……いたいのが、きらい……です。きっと……あの人たちも……いたいのや、こわいのは……いやだと……思います。だから、私は……」
始めは「そんな連中なんてやり返しちまえ」とか魔が差した考えも頭の片隅にあったのだが、そんなくだらない考えなんて一瞬で吹き飛んだ。
その言葉を聞いた途端に、オルガは心臓を握り潰されるような感覚を覚えた。
「…………ッ!?そういうことかよ……」
オルガは小さく独白を漏らした。
この子は自分の嫌な感情を、他者に感じて欲しくない。
例え、ASTから攻撃を受けたとしても、自分のことを憎まれたとしても、恨まれたとしても、それはまた相手が同じようにされて感じるであろう嫌な感情だから、と。
「でも…………私、は…………弱くて、怖がりだから…………一人だと、だめ、です…………。いたくて、こわくて…………どうしようも…………なくなると……頭の中が、ぐちゃぐちゃに……なって……きっと、みんなに……ひどい、ことを、しちゃい……ます」
後半は、もう涙声だった。
「だ、から……よしのんは……私の、ヒーロー……なんです。よしのんは……私が、こわく、なっても……大丈夫って、言って……くれます。そした、ら……本当に、大丈夫に……なるんです。だから……だ、から……」
「…………ちッ……」
小さく唇を噛む。両手は血でも出るじゃないかと思えるくらい、強く握った。
そうでもしなければ__とても耐えられそうにはなかった。
彼女の言葉を聞いて、オルガは理解した。
四糸乃は決して弱くなどない。
彼女はあまりにも優しすぎて___そしてあまりにも悲しすぎる。
幾度となく、自分を傷つけてきた相手であろうとも、傷つけないようにすることがどれほど困難なことであろうか。
自分の感情を相手に押し付けたくない、ただそれだけのためにASTに反撃しようとしなかったのだ。
こちらが傷つけられ、邪魔をしようとするなら、相手を徹底的に潰すことでしか、前に進むことができなかったオルガ達にとって考えもしなかったことだろう。
しかしこれだけは分かった。
彼女は強い。だが、それは__非道く歪な慈悲だった。
「____だったらよ」
オルガは、思わず席を立っていた。
テーブルを迂回して、四糸乃の隣に腰を下ろすと、四糸乃の頭を撫でた。
「俺が」
「___っ、…………?」
「俺が____お前を救ってやるよ」
四糸乃が目を丸くするが、構わずにオルガは続けた。
「俺が、絶対によしのんは見つけ出す。そしてお前の所に返してやるよ。よしのんに守ってもらう必要なんか、俺がなくしてやるよ。お前が嫌だって思うもんから守ってやる。俺が____お前のヒーローになる」
フード越しに頭を撫でながら、柄でもないセリフを吐く。
四糸乃の優しさには、重大な欠陥があった。
彼女が持つその聖人のような優しさが、自分に何一つ向けられたものではなかったからだ。
与えられないのなら、他の誰かが与えるしかない。
ここまで優しい少女をオルガは知らない。だがこのあまりにも優しすぎる少女に何も救いがないのは、なんとも理不尽なことではないだろうか。
ならば何と言われようと、オルガは自分がすべきことを理解した。
四糸乃はオルガの言葉にしばし目を白黒させていたが、数十秒ののち、小さく唇を開いてきた。
「……あ、りがとう、ございま……す」
「おう、こんくれぇなんてことはねぇ」
四糸乃が、素直にそう言ってくれたことが嬉しかった。それに対してオルガはうなずいた。
と、ここで右耳から琴里の声が聞こえてくる。
『___オルガ、少し話があるわ。四糸乃には申し訳ないけど一度部屋から出てくれる?』
「……話?分かった」
琴里に返すと、オルガは席を立ち上がる。それを見た四糸乃は不思議そうな顔を向けてくる。
「…………?」
「わりぃ、少しトイレに行ってくる。すぐに戻るから自由にしててくれ」
そう言ってオルガは、リビングから出ていって廊下に出る。
「そんで、話ってなんだ?」
『あんたに良いニュースよ。パペットの所在が判明したわ』
「……なに!?それでそれはどこにあるんだ?」
『それがね___』
と、琴里が言いかけたその時、リビングから何かが壊れるような音が聞こえてきた。
「…………ッ!?四糸乃!?」
オルガが叫んでリビングに入ると、先程の水溜りの時のように隆起した水がテレビの画面に突き刺さっていた。
そして辺りを見回すが、リビングには四糸乃の姿が無くなっていた。
『……
「……そうか」
オルガは小さく呟く。四糸乃から安易に目を離したのが良くなかった。彼女はまだこちらの世界に慣れていないと思うのに。
「……わりぃ、目を離した俺の責任だ」
『いいえ、部屋から出るように言ったのは私よ、ごめんなさい』
そう琴里が謝罪してくる。
『でもまたいつ彼女がこちらの世界に来るか、分からないわ。その時に彼女に返せるようにパペットは取り戻さないと』
「そうだった、それで肝心のパペットはどこにあるんだ?」
『それが少し厄介な所にあってね___』
「厄介な所?」
琴里の言葉にオルガは、首をかしげた。
◆
「………………」
四糸乃がオルガの家に来ると聞いて、三日月は自宅に戻っていた。
三日月は先程と同じように家庭菜園の本を読んでいた。
三日月の家もオルガたちと同じように両親が出張で家を留守にすることが多い。
基本的に三日月は五河家で食事を摂っている。
だが、今日は、急遽、五河家が四糸乃の休憩場所になったのである。オルガや士道と違い、三日月は四糸乃との面識がない。
そのため四糸乃と会話できるオルガのみにするために大人しく、自宅に戻ってきていたのである。
と、ここでぐぅ~と三日月の腹が鳴った。
「…………腹減ったな……」
確か、栄養ゼリーが残っていたような気がする。それだけで食事を済ませようとすると、士道に叱られるのだが、簡単に食事を済ませられるものがない以上そうするしかない。
ゆっくり立ち上がって、ゼリーを取りに行こうとする。
と、ここで三日月の携帯が鳴った。携帯を手に取るとそこにはオルガからのメールが届いていた。
「……オルガ?」
小さく口を開いて、メールの内容を確認して……
『ミカ、頼む』『鳶一の家に行ってくれないか?』
「…………何これ?」
思わず、眉を潜めた。
またもお久し振りです、竹輪でございます。
毎度毎度、最初の挨拶が『お久し振りです』なのが当たり前になってきましたね……。
次がいつになるか分かりませんが、首を長くして待っていただけたら嬉しいです、それでは!