デート・ア・オルガ   作:宮本竹輪

20 / 27

琴里『前回までのあらすじ。精霊、四糸乃が大切にしてるパペットが鳶一折紙の家にあるということが判明した前々回。三日月は彼女の家にお邪魔させてもらって無事にパペットを取り戻すことに成功したわ。多分こんな感じなんだろうけど、三日月はパペットを無事に取り戻すことができたのかしら……あ、通信戻った』

三日月「……助けてくんない?」

琴里『なにしてんの、三日月!?というか何に捕まってるのよ!?』

三日月「なんか出てこうとしたら、トリモチにつかまった」

琴里『ほんとにどうなってんのよ、彼女の家は……?それよりも四糸乃が現れたわ。早くオルガにパペットを渡しに行ってちょうだい』

三日月「なんか動けそうにないから、誰でもいいから取りに来てくんない?チョコの人でも良いから」

琴里「いいから早く抜け出してっ!!」



第十九話 凍て付く大地

 

「…………っ!?」

 

目を開けて。四糸乃は、狼狽に身を震わせた。

闇の中で微睡むかのような感覚が掻き消えると同時に、ひんやりとした空気が頬を撫で、視界に街の景色が流れ込んできたのである。

 

「ぇ……、ぁ……っ」

 

辺りを見回すと、どこか知らない、街の真ん中。

四糸乃の周囲だけが、爆発でもあったかのように消し飛んでいる。

そして、空からは、冷たい、雨。

 

何度、飽きるほどに経験した、現界の感触。

 

ただ違いがあるとするならば___その左手に四糸乃の無二の友だちがいないことだろう。

 

「……っ!」

 

空から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

そこには___四糸乃の予想通り、機械の鎧を纏った幾人もの人間と巨大な機械の巨人がそこにいた。

 

「___目標を確認。総員、攻撃開始」

 

『はっ』

 

そんな会話の後、人間達と巨人の手足から、いくつもの弾が四糸乃目がけて放たれる。

 

「………………っ!!」

 

四糸乃は息を詰まらせると、地面を蹴って空に舞った。

そのまま、人間達の攻撃を避けるように、複雑な軌道を描きながら逃げていく。

 

「逃がすんじゃないわよ!」

 

『___了解!』

 

後方からそんな声が響き、さらに何発もの弾が射出された。

それぞれが致死の力を持つ、必殺の一撃。

霊装が無ければ、四糸乃を百回殺しても釣りが出るだろう、悪意と殺意の化身。

 

「…………!…………っ!」

 

四糸乃は、錯乱気味に空を舞いながら、声にならない叫びを上げた。

 

動機が激しくなって、

お腹が痛くなって、

目がぐるぐると回る。

誰かに悪意を、殺意を向けられていることが、四糸乃には許容しきれなかったのだ。

 

いつもは違う。

いつもなら、四糸乃の左手には『よしのん』がいてくれる。

 

そして、『よしのん』はとても強くて頼りになるから、こんな攻撃はものともしなかった。

だから、四糸乃も平気だった。

 

みんなを傷つけずにいられた。

 

 

だが、今はいない。

 

 

どうしようもないくらいの恐怖感が、四糸乃の心に広がっていく。

 

ガチガチと歯が鳴って、

 

ガタガタと足が震えて、

 

グラグラと視界が揺れる。

 

もう、どうしようもないくらいに、頭の中がグシャグシャになる。

 

「ぅ、ぁ、あ……」

 

雨が、さらに強まっていく。

 

「___よし、このまま一気に行くわよ!」

 

リーダー格の女が言うと同時、人間たちの禍々しい武器が、一斉に四糸乃に向けられる。

そして、そこから、今までで一番たくさんの殺意が、形となって降り注ぐ。

 

___そして。

 

 

「…………《氷結傀儡(ザドキエル)》…………ッ!!」

 

災厄(てんし)の名とともに、それを、振り下ろした。

 

 

 

「……ちっ、一足遅かったか……」

 

上空からマクギリスは、銃弾の雨をASTから浴びさせられる《ハーミット》の姿を見ながら、小さく舌を打った。

 

空から、マクギリスの白銀モビルスーツと、石動の駆る紺色の装甲こモビルスーツ二機が飛来する。

 

騎士の甲冑のような装甲を身に纏い、身の丈ほどの大きさがある巨大な大剣(バスターソード)を携えている。

ラタトスクが開発し、作り上げた、ヴァルキュリアフレームのモビルスーツ・ヘルムヴィーゲである。

 

彼ら(魔術師たち)の相手は私がする。石動、お前は、彼女を刺激しないようになるべく距離をとってグレイズと戦闘しろ」

 

『はっ』

 

そう言うと、ヘルムヴィーゲがモビルスーツ隊の目の前に降り立つ。

そして、飛来したバエルの姿に気づいたのか、隊長格の女がこちらに視線を向けてきた。

 

『ちっ……またあのガンダム・フレーム?それにまたアンノウン!?』

 

突然現れ、先日、好き勝手にやられたのもあって忌々しげに言い放つ。

 

『く___モビルスーツ隊はそのままアンノウンを、B部隊は〈ハーミット〉への攻撃の継続!残りは目標をガンダムに変更!ここで食い止めるわよ!』

 

女が叫ぶと、一斉に部隊が散開し、こちらに向けて大量の弾丸が襲いかかってくる。

 

「ふ___私は今、機嫌が悪いのでな」

 

操縦桿を動かして、指示を出す。

こちらへ向けて放たれたミサイルを、バエルは、蒼い炎を吹き出しながらかわしていく。的を失ったミサイルはそのまま地面にぶつかり爆散する。

 

バエルは煙の中からその姿を表すと、腰部に装備したバエル・ソードを引き抜き、AST隊員たちに切りかかった。

 

「___少しばかり憂さ晴らしに付き合ってもらおう!」

 

 

 

 

「なっ…………なんだ、こりゃ…………!?」

 

「こいつは、一体どうなって、やがんだ…………?」

 

自宅にいた士道とオルガは、外へ出て目の前に広がる光景に目を疑った。

 

何しろ、見慣れた街並みが一面銀世界になっていたからだ。

それも、雪が積もったというより、純粋に街が凍りついているのだ。

 

『___警報が聞こえなかった?四糸乃よ』

 

今まで沈黙を保っていたインカムから、琴里の声が聞こえてくる。

 

「これを引き起こしたのが、四糸乃の仕業だってのか?」

 

『ええ。あまり悠長に構えているような状況じゃあないわね。本来なら排水されるべき雨水まで取り込んで凍結しているから、このままの状態が続けば、地盤や地下シェルターの方にも深刻な影響が出る可能性があるわ』

 

「あぁ、だが肝心のパペットが……」

 

『それなら心配いらないわ』

 

琴里がそう言うと、丁度良く、声が聞こえてきた。

 

「___オルガ!」

 

道の向こうから走ってきたのは、パペットを握った三日月だった。そして五河家の目の前に着くと、手にしたパペットを渡してくる。

 

「ありがとな、ミカ」

 

オルガが礼を言うと、三日月からパペットを受け取った。

 

ふうと息を吐き、琴里が続ける。

 

『___さて、改めてだけど、オルガ。四糸乃を止められるのはあの子と話したことがあるあなたと、そのパペットだけよ。行ってくれるかしら?』

 

「もちろんだ。これ以上、あいつのことを放っておけるかよ」

 

『……オルガ、それにシンと三日月、君たちに私の方からも一つ、いいかな?』

 

と、インカムから眠たげな声が聞こえてくる。令音だ。

 

『……色々と調べてみたが___どうやら、君の疑問はあながち間違ってなかったようだ』

 

「あいつのこと、何か分かったんですか?」

 

『……時間がないから手短に伝えよう。四糸乃は___』

 

令音が、簡潔に事態を説明してくる。

 

「…………ッ!」

 

それを聞くと、その場にいる三人は心臓を、ぎゅうと締め付けられるような感覚が、身体を通り抜けた。

オルガは唇を噛みしめ、拳を強く握っていた。

そして三日月は少し悲愴な面持ちになっていた。

 

だが、不思議とそれを聞いて腑に落ちた。

 

そして、それと同時に四糸乃を救わなければ使命感に駆られていた。

 

「琴里」

 

神妙な面持ちになるオルガを見て、意図を察したのだろう、琴里が声を響かせてくる。

 

『___分かったわ。士道たちはフラクシナスで回収するから、あなたは、右手に真っ直ぐ、大通りに出るまで走りなさい。その位置なら先回りできるはずよ。マクギリスと石動たちが既にASTと交戦してるから気をつけなさい』

 

「……了解。んじゃ行ってくるぜ」

 

士道と三日月の方を一瞥する。すると二人は、オルガの意思をくみ取り、無言で頷いた。

視線を前方に戻して、速やかに足を踏みしめて、雨の中を駆けていった。

 

凍り付いた路面に足を取られながら、なんとか速度を維持して走っていく。

そしてすぐに人気のない大通りに差し掛かり、足をグッと踏みしめた。

 

すると、兎のような巨体の天使・〈氷結傀儡(ザドキエル)〉が目に入ってきた。

オルガは、喉が潰れんばかりに声を張り上げた。

 

「___四糸乃ォォォォォォォォッ!!」

 

「………………!」

 

猛スピードで迫る人形の背に張り付いていた四糸乃が、ぴくりと反応を示す。

 

どうやら、オルガの姿に気がついたらしい。

 

凍り付いた路面を滑るように移動していた〈氷結傀儡(ザドキエル)〉が、オルガの目の前で停止する。

そして鈍重そうなフォルムの人形が、身をかがんだかと思うと、その背に張り付いていた四糸乃が、涙でグシャグシャになった顔を上げた。

 

「よう、四糸乃。また会ったな」

 

「……オルガさ、ん……!」

 

四糸乃が身を起こし、うんうんと首を縦に振る。

それを見ると、オルガはへっと小さく笑ってみせた。

 

四糸乃が〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の背から腕を引き抜く。四糸乃の指には指輪のようなものがはめられており、そこから糸が伸びていた。恐らくそれを使って操り人形のように天使を操っていたのだろう。

 

「四糸乃、お前に渡すもんがあるんだ」

 

「…………?」

 

四糸乃が、涙を拭うと、問うように首を傾げる。

オルガは、ポケットに入れていたパペットを取り出そうとした瞬間。

 

『オルガ!』

 

琴里の声が響くと同時、オルガの後方から四糸乃目掛けて、光線のようなものが放たれた。

 

「なに……ッ!?」

 

オルガが声を詰まらせ、後方を振り向くと、そこには数々の砲門を構えた人間が浮遊していた。

 

「___鳶一、折紙……ッ!」

 

忌々しげにオルガは言い放つ。

しかしそれだけではなかった。いつの間にか士道と四糸乃の周囲には、ASTの魔術師(ウィザード)たちが集結しつつあった。

一瞬、その後ろでマクギリスの搭乗するバエルと他の魔術師(ウィザード)が交戦している姿が目に入る。

 

『___そこの少年。危険です。その少女から離れなさい』

 

魔術師(ウィザード)の女性から、事務的な台詞が発せられる。

だが、

 

「ぅ___ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……ッ」

 

すぐに前方から、そんな声がして視線を戻すと、四糸乃が、AST隊員たちの姿を見て、ガタガタと身体(からだ)を震わせていた。

 

「これは……ッ!」

 

四糸乃が震える様子を見て、息を詰まらせる。

 

「ぁ、っぁああ、ぅあああああああ___ッ!」

 

叫び、四糸乃が再び両腕を〈氷結傀儡(ザドキエル)〉の穴に差し入れる。

そして凄まじい冷気をあたりに撒き散らしながら、後方へと滑っていった。

 

「ぐッ、四糸乃……落ち着けッ……!」

 

だが、こんな状況で落ち着けと言う方が無理がある。そんなことはオルガにだって分かりきっている。

オルガの懇願も届かず、四糸乃が操る〈氷結傀儡(ザドキエル)〉は、さらに周りの空気を吸い込んでいった。

 

 

 

 

凍て付いた街の中を一人で十香は、走っている。

先程、士道と三日月からシェルターに避難するよう促されたのだが、オルガのことが心配になり、士道たちの静止を振り切って無理矢理来たのだ。

 

「あ___あれは……ッ!」

 

凍り付いた街を走っていた十香は、視界の先に見えた光景に戦慄した。

 

開けた道路の上に、オルガと、先日見た青い髪の少女、それに奥で戦闘しているバエルとASTたちの姿が確認できたのである。

そして、人形を駆る少女が後退し、周囲の大気を吸い込むように人形を仰け反らせる。

 

「_____っ」

 

それを目にした途端、十香は、腹の底がぞくっと冷えるのを感じた。

なぜだろうか、本能とかそういったものでしか語りようがないが、なんとなく、理解できる。あれは____よくないものだ。

 

言語化しづらいのだが、そう、十香の〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が放つ一撃と非常によく似た空気の震え方をしているのである。

 

「……っ、オルガ!」

 

声を張り上げるが、そんなことをしても無駄なことは分かりきっている。

 

十香は、咄嗟に踵を地面に突き立てた。

 

「〈鏖殺公(サンダルフォン)〉…………ッ!」

 

十香の持つ最強の剣の名を呼ぶ。だが、何も起こらない。十香は顔を歪める。

 

「くっ…………」

 

だが、こうなることを想像していなかったわけではない。一応、琴里たちからも色々な説明を受けていた。

自分の存在についてや、琴里たちは、十香をどうしようとしているのか。

そしてその過程で、士道が十香の力を封印したということも、聞いていた。

そのことに不安がなかったといえば嘘になる。何しろ今まであった力が、突然無くなってしまうのだ。誰だって不安になってしまうのは当然だろう。

 

だけれど次第に、それが士道たちとともに人間としての生活を送るために必要な要素だということが理解できていた。

 

十香は、今の生活がたまらなく楽しい。

 

折紙は未だに鼻持ちならないし、琴里や令音も、完全に信用に足るわけではない。

 

___だが。

 

「〈鏖殺公(サンダルフォン)〉……〈鏖殺公(サンダルフォン)〉……っ!〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!」

 

人間として生きるために一度手放したはずの力を、オルガを助け出すために再度求めなければならなかった。

 

幾度も幾度も踵を突きつける。だが、何度試しても〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は顕現しない。

 

「くっ……頼む……出てくれ、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉……っ!」

 

歯を噛み締め、眉根を寄せ、泣いてしまいそうになりながらも、地面を蹴り続ける。

 

脳裏を、士道が凶弾に倒れたときの光景が鮮明に蘇る。

 

ごっそりと抉り取られた腹部。力無く倒れ伏す士道。何もできなかった自分。

もう、あんなのは経験したくない。

 

「…………っ!」

 

ゆらゆらと、ぐらぐらと、十香の精神状態が、不安定になる。意識が飛んでしまいそうなほどのストレスが、十香の頭の中で蹂躙する。

 

「く___ぁ、ぁぁぁああああああああッ!」

 

 

 

 

「……うぉ……っ!」

 

周囲に展開したAST隊員たちは、大気を吸い込み始めた〈氷結傀儡(ザドキエル)〉に、繰り返し攻防を仕掛けていたが、それらは全て周囲の雨に阻まれていた。

そして、四糸乃が〈氷結傀儡(ザドキエル)〉から、凄まじい冷気の奔流を放ってくる。

 

「なっ___」

 

オルガは思わず、息を飲んでしまう。

 

詳しいことは分からなかったが、あれがオルガの命を確実に刈り取るであろう一撃だということは、なんとなく予想がついた。

 

このタイミングと速度では、到底避けられるようなものではなかった。

 

 

オルガは思わず目を瞑り____数秒の間、身を固くしたあと、違和感に首をひねって目を開けた。

 

「こ、これは…………」

 

何しろ、いつの間にかオルガの目の前に巨大な玉座が聳え、四糸乃の攻撃から守っていてくれたのだから。

 

「十香の…………」

 

それを見て、呆然と呟く。

 

金属のような質感を持った豪奢な玉座。鋼色の肘掛けに、剣の柄が顔を覗かせる背もたれ。

 

それは、十香の無二の武器〈鏖殺公(サンダルフォン)〉に他ならなかった。

 

「な、なんでこれが……」

 

『___簡単よ』

 

右耳から、琴里の声が聞こえてくる。

 

「どういうことだ?十香の力は、士道に封印されているんじゃねえのか……?」

 

『前に言ったでしょ。士道と十香には見えないパスが通ってて、十香の精神状態が不安定になると、力が少し逆流する恐れがあるって。フルパワーには程遠いけれど、まさか天使まで顕現させちゃうなんてね』

 

「だ、だけど、なんで十香の天使がこんなところに…………」

 

オルガがポカンとしていると、周囲にも動きがあった。

突然玉座が出現したことで、四糸乃は得体の知れないものを見たような表情を作り、凄まじいスピードで逃げてしまった。

AST隊員たちもスラスターを駆動させ、それを追っていく。

 

「……そ、そうだ。俺も四糸乃を追わねぇと___」

 

と、

 

「___オルガ!」

 

後方から、可愛らしい声が聞こえてきた。

玉座の持ち主は、考えるまでもない。十香だ。

 

「十香。て___は?」

 

十香の方に振り向いたオルガは、十香の姿を見て、間の抜けた声を発した。

 

いつも通り来禅高校の制服を着ていたのだが、胸元やスカートなど、身体の所々に、美しい光の膜が揺れていたのである。

 

「十香、その格好……?」

 

「ぬ?」

 

オルガが言うと、十香は目をぱちくりさせて自分の

身体に目を落とした。

 

「おお!?なんだこれは!霊装か!?」

 

指摘されて初めて自分の様子に気づいたらしい。十香が驚きの声を上げる。

そしてしばしの間、ぺたぺたと光の膜を触ったあと、ハッと顔を上げると、オルガの方に視線を戻してきた。

 

「そんなことより、オルガ、無事か?怪我はないか?」

 

「あ……ああ、心配いらねぇさ」

 

オルガは目の前に聳え立つ玉座を見上げながら、答えた。

しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 

精霊たる、十香の、天使〈鏖殺公(サンダルフォン)〉。そして、霊装。

完璧な状態ではないとはいえ、それが人智を超える異能であることに変わりはなかった。

 

オルガは数俊ばかり考えを張り巡らせた後に、十香に向き直った。

 

「十香、頼みがある」

 

「ぬ……?なんだ、急に改まって」

 

十香が、不思議そうに首をひねってくる。

オルガは躊躇うことなく、深々と頭を下げた。

 

「お、オルガ?」

 

「___十香!俺に力を貸してくれ。マクギリスたちは今、魔術師(ウィザードたち)の相手をしてる。多分、俺一人だけじゃ今の四糸乃を、追うことすらできねえ」

 

「………………」

 

十香はしばしの無言のあと、小さな声を響かせてきた。

 

「四糸乃というのは___あの娘のことか?」

 

「ああ、あいつはお前と同じ……」

 

「精霊、なのだろう?」

 

「え…………?」

 

「以前、マクギリスからそのことは聞いた」

 

「そうだったのか……だったら話は早ぇ。手伝ってくれ!」

 

それを聞くと十香は、渋々といった様子でこくりと頷いた。

 

「……分かった、構わん」

 

「十香!」

 

だが、とそのまま言葉を続けてくる。どこか___悲しそうに。

 

「……その前に一つ質問してもいいか?」

 

「……なんだ、急にどうした?」

 

「お前にとってあの娘は___なんなのだ?」

 

突拍子のない質問にオルガは困惑する。

 

「は、はぁ……?いきなりなんだよ?」

 

「いいから答えろ」

 

「…………四糸乃は、あいつは___俺が救わなきゃいけないやつだ。俺はあいつに約束したんだ。俺がヒーローになってやるって」

 

「…………なら、あの娘がお前にとって大切なのだな。___私、より」

 

「……!そんなわけ無いだろ!お前だって俺たちの大切な家族に決まってんだろ!」

 

オルガは顔を上げ、十香の顔を見ながら叫んだ。

 

「え……?」

 

「そうだ。俺はお前を大切な家族の一人だと思ってる。俺だけじゃない。士道やミカもだ。家族に誰が一番だとか、そんなこと関係ねぇ。俺にとって家族は、みんな大切なんだ……!」

 

「…………」

 

「四糸乃には、居場所がない。お前と同じように、自分の意思だけじゃどうしようもならない力を持ってるせいで。それに俺は約束したんだ、あいつのヒーローになるってな」

 

「…………」

 

再び、頭を下げる。

 

「だから頼む!十香!」

 

「………………」

 

沈黙が、流れる。

 

だが___それはそう長くは続かなかった。

 

すぅー……はぁぁぁぁ、と深呼吸のような音が聞こえてきたあと。

 

「……っ、はは」

 

小さな、笑いにも聞こえる声が響いた。

 

顔を上げると、十香が、額に手を当てていることがわかる。

 

そしてその口元が、小さく動いていた。

 

「……ああ、そうか。そうだった。なぜ忘れていたんだろう。___私を救ってくれたのは、()()()()()()()()()()()……」

 

「十香……?」

 

雨のために、十香の言葉が聞き取れなかった。訝しげに聞き返す。

しかし十香は答えず、バッと身を翻した。

 

「___あの娘を、追えばいいのだな?」

 

「……ッ、十香!」

 

「それ以上は言うな。時間が惜しい」

 

「……フッ、そうだな」

 

十香は数歩足を動かし、その場に聳えていた〈鏖殺公(サンダルフォン)〉をガン!と蹴る。

すると巨大な玉座が前方に倒れながら、その形を微妙に変化させていった。

 

「こ、これは___」

 

「乗れ。急ぐのだろう?」

 

十香は横になった玉座の背もたれ部分に飛び乗ると、オルガを促すように言ってくる。

 

「あ、ああ…………」

 

オルガは戸惑いながらも、十香に続けて〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の上に乗った。

 

「___掴まっていろ」

 

「……………………ッ!?」

 

凄まじい加速で以て、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が凍った地面の上を滑り始めた。

全身を殺人的な風圧と重力が襲う。オルガは咄嗟に背もたれの装飾にしがみついた。

だが十香は何に摑まるでもなく、足の裏に強力な磁石でも備わっているかのように、背もたれに悠然と立っていた。

 

「速度を抑えていては見失う!このまま行くぞ!」

 

「グッ……うぅぅぅっ、お、おう……っ!」

 

前世でも、ここまで殺人的な加速と風圧を感じたことはなかった。

一瞬でも気を抜けば、そのまま後方にふっ飛ばされてしまいそうである。

 

『___まったく』

 

と、右耳のインカムに、やれやれといった琴里の声が響いた。

 

『マクギリスにも困ったものよ。十香に四糸乃のことを軽率に教えるなんて。それにあなたもよ、オルガ。十香が応じてくれたからいいようなものの』

 

「わりぃ、説教はあとでいくらでも聞いてやる……!だけど、今は、黙って力を貸してくれ!」

 

『___もちろんよ。精霊を助けるのが私たちの使命。協力には惜しまないわ』

 

「すまねぇ……!恩に着る……!」

 

と、そこでさらに〈鏖殺公(サンダルフォン)〉のスピードが加速する。オルガは首に力を入れ、どうにか〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の背もたれに足をつくと、十香に支えられながら氷上を進んでいった。

 

 

 




どーも魚のすり身です。今回は未投稿期間一ヶ月切ったぞー!結局ほぼ一ヶ月空いてるじゃねぇか……すいません……。
思ったより時間かかってしまいました。というか次で四糸乃編終わりなのに、このままだと最終回よりこの回のほうが、長くなってしまいそう。まぁそうなってしまったら許してください……。

さてということで今日は、少しばかり本編の話についても話していきましょうか。

十香が、折紙が三日月にくっつこうとすると折紙とケンカしあり、今回でオルガが四糸乃に対して嫉妬してしまったのには理由があります。
それは、この3人は十香にとって初めて正面から向き合って話した人間であるからです。だから十香は士道、オルガ、三日月のことを信頼している。
だけど、3人が他の女性と仲良くするのを見てると、自分は大切でないのではと思ってしまったのです。 

アカン……うまく伝えられてない気がする……。

まぁつまり、十香は自分のことを大切に想われていないのではないかと不安になってしまっていたのですね。

非常に分かりにくい説明になってしまって申し訳ありません……。
でもオルガが家族だと言ってくれたおかげで悩みが解決できたみたいです。
ちなみに十香はオルガへの恋愛感情とかはないです(ココ重要)。

さて、いよいよ四糸乃アグニカ編も次回で最後というわけでようやく終わりが見えてきました。
このまま四糸乃編最終回といきたいところなんですが、私、来週からテストということでまた投稿が止まるかもしれません。申し訳ございません!
テストが終わり次第、早めに投稿できるように執筆致しますので、しばしお待ちを。

それでは今回はここまで。では次回をお楽しみに〜。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。