三日月「オルガ、何やってんの」
オルガ「いやぁ、わりぃミカ。あんなに取り乱しちまうなんてな……というかお前、クラス委員の仕事は良いのかよ。仕事、色々あったんじゃねぇのか?」
三日月「別に?それよりもオルガがあの転校生相手に取り乱さないか心配だった」
オルガ「そうか……お前にまで心配されちまうとはな」
三日月「実際、仕事早めに切り上げて正解だった。見に行ってみたら、オルガが鼻血出しながら倒れてたから」
オルガ「うっ、それに関しては不甲斐ねぇ……」
三日月「とりあえずこっからは俺も着いていくよ。オルガだけだとさっきみたいなことがあったら見てられないし」
オルガ「わりぃな、ミカ。それじゃ第二十三話行くぞぉ!」
その後の学校案内は、概ねトラブルもなく無事に進んだ。
時刻は午後六時。一通りの案内を終えたオルガは、狂三、そして──クラス委員の仕事が終わった三日月とともに夕日に照らされた道を歩いていた。
「まあ、大体あんなところだ。わかったか?」
「ええ。感謝いたしますわ……本当は、二人きりがよかったのですけれど」
「お、おう……」
冗談めいた言葉を発する狂三に苦笑で返す。
途中、オルガが鼻血を吹きながら倒れ込むというアクシデントこそあったものの、三日月が介入してきたことで保健室や屋上といったイベントスポットを訪れても、そこまでロマンティックな雰囲気にならずに済んだのだ。
三日月が居なかったら何度狂三に平常心を崩されたか、それを考えるとオルガは心の中で安堵し、三日月に感謝した。正直、〈フラクシナス〉のサポートありきと言えど、三日月がそばにいるというのは少し安心感があった。
いや、精霊の好感度を上げることを考えるのならば、狂三とオルガの他に第三者がいるというのは憂慮すべき点ではあるが……なんというか、狂三と二人きりでムード満点の場所に放り込まれたら、取って喰われてしまいそうな感じがしたのである。
例えるならば、見るものを虜にし、獲物を喰らう食虫植物のような……。
「いや……」
オルガは自分の思考に小さく首を振った。女の子に向かって取って喰われそうとか食虫植物だとか、さすがに失礼過ぎる話だろう。
すると──。
「それではオルガさん、三日月さん、わたくしはここで失礼いたしますわ」
十字路に差し掛かったあたりで、狂三がぺこりと礼をして、そう言った。
「え?お、おう……」
「じゃあ、また」
オルガと三日月が小さく手を振ると、狂三は夕日の中に消えていった。
「──ああ、ああ」
オルガと三日月の二人と別れて、一人夕日の道を歩きながら、楽しげな様子で帰路についていた。
「いけませんわね──少し、我慢しないと。せっかくですもの。もう少し学校生活を楽しみたいですわ」
自分に言い聞かせるように呟き、ステップを踏むようにくるりと身体を回転させる。
「……うふふ、オルガさん、随分と面白い方でしたわね。もし彼を手に入れることができれば──」
そう言葉を紡ごうとした途端、狂三は眉をぴくりと動かした。突如、彼女の周囲を異様な感触が襲いかかった。
それはまるで、全身を撫で回されるような感覚だった。
「……あら?」
だが狂三にとってこの感覚は初めてではなかった。
現代の
その中でも特別なもの。誰が作ったものなのか、大方検討はついている。
「──やっと見つけやがりましたよ、〈ナイトメア〉」
狂三の思考を裏付けるように、狂三の目の前に、一人の少女が姿を現した。
髪を一つに括った、中学生くらいの女の子である。装いはパステルカラーのパーカーにキュロットスカートというラフなものだったが、その身に纏う空気は、獲物を見つけた猛禽さながらに剣呑であった。
「あらあら、あなたは……崇宮真那さん、でしたかしら?」
狂三が小さく首を傾げながら言うと、真那はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「私の名を覚えてやがったことは褒めてやりますが、気安く呼ばれるのは反吐が出やがります」
「あら、これは失礼いたしましたわ。でも、お名前は大事でしてよ。わたくしも〈ナイトメア〉なんて呼ばれるのは悲しいですわ」
狂三が言うと、真那はより一層気分悪そうに眉を歪めた。
「大事だから、貴様には呼んで欲しくねーんです。大事だから、貴様は呼んでやんねーんです」
「難しいお方」
「黙れよ、精霊」
周囲の空気がちり着くような殺気。
その言葉を最後に──路地裏から音が消えた。
◆
「いやー、しかし今日はちょうどいいタイミングで入れたな」
オルガ達と別れた後、士道は十香を伴って、近所のスーパーに夕食の食材を買いに行っていた。
ずっしりと思いビニール袋を右手に提げ、もうだいぶ暗くなってしまった道を歩く。
丁度スーパーに入ったタイミングでタイムセールが始まったものだから、3割引の合い挽き肉が大量に入ったのだった。
ちなみに先程オルガから『学校案内が終わったから帰宅する』旨のメールが届いた。
どうやら向こうも無事に終えることができたらしい。
「シドー!今日の夕飯はなんだ?ハンバーグか?」
ここ数週間で材料からメニューを推し量るのに慣れたのか、十香が興奮気味に訊いてくる。
『あ、私もそれに一票』
『良いんじゃねえの?確か玉ねぎが余ってなかったか?』
インカムを通して、サポートの終わった琴里と〈フラクシナス〉の回線を通して、帰宅途中のオルガの声が聞こえてくる。
「よし。それじゃ今日はハンバーグに──」
と、士道が言いかけた所で、前方から、ざっ、と、スニーカーの底でアスファルトの道を擦るような音が聞こえてきた。士道は音のした方に顔を向ける。
「ん?」
そこには、ポニーテールに泣きぼくろが特徴的な、琴里と同年代くらいの女の子が、驚愕に目を見開きながら立っていた。
パーカーにキュロットスカートというラフな格好。白いスニーカーには、何故かついて間もないと思われる赤い汚れが目立っていた──まるで、血痕のような。
「…………?」
見知らぬ顔のはずなのだが、士道は小さく首を捻った。
なぜだろうか、妙な既視感があるというか……どこかで会ったことがある気がしてならなかった。
と、そこで、少女が士道のいる方向をジッと見つめてきているのに気づく。
何か少女を驚かせるものが、自分の背後にあるのかと思い、後ろを振り返る。
しかし、後ろにあるのはせいぜい電柱やゴミ捨て場だけで、特段驚かされるようなものは見受けられない。
となると、あとは少女の視線の先にあるものと言えば士道くらいで──
と、士道がそこまで思案を巡らせたところで。
「に」
少女が、震える唇を動かした。
「に?」
士道が聞き返すも、少女は答えなかった。
そしてバッとその場から駆け出すと、士道の胸に飛び込んできた。
「な……」
そのまま身体に手を回し、感極まったようにぎゅぅぅ、と抱きついてくる。
少女が士道の胸に顔を埋めながら、口を開いた。
「──兄様……ッ!!」
『は……はぁっ!?』
その瞬間、路上と〈フラクシナス〉艦橋で、五河三兄妹の声が見事なまでにシンクロした。
今回は短めですが、真那が本格的に登場してきたところで、今回はここまで。
それでは次回もお楽しみに〜。