デート・ア・オルガ   作:宮本竹輪

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オルガ「前回までのデート・ア・オルガ。異世界へと転生したオルガは、精霊と名乗る謎の少女、時崎狂三と出会う。しかし、そこに五河士道の実妹を名乗る少女、崇宮真那が現れ五河家に招いた」

三日月「今更だけど、オルガも五河家に引き取られてれたんだね」

士道「ああ、俺と同じく幼い頃に一緒に引き取られたんだよ」

三日月「士道とオルガって同い歳なんだよね」

士道「そうだけど、それがどうかしたのか?」

三日月「いや二人のどっちが兄なのかなって」

士道、オルガ『あー……』

士道「そういやあんまり考えたこと無かったな」

オルガ「実際、気にしてなかったしな」

士道「オルガの方が向いてるんじゃないか?実際、昔は組織のリーダーをやってたんだろ?」

オルガ「いやいや原作主人公のお前を差し置くわけにいかねえだろ」

士道「なに!?原作主人公って!」

オルガ「お前のことだよ。一応この作品の原作は『デート・ア・ライブ』だしな。というかそろそろこの話も切り上げて本編に入るぞ」

士道「だから原作って何の話だよ!?ああ、もう!それじゃ本編スタート!」

三日月「……それで結局どっちなの?」(※一応戸籍上はオルガです)



第二十五話 悪意誘う夢魔

翌日、キーンコーンカーンコーン、と聞き慣れたチャイムが鼓膜を震わせる。

時刻は八時三十分。朝のホームルームの開始時刻である。

 

「……あ?」

 

周りのクラスメートたちが、次々と自分の席に戻る中、早めに席に着いていたオルガは小さく首を傾げた。

チャイムが鳴ったというのに教室に狂三の姿が無かったである。

 

「なあ、二人とも。狂三はまだ学校に来てないのか?」

 

「え?そういえば来てないな」

 

「むう、狂三のやつ、転校二日目で遅刻とは」

 

士道と十香がそう言うと、

 

「──来ない」

 

士道の左隣から、そんな静かな声が響いてきた。

折紙が、視線だけを十香に向けて唇を開いている。

 

「ぬ?どういう意味だ?」

 

「そのままの意味。時崎狂三は、もう、学校には来ない」

 

「え?それって──」

 

士道が言いかけた所で、出席簿を抱えたタマちゃん教諭が入ってきた。

 

「はい、皆さんおはよぉございます。じゃあ出席取りますね」

 

言ってタマちゃんが出席簿を開き、生徒の名前を順に読み上げていく。

 

「時崎さーん。あれ、時崎さんお休みですか?」

 

狂三の苗字を呼ぶが、どこからも返事は返って来ない。

 

「もうっ、欠席する時にはちゃんと連絡を入れてくださいって言っておいたのに」

 

タマちゃんが、ぷんすか!と頬を膨らませながら、出席簿に、ペンを走らせようとする。

 

すると、次の瞬間。

 

 

「──はい」

 

 

教室の後方から、よく通る声が響いた。

 

「狂三?」

 

後ろを振り向き、目を見開く。そこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべながら小さく手を挙げた狂三だった。

 

「もう、時崎さん。遅刻ですよ」

 

「申し訳ありませんわ。登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」

 

「え?だ、大丈夫ですか?保健室行きます……?」

 

「いえ、今はもう大丈夫ですわ。ご心配おかけしてすみません」

 

狂三はぺこりと頭を下げると、軽やかな足取りで自分の席に歩いていった。

 

「なんだよ……普通に来たじゃねえか」

 

ほうと息を吐き、何やら不穏なことを言っていた折紙の方に視線を向ける。

 

「は?」

折紙が微かに眉根を寄せ、狂三のことを凝視していたのである。

表情にそこまで劇的な変化があるという訳では無い。だが、そこまで折紙と会話したことがないオルガから見ても、今、折紙は間違いなく驚愕しているということがなんとなく分かった。

 

「折紙?」

 

三日月が名前を呼ぶ。すると、折紙は微かに指先を揺らし、狂三から視線を外した。

 

「──はい、じゃあ連絡事項は以上です」

 

ほどなくして、タマちゃんがホームルームを終えて教室から出ていく。

と、その瞬間、士道のポケットの電話が軽快な着信音を響かせ始めた。取りだして画面を見ると、そこには五河琴里と表示されていた。

 

「もしもし?琴里か?」

 

『──ええ、オルガ。……嫌な事態になったわ。控えめに言って最悪よ』

 

琴里らしからぬ苦々しい語調に、オルガは唾液を飲み込んだ。

 

「……っ。何かあったのか……?」

 

「ええ。困ったことになったわね。まさかこんなことが現実に起こり得るだなんて」

 

「……一体、何があったんだ」

 

『ええ、実は──』

 

と、そこでオルガの肩がつつかれた。狂三が、不思議そうな顔で首を傾げている。

 

「何をなさっていますの、オルガさん」

 

「お、おお……ちょっと電話をな。少し待ってもらってもいいか?」

 

「これは失礼しましたわ。お邪魔をするつもりはなかったのですけれど」

 

「ああ……いや、大丈夫だ」

 

オルガが返すと、再び通話口に意識を集中させた。

 

「それで、琴里。何があった──」

 

「ちょっと待ってオルガ。今、誰と話していたの?」

 

「え、誰って……?」

 

不意に深刻そうな声を発した琴里に、問い返す。

 

『だから、今、あなたの近くにいる誰かと会話をしていたでしょう。その相手が誰かを訊いてるのよ。士道?三日月?それとも十香?』

 

まるで罪人を咎めるような感でまくし立てる琴里に、不満げな声を発する。

 

「は?ただ話しかけられただけだよ。別に誰だっていいだろ」

 

『いいから、答えなさい』

 

有無を言わさぬ調子で、琴里が言ってくる。

 

「狂三だよ」

 

すると、琴里は急に無言になった。

 

「……?琴里?」

 

琴里は何やら電話の向こうで誰かと会話を交わした後、言葉を続けてきた。

 

『オルガ。昼休みになったら士道と三日月を連れて物理準備室に来て。見せたいものがあるわ』

 

「物理準備室?またどうしたんだよ」

 

『いいから、絶対に来なさい』

 

琴里はオルガの返答を聞かずに、電話を切った。オルガはぼやくように呟いた。

 

「なんなんだよ、一体……」

 

 

 

 

「……そんで、話ってなんだ?」

 

昼休みになり、オルガたちは琴里の言葉通り物理準備室の前に来ていた。

 

「とりあえず早く入って。時間が惜しいわ」

 

琴里がそう言うと顎をしゃくり、三人を部屋の中へ誘い入れる。物理準備室の奥へと顔を向けると、そこには、既に〈ラタトスク〉の解析官兼都立来禅高校物理教諭・村雨令音の姿があった。

 

「……ん、来たね、シン、オルガ、三日月」

 

いつものように名前と関わりのない名前で士道を呼ぶ。

すると、三日月は部屋を少しばかり見回した。

 

「……そういや、チョコの人は?」

 

部屋の中には琴里と令音しかいなかった。もう一人、令音同様、来禅高校で英語教諭に勤めているはずのマクギリス・ファリドの姿が無かったのだ。

 

「……ああ。彼なら授業が少し長引いてるらしく、あとから来るとのことだ」

 

「あいつ、またやってんのか……」

 

令音の言葉にオルガが呆れたように声を発する。

 

マクギリスの授業、内容としては分かりやすく他の生徒からも好評を博しているのだが、彼の雑談が原因で時間が後ろに押してしまうことも多い。

しかも、内容もいつものようにアグニカのことを話そうとするのだ。

それならまだ良いが(良くない)、挙句、バエルのことも話そうとするせいで毎度毎度、オルガと三日月が止めに入る。そんなやり取りを繰り返しているせいで結果的に授業が押してしまうのだ。

やはりバエルバカな所は転生してからも治っていないらしい。

 

「……それで、見せたいものって?」

 

士道が訊くと、琴里が机の上に置かれたディスプレイを示した。

それに合わせて、カラフルな髪をした美少女が次々と画面に映され、画面上部に『恋してマイ・リトル・シドー2 〜ふたりは愛し合う宿命……〜』

 

「続編……ッ!?」

 

「……ああ、間違えた。こっちだ」

 

「勘弁してくれよ……」

 

オルガが懲り懲りだと言わんばかりに声を発すると、令音が再びマウスを操作した。パッと画面が暗転する。ディスプレイの電源が落ちたと思っていたのだが、よく見るとそうでは無かった。暗転した画面に別の映像が映し出されていたのである。

 

狭い路地裏に、なぜか狂三と、ポニーテールの女の子が向かい合っている。

 

「ん?これって……真那?」

 

狂三の向かい側に立っていたのは、真那だった。

 

「ええ、昨日の映像よ。周りをよく見て」

 

「こいつは……ASTか」

 

オルガが眉をひそめる。

何の変哲もない住宅街に機械の鎧を纏ったASTの姿が確認できた。

 

「ええ。──なぜか昨日、急にASTの反応が街中に現れたらしいの。クルーの1人が念の為カメラを飛ばしてみたんらしいけど──確認してみて驚いたわ」

 

「でも、なんで連中がこんな所にいるんだよ」

 

「そりゃあ、精霊がいるからでしょうよ」

 

事も無げに言う琴里に、士道はごくりと唾液を飲み込んだ。

 

「って言ったって……空間震はおこってないぞ。周りの住民も避難してないじゃないか。もし精霊が暴れたら──」

 

「── その前に彼女を仕留められる自信があったのだろう」

 

突然、男の声が耳に入ってくる。視線をモニターから声のした方に向ける。振り向くと、遅れて入ってきたマクギリスがいた。

 

「遅い。昼休みになったら来るように連絡してたわよね」

 

マクギリスの姿を目に見て、琴里が不満げに口を開く。

 

「すまない、五河司令。アグニカの話に興味を示した子たちがいてね。彼らにより詳しくアグニカ・カイエルの伝説を話していた。そう、あれは厄祭戦の──」

 

「あんたの頭アグニカな話はどうでもいいから。とりあえずアンタもこれを見なさい」

 

そう言って、琴里は親指でモニターを指す。話を遮られ、少し不満そうではあったが、マクギリスも大人しくモニターに視線を移した。

 

マクギリスが口にしていた言葉の意味は分かった。しかし、まだ疑問が残っている。

それは、狂三と相対するかたちで立っている、崇宮真那の存在だった。

 

「な、なんで真那が──」

 

士道が言いかけた次の瞬間。真那の身体が淡く輝いたかと思うと、その全身に、白い機械の鎧が出現した。

 

「な……っ」

 

他のAST隊員のものとは少し形状が違うが、間違いなくワイヤリングスーツである。

 

そしてそれに応ずるように狂三が両手をバッと広げると、足元の影が狂三の身体を這い上がり、ドレスを形成していった。

 

頭部を覆うヘッドドレス。胴部をきつく締め上げるコルセットに、装飾の多いフリルとレースで飾られたスカート。それら全てが、深い闇を思わせる黒と、血のように赤い膜で彩られる。そして最後に、なぜか左右不均等に髪が括られていった。

 

「霊、装……」

 

狂三が、右手を頭上に掲げる。すると再び影が彼女の身体を這い上がり、右手に収束して行った。

 

だが、そこで、狂三の身体が宙に舞った。

 

「え──?」

 

「は──?」

 

画面の中で起こったことが理解できず、間の抜けた声を発する。

だが一瞬の後、2人は理解した。

 

真那が、両肩のユニットから光の線を放ち、狂三の腹を撃ち抜いたのだと。

 

あとは、数秒で片が付いた。

狂三は反撃しようとするが、それより先に真那の攻撃が狂三の身体に突き刺さる。その度に、路地には真っ赤な血が撒かれた。

そして、地面の上に仰向けに横たわり、完全に動かなくなった狂三の首に、真那が光の刃を突き立てる。

 

一切の抵抗の間さえなく。

 

狂三の命は、摘み取られた。

 

「ぐ……ッ」

 

思わず顔を押さえ、目を背ける。

あまりにも現実的出ない光景ゆえに、実感が伴うのが少々遅れたのだろうか。真那が狂三を解体し終えた頃、ようやく士道は喉の奥に嘔吐感を覚えた。

 

「大丈夫?士道」

 

士道を心配する声が聞こえてくる。士道の様子を見てか、三日月が声をかけたのだ。

 

「…….いや、大丈夫だ……っ」

 

せり上ってくる嘔吐感を抑え、絞るように発する。

 

三日月とオルガの表情を見る。

オルガも、士道ほどとまでは行かなくても、この凄惨な状況に驚きを隠せずにいた。冷や汗を浮かべ、歯をぎっと食いしばっている。

一方の三日月は、表情自体の変化はあまりなさそうだったが、よく見るといつもより鋭い眼差しで、ジッとモニターの映像を見つめていた。

 

しかし、画面に映されていた真那の反応は、そのどちらでも無かった。

 

臭いも感触もない画面越しにこの光景を見ている士道でさえこんな有様だというのに、当事者である真那は、今自分がしたことに何の感慨も覚えていないように見えたのである。

 

罪悪感も。

 

焦燥感も。

 

絶望感も。

 

そして──達成感も。

 

はっきり言って真那は、狂三の死に()()()()()

 

幾度も繰り返した作業をなぞるだけ。それくらい、真那は狂三の死に無関心だった。

 

「……見ての通りだ。昨日、時崎狂三はAST・崇宮真那に殺害された。重傷とか、瀕死とかではなく、完全に、完璧に、一分の疑いを抱く余地もなく、その存在を消し潰された」

 

「……なるほどな」

 

しばらく黙り込んだのち、オルガがゆっくりと口を動かす。先程の電話で、琴里がオルガの言葉に驚いていた理由が分かった。

 

「真那に殺された筈の狂三が、なんで学校に来てんのか、って話か」

 

「……そう。我々もそこがわからないんだ」

 

「オルガが狂三と話してるって聞いた時は、とうとう幻覚でも見え始めたのかと思ったわ」

 

琴里が、冗談めかすように言いながら肩をすくめる。

オルガは思考を巡らせ、口を開く。

 

「俺や士道みたいに──あの状態から蘇生したってことは無いのか?」

 

「どうでしょうね。──現段階では何とも言えないわね」

 

映像を見やると、AST隊員たちが狂三の血痕と遺体の処理にあたっていた。その中に、折紙の姿があるのを見て、今朝の反応の意味を知る。

昨日目の前で死んだはずの彼女が、平然と現れたのだから。驚いて当然のことだった。

 

「──でもまあ、何にせよ」

 

言いながら腕を解き、右手の指をビシッとオルガに突きつけてくる。

 

「狂三が生きている以上、作戦は続行よ。確か明日って学校の開校記念日で休みだったわよね?今日中に、狂三をデートに誘いなさい。かなりぐいぐい来てるし、運が良ければこの1回で力を封印出来るかもしれないわ」

 

「……は?」

 

琴里の次に声を発したのは、オルガではなく士道の方だった。目を点にして喉を絞る。

 

「い、いや、こんなことが起こったのにそんな──」

 

「──いや、こんな時だからだ」

 

士道の抗議の声は、オルガによって遮られた。

 

「え?」

 

「狂三が生きているってことはもう鳶一にも知られてる。既にASTに報告してるだろうさ。もちろん──真那にもな」

 

「……っ」

 

その名を出されて、士道は顔をしかめた。

先程の光景が思い起こされる。昨日出会ったとはいえ、自分の妹を自称する少女が、あんなにも無感動に、慣れた調子で狂三を殺すのは──たまらなく、嫌だった。

 

「今回のデートはオルガに任せるわ。頼んだわよ、オルガ」

 

「ああ、わかったよ──」

 

オルガを一瞥しながら、琴里が言う。

 

「俺がアイツを、狂三を──デレさせる」

 

それはオルガにとって重い決意のはずだったが、言葉にするとどこか間抜けに聞こえた。

 

 

 

「──あなたたち、少し待ちなさい」

 

部屋から出ていこうとしていた所を琴里に呼び止められる。

狂三や真那についての話が終わり、オルガたちは教室に戻ろうとしていたところだった。

 

「三日月とマクギリスに渡さなきゃいけないものがあるの」

 

そう言って、令音に目配せする。

令音は椅子から立ち上がると、部屋の奥から銀色のアタッシュケースを持ってきた。そしてケースの中身を開けてみせる。

 

「これは……」

 

中には手のひらに収まるサイズのデバイスが二つ入っていた。

1つは、黒く染められたボディと緑のラインが入っている。もう一方のデバイスは、白を基調としたボディに、差し色として青色のラインが入っていた。

 

「──モビルユニット」

 

そう令音が名前を告げる。

 

「モビル、ユニット……?」

 

オルガが令音が口にした名を繰り返す。

令音は手元のマウスを操作する。すると画面の表示が先程の映像からパッと切り替わる。

画面に、ASTのものによく似た機械の鎧と文字式が表示される。そのシルエットを見た途端、オルガたちは目を見開いた。

 

「これは──バルバトスとバエル……?」

 

そう、画面に映っていたのは〈ラタトスク〉の保有するモビルスーツ、ガンダムバルバトスとガンダムバエルの形をしたユニットだった。

 

この世界においてモビルスーツは、顕現装置(リアライザ)を扱えない人間が精霊と戦うために産み出された搭乗兵器である。

通常のモビルスーツは、顕現装着(リアライザ)と比べて、人体へとかかる負荷が少なく、また適正のない人間も扱えることから使用者が多かった。

 

しかし、モビルスーツはその大きさがネックとなって非常に目立ちやすく、また投入できる場面が限られてしまうことも多くある。

 

だが、もしMSを魔術師(ウィザード)と同じサイズに収めることができれば、取れる作戦の幅はより大きく変わる。

 

このデバイスには、顕現装置(リアライザ)が備わっており、装着者が呼び出すことで、モビルユニットを一瞬にして展開し、身に纏うことが出来る。言わば、ASTの緊急着装デバイスのようなものだった。

 

「今日、マクギリスと三日月を呼んだのはこれを渡すためでもあったの」

 

そう言って、琴里がケースから2つのデバイスを取り出す。そして三日月とマクギリスにそれぞれ手渡した。

 

「……元々、モビルユニットの開発は進められてはいたんだ。ただ、今回の件を受けて私たちもそう悠長にしているわけにはいかなくなってね」

 

「真那、か」

 

「…………ッ」

 

オルガがその名前を口にすると、士道は苦々しい顔を浮かべた。

 

「ええ。今回の件、ラタトスクが動き始めたのは狂三が殺されてからだったわ。次、いつ狂三が殺されてしまうか、私たちは分からない。真那が場所を問わずに動ける以上、使える戦力がモビルスーツしかない私たちでは対応が難しくなるわ」

 

実際、琴里の言う通り、昨日の作戦には魔術師(ウィザード)の姿こそあったものの、モビルスーツは一機もいなかった。

それ故に、ASTへの対抗策がモビルスーツしか持たないラタトスクにとって不利な状況だった。

 

「だからこそ、これの開発を急ぐ必要があったの。開発チームに急ピッチで完成を仰いだ甲斐もあって、なんとか実戦投入できるレベルにまでこぎ着くことができたわ」

 

「ただ」と琴里が続ける。

 

「この装備は直接身体に装備することを考慮して、元の機体よりも出力が抑えられてるわ。だからこれを使う時は、なるべく緊急時や屋内みたいな周囲への被害を考えなきゃいけない時に使うようにしてちょうだい」

 

「了解」

 

「承知した」

 

説明を受け、三日月とマクギリスが返事する。再び琴理はオルガの方に向き直って言い放った。

 

「──明日の狂三とのデート、頼むわよ。オルガ」

 

「ああ……分かった」

 

今度こそ、狂三を真那に殺させない。

そう強く心に誓い、拳を硬く握った。

 

 

 

 

同時刻。人気のない屋上前の扉で狂三と折紙が向かい合っていた。

 

「ええと……何かご用ですの?わたくし、まだお昼を食べていないのですけれど……」

 

狂三は困惑した様子で言ってくる。士道たち3人が教室出ていくのを見計らって折紙が狂三を呼び出したのだ。

 

「あなたは、なぜ生きているの」

 

「え……?」

 

「──あなたは、昨日死んだはず」

 

折紙は昨日、確かに見た。

狂三が真那によって四肢を断たれ頭を潰され、完全に絶命させられたのを。

真那としては不服そうだったが、燎子の命令で招集された折紙たちAST隊員は、万が一真那が精霊を仕留め損なった時のために、周囲を固めていたのである。

 

「…………」

 

狂三が、ぴくりと眉の端を動かした。

 

その後数秒間ら外気に晒されている右目で、折紙の顔を睨め回してくる。

 

「──ああ、ああ。あなた。あなた、昨日真那さんと一緒にいらっしゃった方ですの」

 

「……!」

 

狂三がそう言った瞬間、折紙はその場から飛び退いた。

根拠は無い。ただ脳が何か得体の知れない違和感を覚え、折紙に逃げろと警告したのだ。

 

「きひひ、駄ァ目ですわよ?そんなことをしても無駄ですわ」

 

「──っ」

 

狂三が、笑う。

足元を見やると、いつの間にか折紙の足元にまで狂三の影が伸び──そこから、白く細い手が2本、生えていた。

そしてそこからも無数の手が生え、後方から折紙の腕や首をがっちりと拘束してくる。

 

「く──」

 

もがいても、細い指は折紙の身体から離れようとしなかった。それどころかさらに力を増し、折紙を壁に磔にしてくる。

 

「きひひ、ひひひひ」

 

数刻前の狂三からは想像できないような歪んだ笑みを浮かべ、聞いているだけで腹の底に冷たいものが広がっていくかのような声を発しながら

 

「昨日はお世話になりましたわね。きちんと片付けてくださいまして?わたくしのカ・ラ・ダ」

 

狂三が、髪をかきあげながら折紙の方に近づいてくる。一瞬、前髪に隠されていた左目が見えた気がした。無機質な金色。およそ生物の器官とは思えない形状をした瞳に見えたのは、十二の文字と二本の針。それは、まるで──時計のようだった。

 

「私のことを知りながら、一人で接触を図るだなんて、少々迂闊なのではございませんこと?しかもわざわざ、人目につかない場所まで用意してくださるなんて」

 

「…………っ」

 

確かにその通りだった。昨日の呆気ない幕切れを目にしたからか、それとも、学校での狂三の姿から錯覚していたのか。精霊を脅威だと言っておきながら、油断していたのは、折紙のミスだった。

 

「あなた、は……何が……目的」

 

喉を締め付けられながら、声を発する。すると狂三はちぃぃ、と唇の端を上げた。

 

「うふふ、一度学校というものに通ってみたかった。というのも嘘ではありませんのよ?でも、そうですわね、1番となるとやはり──」

 

そこで一拍置いてから、息がかかるくらいの距離にまで顔を近づけてくる。

 

「──()()()()()()()、ですわね」

 

「──ッ」

 

三日月の友人である二人の名を出されて、折紙は声を詰まらせた。

 

「お二人は素敵ですわ、お二人は最高ですわ、お二人は本当に──()()()()()ですわ。特にオルガさんは素敵ですわね。わたくしは彼の力が欲しい。彼を手に入れるために、彼と一つになるために、この学校に来たのですわ」

 

──戦慄。折紙は背中がじっとりと湿るのを感じた。まさか、精霊が一個人を狙っているだなんて、予想だにしなかった。

今し方狂三が発した言葉。『彼の力』とは一体──

 

「……っ」

 

そんな思考は、狂三によって中断させられた。狂三が、折紙の身体に妖しい手つきで指を這わせてきたのである。

 

「折紙さん。鳶一、折紙さん。あなたも──とても、()()ですわよ。すごく、美味しそうですわ。ああ、たまりませんわ。たまりませんわ。今すぐにでも食べてしまいたい」

 

頬を上気させ、息づかいを荒くしながら、左手を胸元に這わせ、右手で足をなぞって、スカートの中をまさぐるようにしてくる。

 

「……っ、触らないで」

 

「ふふ、そうつれないことを仰らないでくださいまし。ああ、そうですわ──」

 

狂三が何かを思いついたと言わんばかりに声を発した。

 

「折紙さんをいただく前に──三日月さんもいただくことにしましょうか」

 

「──ッ!!」

 

その名前を耳にした途端、折紙は再び息を詰まらせた。

 

「知っていますわよ。貴方が彼に劣情を抱いていることは。ああ、彼も──()()ですわね。オルガさんたちとは、また違って美味しそうですわ」

 

そう言い、長い舌を伸ばして、折紙の頬に唾液の線を引いていく。

 

「く……」

 

「ああ、ああ、でも駄目ですわ。駄目ですわ。とてもとても惜しいのですけれど、お楽しみは後にとっておかなくてはいけませんわ」

 

狂三は大仰に首を振ると、折紙の首筋に口づけを残し、身体を離していった。

 

「あなたと三日月さんは、あの二人のあとに。折紙さん、もっと美味しくなっていてくださいまし」

 

そう言うと、狂三はくるりと踵を返し、階段を下りていった。そしてその姿が見えなくなると、折紙の拘束は解かれた。

 

「……っ、けほっ、けほっ」

 

床にうずくまるように咳き込む。

廊下に広がっていた影は、すっかり小さくなっていた。

 

理由は分からないが、狂三は士道たちのことを狙っている。

早く本部にそのことを伝えなければならない。否、例えそうしたとしても、精霊が個人を狙っているなんて話を信じてもらえるかどうかは分からなかった。

 

それに、折紙にはずっと抱いていた疑問があった。もしかしたらその疑問の答え次第では、彼らを守ることにつながる可能性があった。

 

だが──もしもの時は、折紙が、彼らを守らなくては。

 

「……三、日月──」

 

折紙は奥歯を噛みしめ、くっと拳を握った。

 




お久しぶりです。ちくわこと宮本竹輪でございます。

今回から新兵器「モビルユニット」が登場しました。ざっくり言うとガンダムの形をした人間サイズのパワードスーツです。
一応、この作品のモビルスーツは元の機体と比べるとだいぶ小さいサイズを想定して書いてます。具体的なサイズで言うと4メートルぐらい。これは精霊や魔術師といった人間サイズのキャラと戦うことを考えてこの大きさにしてます。

ただ、これからの展開を考えるとモビルスーツが出しにくくなる戦闘シーンが出てきてしまうため、モビルユニットを登場させました。メタい話、より多くの場面でバルバトスたちの戦闘シーンを描写するために出しました。しかしモビルスーツがこれから全く登場しなくなるという訳ではないので安心してください。

では今回はここまでです。次回もお楽しみに!

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