デート・ア・オルガ   作:宮本竹輪

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毎度お久しぶりです、竹輪です。
また一年近く空いてしまいました。随分お待たせしてしまい申し訳ないです……。モチベの維持が難しいなぁ……。



第二十六話 三重(トリプル)戦争(デート)開始

 

帰りのホームルームも終わり、士道たちは帰路に付いていた。

あの後、オルガは琴里の命令通り狂三の霊力封印のために明日のデートに誘いかけた。狂三は快く誘いに乗ってくれたため無事に約束を取り付けることに成功していた。

 

帰宅する道中で、十香とともに帰宅をしていたのだが、珍しく黙り込んでいたり、かと思ったら素っ頓狂な声を上げたりと妙に落ち着きのない様子だった。

十香らしからぬ様子に三人は疑問を抱いたが、そうしているうちに五河家と精霊マンションに着いていた。

 

「んじゃ、いったん帰るね」

 

「おう。また後でな」

 

いつもの挨拶を交わして三日月は帰宅する。

 

「十香もまたな。今日も夕飯はうちで食うだろ?」

 

士道も十香に挨拶をかけながら手を上げかけ、途中で止めた。なぜなら、十香がマンションではなく五河家の方に足を向けていたからだ。

 

「十香?着替えてこないのか?」

 

「!い、いいから、早く鍵を開けろ!」

 

「はあ……まあ別にいいけどよ」

 

どうせ夕食時には五河家にご飯を食べに来る十香である。特に問題はなかった。

 

「ただいま」

 

鍵がかかっているということは、琴里はまだ帰っていないのだが、つい習慣でそう言ってしまう。玄関で靴を脱ぎ家に上がると、士道とオルガはリビングに入っていった。

 

すると、玄関の方からガチャリと鍵をかける音がする。

どうやら二人のあとから家に入ってきた十香が、玄関の鍵を閉め直したらしい。そのまま俯きながら、リビングに入ってくる。

 

「ん?十香、ミカと琴里も来るから閉めなくてもいいぞ?」

 

「……お、オルガ、少し出ていってくれないか」

 

「?急にどうしたんだよ」

 

「い、いいから!」

 

「お、おい!?」

 

十香から背中を勢いよく押される。十香に押されるままに、オルガはリビングから締め出されてしまう。

 

「……ったく、十香のやつ急にどうしたんだよ……」

 

頭を掻いて、閉じられたドアに背を預ける。

 

「…………」

 

小さく息を吐くと、明日のことを思う。

とりあえずデートの誘いは上手くいった。

明日のデートで狂三をデレさせて、狂三の力を封印する。それがオルガの役目だ。

先日の学校紹介の時のように取り乱さないかなど不安はあったが、それ以上に不安な要素がこのデートにはあった。

 

それは、真那だった。

先日の一件を考慮すると、デート中に真那が狂三のことを殺しにくる可能性も考えられる。

もちろん対策として三日月たちも有事の際には動くことになっている。

 

それに三日月たちでなくても──何かがあればオルガ自身で狂三のことを守ればいい。

 

明日のデートは必ず成功させなければいけない、狂三を救うためにも。

 

「…………にしてもやけに長いな」

 

十香に言われて、廊下に半ば無理やり出たが、それにしても長い気がする。中で二人は何をしているのか。

 

「おい、何やってんだ───」

 

するとオルガはドアから背を離して、ドアノブに手をかけた瞬間。

 

「──ヴゥッ!?」

 

突如、ドアが勢いよく開け放たれ、オルガの身体が壁に打ち付けられた。そのまま吹き飛ばされて、オルガは床に倒れ込む。

どうやらドアを開けたのは十香だったらしい。十香は目にも留まらぬ速さで玄関の鍵を開けて駆けて出ていった。

 

「……だからよ、止まるんじゃねえぞ……」

 

床に横たわり、いつもの言葉を口にする。すると玄関の方から、黒いリボンで髪を括った琴里が入ってきた。

 

「ただいま。って、ん……?」

 

リビングの入口で横たわってるオルガを見て、眉をひそめる。

 

「あんた、なんでこんなところで寝てるのよ?」

 

「いってて……十香が開けたドアにぶつかったんだよ」

 

「アンタ、どんどん弱体化していってない?ん?」

 

起き上がったオルガを見ると、カーテンが閉められて薄暗くなっているリビングの方に顔を向ける。

その様子を不審に思い、琴里は再び眉をひそめた。

 

「やだ、士道。昼間からカーテンなんて閉めて、一体どんないかがわしい行為に耽っていたの」

 

「な、なんもしてねえよ!」

 

「まあなんでもいいけど。何を持っているの?」

 

「ああ。実は、十香にデートに誘われてな」

 

士道の手にはチケットが握られていた。それを見て、琴里は感嘆するように口笛を吹いた。

 

「へえ。十香から誘ってきたの。いい傾向じゃない。一体いつ?サポートするわよ」

 

「ああ、明日なんだが……」

 

「明日?明日はオルガとのデートでそっちにあんまりサポート回なさそうだけど良い?」

 

「やっべ……じゃあ十香に日程変えるように言うか?」

 

士道が言うと、琴里は鬱屈そうに首を横に振った。

 

「駄目よ。十香は明日の士道とのデートを楽しみにしてるのよ。1度承諾したデートを取り消すだなんてことしたら、十香の機嫌が崩れるのは明白。ただでさえ今朝から十香の寂しさメーターが上昇気味だったんだから」

 

「いや承諾したってわけじゃないんだが……」

 

「一応どっちのデートもモニタリングはしておくわ。何かがあったら士道の方のサポートもするから」

 

「え?いいのか?」

 

士道が顔を上げると、琴里が指をピッと立てた。

 

「ただあくまでも明日のメインは狂三とのデートよ。基本的にオルガの方のサポートに回るつもりだから、士道は十香の機嫌を悪くさせないように用心すること。わかったわね?」

 

「わ、わかった……」

 

士道が頷くと、琴里がはぁ、と、ため息を吐く。

 

「まさか二組のデートの様子を見なきゃいけないなんてね。まあいいわ、士道の勝手な行動で十香に機嫌を悪くされては困るもの」

 

「うっ……すまん」

 

「別にいいわ。それにラタトスクだって、あなたたち二人が同時にデートをすることも一応想定してたし」

 

と、琴里がそう言ったその時、玄関のドアがガチャリと音を立てた。

一瞬、十香が戻ってきたのかと思っていたが、リビングに入ってきたのは、先程別れた三日月だった。

琴里を見て声をかける。

 

「──お邪魔します。あ、おかえり琴里」

 

「ええ、ただいま。三日月」

 

「そういえば十香、嬉しそうだったけどなんかあったの?」

 

「ああ、あのだな……」

 

三日月に問われ、士道は三日月に先程の出来事を話した。

 

「──ふぅん、それで明日琴里が二つのデートを見ることになったんだ」

 

「まあ、大体そんな感じだ」

 

「そっか……ふーん」

 

すると、三日月は考えるような仕草をとる。

 

「どうかしたの?」

 

琴里の問いに三日月が少し目を細めて言った。

 

「実は──折紙からデートに誘われた」

 

『はぁ……!?』

 

三日月以外の3人が、眉根を寄せて叫び声を上げた。

 

「さっき折紙から電話かかってきてさ。俺、あいつに電話番号教えた記憶ないんだけど」

 

「ちゃっかり怖いこと言うなよ、ミカ……」

 

「そのデートって……いつ?まさか……」

 

「うん、明日」

 

その言葉に三日月を除いて一同は、思わずため息を吐いた。

 

 

 

「あと三十分後……か」

時刻は午前10時過ぎ。オルガと三日月は天宮駅東口改札に来ていた。

 

結局あの後、士道たち3人は並行してデートをすることになった。

一応、それぞれのデートには並行してラタトスクのサポートが付くとのことだった。ただし、あくまでも優先するのは狂三の攻略である。

他二つのデートは状況に応じてラタトスクがサポートに回るという形をとることになった。

 

偶然にも今日のデートの待ち合わせ場所が3つとも天宮駅前に集中していたため、士道含めた3人で駅に来たのだった。

 

士道は、十香との待ち合わせの時間が十時と、この中でいちばん早い時間だったため、十香と合流した後、そのままオルガたちと別れた。

昨日、十香から渡されたチケットは水族館のものだったらしい。あの後、士道からリビングで何をしていたのか訊いたのだが、なんでも胸にチケットを挟みながら、デートに誘われたらしい。誰からの入れ知恵だろうか……。

 

今は、次に待ち合わせの時間が早い狂三とのデートの待ち合わせ場所に来ていたのだった。

 

「なぁ、ミカ。お前鳶一との約束1時間後とかだったろ。もっとゆっくりでも良かったんだぞ?」

 

「あいつとの集合場所もすぐそこの噴水だし。俺だけあとから出てくる必要も無いでしょ」

 

「そうか。いや、お前が良いって言うなら別にいいんだ」

 

そう言って、周囲の風景に視線を向ける。

今日は、オルガたちが通う学校の開校記念日だった。そのため駅前には、多くの高校生の姿があった。

駅前のベンチに腰を下ろすと、オルガは三日月に語りかけた。

 

「そういや、こうして2人だけで話すのも久々だな」

 

「家にいると、士道や琴里たちがいるからね」

「それもそうだな」

 

その言葉に小さく頷いた。十香たちが来てから五河家は以前より賑やかになった。もちろん賑やかなのは良いことだが、2人きりで話せるような時間は前よりずっと少なくった気がする。

 

だからこそ2人きりじゃなければ話せないことがあった。

 

駅前の喧騒を2人は静かに眺めていた。オルガはふっと息を吐き出すと、改まった様子で口を開いた。彼の視線は、目の前にある景色ではなくどこか遠くを見てるようだった。

 

「───俺が死んでから鉄華団はあいつらはどうだった?」

 

「…………」

 

三日月はすぐには答えなかった。ただ静かに隣に座るオルガの横顔を見つめている。

 

「こういう時にしか話せる内容じゃないからな。士道たちがいる場所で話してもいいかもしれないが、アイツらには関係ないことだ」

 

「……………」

 

三日月は何を言うか、言い淀んでいる様子だった。

やがて三日月は意を決したように、真っ直ぐにオルガを見つめ、静かに、だがはっきりと告げた。

 

「───オルガが死んで、みんな悲しんでたよ」

 

「ッ……!」

 

その言葉を聞いて、オルガは思わず息を飲んだ。胸の奥に、かつての仲間の痛みが刺さるのを感じた。

 

「泣いてた奴、オルガの仇を取ろうとしてた奴。皆違ってたけど、でもみんなオルガが死んで悲しんでたよ」

 

自分たちを引っ張り続けてきたリーダーが、志半ばで突然亡くなったのだ。

三日月やユージンといった頼れる仲間がいたと言えど、団員たちの心がこれからどうすればいいのかと、不安になるのも当然のことだった。

鉄華団という家族を、オルガが命を懸けて守り続けてきたのだから。

 

「お前は……」

 

オルガは掠れた声で三日月に問いかけた。

 

「お前はどうだった……?俺が死んでお前に無茶をさせちまったか……?」

 

オルガに言われ「うん……」と小さく目を伏せて思考する。そしてオルガの方に向き直った。

 

「オルガは覚えてる?前に俺に『辿り着いた場所でみんなでバカ笑いしたい』って話したこと」

 

「……もちろんだ」

 

 

「笑いたいんだ」

 

「火星の王とかよ、名前はどうだっていい」

 

「俺はよ、たどりついた場所でバカ笑いしてえ」

 

「みんなで、一緒に」

 

 

忘れるはずがない。決して忘れない誓い、鉄華団の団員たちと生き抜いて、のし上がった先にある自分たちの居場所。そこで思いっきり笑い合うという夢。

それは、オルガにとっての大きな目標だった。

 

「オルガの言葉が、『止まるな』って言葉があの時の俺を───動かしたんだ」

 

三日月の言葉に熱が籠る。

自分の右手に目を向けると、グッと拳を固く握りしめた。

 

「──決めたんだ。なら、今の俺たちにできることは俺たちが死ぬまで生きてオルガの命令を全うすることなんだって」

 

「そうか……」

 

オルガは、悟ったように頷くことしか出来なかった。三日月が自分の死後も、自分の命令を絶対だと信じて戦い続けた事実に、胸が強く締め付けられる。

 

「そのあとは、俺と昭弘の二人でギャラルホルンのやつらを食い止めてた。ユージンとか他の奴らも最後まで一緒に戦ってたんだけど、クリュセに向けて掘ってたトンネルが繋がったから、残りのやつらの事はユージンたちに任せたよ」

 

その後の顛末について語り始める。先に逝ってしまって彼らがその後どうなったのかオルガには知りようがなかった。静かに三日月の話に耳を傾ける。

 

「それにどっちみち生き延びたところで、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうし」

 

「ミカ……」

 

自嘲気味に言う三日月。その言葉の重みにオルガは力無く呟く。

 

「ねぇ、オルガ」

 

三日月は、少し間を置いて本当に聞きたかったことを尋ねるようにオルガの方を見た。

 

「俺はオルガの命令を果たせたかな」

 

それはかつての三日月の生にとって、最も重要かもしれない答えだった。

 

「…………ああ。お前は、十分にやってくれたさ」

 

オルガは目に熱いものが込み上げるのをこらえて、絞るように言った。

 

「なら、良かった」

 

オルガの言葉を聞き、三日月はそう言って安堵したように小さく微笑んだ。

 

 

 

 

「……ったく、今から狂三とのデートだってのに、これじゃカッコつかねえや」

 

オルガが張り詰めていた空気を払うように自嘲気味に呟いた。インカム越しに、琴里の声が聞こえてくる。呆れながらもどこか安心したような声だった。

 

『本当よ。さっき2人きりって言ってたけど、一応こっちにあなたたちの会話は筒抜けだってこと忘れないでよね』

 

「すまねえな、琴里。柄にもなく昔語りなんてしちまって」

 

『何言ってるの、柄にもないだなんて。別に気にしてないで。それにあなたたちの過去を聞けてよかったわ。あなたたちは、私たちに話しても仕方がないことと思って、あまり話さなかったのかもしれないけど』

 

確かに、オルガたちはあまり進んで士道たちに過去を話すことはしなかった。自分たちの過去は、士道たちと過ごすこの世界での日常とは、あまりにかけ離れた血に濡れたものだった。遠く離れた昔の出来事、そんなものを彼らにわざわざ話す必要も無いのだと、そう思っていた。

 

『あなたたちの過去は私たちに直接関係する訳じゃないかもしれない。でも、それでも知りたいの。あなたたちが何を思って生きたのか。──だって私たちは「家族」なんだから』

 

琴里が自分たちの過去を家族として知れて良かったと言ってくれたことに、オルガは胸に温かくなるのを感じた。

 

「ありがとな、琴里。なら今度は士道にもちゃんと話さないとな」

 

『そうね。でも今は狂三とのデートに集中しなさい──みんなでバカ笑いをするのは狂三をデレさせてからよ』

 

「あぁ、そうだな」

 

琴里のその言葉はオルガにとって、とても強い激励だった。

オルガは小さく笑うと力強く応える。今度こそ、「みんなでバカ笑いをする」その夢を叶えるために。

 

『──さぁ、私たちの戦争(デート)を始めましょう』

 




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