デート・ア・オルガ   作:宮本竹輪

9 / 27
お久しぶりです。宮本竹輪です。今回は前回のあらすじはお休みです。

約一ヶ月ぶりの『デート・ア・オルガ』の投稿です!

まずは誠に投稿が遅れてしまって本当にごめんなさい!
投稿が遅れてしまった要因としては色々ありまして.....。

一つは学校のテスト期間で最新話を執筆する時間と投稿する時間がなかったです。

もう一つは前回の話を改稿した際に理由の一つは話したんですが、オリジナル作品の設定を考えていました。しばらくそちらの方を考えていたので、同時に『デート・ア・オルガ』を書くモチベーションが低下していました。

一応ボチボチとこちらの方も書いてはいたんですが、本当にゆっくりしたペースで書いていたので、以上の理由から投稿が遅れてしまいました。本当にごめんなさい!

今回から執筆する時間ができて余裕ができたのでいつも通りに戻る予定です。

そのぶん今回は少し長めなので、ぜひお楽しみ下さい!

それではどうぞ!




第八話 彼女の名

〈フラクシナス〉下部に設えてい顕現装置(リアライザ)を使い、士道たち三人は学校内に転送された。

 

オルガは壁に目を向ける。壁の至る所がごっそりと削れている。どれだけ酷い惨状だったかが見てわかる。

 

「こうして見るととんでもねぇな.....」

 

『〈プリンセス〉の反応はここからよ』

 

琴里からの指示で目的の場所に着いた。三日月は口を開き教室のプレートを指さす。

 

「ねぇ士道。ここって」

 

「どうした?て_____ここ俺たちのクラスの二年四組じゃねぇか」

 

『あら、好都合じゃない。まったく知らない場所よりはよかったでしょ』

 

三人の心臓の鼓動は早鐘のようになっている。

するとオルガが少し緊張気味な声で話しかけてきた。

 

「な、なぁ士道。最初にかける言葉って決まってんのか?」

 

「え?あ、あぁ『.....やぁ、こんばんわ、どうしたのこんなところで』って言うつもりだ.....」

 

「そ、そうか.....」

 

オルガは渇いた唇を舐め、士道は唾を飲み込んだ。士道は「よし」と意を決してオルガたちに問う。

 

「いくぞ.....」

 

「あぁ.....」

 

「うん」

 

二人の応答と同時に士道は教室のドアを開ける。夕日で赤く染まった教室の様子が士道の目に映った瞬間。

 

「あ_____」

 

頭の中で考えてた、薄っぺらい言葉が全て吹っ飛んだ。

 

前から四番目、窓際から二列目_____丁度士道の机の上に、不思議なドレスをその身に纏った少女が片膝を立てるように立っていた。

 

幻想的に輝く瞳を物憂げな半眼にし、黒板を眺めている。

 

その姿は、見るものの思考を一瞬にして奪ってしまうほどだった。三人は呆然と彼女の姿を見ていた。

 

「____ぬ?」

 

少女が士道たちの侵入に気づき、目を開きこちらを見てくる。

 

「.....ッ!や、やぁ」

 

士道がどうにか心を落ち着けながら手を上げ.....ようとした瞬間。

 

「.....ッ!伏せて!」

 

三日月の声と共にいきなり後ろから倒され、士道と三日月はその場に倒れ込む。その直後士道の頭上を一条の黒い光線が通り抜けていった。

 

「ぃ.....!?」

 

「.....ヴゥ!」

 

後ろからの呻き声に振り向くと、先程の光線が見事オルガの胴体にクリーンヒットしていた。

 

「あ____」

 

士道が間抜けな声を発すると同時にオルガは地面に倒れ込みいつもの台詞を口に出す。

 

「.....だからよ、止まるんじゃねぇぞ.....」

 

オルガの後ろにあった先程士道が手をかけた教室の扉と、廊下の壁やガラスの崩れる音が聞こえた。

 

「.....くッ!」

 

三日月の毒づいた声と共に壁の後ろに隠れる。士道たちが倒れ込んでいた場所に光の奔流が通り抜ける。そして立ちあがろうとしていたオルガの体にまたもやヒットした。

 

「.....ヴゥ!?」

 

そして倒れ込み再度あの台詞を吐く。

 

「.....だからよ、止まるんじゃねぇぞ.....」

 

その後も、何度か連続してこちらに向けて黒い光線が放たれた(ただし全てオルガにヒットした)。

 

「ま、待ってくれ!俺たちは敵じゃない!」

 

随分と風通しが良くなった廊下から声を上げる。すると、士道の言葉が通じたのか、それっきり光線が放たれることはなかった。

 

士道はゴクリと唾を飲み込んだ。そして先程まで死んでいたオルガも生き返り、教室の入り口に立つ。

 

「_____止まれ」

 

少女が凛とした声音を響かせる。士道が体を硬直させる瞬間オルガが口を開いた。

 

「.....止まるんじゃねぇぞ.....」

 

「「は?」」

 

ギャグで言ったのだろうか、急にオルガはいつもの台詞を吐き出す。二人の声が重なった途端オルガは下を一度向いてから神妙な面持ちになって言った。

 

「まぁこれっぽっちも面白くなかったがな」

 

すると先程から黙っていた三日月が口を動かした。

 

「何言ってんのオルガ」

 

そう言うと三日月はオルガに向けて銃を構えてオルガの体に銃弾を撃ち込んだ。

 

「.....ヴゥ!」

 

そしてまたもやオルガは希望の花を咲かせた。

 

「.....だからよ、止まるんじゃねぇぞ.....」

 

「ふー、続けていいよ」

 

「続けていいよ、じゃねぇ!」

 

細く息を吐いた三日月の言葉にたまらず士道は声を上げてしまう。

 

「なんでいきなりオルガのこと撃ったんだよ!?」

 

「ん、琴里にオルガが余計なことしたら、希望の花を咲かさせろって」

 

「いやそれもそれで可笑しいだろ!!」

 

またも士道は声を上げる。こちらの様子を見ていた少女が凍りつくような声音を響かせる。

 

「.....おい、貴様ら何をしている」

 

『なにしてんのよ、あんたたちが余計な会話なんてしてるから〈プリンセス〉の機嫌値が下がってきたじゃない』

 

琴里がインカムの向こうで言ってくる。確かにこの状況は非常にまずいかもしれない。士道は何を話そうかと思案していると少女が凛とした声で言ってきた。

 

「お前たちは、何者だ」

 

「.....っ、俺たちは_____」

 

『待ちなさい』

 

と、士道が答えようとしたところで、なぜか琴里からストップが入った。

 

 

 

〈フラクシナス〉艦橋のスクリーンには今、光のドレスを纏った精霊の少女が映されており、その周りには『好感度』をはじめとした配置されていた。

令音が¦顕現装置《リアライザ》で解析・数値化した各種パラメーターが画面下部に表示されている。

画面中央にウィンドウが表示される。

 

 

①『俺は五河士道。君を救いに来た!』

 

 

②『通りすがりの一般人です辞めて殺さないで』

 

 

③『人に名を訊ねるときは自分から名乗れ』

 

 

まるでギャルゲーのような選択肢が画面に表示される。令音の操作する解析用¦顕現装置《けリアライザ》と連動した〈フラクシナス〉のAIが、精霊の心拍や微弱な脳波などの変化を観測し、瞬時に対応パターンを表示したのだ。

 

「全員これだと思う選択肢を選びなさい!五秒以内!」

 

クルーたちが一斉にコンソールを操作する。その結果が琴里の手元にある端末に表示される。

琴里はその結果にふふんと鼻をならした。

 

「____みんな私と同意見みたいね」

 

 

 

「.....お、おい、なんだってんだよ.....」

 

琴里の言葉で制止された士道たちは、気まずい空気の中立ちつくしていた。

 

「.....もう一度聞く。お前は、何者だ」

 

少女が苛立しげに、目をさらに目を尖らせる。

と、その時ようやく琴里からの声が届いた。

 

『士道。聞こえる?今から私の指示通り言いなさい。』

 

「お、おう」

 

『人に名を訊ねるときは自分から名乗れ』

 

「人に名を訊ねるときは自分から名乗れ。.....って」

 

「おい、何やってんだ、士道ぉぉおお!!」

 

「いや琴里からの指示で.....。ってまずい!」

 

オルガの言葉に釈明しようとした士道だったが、だが時既に遅し。少女は不機嫌そうに顔を歪め、黒い球体を投げつけられる。その衝撃波で三人は吹き飛ばされてしまう。

 

吹き飛ばされたことによる衝撃でまたもオルガは死んだ。

 

「.....だからよ、止まるんじゃねぇぞ.....」

 

「.....っぐぁ.....」

 

『あれ、おかしいな』

 

「おかしいなじゃねぇ.....ッ、殺す気か.....っ」

 

「.....士道、こんな状況であんなこと言ったら怒るの普通だと思うけど.....」

 

「.....そうだそうだ士道。お前ほんっとに何やってんだ!」

 

「いや、今のは琴里に言われたんだよ!」

 

『あんたたち何してんの、それどころじゃないわよ』

 

「「へ?」」

 

「_____これが最後だ。答える気が無いなら、敵と判断する」

 

士道の机の上から少女が言ってくる。

 

「お、俺は五河士道!ここの生徒だ!敵対する意思はない!」

 

「.....俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ.....。んでこっちはミカこと、三日月・オーガスだ。俺ら二人もここの生徒であんたに敵対する意思はねぇぞ.....」

 

両手を上げながら士道とオルガが言うと、少女がゆっくりとした足取りで士道たちの方に寄ってくる。そして士道とオルガの顔を凝視し、「ぬ?」と眉を上げた。

 

「そっちのお前は知らんが、お前たち、前に一度あったことがあるな.....」

 

少女が言うそっちとは恐らく三日月のことだろう。バルバトスに搭乗していない状態で三日月と話すのは初めてなため、彼の顔を知らないのは当然だろう。

 

「あ、あぁ、今月の____確か、十日に」

 

「おお」

 

少女は得心がいったように小さく手を打つと、姿勢を元に戻した。

 

「思い出したぞ。何やら可笑しなことを言っていたやつだ。」

 

「ぎ.....ッ!?」

 

士道は前髪を掴まれ顔を上向きにされる。

 

「.....確か、私を殺すつもりはないと言っていたな?見え透いた手を。言え、何が狙いだ。油断させて後ろから殺すつもりか?」

 

「士道!」

 

「..........っ」

 

士道は、小さく眉を寄せ、奥歯をぎりと噛んだ。

 

少女への恐怖とか、そんなものより先に。

 

少女が士道たちの『殺さない』という言葉を、微塵も信じることができないのが。

 

気持ち悪くて、たまらなかった。

 

「____人間、は.......ッ」

 

士道は喉を震わせた。

 

「お前を殺そうとする奴らばかりじゃ.....ないんだッ.....!」

 

「____嘘だ。私の会った人間は皆、私が死なねばならないと言っていたぞ」

 

「そんなわけ.....ないだろッ!」

 

「.....では聞くが。私を殺すつもりがないのなら、貴様らは一体何をしに来たのだ」

 

「き、君に会うためだ」

 

「私に?一体何のために」

 

「そ、それは_____ええと」

 

『士道』

 

 

 

士道が口ごもると、琴里の声が右耳に響いてきた。〈フラクシナス〉の画面の中央にまたも選択肢が表示された。

 

 

①『君に興味があるんだ』

 

 

②『君と、愛し合うために』

 

 

③『君に訊きたいことがある』

 

 

「んー......どうしたもんかしらねぇ」

 

選ばれた選択肢に思わず琴里はあごをさすった。

 

「____き、君と.....愛し合うために」

 

「......」

 

少女は手を抜き手にし、横薙ぎに振り抜く。

そして士道の頭上を風の刃が通り抜け____教室の壁を切り裂いて外へと抜けていった。

 

「ぬわっ......」

 

「......冗談はいらない」

 

ひどく憂鬱そうな顔をして、少女が呟く。その様子を見ていたオルガは唇を噛む。普段は表情を変えることがない三日月も僅かながら焦りを見せていた。

 

「士道!」

 

「だ、大丈夫だ。オルガ」

 

士道はオルガに制止の声をかける。

士道は顔を少女へと向け直すと視線をキッと鋭くする。

 

「(_____あぁ、そうだ、この表情だ。俺が大嫌いな顔だ)」

 

士道は少女が浮かべるこの表情が大嫌いだった。

 

全てに絶望し、自分が愛されているなんて微塵も思っていないような_____悲しい表情。

 

気がつくと士道は思いつく限りに言葉を並べていた。

 

「俺は.....ッ、お前と話をするためにここに来たッ」

 

「.............」

 

「内容なんてなんだっていい。気に入らないなら無視してくれたって構わない。けど一つだけわかってほしい。俺は......ッ」

 

『士道、落ち着きなさい。私たちの指示通りに......』

 

「今は何も言ってやんな」

 

士道を諫める琴里の言葉が聞こえてくるが、オルガがそれを止める。

 

士道にはこの少女が何を思って現界しているのか分かるわけではない。

 

しかし士道には一つだけ分かったことがある。

 

少女には手を差し伸べてくれる人間が誰もいなかったのだ。

 

何かを言ってくれて手人間が誰ひとりいなかったのだ。

 

無意識のうちに空間震を起こし、いきなり現れた人間に敵意を向けられる。酷く理不尽なことなのかもしれない。

 

この場に居る士道、オルガ、三日月たちには手を差し伸べてくれる人がいた。

 

しかし彼女には誰もいなかった。

 

敵意しか向けられなかった。

 

だからこんな悲しい表情になってしまう。

 

その顔が嫌いだったから、そんな顔はもうさせたくないから______士道が言うしかない。

 

 

「俺は_____お前を否定しないッ!」

 

 

士道は足を踏み締めて胸を張って強く言った。

 

「...........ッ」

 

少女は眉根を寄せると、士道から目を逸らす。そしてしばらく黙ったあと、士道に問う。

 

「.....シドー。シドーといったな」

 

「_____あぁ」

 

「本当に、お前は私を否定しないのか?」

 

「本当だ。それにそれは俺だけじゃないぜ」

 

士道が言うと、少女はオルガたちの方に視線を移した。

 

「.......オルガとミカだったか、お前たちも私を否定しないのか?」

 

「そんなの当たり前に決まってんだろ?なぁミカ?」

 

「うん」

 

「本当の本当か?」

 

「本当の本当だ」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「本当の本当の本当だ?」

 

士道が間髪入れずに答えると、少女は髪をくしゃくしゃとかき、ずずっと鼻をすするような音を立てると、士道たちに視線を戻した。

 

「_____ふ、ふん。誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」

 

「っ、だから、俺たちは______」

 

「......だがまぁ、あれだ」

 

少女は複雑そうな表情のまま、続けた。

 

「どんな腹があるかは知らんが、まともに話をしようとする人間は初めてだからな。.....この世界の情報を得るために利用してやる」

 

「.....は、はぁ?」

 

「ベ、別に貴様らからこの世界の情報を得るためだ。うむ、大事。情報超大事。」

 

「そ、そうか.....」

 

「おい。士道これって......」

 

「ああ、上手く行った、みたいだな?」

 

つまり士道たちはこの少女とのファーストコンタクトに成功したということなのだろうか。

 

「ただし不審な行動を取ってみろ。お前たちの身体に風穴を開けてやるからな」

 

「......ああ、分かってる_____あ」

 

「どうしたのだ?オルガ。ああ、そう言うことか」

 

オルガは声を詰まらせた。すると少女が何かに気付いたのか眉をひそめてくる。

 

「.....そうか、会話を交わす相手がいるのなら、必要だな」

 

そう頷いて、

 

「シドー。オルガ。ミカ。_____お前たちは、私を何と呼びたい」

 

「「「は?」」」

 

思わず三人とも理解できず問い返す。

 

「私に名をつけろ。どうせお前たち以外と会話する予定はない。問題あるまい」

 

「「「「.........」」」

 

少女の言葉に三人とも黙り込む。

微妙な空気が周囲に流れていた。

 

 

 

『うっわ、これまたヘビーなの来たわね』

 

「どうすんだよ.....?急に名前をつけろと言われてもよ」

 

右耳から琴里の声が聞こえてくる。

さすがに急に名前をつけろと少女に言われ、何と答えればいいのか琴里も迷っているようだった。

 

『うーんそうねぇ。彼女には古式ゆかしい優雅な名前がぴったりな気がするからトメってのはどうかしら?』

 

「わ、分かったんじゃあ、あんたの名前はトメだ!」

 

オルガが言った途端、オルガにマシンガンのように光球が撃ち込まれた。

 

「ヴゥ!?ヴゥヴゥ!!......止まるんじゃねぇぞ.....」

 

「.....なぜかわからないが、無性に馬鹿にされた気がした」

 

「.....オルガ、流石にトメはないと思うけど」

 

先程から黙り込んでいた三日月がオルガのことを半眼にしながら唇を開いた。三日月の言葉に士道も申し訳ないが全国のトメさんには悪いけど、今どきの子につける名前ではないわ。

確かに古式ゆかしく優雅だが、妹のネーミングセンスを疑った。

 

「み、三日月は何か思いついたか?」

 

「ゆい.....でもありきたり過ぎる気がする。名前考えるって難しいね」

 

三日月も悩んでいるようだった。起き上がったオルガも思案している様子だがこれといったものは思い浮かんでいない感じだった。こうしている間にも少女の顔は不機嫌になっていく。

士道は心臓を押さえ込みながら、考えを巡らせる。

 

 

「______と、十香?」

 

 

 

「ぬ?」

 

「お?」

 

「ん?」

 

「ど、どう......かな」

 

「.......」

 

少女がしばらく黙り込んだあと______

 

「まあ、トメよりはマシだ」

 

士道は見るからに余裕のない苦笑を浮かべて後頭部をかいた。

 

だが.....四月十日にあったから十香というのはあまり安直過ぎただろうか。

 

(多分士道のことだから、四月十日に出会ったからっていうことだろうけど)

 

十香という名前の意味を理解した三日月は士道をじっと見つめている。三日月の視線に気付いた士道は三日月から目を逸らす。

 

「それで_____トーカとは、どう書くのだ?」

 

「ああ、それは____」

 

士道は黒板の方に歩いていくと、チョークを手に取り、『十香』と書いた。

 

「ふむ」

 

少女は小さく唸ると、士道の真似をするように指で黒板をなぞる。

 

「おいおい、チョークを使わないと.....」

 

オルガが言いかけて、言葉を止める。黒板には不格好な『十香』という文字が削られていた。

 

「なんだ?」

 

「.....いや、何でもねぇよ」

 

少女の様子にオルガは頭をかく。少女はしばしの間自分の書いた文字をじっと見つめる。

 

「シドー、オルガ、ミカ」

 

「な、なんだ?」

 

「十香」

 

「へ?」

 

「十香。私の名だ。素敵だろう?」

 

「あ、ああ.....」

 

「いいんじゃねぇの?なぁ」

 

「うん」

 

十香の言葉にオルガと三日月は頷く。十香は満足げな表情を浮かべる。

 

すると十香は士道の方を向き、口を開いた。

 

「シドー」

 

「と、十香.....」

 

心臓が、どくんと跳ね上がる。

初めて見たの十香の笑顔。

途端。

 

「_____ぇ......?」

 

『三人とも床に伏せなさい!』

 

琴里の声が右耳に響いてくる。

 

突如、校舎を凄まじい爆音と震動が襲う。何が何だがわからないまま士道たちは床にうつぶせになる。

 

次の瞬間、ガガガガガガガッという、けたましい音を立てながら、教室の窓ガラスが一斉に割れる。向かいの壁にはいくつもの銃痕が刻まれていた。

 

「な、なんだこりゃ......ッ!?」

 

『外からの攻撃ね。精霊をいぶり出すためじゃないかしら。それとも校舎ごと潰して、精霊が隠れる場所をなくすつもりかもね。____それに向こう側は今回モビルスーツまで出してるみたいだし』

 

「奴ら正気か!?こんな建物一つを精霊のためにモビルスーツだと!?」

 

『今はウィザードの災害復興部隊がいるからね。すぐに直せるなら、モビルスーツを出して、いぶりだしても大丈夫ってことでしょ』

 

「マジかよ......ッ!」

 

オルガが顔を上げる。

崩れた内壁から外の様子を伺える。外にはASTの姿がある。しかしオルガはもう一つ空を飛んでいるものを見つける。

 

それは巨人だった。

上空から巨大な影がこちらへ向けて手に持っているライフルを撃ち込む。

草色の姿をした黄色のモノアイの巨人がこちらを睨む。あの機体の姿をオルガには見覚えがあった。

 

かつての世界ではギャラルホルンの量産機、そしてこの世界では

対精霊部隊(AST)の保有するモビルスーツ『グレイズ』だ。

 

「......チッ!野郎のモビルスーツは、グレイズかよ!」

 

前世に自分たちが戦った同じ敵が目の前に立ちはだかっていることにオルガは舌を打つ。一度弾幕の雨が止み、オルガと三日月は上体を起こす。

 

燎子は声を上げ、攻撃中止の指示を出す。

 

「そ、総員、攻撃辞め!」

 

三人の存在に気付いたASTの女性が声を上げる。

隊長格と思われる女性の言葉を聞いたオルガは三日月にあることを問う。

 

「___ミカ、ASTの相手、頼めるか?」

 

「......」

 

しばらく三日月は黙り込む。

そして______。

 

「.....うん、いいよ。オルガの命令なら何だってやってやる」

 

「......フッ、んじゃ頼んだぜ。遊撃隊長さん」

 

「了解」

 

細く息を吐き、オルガと三日月は拳を合わせる。

 

「琴里」

 

『何かしら?』

 

インカムを手で押さえ琴里の名を呼び掛ける。

 

「頼みたいことがあるんだけど──────」

 

 

 

 

土煙が校舎から立ちこめる。状況的に言えば、唐突に隊長である日下部燎子が攻撃中止の命令を出した。

 

何かが起こったのだろうか。まだ避難していない一般人がいたのだろうか。

 

折紙は脳内に指示を出し、土煙の中を視認する。そこにいたのは、精霊の他に三人の人間がいた。しかしそれが誰なのかは、分からない。だが、土煙が僅かに晴れ、その人物が何者かすぐに分かった。

そこに居た人物を見た途端、折紙は驚嘆の表情に染まった。見間違えるはずがない。そこに居たのは────、

 

「───三日月.......」

 

折紙のクラスメート─────三日月・オーガスだった。

 

 

 

『────三日月、準備出来たわよ。転送タイミングはそっちに合わせるわ』

 

「ありがとう。オルガ」

 

「どうした?」

 

「十香のこと任せた」

 

「......ヘッ、分かってるよ」

 

三日月の言葉に小さく笑うと、三日月は小さく頷いた。そして外を見ると押し殺すように声を発する。

 

「行くぞ───バルバトス......ッ!」

 

すると三日月の体が淡く発光し、その光は少しずつ巨大なものとなっていく。それと同時に光がバルバトスの形を作っていく。巨体によってまたも土煙が立ち込む。

土煙を払い、現れる筋骨隆々の禍々しいフォルム。金色の角をした白い悪魔_____ガンダムバルバトス。その手には巨大なメイスを携えていた。

 

『.........ッ』

 

その姿に驚きの表情に変わる十香と士道、しかしオルガは驚く素振りもなく、期待するかのような目で静かに三日月の姿を見つめていた。

 

『全くいきなり無茶なこと頼んできて、三日月には困るわ』

 

「......えっ?」

 

『大分無茶言って……上手いことバルバトスの中に転送できたから良かったけど』

 

「てことは、あれに三日月が乗っているってことか?」

 

琴里が小さく愚痴る。士道は視線を移し、こちらに背を向けたバルバトスを見つめる。

バルバトスはその視線に気づくことなく、メイスを構えると、そのまま飛び去っていった。

 

 

 

 

 

「.....あれはバルバトス......!?総員目標をバルバトスに変更!」

 

ASTの魔術師(ウィザード)たちは、ほとんどの隊員が驚愕している。しかしそれは当然のことだろう。彼らからしてみれば、突然、バルバトスの反応が出現し、その姿を現したのだから。

目の前にいるグレイズは、ライフルでバルバトスを迎え撃つ。だが、バルバトスはその巨体に似合わず、グレイズの銃撃を素早い動きで躱していく。

 

銃撃を躱すなかでコックピットに〈フラクシナス〉からの回線が繋がり、琴里の声が聞こえてくる。

 

『____三日月いい?殺さないようにね』

 

「了解」

 

琴里の言葉に短く応えると、バルバトスは大きく跳ね上がり、グレイズの目の前に現れ、そしてメイスを叩きつけた。

メイスを振り下ろされたグレイズの頭部はズガァン!と軋む音が鳴り、大きく大破した。

そして、頭を吹っ飛ばされたグレイズは、そのまま地面に倒れ込む。

琴里の命令通りなるべく殺さないようにしておいた。今ので多少は負傷したと思うが、恐らく死んではいないだろう。

 

「殺さないように殺さないように」

 

自らに言い聞かせながら、モビルスーツを次々に屠っていく。

次の目標へ機体を向けるとバルバトスのスラスターが火を吹いた。

 

 

 

 

バルバトスの戦いに唖然とみていた士道に琴里からの回線が繋がる。

 

『ちょっと何してんの、士道。折角三日月が囮になってチャンスを作ってくれたんだから、今の内に十香と会話しちゃいなさい』

 

「おぉ、忘れてた」

 

実際、その通りである。

今の状況は琴里の言うとおり三日月が作ってくれたチャンスだ。無駄にはできない。

 

士道は少し考えを脳内で考えを巡らせ口を開いた。

 

「なあ_____十香、お前って......結局どういう存在なんだ?」

 

「む?_____知らん」

 

「いやお前、知らんってなぉ.....」

 

「事実なのだから仕方ないだろう____どれくらい前だったか、私は急にそこに芽生えた。」

 

「そ、そういうものか.....?」

 

「そういうものだ。突然この世に生まれ、メカメカ団と緑色の奴が空を舞っていた」

 

『多分ASTとグレイズの事ね』

 

すると十香は眉をひそめて言う。

 

「あとはそうだな.....。白鬼(しろおに)もいたな」

 

「白鬼?」

 

聞き慣れない単語に思わず士道は聞き返す。

 

「そうだ、今、向こうで暴れているあいつのことだ」

 

そう言うと十香は空を指さす。十香が指していたのはバルバトスだった。恐らく十香はバルバトスのことを言いたかったらしい。

 

「あいつは緑の奴と戦っていた。丁度あんな風に。そうだ、お前たちに聞きたいことがある」

 

「聞きたいこと?」

 

「ああ、ミカが先程光っただろう?そしたらそこに白鬼がいたのだ。もしや、ミカは白鬼なのか?」

 

「あ、ああ.......」

 

どう答えるべきか。十香の考えは間違いではない。間違いではないのだ。現に実際三日月はバルバトスに乗り、戦っている。

何と伝えるべきか迷う士道の隣で立っていたオルガが口を開く。

 

「_____あいつはお前の言うとおり鬼だ」

 

「.....へ?」

 

「なんとそれは本当か!?」

 

「ああ、俺がふざけたギャグを言うだけで容赦なく俺を撃ってきたりする」

 

どうやらオルガは先程の出来事を根に持っていたらしい。

 

「だがよ____」

 

と続けオルガは視線をバルバトスに移し、

 

「ミカはやるって言ったら絶対にそれを通す。誰が何と言おうとだ」

 

オルガは三日月のことをよく知っている。前世から二人は付き合いがある。三日月のことをよく知っているのもずっとオルガが三日月を見ていたということだろう。

 

「ミカも俺たちと同じようにお前を否定しねぇって言ったんだ。あいつがそれを曲げるわけがねぇよ」

 

十香の方を真っ直ぐに見つめ言い放つ。その瞳からはとても強い信頼が感じとれる。

オルガは「あ」と声を漏らし、頭をかく。

 

「わりぃ、少し話が脱線しちまったか」

 

「いや、構わないぞ」

 

一度十香の方を一瞥すると頭に腕を組んで言う。

 

「_____まっ、要するにあいつは鬼の時もあれば、そうじゃねぇ時もあるってことだ。とにかくアイツもお前の味方だ」

 

「ほう」

 

十香はオルガの答えに顔を上下に揺らす。

と、が二人のインカムに軽快な電子音が鳴る。

 

『チャンスよ!士道、オルガ』

 

「は......何がだ?」

 

『精霊の機嫌メーターが七十を超えたわ。一歩踏み込むなら今よ』

 

「踏み込むって.....どうすんだよ?」

 

『んー、そうね。とりあえず.....デートにでも誘ってみれば?』

 

「はぁ.....!?」「ぶっ......!ゲホッゲホッ!」

 

琴里の言葉に士道は思わず大声を上げ、オルガは思いっ切りむせていた。

 

「ん、どうしたシドー、オルガ」

 

「ゲホッ!いや、気にすんな!」

 

「......さっきから何をブツブツ言っている。.....!やはり私を殺す算段を!?」

 

「ち、違う違う!誤解だ!」

 

十香は視線を鋭くすると指先に光球を出現させる。

 

「なら言え。今何と言っていた」

 

「ぐぬ......」

 

士道とオルガが頬に汗を滲ませる。琴里とクルーたちが士道らをはやし立てるように言ってくる。

 

『ほーら、観念しなさいよ。デートっ!デートっ!』

 

『デ・エ・ト!』

 

『デ・エ・ト!』

 

『デ・エ・ト!』

 

「あーもうわかったよッ!」

 

士道は観念して叫びを上げた。

実際琴里の言うとおりだったが.....士道とオルガは、なんとなく恥ずかしかった。

 

「あのだな、十香。そ、その.......今度俺と」

 

「ん」

 

「で、デート......しないか?」

 

「デェトとは一体なんだ」

 

「そ、それはだな.......」

 

少し気恥ずかしくなり、視線を逸らした時である。

 

『______オルガ!一人とり逃した!』

 

「なにッ.......!?」

 

右耳から三日月の少し大きな声が入ってきた。

オルガは三日月の言葉に構わず声を上げる。

 

瞬間、教室の外から折紙が現れる。恐らく三日月がASTの相手をしている隙に飛び込んできたらしい。

折紙はオルガたちの方を一瞥したが、すぐさま十香に視線を戻す。

手にした機械から光の刃を現出させ、十香に向けて襲いかかる。

 

溶接現場もかくやというほどの火花が、辺り一面に飛び散る。

十香は振り落とされた刃を片手で止めてみせる。

 

「く_____」

 

「_____無粋!」

 

「........っ」

 

十香は折紙を振り払う。一方の折紙は後方へ吹き飛ばされ、華麗に着地する。

 

「ち______また、貴様か」

 

唾棄するように十香が言う。ちらとこちらを一瞥すると自分の足元の床に踵を突き立てた。

 

「_____〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!」

 

教室の床から突如として玉座が顕現される。それは四月十日に士道たちが見たものと同一のものだった。

 

「な.......」

 

『士道、オルガ、離脱よ!一旦〈フラクシナス〉で拾うわ。』

 

「おい!ミカはどうすんだ!?」

 

オルガが琴里に対し叫ぶ。

 

『三日月は適当なタイミング回収するわ。あんたたちはそこから離れなさい!』

 

「んなこと言ったって......っ」

 

十香は玉座の背もたれから剣を抜き、折紙に向かって振るう。その衝撃波で士道とオルガは吹き飛ばされてしまう。

 

「のわぁぁぁッ!?」

 

「ヴゥアアアッ!?」

 

『ナイスっ!』

 

琴里の声とともに士道たちの身体が無重力に包まれ、二人は〈フラクシナス〉に回収された。

 

 




久しぶりの投稿でした!

もう一度言います、皆さん一ヶ月待たせてしまって申し訳ありませんでした!

しばらくは余裕を持てるので大丈夫ですが、またテスト期間と重なって投稿しない時期があると思いますが、ご了承下さい。

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