程々にありふれた職業で世界最速(ガバがないとは言っていない)   作:神影 森羅

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初期エンカ ベヒモスいるのは 駄目じゃねぇ?

◆◇──────◇◆

 

 

詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。さすが⑨。

 

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った⑨。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、イイ笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する⑨。

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……。」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……。」

 

香織が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリと私の方に視線を向けた。もっとも、協定メンバーにはバレバレだったが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。勝った!第三部完!グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

俺は……(奈落行きルート)止まんねぇからよ……だからお前も……(トラップに引っ掛かるの)止まるんじゃねぇぞ……!

 

メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

ヤメロォ!(建前)ナイスゥ!(本音)

計画通り、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

というかそんな激レア鉱石がこんなところにあるわけないだろ!いい加減にしろ!

 

………ふざけている間に到着。ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

先の魔法陣は原作通り転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

もっとも、これはその規格外のほんの一部だが。

 

転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。いかにもなバトルフィールドと言える。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け!急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、当然ながら迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

──まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

そう、突進と赤熱化突進しかしない雑魚(by魔王ハジメ)、ベヒモスだ。

後ろ?見てください、骨です。数百ほどの。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

と、ベヒモスの咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる⑨。マジで⑨だ。

 

どうにか撤退させようと、再度メルドが⑨に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中のクラスメイト達を全員轢殺してしまうだろう。

 

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守り(尚奈落では(笑)もの)が顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

さぁ、一旦後ろに行こう。

 

「ハジメ!すまないが天之河達を後ろに引っ張ってでも連れてきてくれ!このまま行けば間違いなくパニックになる!最悪の場合、犠牲者が出る!」

「……!わかった!」

 

トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は早くも半ばパニック状態だ。

 

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

その内、一人の女子生徒こと投擲師の園部優花が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされる。

死ぬ──彼女がそう感じたのだろう、目を閉じる。

しかし

 

「…この骸骨も一撃。本当にチートだな。………この武器が。」

「あ……」

「さ、悪いが協力してくれ。絹ごし豆腐のごとく繊細な私だけではこの骸骨を一撃で倒せるが一撃で倒されるというかなり不利な状況なんだよ。」

「!うん、わかった!ありがとう!」

 

一方、ハジメ達の方はというと…

 

ベヒモスが依然として障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルド団長は⑨の言葉に苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

 

しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の⑨達には難しい注文だ。

 

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、⑨は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

 

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人のクラスメイト達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

雫は状況がわかっているようで⑨を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな。」

 

しかし、筋肉の言葉に更にやる気を見せる⑨。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

苛立つ雫に心配そうな香織。

その時、一人の女子が光輝の前に飛び込んできた。

 

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「ハジメちゃん!?」

 

驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を!皆のところに!君がいないと!早く!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合っ!?」

 

ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした⑨の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する光輝。

 

「あれが見えないの!?みんなパニックになってる!リーダーがいないからだよ!」

 

光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

 

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

 

訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。私も協力してはいるものの効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さがを守っているが、それも時間の問題だろう。

 

「一撃で切り抜ける力が必要なの!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!新君もいるけどそれじゃ足りない!それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る⑨は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

……耳がいいって、時折聞きたく無いことまで聞こえてしまうな……。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ──」

「下がれぇーー!」

 

〝すいません、先に撤退します〟そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだ。

 

しかしすぐに舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

 

そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド団長達の背後にいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ。

 

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 

⑨が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ないと思っているのだろう。

 

「やるしかねぇだろ!」

「……なんとかしてみるわ!」

 

二人がベヒモスに突貫する。

 

「香織はメルドさん達の治癒を!」

「うん!」

 

⑨の指示で香織が走り出す。ハジメは既に団長達のもとだ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。気休めだが無いよりマシだろう。

 

⑨は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

 

 

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

 

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

 

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

 

 

……龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

 

先ほどの攻撃は文字通り、⑨の切り札だ。残存魔力のほとんどが持っていかれた。背後では、治療が終わったのか、メルド団長が起き上がろうとしている。

 

そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

 

その先には……

 

 

◆◇──────◇◆




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伏線的なアンケ。

  • 友情の試練
  • 不屈の試練
  • 勇気の試練
  • 闘争の試練
  • 作者過労の試練
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