程々にありふれた職業で世界最速(ガバがないとは言っていない) 作:神影 森羅
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無傷のベヒモスがいた。
…はい。
フラグ回収お疲れ様でした。
低い唸り声を上げ、⑨を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。ご覧ください、これが赤熱化です。
「ボケッとするな! 逃げろ!」
メルド団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。
光輝達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。
どうにか動けるようになったメルド団長が駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。
「お前等、動けるか!」
メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。……そろそろ行くか。
メルド団長が香織を呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくるハジメの姿を捉えた。
「ハジメ! 香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」
ハジメにそう指示する団長。
⑨を、あの⑨だけを担いで下がれ。その指示は、すなわち、もう一人くらいしか逃げることも敵わないということなのだろう。
メルド団長は唇を噛み切るほど食いしばり盾を構えた。ここを死地と定め、命を賭けて食い止めるつもりだ。
そんな団長に、ハジメは必死の形相で、とある提案する。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。
メルドは逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間がない。
「……やれるんだな?」
「やります!」
「…なら、私も協力しよう。」
「新君!?」
「後ろはあのチート勇者に任せる。…やるぞ。」
決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。
「まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」
「はい!」
メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど光輝を狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。
そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。
「吹き散らせ――〝風壁〟」
詠唱と共にバックステップで離脱する。
その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままの⑨達を守りながらでは全滅していただろうが。
再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。赤熱化の影響が残っておりハジメの肌を焼く。しかし、そんな痛みは無視してハジメも詠唱した。名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔法。
「――〝錬成〟!」
石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。
ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。
ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。
そしてその角に鎌を当て、ギミック発動。すると…
「グルァァァァ!?」
ものの見事にスパンと一発。本当に誰だよこのアーティファクトがそこまで重要じゃないっつったの。ただのチート武器じゃねぇか。
その間に、メルドは回復した騎士団員と香織を呼び集め、⑨達を担ぎ離脱しようとする。
トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。
「待って下さい! まだ、ハジメちゃんと新くんがっ!」
撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。
「ハジメの作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろんハジメ達がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間にハジメ達が帰還したら、上階に撤退だ!」
「なら私も残ります!」
「ダメだ! 撤退しながら、香織には⑨を治癒してもらわにゃならん!」
「でも!」
なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。
「二人の思いを無駄にする気か!」
「ッ──」
メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく⑨、次点(多分)で私である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら⑨を回復させる必要があるのだ。ベヒモスはハジメの魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。
「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」
香織は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が⑨を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。
メルド団長は、香織の肩をグッと掴み頷く。香織も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続けるハジメともう一本も切り落とそうとしている私を振り返った。そして、⑨を担いだメルド団長と、雫と龍太郎を担いだ騎士団員達と共に撤退を開始した。
トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。
だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。
それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達のおかげだろう。彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。
騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。
生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……
「──〝天翔閃〟!」
純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。
橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。
「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」
そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。⑨が発するカリスマ(笑)に生徒達が活気づく。
「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」
皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。
いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法だ。リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果はばつぐんだ。
治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。
治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。
そして、階段への道が開ける。
「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」
⑨が掛け声と同時に走り出す。…おっと急に暴れだすなよ謎の意識操作で解説中だぞお前。
…ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。
そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせじと光輝が魔法を放ち蹴散らす。
クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。
「皆、待って!ハジメちゃんと新くんを助けなきゃ! ハジメちゃんと新くんがたった二人であの怪物を抑えてるの!」
香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。なにせ、ハジメは〝無能〟、私は〝豆腐〟(自称絹ごし)で通っているのだから。
だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにハジメと私の姿があったことだろう。
「なんだよあれ、何してんだ?」
「あの魔物、上半身が埋まってる?」
「角も無くなってる!」
次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。
「そうだ!ハジメ達がたった二人人あの化け物を抑えているから撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐハジメの魔力が尽きる。アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」
ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。
無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。
「新君!次錬成をしたら魔力が切れる!」
「…了解。錬成したらすぐに下がれ。私も追う。」
「わかった。〝錬成〟!」
……さて。
そろそろ、かな。
私が出した結論。
今日までずっと悩んできたこと。
それはハジメを奈落に連れていくかどうか、だ。
その結果だが…
連れていかないことにした。
理由は簡単。
ただただ情に流されたのだ。
ゲームでは、正直なところ目的のために仲間を見捨てたり、裏切ったり、囮にしたり……かなり極悪非道な行いをしてきた。
しかし、現実となるとやはり訳が違う。当然だ。
現在のハジメは別に恨まれてはいない。そのポジションに私がいるからだ。
だから、私がいなくなっても…
「〝太陽落下〟」
「な…!?」
唐突に檜山のものらしき詠唱の声がした。
そして…
「……はっ。すげえな。」
天井が、紅く染まる。
いや、染まった訳ではない。
しかも魔方陣を展開していない。…いや、よくみると純金に近い色の紙を持っている。
一発使いきりだろうか。純金の紙は一瞬のうちに燃えて無くなった。
……となると魔法解除も不可能か。
…着弾まで推定30秒、致死量の熱が届くようになるまで推定25秒。
とてもじゃないが橋から離脱できる時間じゃない。
となると、残りは…
…ハジメは、ぼーっと上を見上げている。このままにしろ我を取り戻し階段に向かうにしろ文字どおり消炭すら残らないレベルで焼かれてしまうだろう。
ここで、生き残る手段はひとつ。
「ハジメ。」
「───」
「…悪いが、少々賭けに出るぞ。」
「…ふぇ?…ちょっ、新君!?」
「…すまない。少しでも生き残る可能性がある選択肢をとりたいんだ。」
そして、橋から飛び降りる。
すでにかなりの熱で所々火傷しているが、アドレナリンのせいか痛みは無い。
「さ、後は神………は信用できないから仏にでも祈るだけだ。」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
time 367:59:59:999
今、ハーレムメンバーをガチ病みさせるか悩み中。
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全員ガチ病みさせる
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全員ガチ病みさせない
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勇者パメンバー勢だけガチ病みさせる
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奈落後メンバー勢だけガチ病みさせる
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そんなことより作者過労だ(殿堂入り申請中)