なぜなら今日は、水曜日   作:藤涙

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第1話

その姿を一目見た時、例外なくその場の人間は感嘆の溜息を吐いた。

 

ショーケース、硝子の棺に納められた体は、まだ未発達な子供のようだ。16、あるいは17歳かそこらだろう。胸部や臀部に肉のついていない体は男のもの。頭部には限りなく白に近い鈍色の髪は軽くウェーブを伴って顔の輪郭を覆っている。

顔立ちは────綺麗だ。美しいでも、可愛らしいでもなく、そんな感想が浮かぶ。自然のものでは無い、人の手が加わった創造物。すっと通った鼻梁も、形の良い淡い色の唇も、肉の薄い頬でさえ綺麗だ。閉じられた瞳には長い睫毛が。その瞳はいったい、何色なのだろうか────そう考えられずにはいられない、至高の“ドール”。

 

「さて、こちらが最後の商品になります」

 

壇上に上がっていた人間が、ざわめく観客に向けてそう声をはりあげた。

昔は上流階級の人間が踊る、ダンスホールだったのだろう。品のいい装飾に彩られた広い円型の会場に、異形の人間達が居座っている。おおよそヒトの範疇にないような者ばかりだ。纏う雰囲気はどこか粗野で、会場の空気は澱んでいる。堅気の者なら一瞬で目を背けて立ち去るであろう。

 

俗に言う、ヴィランと呼ばれる者たちだ。

 

「さて、それでは。値は1000万から始めさせていただきましょう…!!」

 

なるほど、と。

“彼”は薄目を開けた。

 

起きてはいけない。だが眠ってもいけない。

 

薄闇の中。蝋燭の灯火。数多の異形。

 

なるほど面白い、酔狂だ、これでこそ人間だ。

 

指先が濁る。頬が透き通る。心臓が揺らめく。

 

久方ぶりの覚醒に、どこか思考がぼんやりしている。ああ、ほら。よく人はプールだとか、飛行機で空を飛んでいるときに、耳がぽーんとするとかいうだろう? あんな感じだ。

と言っても、自分はプールの楽しさはよくわからないし、飛行機に乗ったことはない。撃墜したことはあるが。

 

1000万、故人の肖像画が描かれた1000枚の長方形の紙。通貨、貨幣。現代における財の象徴。物や財、サービスとの交換に使われる概念。

つまりこの、オークション、だったか。人間のやることなすことは度し難くわかりにくい。理解し難い。よくわからない。そのオークションで、この体は1000万から競売にかけられる、ということだ。

いっせんまん、いちぜろぜろぜろ、ミリオンの次。この体を作ったパトロンの努力や苦労、そして払った犠牲を鑑みれば、少し安い気がする。つり合わない。

 

つまり、安く見られている?

 

人の真似をして、よくやるように首を傾げた。競売は白熱している。どんどん値はつり上がっていく。舞台はものすごく揺れているので(会場に巨人のように大きい男がいる、自分の手が届かないほどに値が上がったのが悔しいらしく足踏みをしている、不思議だ)、人形がひとりでに動いているとは思わないだろう。

 

 

 

 

「─────1億だ」

 

 

 

 

微睡むように、うつらうつらと、午睡をしているような日々だった。

ぼんやりと視る。夢とうつつの境を彷徨う。みずのなかを、たびするように。

 

声が止む。ざわめきが走る。いちおく、紙が1億枚出す、と言ったのはまだ若い男だ。予測によると、うーん。20歳かな、それくらい。身長は、175? 。多分間違ってない。最初の二つは捕縛目的、途中の四つは破壊のために、最後の一つは情報のために造られて、自分は真ん中だから。そういう把握能力はテキトーに造られている、らしい。

 

人形が入ったショーケースは、舞台裏に移される。

買い手と商品のご対面。ガラスの蓋が開けられる。酸素濃度が一気にあがる。

ちょっと息苦しかったから助かった。

 

買い手の若い細身の男───側まで寄ると顔を掌の模したマスクで隠しているのがわかった───の隣には顔が無い男が佇んでいた。

 

無い、というか。ぼんやりと黒くもやがかっている。不思議だ、不思議。人類約70億、“個性”と呼ばれる特殊能力が芽生えた八割も、芽生えず進化に置いていかれた残りの二割も、人形こそを不思議と思うだろうが。

 

 

肩に手をかけられる。

 

午睡から目覚める。

 

微睡みの時間は終わりだ。

 

そろそろ起きなければ、

 

 

「───なぜなら今日は、水曜日」




つづくといいなあ………

水曜日(Wednesday)くん 1話時点でのプロファイル
灰色に近い白髪。綺麗な目鼻立ち。16〜17歳くらいの見た目。
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