ピジョン・ブラッドの煌めき   作:月見 栞

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梨子ちゃんとルビィちゃんの、ちょっとしたお話です。
よしなに。


(1)

「ーーもっとギルティな新曲?」

「そう! 今までのGuilty Kissに無い、最っ高にハイでギルティな新曲が必要デース!」

 昼下がりの内浦は、目が眩む程の陽光に照らされている。

 その太陽と張り合えるのではないかと思える程に活発で騒がしい鞠莉ちゃんは、いつも通り大袈裟なジェスチャーと共にそう提案してきた。

 

 夏休み真っ最中で、地区大会も終わった今。

 私たちAqoursは、一度ユニットでの活動に注力してそれぞれの個性を伸ばしていく方針で日々活動していた。

 私の所属するGuilty Kissは、メンバーに鞠莉ちゃんがいるのをいいことに毎回理事長室で打ち合わせをしている。

 鞠莉ちゃんの突然の提案にうろたえる私をよそに、理事長専用の大きな椅子に偉そうに座っていた善子ちゃんはいつものポーズを決めつつ口を開く。

「良いわね……リトルデーモン達を問答無用で最高潮まで高めるブチ上げ曲ってことでしょう? 最高じゃない!」

「で、でも、既に盛り上がる曲はあるんじゃ……Strawberry Trapperとか、盛り上がる曲でしょう?」

「ノンノン!」

 チッチッチッ、とわざわざ口に出して人差し指を左右に振る鞠莉ちゃん。

「確かにStrawberry Trapperは最高にハードでギルティな私達の切り札よ。でも、あの曲はロック調で人によっては音がヘヴィでしょう?」

「音が重い……確かに、私も最初に聞いた時はちょっとびっくりしちゃったかも」

 そう。Strawberry Trapperは慣れれば気分の高揚する熱く格好いい曲だけど、ロックに慣れてない人にとってはちょっと重い。あの重さが苦手、という人もきっといるだろう。

 だーかーら、とひとつひとつ音を伸ばしつつ鞠莉ちゃんはホワイトボードへと歩み寄る。

「次の新曲のテーマは、コレ!」

 手早く3文字を書き、バン!とホワイトボードを叩く鞠莉ちゃん。

 その3文字はーー

「えっと……EDM?」

「イエース! エレクトリックでダンサブルなミュージック! そこに私たちのギルティを足して、誰もが思わず身体を揺らしてしまうような曲を作るのデース!」

 びし、と人差し指をこちらに向けてくる鞠莉ちゃんについ気圧される。

 EDMーー知識としては一応知っているけど、私の趣味や性格からは程遠いジャンルの音楽だ。いや、それを言ったらそもそもGuilty Kiss自体が私の性格から程遠いんだけど。

「賛成! そしたら、振り付けも真似しやすいやつにしましょう? それで、テンションの上がったリトルデーモン達と一緒に踊るの! 会場中がGuilty Kissに堕天するのよ!」

 善子ちゃんが椅子から立ち上がって鞠莉ちゃんに賛同する。この2人は波長が合うのか、割とこういう会議をしてる時に意見が噛み合う。

 そして私がひたすら振り回されるのだ。悲しい。

「ナイスアイディアよ善子! ライブ会場を私達の曲でダンスフロアにしちゃいましょう!」

「勿論よ! 一発で私たちの色に染め上げてーーってだから私はヨハネよ! アンタわざとやってるでしょ!?」

「Oh, sorry? I can't speak Japanese!」

「嘘つけーっ!! 今の今まで喋ってたでしょうがーっ!!」

「あ、あの、2人とも? 私、そもそも全然そういう曲聴かないんだけどーーいきなりEDMなんて言われても、作れるかどうか分からないよ?」

 またいつもの如くわちゃわちゃと騒ぎ出した2人に制止をかける。忘れられているような気がするけど、作曲するのは私なのだ。

「大丈夫! 梨子なら出来るわ!」

「もう……何を根拠に……」

 毎度毎度押し切られるのも癪な私は、少しだけ抵抗を試みるけれどーー

「? だって、Strawberry Trapperの時だってやれたでしょう?」

「それは……そうだけど」

 さらりと、鞠莉ちゃんは根拠を出した。

 確かにあの曲を作るときも最初は大層苦悩したけれど、最終的には良い仕上がりになったと自負している。

 でも、だからといって2度目があるとは限らない。不安には変わりないのだ。

「そうよリリー、貴女にはGuilty Kissに相応しい曲を作る才能があるのよ! この堕天使ヨハネが保証するわ!」

「いや、それはいらないかな……」

「なんでよーーっ!!」

 相変わらずよく分からない堕天使ノリで絡んでくる善子ちゃんを軽くいなす。ちょっと悪いけれど、私は今頭が忙しい。

「まぁ、とにかく! 食わず嫌いはノンノン、だよ梨子?」

 ドヤ顔でウィンクを決めつつ鞠莉ちゃんはそう言った。

 食わず嫌い。確かに、そうかもしれない。

 折角スクールアイドルになって、こうして自分の性格からかけ離れた方向性の音楽に触れる機会を得たのだから、やってみても良いのかも。

「オーバーテイク、してきましょ?」

 そんな私の気持ちの変化を表情から読み取ったのか、お茶目にウィンクをしてくる鞠莉ちゃん。

 ああ、結局今回も乗せられちゃったーー。

「はぁ……全くもう、調子いいんだから」

「テヘペロ☆」

 少しの恨めしい気持ちを込めてそう言ったけれど、返ってきたのはより一層おちゃらけた言葉と表情で。

 

 ため息をつきながら席を立つ。

 時間も程よく、話もまとまった。今日はお開きだ。

 

 帰りのバスの中でぼんやりとEDMの代表的な曲を動画サイトで眺めていると、鞠莉ちゃんからメールが入った。

 鞠莉ちゃんの持っているお気に入りのその手のジャンルの曲がいくつか添付されている。

 身勝手なようで、見えないところで気を回す。面と向かえば意地でもふざける。

 

(全くもう、本当にーー不器用な人なんだから)

 そんなことを心の中で呟いて、私は早速曲を聴き始めた。

 きっと良い曲を作って、2人をびっくりさせてあげようと誓いつつ。

 

 

 

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