ダイに大転生   作:液体クラゲ

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11 魔王軍総攻撃!!!

 ゴリラ呼ばわりは、実際、それほど嫌なワケではなかった。

 脳筋ぶりに対する揶揄、ただの軽口である。深刻に受け取る方がどうかしていよう。

 周りのアホどもだって冗談で言ってるんだし、俺も冗談で殊更に嫌がってみせていただけだ。

 

 だが本当にゴリラになってしまった。ウホウホだった。

 ザボエラ……ザボエラの呪いで……!!! しかも術者を殺すと呪いが解けないだと!?

 

 俺は絶望した。

 絶望して、バルジの塔から身を投げた。

 別段、今更この程度の高さで死なないのだが、衝動的な行動だった。

 

「ダイ君! ダイ君!!!」

 

 声がする。

 呼び声がする。

 

 ふと見ると、バナナが俺にしがみついて、一緒に落ちていた。

 人間くらい大きくて、美味そうなバナナだ。

 まだメダパニ続いてるのかよ。全てがバナナに見える。何ならバルジの塔もバナナの塔に見えてる。

 

「ウホホ」

 

 レオナ、と心の中で名を呼んだ。

 メダパニが解けた。

 なぜか妙に服の肌蹴たレオナがそこにいた。

 いや本当、何でだろうね? 本当にね。

 

「ごめんダイ君、止めようと思ったんだけど!」

「ウホッ……」

 

 一緒に落ちてりゃ世話ないわ。

 俺はいい。落ちても、俺は死なない。傷ひとつ付かない。

 だがレオナは。

 

「ウホオオオオオオオオオオオオオ」

 

 俺は気合を入れた。

 片腕でレオナを引き寄せ、ぐっと抱き締める。

 

「ウホオラァ!!!!」

 

 そして逆の手で下向きに拳圧を放ち、反動で――浮く!

 まさにトベルーラ!

 あとはまた落ち始めるが、もう数回そうやってブレーキをかけてやれば、安全に着地ができた。

 

「うーん、ウケルーラってところじゃないかしら」

 

 トベルーラだっつってんべ!?

 

「そんなことより大丈夫? 怪我はない?」

 

 こっちのセリフなんですけど。

 

 ふと塔の上階――寸前まで俺たちがいた場所から、爆発音が響き、炎熱の余波などが飛び出してくる。

 

「大丈夫かしら……。ダイ君の仲間でしょ? あのやたら顔色悪い男」

 

 ハドラーの顔はそれが地だよ! 魔族の肌色だよ!

 

「半分凍って半分燃えてる鎧を着た人も、あれ大変そうよね」

 

 フレイザードのそれは鎧じゃないよ! 本人の体だよ!

 そういやアイツある意味全裸なんだな。

 

 あっ俺も今は全裸だわ。ゴリラだから。

 服じゃない背嚢くらいか、そのままなのは。ブラスじいちゃんが入ってる魔法の筒もその中だ。

 物凄い解放感ある。

 

 しかもそれでレオナを抱き上げてるんだぜ!?

 心臓バクバクもんだよ。ウホッ。

 

 ともあれ、俺は塔から離れる方向に走り出した。

 

「ダイ君!? どこ行くの!?」

 

 いや、まずはレオナを逃がそうと。

 何しろ、あそこはもう戦場だ! 殺し合いをするところだぜ。

 強い奴が生きて、弱い奴は死ぬんだよ!

 傷つけたくないなら、戦場に連れて行っちゃいけないんだ……!!

 

「ダメ! 戻りましょう。王女のわたしがいれば、兵士や三賢者の士気も上がる……! それにダイ君、あなたの力が必要なハズ」

 

 かも知れないけどさあ。

 

「見せてよ。本当のトベルーラ」

 

 しょうがないにゃあ……。

 俺は塔から離れた距離を助走に使って――跳んだ!

 

「ウホーッ!!」

「凄いわ、ダイ君! 気球船より、ずっとはやい!!」

 

 やめて!!!!!!!!!!!!

 

 ともあれ、蹴りの圧で更に身を浮かせ、空中を駆け抜けてバルジの塔の上階に戻った。

 

 エイミさんは既に倒れ、その傍らにゴメちゃんがいた。護衛のつもりか。

 ハドラーとフレイザードもズタボロだ。

 

 ポップはともかく、元魔王軍のふたりがいてザボエラひとりに苦戦するとは思えなかったが――然もありなん、敵が増えているではないか!

 元々いたザボエラに加えミストバーン、更にバランまでもが……!

 

 ハドラーが呻いた。

 

「ダ、ダイ……逃げろ……! バランはヤバい!」

「オレも年貢の納め時ってやつかね……」

 

 フレイザードも諦めムードだ。

 ポップはそのフレイザードを盾にしていた。姑息だ。

 

「ふん! ワシが手柄を独り占めしようと思ったのに……!」

「何か言ったか? ザボエラ」

「何でもございません」

 

 ザボエラってバランには敬語なんだよな……。一応同格なのに。

 バランが剣を突きつけてくる。

 

「勇者ダイ! ザボエラ如き小物の呪法でゴリラに成り果てるとは、何とも見下げたものよ。しかし容赦はせんぞ……! 人間は滅ぼす! まずは貴様らからだ……!」

「ウホッ……?」

 

 こいつ、俺がディーノだって気付いていない……?

 デルムリン島での戦いの情報が、魔王軍内で共有されていないのか? まあ黒の核晶(コア)を部下に埋めてた情報も含むから、共有できるワケないのか。

 

 俺は気合を入れた。

 

「ウホアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ」

 

 あのバナナの木を薙ぎ倒したハドラーへの殺意!

 怒りが底力が呼び起こす……!

 ヒィィィン。額に(ドラゴン)の紋章が輝いた。

 

「なん……だと……」

 

 バランは愕然とした。

 

「私の生き別れの息子が――ゴリラになっているだと!?!?!?」

 

 パパ~。

 

「その姿でパパと呼ぶなあああああ!!! まるで私までゴリラのようではないか!!!」

 

 ゴリラ語分かるのかよ。キモッ。

 

「息子にキモいと言われた……」

 

 バランは膝から崩れ落ちて泣いた。男泣きだった。

 

「む、息子じゃと……!? 勇者ダイが竜騎将バランの!?」

「……」

 

 ザボエラは驚愕し、ミストバーンは焦りの空気を出した。

 黒の核晶(コア)の件を隠した結果じゃないの!? うっかり伝達忘れなの!?

 

「ソアラ! ソアラああああああああああああああ」

 

 バランは泣きながら撤退。完全にメダパニ状態だわこれ。

 それを追って、ザボエラとミストバーンも消えていった。

 

 勝った……!!!

 と、そこで、片腕で抱いたままのレオナが。

 

「敵がいなくなったわ……! バシルーラよね?」

 

 最早かっこ物理ですらないと思うんですけど。

 

「まあそれはいいとして、ダイ君」

 

 なんすか。

 

「あたしも何言ってるか分かるんだけど……。キモいの???????????」

 

 えっ。

 あ、いや。

 決してそんなことは……!

 はい。

 ね?

 

「しばらくバナナ禁止ね」

 

 俺は膝から崩れ落ちて泣いた。男泣きだった。

 


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