ダイに大転生   作:液体クラゲ

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4 善と悪の狭間で

 いきなり島の皆が狂暴化したので、軽く撫でて昏倒させ、この日のためにクッソたくさん作っておいた縄で拘束していく。

 呪文を使う奴は、経穴(けいけつ)を突いて呪文も封じた。正拳突き祭で『心身をどう弄ればどうなるのか』の悟りを開いてしまってから、なんか出来るようになった技だ。点穴(てんけつ)ってやつ。まあ秘孔(ひこう)だ、要するに。

 

 しかしこれは対症療法に過ぎない。狂暴化そのものは魔王の邪悪な意志による外因性の現象で、皆の体の方をどうこうしても限度があるのだ。

 アバンが来てくれればいいのだが……。

 

「じいちゃん! 何か手はない?」

「う、うう……ダイ……! に、逃げろ……!!」

「いやそれ以外で」

 

 この島捨てて逃げるとかあり得んわ。

 

「この感じは……ワシには分かる! 魔王が復活したのじゃ! このままでは、ワシらはお前を殺してしまう……!!」

「物理的に無理じゃない?」

「……まあの……」

 

 ガチで島全部を纏めて相手にして無傷で圧勝できるからね。

 しかしブラスじいちゃんは苦しそうだ。必死に抵抗している。

 

「し、しかし、だとしてもじゃ! お前を攻撃しようとすること自体、考えることすらおぞましい! 早く……ワシが耐えられるうちに!」

「ブラスじいちゃん……」

 

 体が傷付こうが傷付くまいが、確かに、攻撃されれば心は傷付く。そしてじいちゃんの心も、攻撃しようとすれば傷付くのだ。

 まあ俺は鋼の心を持ってるから、普通にじいちゃんを昏倒させるけどな。

 

「アバーッ!?」

 

 更に縛って、呪文封じの点穴も施して――と。

 そこでふとゴメちゃんが頭に止まった。

 

「ピィ?」

 

 力を貸そうか、と?

 

「いや、もうちょっと粘ってから……。助けが来るハズなんだ。もし運命ってモノがあるんならな。もしそうなりゃ、お前は縮まり損になっちまう。今は力を温存してくれ」

「ピィ!」

 

 とうとう全ての怪物(モンスター)たちを拘束し終えると、あとはまあ準備をして、海岸で三角座りをして待った。

 そして運命はあった。

 小舟がやって来たのだ。

 

「君がダイ君ですね。初めまして、私はアバン」

「おれは弟子のポップ」

「ダイです」

「この状況は……」

 

 アバンは目を丸くした。

 そりゃ全員綺麗に昏倒して拘束されてりゃね。

 あまつさえ、島全体を覆う五芒星魔法陣も先に描いておいた。手間が省けていいと思って。

 

「予知能力者ですか?」

「いいえ」

 

 釈然としないながらも、アバンはマホカトールを使ってくれた。

 そしたら今度は、皆の縄を解いて、点穴を解除して、軽く撫でて目を覚まさせていく。

 

「これだけの準備能力と特技を持つダイ君に、今更私が何か教えることがある気はしませんが……」

 

 レオナに頼まれたそうだ。呪文を使える立派な勇者にしてやってくれと。

 メラもイオラもベギラマも使ってみせたのに……。全部物理だけど。

 

 と、そうこうする場にガーゴイルが2匹襲来してきた。

 ポップがメラゾーマで1匹を焦げカスにし、もう1匹のマホトーンで無力化させられる流れを挟み、今度は俺が相手をすることになる。

 

 だがちょっと待ってほしい。怪物の皆って魔王の邪悪な意志に操られてるワケでしょ? じゃあ殺すの可哀想じゃない? 俺はそう思った。

 そこでガーゴイルをアイアンクローで掴むと、マホカトール結界へと引き摺っていく。

 

「小僧! 放せえー!!」

「違うだろ! お前が放せって言うべきは、魔王の邪悪な意志に対してなんだ! 待ってろ、今俺が助けてやるから!!!」

 

 ガーゴイルの剣を肉体強度任せで跳ね返しながら引き摺る。

 まず俺が、結界の外から中へと戻った。

 そして引き摺られるガーゴイルが、

 

「うぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 結界に引っかかった。めっちゃバリバリいってる。そういえば、さっき襲ってきた時もそうだったよね。

 うーん、邪悪な意志が強いせいかな? 島の皆は狂暴化してたけど、こいつは自我のある『兵士』だもんな。

 それでも結界の内側にさえ入れてしまえば! 俺はもっと引っ張った。

 

「やめ、やめてえええええ死んじゃうううううう!!! ごめんなさい!! ごめんなさいいいいい!!」

「うるせえオラァ!!!!!!!!!」

「ぬわーーっっ!!」

 

 ガーゴイルAは生きて結界を通り抜けられず、焦げカスになって死んだ。

 俺は膝から崩れ落ちた。

 

「こ、こんな……こんなことになるなんて!!! すまない、すまない……!!! お前の心を、取り戻せないばかりか……命まで……っ!! うおおおおお……っっ!!!」

 

 俺は泣いた。男泣きだった。

 

「ダイ君……」

 

 アバンがそっと肩を叩いてくる。

 

「今のガーゴイルは、もともと邪悪な魔物ですよ」

「先に言えや」

 

 泣き損じゃねーか。

 ぺっ。焦げカスに唾を吐き、足蹴にする。

 

 ともあれ、アバンに修行をつけてもらうことになった。

 


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