ダイに大転生   作:液体クラゲ

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5 勇者の家庭狂死

 そして厳しい修行が始まった!

 アバン流牙殺法(鉄の爪とかのやつ)を素手で極め、メラゾーマとザオラルを覚えるのに1日もかかってしまった。

 

「ダイ君……もう君に教えることは殆どありません」

「まだ呪文2個しか使えないんすけど」

「言っておきますが、地面を殴りつけて地下のマグマ溜まりを刺激し、火山の噴火を引き起こすことをメラゾーマとは呼びません」

「マジで? 困るすね」

 

 それじゃ俺メラゾーマ覚えてないじゃん。

 

「それとその光景にショックを受けて心臓が止まったブラスさんを救った心臓マッサージ、実に見事な技術でしたが、あれもザオラルとは呼びません」

「そっかあ」

 

 危うくじいちゃん不孝者になるところだったよね。

 マジで危なかった。心肺蘇生、みんなも習っておこう!

 

「でも待ってよ先生、じゃあ俺呪文1個も覚えてないんじゃないすか。まだ教えること幾らでもあるでしょ」

「君に魔法力はないようです」

「マジで? 困るすね」

 

 転生者だからかな?

 ギガブレイクとかやりたかったんだけど。

 まあいいか。

 

「しかし君ほどの実力があれば、呪文が使えない程度は何てこともないでしょう。あとは旅や冒険の心得を少し学べば充分です」

「やったあ」

 

 旅や冒険の心得を学んだ!

 知らない人にはついていっちゃいけません、とかね。

 ぼったくりには気を付けよう、とか。

 手早く美味しい野外料理、とか。

 

 そんな感じで3日目。

 突如として大気が鳴動し、地震が巻き起こる。

 

「これは何者かが島の魔法陣を破ろうとしているのです!」

 

 マジかよ。

 思っている間に、ローブを纏った怪しげな人影が上空に出現した。

 下りてくる――ズドン!!! そいつは地面に着弾し、隕石めいてクレーターを作った。

 衝撃波と土砂が吹き荒れる。

 

「やはり復活していたか……! 魔王ハドラー!!」

「久しいな、勇者アバン……!!」

 

 ふたりは知り合い的な空気を出している。

 だが俺には、そんなことはどうでも良かった。

 

 バナナの木が!!!!!!!!!!

 レオナを助けたお礼にもらったバナナの木が、ハドラー着地の衝撃で何本も薙ぎ倒されて!!!!

 

「あ、ああ……うあああああ……!!!」

 

 俺は膝から崩れ落ちて泣いた。男泣きだった。

 

「ふん、恐怖に屈したか……」

 

 ハドラーが何か言っている。

 おのれハドラー!!!!!! ちくしょう絶対ゆるさねえ!!!!!

 

「うおおおおおおおおーーーーーーー!!!!!」

 

 俺は吼えた。

 なんか視界が明るい、て言うか眩しい。額でめっちゃなんか光ってる。ヘッドライトかよ。

 だがそんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。

 

「俺は怒ったぞーーーーーー!!!!! ハドラーーーーー!!!!」

「何だこいつ急に!?」

 

 ハドラーは鼻水を垂らした。

 しかしすぐに威勢を取り戻す。

 

「ガキめが! 怒ったから何だと言うのだ!! このオレを倒せるとでもどぅぶっはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 とりあえず腹に正拳突きで風穴を開けた。

 膝をついたので、ちょうどいい高さに来た胸にも手を突っ込む。

 内臓をまさぐった。

 

「あぎゃがあああああああああああ!!!?!?!?! やめっ、やめげべべ、がはッぐふっ!!! おがっ、おがががが……!!!!!」

「ヒエッ」

 

 後ろでポップがビビっているが、知ったことではない。

 俺は内臓でも骨でもない硬質な非生物的感触を探り当てると、それを一気に引き抜いた。

 怒りに任せて殺そうと思ったけど、まずこれを処理しないとね。

 

「げえっ!!! まさかそれは……黒の核晶(コア)!? なぜオレの体内に……!!!」

「黒の核晶ですって!?」

「知ってるんですか、先生!」

「古い文献で読んだことがあります……! 魔界の超爆弾! 魔法力を無尽蔵に吸収する鉱石を使うため、その威力は想像を絶すると!」

 

 黒の核晶が作動を始めた。

 どうやらバーンがこの状況を監視していたようだ。

 知らんけど水晶玉に映すとか、なんかそういう遠見的な術だろう。

 

「小僧、それを捨て――いや捨てても意味など! バーンさま、なぜ、なぜオレにこんな……!!! うわああああああああ!!!」

 

 ハドラーが鼻水と涙と尿を垂らした。

 

 俺は気合を入れた。

 それはもう気合中の気合だった。

 額に輝くなんかヘッドライトみてーなのから、まるで無尽蔵かと思うほどに力が湧いてくる。これ竜闘気(ドラゴニックオーラ)じゃない?

 

 俺はその闘気を収束して、黒の核晶を押さえ込み――

 

「バリムシャア」

「核晶を……喰ってる……!!!」

 

 皮ごと食べた。

 美味しくなかったです。

 

 ともあれ、危機は去った。

 ついでに核晶に溜まっていた魔法力を吸収できたらしく、体内に新しい力が漲っているのを感じる。

 

「先生! これで俺も呪文が使えそうすよ! 教えてください!」

「ええ……。しかし明日にしましょう」

 

 明日になった。

 アバン先生はいなかった。

 探さないでください、と書かれた手紙だけが残っていた。

 

「お前強過ぎてキモいからな。先生も心が折れたんだろう」

 

 ポップはそう言った。

 

 ともあれ、バーンを倒すため、アバン先生を探すため、旅に出ることになった。

 

「行くぞ、お前ら! 俺たちの冒険は、ここから始まる……!!」

「ピィー!!」

「たぶんお前の傍が世界でいちばん安全だしな。ついてくよ」

「オレに黒の核晶を埋め込むなど……!! バーン赦すまじ!!!! オレも行くぞ!!!!」

 

 ポップが仲間に加わった!

 ハドラーが仲間に加わった!

 俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ!!!

 

 まあバナナの木の恨みは忘れてないけどな。

 黒の核晶の件は可哀想だから、点穴で再生促して助けてやったけど……。

 次になにかしたら殺す。

 


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