「キィ~ッヒッヒッヒ! この妖魔司教ザボエラの手にかかれば、マホカトールの結界をすり抜ける程度は造作もないこと……! さあ、鬼面道士ブラスよ! ワシと共に来てもらおう!」
その方向には誰もいない。
「ってバカな!? 勇者ダイの育て親がいないじゃと!? サクッと人質兼兵士に変えて、クロコダインにダイを攻略させる策が……! いったいどういうことなんじゃあ!!」
なお『サクッと』は『策』とかかっているダジャレである。
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「――ってゆー感じに、今頃なってると思う」
ロモスの宿屋で、俺はポップとハドラーに言った。
マァム? ネイル村を守ってるんじゃない?
「なるほどなあ。それでブラスじいさんを魔法の筒に入れて……」
「確かにザボエラがやりそうなことだ」
ブラスじいちゃん入りの魔法の筒を磨きながら、だ。
中は狭いこと以外は結構快適で、腹も減らないらしい。
筒から出すと魔王の邪悪な意志に操られちゃうから、ここでは出せないんだけど。
そこでポップが疑問を持った。
「でも島には他の
「いやー意味ないだろ、みんなが狂暴化した時って、マジで狂暴化して同士討ちしてたもん。あれじゃ人質にも兵士にも適さないよ。それは先方も分かるんじゃないかな」
まあ希望的観測だが。
言うて全員を冒険に持ち運ぶには、魔法の筒が足りないし。そこは仕方ない。
「ピィー」
「いやゴメちゃんの力で魔法の筒増やすのもね……。微妙なところだけどさ」
クロコダインに使わせることを考えると、やっぱり誰か1体が限度だろう。
そしてそれなら、ブラスじいちゃんほどの適任はいない。で、そのブラスじいちゃんがいないのだ。
ザボエラが諦めてくれることを祈ろう。
ともあれ、翌日。
「出て来いダイ!! さもなくば――ロモス王国は今日で壊滅だ!!!」
朝っぱらからクソデカい声で叩き起こされた。
この声はクッコロダイン……!!
俺は窓を開けて叫んだ。
「俺はここだーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
口の中で音波を無数に反射させて指向性を高め、上空に向けた大音声は、空飛ぶ百獣魔団の三半規管を揺らしに揺らして、地上に墜落させた。
「ぐわああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
ガルーダに掴まれたクロコダイン(全裸ではない)も墜落した。
ちょうど宿屋の前の通りだ。
「ポップ、ハドラー、雑魚を頼む。俺はあのワニに引導を渡すから」
「えっ、別行動? やだよ、お前の傍が世界一安全だから、おれはついてきたんだぜ」
ポップが不平を述べた。
「お前にとってだけ世界一危険な場所にするのもヤブサカではないんだが」
「この大魔法使いポップに任せろっ!!」
ポップは飛び出していった。
「オレが人間を守ることになるとはな……!」
ハドラーも晴れがましい顔で飛び出していった。
雑魚を頼んでおいて何だが、何でこいつ味方ヅラしてやがるんだ。
まあいいか。俺も宿屋を飛び出した。
「クロコダイン!!!」
「来たか、ダイ!! どうやら、オレはお前に敵わない……だが勝たねば誇りを守れん!! コイツを使わせてもらおう……!」
あれは魔法の筒!
結局誰か攫われてきてしまったのか。
いったい誰が……!?
「出でよ! デルパッ!!」
煙と共に出てきたのは――木だった。
木の魔物、ウドラーだとか、そういう意味ではない。
それはバナナの木だった。
ハドラーに殆どが薙ぎ倒された中で、唯一無事だった最後の1本!!!!
あ、ウドラーとハドラーって似てるな。とか考えてる場合じゃない!
「コイツの命が惜しければ、抵抗はやめるんだな……! ダイ!!」
「あ、ああ……うああああ……!!!」
俺は膝から崩れ落ちて泣いた。
コイツを見捨てることはできない! ヤバい! 勝てない……!!!
だが俺が死んだところで、コイツを元通りに島に植えてくれるワケでは……いやでも、だからって……あああああああああああああああああ!!!!!!!!
「本当にキモいくらい効くな……。なぜこんなモノが……。まあいい。動くなよ……」
クロコダインは左手でバナナの木を持ち、いつでも握り潰せる体勢。
そして右手の真空の斧を振り上げ、力を溜め――全力で俺に振り下ろした!
俺はバナ次郎を犠牲にはできない。レオナとの友好の証を……!!
だがここで俺が死んだら、散っていったバナナたちに申し訳が立たない……!!
ならばクロコが諦めるまで、身を固めて防御だけし続けてやる!!
俺は覚悟を決めた。
「さらばだ、ダイーーーーーーー!!!!!!!!!」
俺の頭に真空の斧が直撃した。
そして斧は守備力の高さに負けて爆発、反動で無数の破片がクロコの方に跳ね返った。
「ぐわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
破片の散弾は、ワニの鎧を穿ち、肉を貫き、骨を爆ぜさせ――
クロコダインは粉々に砕け散った。
原形を残しているのは、斧を持っていた右手と、バナナの木を握っていた左手、そして物凄い形相の頭部だけ。
それらが血肉の海に落ちている。
俺はそっと彼の目を閉じさせた……。