【番外編】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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yuuさんへのお礼として書きました。
お礼として書いた文なのでだいぶ偏ってます。







Express Train to Hell_前編

タタン、タタン、音がする。

不規則に、でも歪ではないリズムで。

汽笛が、なる。

 

 

 

 

 

 

 

その日ダニーの一日は嫌な言葉を耳にすることからはじまった。

 

「交通事故がおきた?」

 

同僚の言葉に、何を言っているんだとわかりやすくダニーは顔を顰めた。

 

「本当なんだって!!轢かれたんだよ!!電車に!!」

 

同僚は慌ててダニーの言葉に被せる。彼もダニーの反応はわかっていた。コンクリートで作られたこの地下研究所に、電車が通るなんて夢みたいなことだ。

ダニーは皮肉に笑いながら、廊下のコンクリートの隙間を靴のつま先でなぞる。

 

「じゃあなんだ?この線は線路ってことか?」

 

意地悪く笑うダニーに同僚はかっと怒りが込み上げるのを感じた。

喉元まで怒声が出てきたが、それを何とか押し込んで顔を逸らす。不機嫌に彼はダニーから離れていった。

その背中を見て、ダニーはいくらか悪いことをした気分になったが、こんなのを相手にいていたら時間がいくらあっても足りないことをわかっている。

さっさとダニーはタブレットで指示を見て、足早に収容室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、知ってる?昨日死んだあの人のこと。」

「知ってるわ。どうして死んだかわかってないんでしょ?」

「そうそう。でも近くにいた人が、なんでも電車に轢かれたとか言ってるのよ。」

「ええ?ここ室内よ?気が狂ったのかしら。」

「そんなアブノーマリティもいないしね。……でもね、私昨日出社だったんだけど、確かに音を聞いた気がするの。」

「音?」

「汽笛の音。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターに乗ると女性エージェントがごにょごにょとなにかを話していた。

それを横目にダニーはタブレットをいじる。今回作業指示を出されたアブノーマリティの情報を確認するためだ。

しかしエンサイクロペディアをひらいても何も表示されない。名前すらもアルファベットと記号の羅列。

思わず舌打ちをする。久々に新しいアブノーマリティの作業だ。

ダニーはあまり新しいアブノーマリティへの作業は任されない。その理由は彼が担当しているアブノーマリティが原因だ。

〝何も無い〟というアブノーマリティをダニーは担当しているのだが、それがまたやっかいな化け物で。なんらかで収容違反した際は必ず人が死ぬとも言われている。

そんな化け物の担当なんて誰もやりたがらない。穴があかないように、ダニーは比較的この仕事場で優遇されている方だった。

しかしそれはダニーだけではなく、一番危険と分類されている〝ALEPHクラス〟のアブノーマリティ担当は皆同じようなものだった。

まぁ、そんな彼らを羨ましがる人間は誰もいないが。

なので未知の危険が伴う、新しいアブノーマリティの作業などどれ位ぶりだろう。

ぼんやりとした憂鬱がダニーの肩にのしかかる。恐怖は勿論あったが、諦めの方が近かった。

自身のこういう部分を、ダニーは悪い所だと自負している。

会社への反抗心を目の前にする時はあんなにもはっきりとした怒りがあるのに、普段の彼の感情は曖昧な、掴みどころないものが多かった。

まるで額縁越しに自分を見ているような、ドラマの主人公を眺めているような感覚。

それはきっと色々なものに疲れてしまった結果なのだろう。

彼はたまに思う。〝 まるで時間を消費しているだけの人生だ〟と。

 

目眩がする。どうしようもない自分に。

頭は痛い。けれどその感覚すら遠い。

 

収容室について、慣れた手つきで扉を開けた。

と、見えた光景に流石のダニーの意識もハッキリする。

ダニーは数度瞬きをして、ゆっくりとそれに近付いた。自然に足は動く。引き込まれる。

 

「な、なんだ。お前。」

 

そう言うもアブノーマリティから返事はなかった。

それもそうだ。アブノーマリティは生きているような感じはなかった。

それは、四角い箱のようだった。床に積み上げられた頭蓋骨と岩。そこから何本かの鉄棒が伸びていて檻のようになっている。

収容室内にある箱だ。広さもそんなに無いはずだとわかっているのに、檻の隙間を覗き込めばどこまでも続く闇。

 

「っ……!?」

 

と、そこでダニーは中にある光に気が付いた。

そしてそれが目であると気がついた瞬間、慌てて顔を引っ込めたのであった。

驚きと恐怖に心臓が一気に早くなる。その合間にも檻の中の目は揺らぎ、動き。ダニーのことを探っているようだった。

檻の中から何か動く音がする。ダニーは警戒して腰につけた警棒を握った。すぐに出れるように扉に背をつけるも、すると後ろからロック音が聞こえた。

逃げるな、ということか。ダニーはまた舌打ちをする。この会社のこういう所が本当に嫌いだった。

何かが、中から出てくる。黒く、細い。それは木の枝のようにダニーに向かって伸びてきた。

手だ。

どこまでも伸びそうなその手に何かが握られているのをダニーは見つけた。差し出したまま手は動かない。

檻の中の目と目の前の手を交互に見て、悩んだ挙句、その何かを受け取る。

すると手はあっさりと檻の中に戻って行った。しばらく様子を伺うも、もう動く気配はない。

受け取ったものを確認する。それはただの紙切れだった。

長方形の薄っぺらいそれは、このアブノーマリティから出てきたとは思えないほど、なんだか見慣れたものだった。

どこで見たのかと少し考えると、すぐに答えは出てくる。

 

あぁ、そうか。これは切符だ。

 

すこし大きさが違うが、電車に乗る際に買う切符に似ている。

なんて書いてあるかわからないが、文字と文字が矢印で繋がれているし、よく見ると使用済み印代わりの穴と良く似たものが隅に空いている。

しかし何故切符を。ともう一度アブノーマリティを見ると、アブノーマリティの頭部分に何か光っているのが見えた。

明かりが、アブノーマリティの頭左端についている。

よくよく見るとアブノーマリティの頭部分には野球の得点板のようなマスがあった。

明かりは一番左端がついていて、その横に暗いマスがあと三つ。

全部ついたら、何が起こるのか。

岩で作られたその見た目とは裏腹に、やけに人工的な光がダニーの目を刺す。

思わず逸らしたところで、収容室の扉が開いている事に気がついた。

 

謎が残りながらもダニーは収容室を後にする。まだ、何も起こらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に!本当に電車だったんだ!!」

「そ、そうなんですね……。アブノーマリティの仕業でしょうか……。」

「なぁ!頼む協力してくれよ!!俺の友達だったんだよ!!」

「協力と言っても……、一体どのアブノーマリティかもわからないので……。」

「君、信じてないだろ!?でも本当に聞こえたんだ!!汽笛の、音が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム本部に戻ると、先程の同僚と女性エージェントが話しているのが目に入った。

前のめりで女性に話している同僚にダニーはため息をつく。そして二人に近付いて、割ってはいるように声をかけた。

 

「何話してるんだ?」

「あっ、ダニーさん……。」

 

女性エージェントはダニーに目で助けを求めてきた。

その様子にダニーはため息をつく。相変わらずこの人は、無視すればいいものの律儀に同僚を対応していたのだろう。

 

「おい、またさっきの話をしてたのか?」

「ダニーには関係ないだろ。」

「あるね。ユリさんの教育係だからな。」

 

ダニーが睨むと同僚は少したじろいだ。しかしすぐに睨み返して、声を荒らげる。

 

「……仲間が死んだんだ!原因を突き止めるのは仕事の一貫だろう!彼女はアブノーマリティに好かれるし……。」

「アブノーマリティが原因かもわからないのに?」

「アブノーマリティ以外ありえないだろ!!」

「それは会社の判断か?それとも、個人の判断?」

「……っ。」

 

同僚が言葉を詰まらせると、ダニーはため息をついた。

二人のやり取りをみて、ユリは戸惑っているようだったけれど。ダニーはそれすらも少し面倒くさく感じて無視をする。

 

「ユリさん行きますよ。」

「えっ……で、でも。」

「いいから。」

「ま、まだ話は終わってない!!」

 

ユリの腕を引いてダニーが立ち去ろうとすると、同僚がダニーの腕を掴んで引き止めた。

ダニーは分かりやすく舌打ちをして、冷たい視線を同僚におくる。

 

「……俺と彼女を引き止めることが、どういうことかわかってるのか。いいんだぞ?代わりに静かなオーケストラと、何も無いの作業してもらっても。」

 

ダニーの言葉に、同僚の手は力を弱めた。

内心嘲笑う。こうやって勇気すらも出せないくせに命をかけて手伝って欲しいなど、おこがましい。

 

「そっ、それは……。指示を出されてるのは、俺じゃあないし……。」

「じゃあ俺達も、上から指示を出されたらその問題解決を手伝ってやるよ。」

 

同僚の手は離れて、ダニーは些か強くユリの腕を引いた。

その力の強さにユリが顔を顰めるのを感じたが、構わずダニーは腕を引く。今度こそ、同僚は引き止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

「管理人、新しいアブノーマリティのこと何かわかりましたか?」

「アンジェラ……。うーん、何か渡してるのは確かなんだよな。ただこの前の変な電車と関係あるかは……。」

「しかし、研究所にこのアブノーマリティが加わった以外の変化は特にありません。」

「いや、そうだけど。別に収容違反した訳でもないしさ。見た目も檻みたいな感じだし、どこからか来たかわからないあの電車がこのアブノーマリティのせいっていうには、判断が早いと思う。」

「……今回は随分慎重ですね?管理人?」

「……慎重にもなるよ。だって思わないだろ。モニター画面外から電車が出てくるなんてさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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