【番外編】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Express Train to Hell_後編

それは昔の話だ。

ダニーは友人から、贈り物を貰った。ガサツな友人にしては珍しく、綺麗に包装されたものだった。

中を開けると、金に光る、シンプルなピアス。────が、片方だけ。

 

『え、なんだこれ。』

『何ってピアスだよ。空けたんだろ?』

『いや空けたけど。なんで片方だけなんだよ。』

『そういうデザインのピアスなんだって。』

『……なぁ、まさかと思うがこれ、あのアウトレットショップの表に積んであるダンボールから見つけたとか言わないよな?』

『……あは。』

『まじかよ!!あれセールどころかタダのやつだろ!?』

『いやまぁ、ほら。ラッピングは金かけたしさぁ。ちゃんとアルコール消毒もしたし。』

『お前なぁ……。』

 

ここまでくるとダニーも笑ってしまった。友人らしいプレゼントだ。

デザインは悪くないし、片方だがそういうものと言い張れないこともないだろう。

大人しくダニーは左耳にそれを付ける。

 

『え?お前は右だろ?』

『喧嘩売ってんのか。』

『いいじゃん。俺がいるし。右にしろよ。』

『何言ってんだよ気持ち悪い。』

 

からかう時に歯を見せて笑うのは友人の癖だった。

こういう、どうでもいい会話ばかりダニーは覚えている。どうでもいい時間だったが、とても大切な、彼にとって本当の自分でいられる、大切な時間だった。

 

友人が死んだ今、その時間は思い出ででしかないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下を進んでいると、ダニーさん、と呼び止められた。

その声は腕を引いているユリのもので、ダニーが振り返ると彼女はヒーヒーと息を切らしている。

 

「はっ、早いです!歩くの!私より足長いんですから、考えてくださいよっ!」

「……あー、すみません。」

 

何も考えてなかったダニーは悪びれる様子もなく、ユリの手を離した。

ユリは自身のウエストバックから小さなドリンクボトルを取り出して、勢いよく飲んでいた。

それを見てダニーは、そんな小さいドリンクボトルどこで買ったのかとどうでもいいことを思った。

しかし聞くのも面倒なので何も言わない。息をを整えたユリは、はぁ、とため息をついた。

 

「えっと、ダニーさん。助けてくださってありがとうございます。」

 

そう頭を下げるユリに、律儀なものだとダニーはぼんやり思う。

ユリが言っているのは、先程の同僚とのやり取りのことだろう。それを助けたというのなら、別に当たり前のことだ。ダニーは彼女の教育係なのだから。

 

「別に、普通のことをしただけです。ただ教育係として、先輩として言うのなら、あんなの構ってたら時間も身体も足りませんよ。」

 

そう言うと、ユリはわかりやすく困った顔をする。

 

「す、すみません。でもお友達が亡くなったって仰ってから……。きっと、なにかして気を紛らわせたいんですよ。」

 

そう笑うユリに、ダニーは苛立ちを感じた。

この女は、どこまでもお人好しなのだ。こんなんだから利用されるとわからないのだろうか。

しかしそれをダニーが言える立場ではない。彼は何度も彼女を利用してきた人間の一人だからだ。

出来るだけ声のトーンが上がるように意識する。怒ってることが外に出ないように気をつけながらダニーはユリに言葉を返した。

 

「だからと言って、ユリさんを巻き込んでいい理由にはなりません。」

「で、でも。何か力になれるなら、力になりたいです……。私達、同じエージェントで。お友達が亡くなったってなると……。」

「その友達が亡くなったこと、別にユリさんに関係ないですよね?」

「え……。」

「他人が死んだことにいちいち同情してたら、ここではやっていけませんよ。逆に良かったじゃないですか。死んだのがユリさんの友達じゃあなくて。」

 

と、流石に言いすぎた。

いけないとダニーは口に手を当てたが、言ってしまった事実は消えない。

ユリは大きく目を見開いて、信じられない、と眉をひそめた。

 

「そんな言い方……!」

 

ユリは声を上げたものの、それは途中で止まってしまう。

なにか考え込んでるようだった。

ダニーはそれを見て呆れてしまう。きっとこの女は今ダニーの心情についてでも考えてるのだろう。どこまでも優しいお花畑な脳みそは、「ダニーさんにもなにか事情が」、なんて都合のいい解釈をしてくれるのだ。事情がない人間なんて、普通いないだろうに。

本当に優しすぎる、馬鹿な女。

ユリはよく自身を否定するような言葉を使うが、ダニーからしたらこんな善人は珍しいと思っていた。

真面目で優しくて、人に合わせて。見ていると、思い切り叩いてやりたくなる。

そうすれば少しは自分の冷酷さを分けてやれるだろうか、なんて彼にしては珍しく非常識なことを考えた。勿論、冗談だけれど。

沈黙が流れる。仕方ないことだとダニーは特に気にすることも無く歩き続ける。

もう別れてもいいのだが、互いに途中までは道が同じなのだ。エレベーターで別れる所までは同行するしかない。

 

「あっ、あの、ダニーさんっ。」

「……なんですか?」

 

しかしユリは沈黙が苦手なのだろう。目を泳がせて話題を探しながら、ダニーに声をかけてきた。

 

「えっと、あの、聞きたいことがあったんですけど。なんで、ピアス片方だけなんですか?」

「え……あぁ、これはそういうものなんですよ。」

 

ピアスのことはわりとよく聞かれる。ちょうどいい話題なのだろう。

 

「友人からのプレゼントでして。多分元は対になるものなんですけど……アウトレットのもので。買った時から、片方しかなかったようです。」

「……もしかして、女性ですか?」

「はは、女性だったら趣味が悪いでしょう。」

 

こんな金色で目立つピアスを、片方だけなんて。

感性は人それぞれだが、そういう束縛は嫌いだ。特に今まで付き合った女たちを思い出してダニーは嘲笑う。彼女達にこんなことをされたら、きっとダニーは遠慮もなく舌打ちをするだろう。

 

「ふぅん……なんで左耳なんですか?」

「は?」

「えっ、いや、いつも左耳ですよね?何でかなって。」

 

何を言ってるんだ、この人は。

ダニーははぁとため息をついた。片側のピアスの意味を知らないのだろうか。

からかわれているのかと思ったが、顔を見る限り本当にわかっていなさそうだ。まぁ純粋に育てられてきたこの人のことだ。知らなくても無理はない。

 

「……調べてみたらどうでしょう?」

「え?」

「片耳のピアスには意味があるんですよ。私が右につけない理由も、ね。」

 

そこでほんの少し、ダニーの中で意地悪な心が働いた。

男性は左にピアス。女性は右にピアス。なぜだか詳しく知らないけどそれは決まっていて、逆で付けると同性愛者として解釈される。

その事実をユリが知った時の顔を想像して、ダニーは内心悪い笑みを浮かべた。きっと慌てふためいて、謝りに来るのだろう。大袈裟に、恥ずかしそうに。

こういう所が性格が悪いと言われるのだと、ダニーは自覚している。

ユリはなにかダニーに言おうとしたが、もう別れる時だ。それでは、とやけに紳士的な笑みを浮かべて、彼は収容室へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ライトが……点灯、してる。三つ……消えてるのは、一つだけ……。」

「なんでだ……何もしていないはずなのに……。時間経過……?」

「……考えろ。考えろ。」

「前の列車はいつ来た……?タイミングは?なんで、こんなにも何も無い?」

「管理人、」

「アンジェラ、少し黙ってて。」

「……何故、そんなにもそのアブノーマリティを気にするんです?ユリさんにまた調査をお願いすれば。」

「……ダニー……。」

「管理人……?」

「ダニー、馬鹿、なんでそんなの、受け取ったんだよ。お前、スタンプカードも割引券もすぐ捨てるタイプだったろ……。なのになんで、そんなチケット……、」

「……■■■?」

「……?アンジェラ、それ、誰の名前だ?」

「……いえ、間違えました。管理人。」

 

「……今回のリセットの日も、近いですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業が終わったダニーが収容室をでると、なんと同僚が待ち伏せしていた。

ダニーはとても嫌そうな顔で、無視しようとしたが同僚はダニーの手を強く掴んだ。

 

「……おい。」

「ダニー!頼む!頼むよ!助けてくれ!!」

「いい加減にしろ。流石に本気で怒るぞ。」

 

ダニーは殺気すら混ぜて同僚を睨んだ。同僚は顔を真っ青にするが、それでもなおダニーの腕を離さない。

 

「……お願いだっ、いつか、仮は返す。だから。」

「さっきも言っただろ。嫌だ。」

「頼む!本当に、一生の願いだ!!なんだったら金だって払う!頼むよ!!」

「命と金を天秤にはかけられないね。」

「なら俺の命をかけるよ!!」

「……おい、てめぇ、そんなこと簡単に言ってんじゃねぇよ。」

「俺は本気だ!!……もしも!お前が怪我をしたりして、なにかを失ったら、俺のをやる!!血でも、皮膚でも、臓器でも!!ちゃんと誓約書も書く!!それならいいだろ!?」

 

同僚の言葉にダニーは目を見開いた。

それは嘘をついているような表情ではない。なんで、こいつは。

 

「なんで、そんなに。」

「……俺は、馬鹿だから、どうすればいいかわかんねぇんだよ。頼む、頼むよぉ……友達だったんだ。大切な仲間だったんだ。」

「……。」

「大好き、だったんだ。」

 

同僚はついに泣き出してしまう。

男の涙は見苦しくて、見ていられないとダニーは思った。

見苦しくて見苦しくて、あぁ最悪だ。助けてやりたいなんて、馬鹿な考えが過ぎってしまう。

 

「……お前の臓器なんかいらねぇよ。汚そうだし。」

「ダニー……、」

「代わりに、お前あれだぞ。あー……、今年のボジョレーヌーボー、一番いいやつ奢れ。それで許してやる。」

「ダ、ダニー!!」

「一番いいやつだからな。」

 

同僚はぱっと表情を輝かせた。ダニーは顔を逸らす。男のそんな顔見せられても、嬉しくないからだ。

頭の中で、ダニーは情報を整理する。同僚の言っていた交通事故とは。アブノーマリティの仕業であるには違いないだろうが……。

本当にそれが、電車のようななにかだったかは確定できない。幻覚を見せるようなアブノーマリティなんて山ほどいる。

情報が少なすぎるんだよな。舌打ちしたい気持ちになるが、これをダニーは悪い癖だと自負している。

 

「なぁ、なにか手がかりないのか。」

「えっ、今から手伝ってくれるのか!?」

「作業中の隙間縫って行動するしかねぇだろ。アブノーマリティと関われるのは仕事中だけなんだから。」

 

何をバカをいっているのだろう。この同僚は。

良い奴ではあるがやはり頭は足りないのだ。これは本格的にダニーが動かなければいけない。

勝手に動くと管理人がうるさいので、わざと遠回りをするようにして対象に近付くしかないだろう。

その為にはなんのアブノーマリティであるかを調べるしかないんだが……。

 

「あ!これ、あいつのポケットに入ってたんだ!!なにか手がかりになるか?」

「……これっ、て。」

 

同僚がウエストバックから取り出したのは、一枚のチケットだった。

血の滲んでるそれは、もっと綺麗なものをダニーは持っていた。

同僚から奪い取る。血がついた箇所に、文字が浮き上がっている。

 

「H、e、l、l。……地獄……。」

「気分悪いよな。いや、アブノーマリティのか分からないんだけど。」

「……行くぞ。」

「え?どこに?」

「心当たりが、ある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……。」

「ランプが、全部、点灯、した。」

「……けれど、なにも起こりませんね。管理人。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダニーと同僚は早足で廊下を歩く。もはや走ってるのと同じだ。

渡されたチケットは、紛れもなくダニーがアブノーマリティに渡されたものと同じだった。

こうなると、今度はダニーは自身の心配もしなければならない。

我慢できず舌打ちをする。くそっ、なんでこんなことに。

しかしなんの対処をするべきかもダニーはわからない。

あのアブノーマリティにチケットを叩き返せばいいのだろうか。それとも目の前で破いてやればいいのか。逆に大切に持っている必要があるのか。

 

その時、汽笛の音が。

 

「……!?」

「ダニー!これだ!!この音だよ!!」

 

同僚は慌てふためいている。

ダニーの額から、汗が流れ落ちる。

どこから聞こえてるのかわからない。それはあまりも近すぎて、上からも下からも横からも聞こえてるような気がする。

 

「ど、どうしようダニー!!」

 

どうしようなんて言われても、わからない。

どこから来る?どこから。

 

「とりあえず、壁に体をつけて、出来るだけ視覚を無くして、」

「そんなことしても無駄だ!逃げようダニー!!」

「あっ!?おい!!」

 

同僚はパニックになって走り出した。ダニーは慌てて止めようと追いかける。

動くな、と叫んでも聞いてはいない。捕まえるしかない。走る速度を、上げて。手を伸ばして。もう少し、もう少しだ。あの曲がり角のところあたりで、捕まえられる────。

 

『ダニーっ!!!止まれ!!!』

「っ!?」

 

しかし、耳元で叫ばれたことにより、もう少しという所でダニーは止まってしまった。

あまりにも大きな声であったため、頭にまで響いた。驚いたせいで心臓がバクバクと痛いくらいに騒いでいる。

ダニーはふらつきながらも何とか足を進める。当然同僚との距離はあいていて、また舌打ちをした。無力だと知りながら、遠ざかる背中に手を伸ばす。

 

待て、待てって……くそっ。

 

次の瞬間、風が吹いた。ゴオッ、と肌すら圧迫する暴風。

音がする。音、音。ガタンガタンと、揺れる音。

 

「っ!?」

 

汽笛がまた聞こえた。プォォオォ、と、叫び声のように。

何かが、すごい速さで前を通り過ぎた。早すぎて何かわからない。風が通り過ぎる。ゴオッ、と。

音が、音が。ガタンガタン、────がっ、ぁ、ぐしゅっ、。

 

「……え。」

 

そしたら。赤が広がった。

 

「……え?」

 

……なにが、起こった?

 

ダニーはフラフラと同僚に近寄る。

もはやそれは、同僚だったものと言う方が正しいだろう。

同僚は、倒れていた。床に。その身体を中心に、壁にも床にも赤が広がって。

身体はぐちゃぐちゃだった。勢いよく通り過ぎた何かにしっかり当たったのだろう。関節で身体は部分部分バラバラに飛び散っている。

しかし胴体だけは、ぺしゃんこに潰れていた。内臓が飛び出ている。強い血の匂いが、する。

そんな光景だが、ダニーが吐き気を感じることは無かった。それは別にダニーの心が強いわけでも、こういうものに慣れている訳でもなくて。

ダニーの頭に、グルグルと先程の声が響く。

耳元で聞こえたそれは、たまに聞くこともある声だった。

あたりまえである。インカムからの声なのだから、管理人のものだろう。

しかし、どうしてもそれが管理人のものだとダニーは思えなかった。それはずっとずっと、彼が聞きたかった声で。忘れたくなかった声で。でも、薄れていってしまう過去で。

 

「……■■■?」

 

ダニーは呟いた。でももう、インカムからは何も聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダニーさん!!」

「……ユリさん。」

「よかった、無事だったんですね。……その、さっき話してたエージェントさんが……。」

「……死んだ、みたいですね。」

「……。」

「……切り替えましょう。ここでは、日常茶飯事です。」

「……はい。」

 

「……ごめん。」

 

「え?」

「いえ、なんでもないです。」

「……。」

「……。」

「……あ、そ、そういえば。さっきの休憩中にピアスの意味、調べましたよ!」

「……暇だったんですか?」

「うっ……。いいじゃないですか。気になったんですから。」

「で?意味、どうでした?」

「ダニーさんは確かに左耳ですよね。納得です。」

「は?」

 

「左耳のピアスは、〝守る人〟。右耳は、〝守られる人〟なんでしょう?」

 

「……え。」

 

『え?お前は右だろ?』

『喧嘩売ってんのか。』

 

「……ははっ。」

「?、ダニーさん?」

 

『いいじゃん。俺がいるし。右にしろよ。』

 

 

 

「……やかましいわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【あとがき】

とても書きやすかった。いやダニーだから当たり前だわ。
yuuさんのダニーさんイケメンすぎて本当に戸惑ってる作者です。ただのイケメンなんてずるいと思って今回はダニーの性格の悪さ増し増しで描きました。

片耳ピアスのダニーさんの話を聞いた時これは絶てぇ書くわ(決意)しました。
結構マジでこんなでごめんなさい。ユリちゃんはそっと添えるだけになってしまった……。yuuさんの美麗なユリちゃん達ぜひ見てください。

ありがとうございました!

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