【番外編】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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4月1日の悪夢_3

ユリさんの、嘘。

廊下の先にいるであろう憎しみの女王を思い出して、頭が痛くなる。

怒りの矛先が私なのはそのせいか。

 

『リナリアさん、私がサポートします。ダニーさんと、罰鳥捕獲メンバーと同時進行のサポートになるのでロスが出るかもしれません。その時はご自身の考えを優先的に信じてください。』

「ダニーと、罰鳥捕獲メンバー?」

『はい。管理人本当にユリさんの方にしか手を回せないみたいで。罰鳥が今鳴きながら徘徊してて、多分通り過ぎた収容室のアブノーマリティに影響が出てます。あとダニーさんは静かなオーケストラと一体一で戦ってます。』

「それどんな悪夢!?ダニー死ぬよね!?」

『絶望的ですよね……。この空間把握を出来るだけ生かします。リナリアさん。生きましょう。絶対に。』

「……わかった。お願い。」

『ここからキーボードで指示を打ち込んでの同時進行のサポートになるので、テキスト読み上げの機械音声に変換します。声が単調になりますが聞き逃しがないようにだけお願いします。』

 

カチッと音がした後に、機械音声に変わった。

同時進行のサポートとは。つまりアネッサさんは今キーボードを三つ使ってそれぞれに指示しているということか。

すごい才能である。中央本部チームに是非とも異動していただきたい。……生き残れたら管理人に頼んでみようか。

なんて皮肉を考えられるほどには、アネッサさんのおかげで冷静になった。

状況は理解出来た。

あとは、今何故か憎しみの女王がこちらに来ないのは、動けないのか動かないのか。

どちらにせよ何も考え無しに動くのは命取り。

 

『この先は行き止まり。ダニーがオーケストラの鎮圧作業中。』

「行き止まり……?」

『中央本部1、メインルームにてダニー戦闘中。オーケストラの範囲攻撃が一点集中。高濃度の精神汚染確認。接近不可能。』

 

高濃度の精神汚染。

聞いたことの無い言葉であるが、オーケストラの精神攻撃が影響してるのだろう。

本来オーケストラは施設全体への精神攻撃をしてくるはずだ。それが今自分に影響がないということは……、一点集中。ダニーに集中攻撃されているということだろうか。

 

この先はちょうど中央本部チームのメインルームだ。

そこが行けないから、行き止まり。なるほど。

 

 

『憎しみの女王は200メートル先で待機中。力の増幅を確認。回復中と思われる。』

「……え。」

 

その言葉に驚いたのは、憎しみの女王が原因ではなかった。

憎しみの女王の回復中、というのは確かに厄介で勘弁願いたいが。それよりも私200メートルもあの短時間で走ったのか。

ビームが放たれるのにそんな時間はあったのか。いや、あったとしても十数秒程度だったはずだ。

そこではっと気がついた。あの飴が本物ならば、私が舐めた飴は。

 

身体能力の上がる飴。

 

「……なるほど、ね。」

 

管理人は助けてくれない。他のエージェントはてくれない。

私は歩き出す。今度は逆の方向に。

戦うしかないのなら。生きるために、立ち向かうしかないのなら。

一歩一歩と踏み出す足が、恐怖に震えないよう必死に地面を踏みしめる。

歩くと背中の火傷が少し傷んで、顔を顰めた。

 

「っ……。」

 

痛い。でも。

でも攻撃は、避けたのだ。直撃しなかった。二回目は完全に避けた。

ならば、三度目は、四度目は。

 

「魔法なんて、当たらなければ意味ない。中央本部チームを舐めないでよ!!」

 

今度はこちらから、返り討ちにしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下で誰かがうずくまっている。美しい青い髪と、白い肌と、花びらの爪先を持つ少女は立てないでいた。

それでも彼女は魔法の杖だけは手から離さずに、強く強く握っていた。

魔法少女の彼女が先程使ったのは、彼女の中で最大の魔法だった。

とっておきのそれは、彼女の中から体力を根こそぎ持っていく。使った後に襲ってくる疲労の波に、頭はぐらぐらと揺れていた。

そのまま寝てしまいそうだったが、彼女を引き止めるものがある。それは先程大切な人に言われた一言であった。

 

 

 

 

『アイ、私ね、親友ができたの。世界で一番の友達なの。』

 

その言葉は、まるで鈍器だった。

がんっと、殴られたような衝撃。嬉しそうに笑うその人の表情に、目眩がする。

嘘でしょう、と言いたかった。そして嘘だよ、と言って欲しかった。

それなのに声が震えて出てこない。喉に言葉はつっかえて、空気だけがただ意味もなく零れる。

……何故、嘘であって欲しいの。

それはいい事だ。彼女に親友と呼べる誰かができるのはいい事。親友は、素敵だ。

だから喜ぶべきで。良かったね、言うべきで。

 

それなのにどうしてこんなに悲しいの。

 

『ユリ、』

 

名前を呼ぶとその人は返事をした。私の大好きなユリの、大好きな声で。

 

『何?アイ。』

『私は……。』

 

柔らかい貴女の瞳が好き。笑う時少しだけ細くなる貴女の唇が好き。赤みを帯びた丸い頬が好き。

貴女の優しい言葉が好き。答える時、考えている間の優しい静寂が好き。

貴女の好きなところは沢山ある。そしてこれからも増えていくのだろう。積み重なっては膨らんで、私の胸を満たしては甘く擦れて。熱を放つ。

私の貴女は一番だった。比べ物になんてならない程には、貴女は大きな存在で。大切で。

 

『私は、ユリの何番目なのかしら。』

 

言葉は零れた。それにしまった、と思いユリの顔を見る。

言ってしまったそれへの回答が、怖い。けれど同時に私は期待もしている。

貴女はなんて答えてくれるのだろう。

いつもと同じように。少し考えて、その丸い頬を動かして、唇を細めて、柔らかく私を見つめて、きっと。優しい言葉をくれるんじゃないかって。

 

『アイは────────』

 

けれどユリは、見たことも無い意地の悪い笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

言葉が、私の頭にへばりついて離れない。

胸が痛い。苦しい。息をするのすら、辛い。

その言葉を聞いた時、もう本当はその場で死んでしまいたかった。

しかし貴女は〝一番の親友〟の名前だけを置いて、去っていった。残されたのは私だけ。

悲しみは和らぐことなく残り、形を変え、温度を変え。それは醜く汚い嫉妬と、憎悪になり。

許せなかった。その〝一番の親友〟というのが、許せなくて、羨ましくて、殺したくて。

 

いっそあの時、貴女の手で殺して欲しかった。

 

そうしたらこんな感情になることはなく、眠りにつけたのに。ただ悲しみだけを抱いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

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