【番外編】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
※この作品は宮野花が独自に書いたものです。
目を開けるといつも通りの白い天井。このベッドは寝心地がいいから、今日もよく眠れた。
起き上がって身支度をする。白いロココ調のドレッサーとクローゼットは相変わらず可愛くそこにあって、この朝の時間が実は一番好きだったりする。
ノックの音が聞こえて扉に向かうと、いつも通り朝食が届けられたようだった。男性からトレーを受け取ってお礼を言う。「Have a nice day.」流暢な英語に、私はうまく返事できただろうか。
今日の朝食はハムエッグとトースト。 レタスとラディッシュのサラダ、そしてカフェオレ付き。理想的なモーニング。お腹が待ちきれないと音を立てた。
ハムエッグをトーストにのせながら思い出したのは味噌汁。あー、久々に飲みたいな。鮭のおにぎりも食べたい。
海外に移住してからはなかなか食べられない代物だ。不意に思い出して恋しくなるのはやはり日本人の血筋のせいか。
きっと言えばすぐ用意してくれるのだろうけど、用意する人の労力を考えると言いにくい。ここの人達は私にとても良くしてくれるから。
まるで高級ホテルのような部屋。そして言えば最大限の力で叶えられる要望。
どこかのお姫様と勘違いされるかもしれないが、私は普通の一般人である。そしてここはお城なんかではない。
じゃあ誰なんだ、どこなんだと言われれば私は〝日本から海外に移住してきた黒井百合〟であり、ここは〝私の職場であるSCP財団〟である。
SCPはSecure(確保)・Contain(収容)・Protect(保護)の意味を持ち、これこそが財団の理念であり任務。
何を確保するのか、収容、保護するのか。それは一言で言えば〝人ならざるもの〟〝おばけ〟という、非現実的な、信じられないようなものを、である。
ここまでの話を信じたと仮定して、次に出てくる疑問はどうして職場でこんな待遇をされているのか、だろう。
それに私はこう答える。〝これが仕事だから〟。
こう言われるときっと皆私を羨み、妬むだろう。けれど私はこの仕事をそんないいものとも思っていない。
仕事にも波がある。やっていて楽しい時と、苦痛な時。やりたい仕事とやりたくない仕事。
今はやりたい仕事で、やっていて楽しい時であるだけ。
トーストを一口かじった所で扉が勢いよく開いた。これは割といつもの事なのだけれど、毎回驚いてしまう。
「ユリさん!SCP-1048が発見されました!収容の手伝いをお願いします!!」
トーストを飲み込んで、ため息をついた。
これは、やりたくない苦痛な仕事が始まる合図だ。
※※※
職員に案内されてついた場所、と言っても廊下だが、悲惨な状況だった。
血溜りと死体がそこら中にあり、しかもその死体はどれも一部分が、例を挙げるなら眼球や耳が無くなっているのだった。
その光景に胃酸が逆流する感覚に陥るも、なんとか留める。最初の頃は躊躇いなく吐いていたのに成長したものだ。
「ユリさん、こちらです。」
職員の人が小声で私に声をかけてきた。廊下のT字分かれ道。影から右奥を覗き込むと、そこにそれはいた。
ぽてぽてと廊下を何かが歩いている。それは手頃サイズのテディベア。見たことのある姿にまたため息をついた。
「もう……何度収容しても逃げるんだからなぁ……。」
思わず呟いてしまった言葉はそのテディベアに届いたようで、小さな身体が振り返る。
職員さんはライフルを身構えて戦闘態勢だ。
かわいいぬいぐるみにライフルを向ける姿は滑稽だが、当たり前の反応である。このぬいぐるみは可愛いだけじゃない。その手に握られている肌色の塊がそれを物語っている。
このテディベアはぬいぐるみなんかではなく、生きている。
そして人を襲う。自分の複製を作るために。
襲った人の一部を使用して、新たなテディベアを作り上げるのだ。
私は影から身を出して、姿を見せた。
私を見たテディベアはぽてぽてとこちらに向かってくる。職員さんの緊張が、後ろから伝わってきた。
足元近くまで来た所で、テディベアは飛びかかってきた。
そしてその血濡れの姿で、私のふくらはぎに抱きついたのであった。
「おはよう、テディちゃん。」
ふくらはぎからその身体を剥がし、顔の近くまで持っていく。
つぶらな瞳は何度見てもかわいい。挨拶するとパタパタと手を動かして、喜んでいるようだった。
「テディちゃん、お部屋に戻ろうか。」
そう言うとテディベアは首を横に振る。小さな子供のようにいやいやとする姿は愛らしいけれど、このままぬいぐるみ作りを続行されたら困るのだ。
「お友達を作ってたの?」
そう聞くと縦に首を振る。
「でも、テディちゃんには私って友達がいるでしょ?私だけじゃ足りない?それにね、テディちゃんが何体も増えたら困るよ。テディちゃんはテディちゃんだけで、いいと思うの。」
そう言うとテディベアは勢いよく首を上下に振ってきた。
どうやらわかってくれたようで、私はそのままこのテディベアを収容している部屋に向かうことにする。
テディベアがポイッと何かを投げた。投げた、と言うより捨てたのだろうか。
ぺしゃ、と軽い音を立てて床に落ちたそれは、まん丸で、私の顔にもついてる、ものを見るのに必要な器官で。
また吐きそうになったが、なんとか留める。
空いた手でテディベアはぎゅうぎゅうと私に抱き着いてくるのだけれど、可愛いその仕草は私の服を赤く汚すのだった。
「本当、ユリさんがいて下さって助かります。」
綺麗に笑う職員さんに、私は苦笑いする。
無事テディベアを届けた後。次の指示があるまで自身の部屋で待機をすることになったのだが、紳士な職員さんは私を送ってくれたのだ。
「では、ここで失礼します。」
「はい。送ってくださりありがとうございました。」
「いえ、当然のことです!それではまたよろしくお願いします。Have a nice day.」
そう言って職員さんは来た道を戻っていく。
その姿を暫く見ていると、お腹が情けなく鳴った。
朝食が途中だったことを思い出す。ああテーブルの上のモーニングは完全に冷めてしまってるだろう。
〝SCP-000〟と書かれた扉を開けて、部屋の中に戻った。
私の名前は黒井百合。ここは私の職場、SCP財団。
SCPはSecure(確保)・Contain(収容)・Protect(保護)の意味を持ち、これこそが財団の理念であり任務。
何を確保するのか、収容、保護するのか。それは一言で言えば〝人ならざるもの〟〝おばけ〟という、非現実的な、信じられないようなものを、である。
私はここで仕事をしている。確保、収容、保護を、される側としてここにいて、する側の手伝いをしているのだ。
「……って言う夢を見たんですけど、ダニーさんSCP財団ってしってます?なんかlobotomycorporationに似てますよね?」
「……ユリさん、その話誰かにしました?」
「いやしてないですけど。」
「じゃあ誰にも言わない方がいい。特にアンジェラには。」
「え?何でですか?」
「この作品にSCPタグを付けようとしてきますよ。あのAIは。」
「それはあかん。」
この作品は以下を参考に制作された完全二次創作です。本家SCPとは一切の関係がありません。
【参考資料】
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/
Author: Researcher Dios
Title: SCP-1048 - ビルダー・ベア
Source: http://www.scp-wiki.net/scp-1048
CC BY-SA 3.0
(この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承ライセンス3.0ライセンスの下で公開致します。)