【番外編】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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雪海月さんへのお礼として書きました。
お礼として書いた文なのでだいぶ偏ってます。

そして雪海月さんのお家のエージェントさんをお借りしています。
それゆえ本編とは関係の無いオムニバス作品です。

小説は雪海月さんに一度チェックを頂いてから投稿しています。







お礼小説
Grave of Cherry Blossoms_前編


最近、休憩室の冷蔵庫にお酒が置いてある。しかも一升瓶。

それを初めて見た時目を疑った。仕事場にあってはいけないものがあると。

しかしすぐに、今ここにあるからと言って飲むとは限らないと気がつく。貰い物の可能性だってあるし、持って帰るのが大変なので、余裕のある時まで置いてあるだけかもしれない。

そう思っていたのだが。

 

「あ……明らかに減ってる……。」

 

初めて見た時には瓶の蓋近くまでなみなみと残っていたそれは、三日目の今日、半分ほどになっていた。

水かさを瓶越しに指でなぞると、水滴が指について跡を残した。よく冷えているそれは、本来の冷酒の作り方と違うとはいえ喉越しよく美味しいだろう。

極度の酒好きでは無いけれど、流石に少し癪にさわる。危険が伴うこの職場で、仕事中にお酒なんか飲んで何か起こったらどうするつもりなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

と、それをダニーさんに言ったのだが。

 

「あぁ、あれは……まぁ、しばらくの間だけなので。目をつむって下さい。」

 

なのでリナリアさんに言ったら。

 

「あー、あのお酒?あれはね、いいの。大丈夫。しっかりした、素敵な人が持ち主だから!問題なんて起きないよ。」

 

愚痴混じりにアネッサさんに言ったら。

 

「あれはいいのよ。大丈夫。心配しないで。きっと何も起こらないわ。」

 

諦めかけてユージーンさんに言ったら。

 

「俺も思った。あのお酒美味しそうだよね。随分高そうだけど。」

 

ちがう。

 

「……そういう問題じゃあないです!!」

「えっ、ユリさんなんでそんなに怒ってるの。」

 

私が叫ぶとユージーンさんは少し身体を引いた。

フーフー、と息が荒くなってしまう。普段真面目な皆らしくない物言いに、流石に私もイライラしてしまう。

ユージーンさんは苦笑いして、私に紙コップを渡してきた。

中にはコーヒーが入っていて、気持ちを落ち着かせようと口をつける。若干冷めてしまっているコーヒー。その生ぬるい温度が何故かとても癪に障った。

 

「……私が言いたいのは、仕事中に飲酒なんて非常識だって言ってるんです。」

「はは、真面目なユリさんらしいね。」

「ユージーンさんは気にならないんですか!?」

「うーん、何か問題が起こってるわけじゃないし。」

「起こってからじゃあ遅いでしょう!」

「俺としては、酒でどうにかなってるなら別にいいかなぁ。それよりも薬で頭いってる方が困る。一番嫌なのは両方使ってる場合だけどね。」

「そ、それは……。」

 

ユージーンさんの言葉に私は言い返せなくて、声を詰まらせてしまう。

そういう見方は思いつかなくて、子供のように腹を立てていた自分が少し恥ずかしくなってしまった。

私が肩をすくめると、ユージーンさんは軽く笑って自分のおやつのピーナッツを進めてきた。

お言葉に甘えて一粒口に含む。まぶされた砂糖が甘くて美味しい。

 

「それに、俺は下層だからよく知らないけど。あれタイガさんのだよね?」

「タイガさん……?」

「すげぇ達筆でラベルに名前書いてあったから。あんないい酒のラベルに油性ペンで名前とかあの人らしいよ。」

「あの、タイガさんって誰ですか?」

 

私が聞くとユージーンさんは目をパチパチさせる。

 

「あれ、知らない?リナリア辺りとか話してそうだけど……。上層と中層で活躍する古参のエージェントさんだよ。」

「え……私、お会いしたことないです。」

「まぁエージェントなんて人数いすぎて全員に会うなんて無理だし。あの人時々どうしたって位マイペースだから、たまたますれ違ってたんじゃあないかな。」

 

でも、いい人だよ。いい人過ぎるくらいには。

ユージーンさんはそれだけ言って立ち上がった。

休憩時間が終わるのだろう。私から空の紙コップをとって、ゴミ箱に捨てる。

私が慌てて片付けを手伝おうと立ち上がると、手で制止された。

 

「まだユリさんは休憩時間でしょ。ゆっくりしてなよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「これ、俺の残りだけど良かったらあげる。」

 

ユージーンさんはまだ半分ほど残っているピーナッツの缶を渡してくれた。

私は悪いと断るも、嫌いじゃなければと勧めてくれるので有難く受け取る。

このピーナッツは日本でもたまに食べるくらいに好きだったので嬉しい。

 

「じゃ、残りもお互い頑張ろうね。心配になるのはわかるけどさ。タイガさんしっかりした人だから大丈夫だよ。」

「あ、はい。あの、すみません私。よく考えもせずに好き勝手言って……。」

「はは、俺は別に気にしてないよ。」

 

ユージーンさんはそう言うと、最後に一粒ピーナッツをつまんで休憩室を出ていった。

閉まる扉を見ながら、ポリポリとピーナッツをつまむ。

とても美味しいけど、少し、甘すぎるように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日ありと 思う心の 仇桜。」

「……その通りだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩時間が終わる頃にもピーナッツを食べきることは出来なかった。

名前を書いて冷蔵庫に入れる。やはりある酒瓶。朝から量は減っていない。今日はまだ呑んでいないようだ。

先程のような怒りは湧いてこない。ラベルに確かに書かれている綺麗な文字を見つめる。

 

タイガさん。どんな人なんだろう。

 

皆が口を揃えて大丈夫というくらいだ。きっとちゃんとした人なのだと思う。そして、何か理由があったのだと思う。

それなのに言いふらすように酒のことを聞いた自分が嫌になって。逃げたくなって。

少し早いが仕事に戻ることにした。タブレットを開いて指示を確認する。

 

〝対象:墓穴の桜(O-04-100-T) 作業内容:清掃〟

 

すると、表示された文字が懐かしいもので、思わず画面を凝視した。

桜。あの、桜だろうか。植物の桜。

アメリカにも桜はあるけれど、家の近くにはない。そのせいか随分久しぶりに聞いたように思う。

心が浮き立つのを感じるも、嫌々と首を振った。相手はアブノーマリティだ。期待などしてはいけない。

それに桜の前に付いている〝墓穴〟ってなんだ。

こんな死を連想させる単語、物騒すぎる。

しっかり確認するためにエンサイクロペディアを開いた。

情報量は少なく、画像もないようだった。しかしそこには確かに〝桜の見た目をしている〟と書いてある。

そうして、さらに文章は続いた。

 

〝他の桜の木に比べ、美しさが段違いである。〟

〝花弁は鮮やかな赤色をしている。〟

〝墓穴の桜の満開はきっとこの世のものではないほどに美しい〟

 

読み進めるも、ずっと同じような文章だった。

桜が美しいと讃称しているだけの文。それを流しながらも、ここまで褒めちぎられているとどんなに美しいのか気になってくる。

しかし、ある部分で私は指をとめた。一番最後に、小さく書かれている文章。

 

〝注意喚起〟

〝先日、一人が収容室で消息不明となった。〟

 

なんだ、この全てを台無しにする文章は。

こんな、他の文字と同じくらい小さく同じ色で書かないで欲しい。

湧き上がる嫌な予感に、足は重く憂鬱になる。大きくため息をついて、私は収容室に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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