死にたくないけど攻略しないとどっちみち死んでしまうからあかんと思ってとにかく頑張る男のオンラインゲーム 作:蓮山
突如として鳴り響いた鐘の音。
「んなっ…っ」
「何だ!?」
「なんか光ってね!?」
「何なの!?」
四者四様に驚く。ちなみに上からクライン、キリト、ジン、シリカの順だ。
ほかにも青い光の柱を確認したところで体を包む光がひときわ強く脈打ち視界が奪われた。
そして、
「はぁ?ここって《始まりの街》…だよな。強制転移イベント…にしては状況が意味不明すぎる。だとすると運営からのお詫びの線が一番濃厚だけど…」
何かおかしい、そう言ってジンは周りを見渡した。近くにはキリト、クライン、シリカの姿が確認できた。そして周りには様々な装備や髪色、そして眉目秀麗な顔の人々—おそらく現在ログインしているプレイヤー全員が集まっていた。
「どうなっているの?」「これでログアウトできるのか?」「早くしてくれよ…」「こんなところにいられるか!俺は帰るぞ!」
ざわめきが広場を支配する。若干名言ってることがおかしい奴も居たが大体が困惑していた。
しかし次第に
「ふざけんな!」「GM出てこい!」「あくしろよ」「ピッツァ食いたい」「銀の〇ら届いてるかな?」「小説書かなきゃいけないのに…」「ゆっくりしていってね!!!」
いら立ちの声が…声…いやこれ好き放題に言ってるだけだ。
「さすがネット民。こんな状況でもぶれないぜ」
クラインがつぶやく。お前も言ってたよな?
「さすがにあれに気づいてやれよ…」
「「え?」」
「ほら、上」
ジンが気付いたのは第2階層の底を染め上げる深紅の市松模様だった。いや、違う。《Warning》と《System Announcement》という二つの英単語が交互にパターン表示されたものだ。その中央から指先を切りつけた後の血液のようにどろりと深紅の高い粘度を思わせる動きで雫が垂れ落ちた。
雫は変容し、深紅のフードを被った巨大な人の形へとなった。
「あれが、GMか?」
「顔が…見えないからなんか不安になるな」
ジンがつぶやき、クラインが感想を言う。
「確かにGMだが…一人だけって…」
何かがおかしいとキリトが言う。一人だけが説明するのはあり得ないと。
そして-
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
低く落ち着いた、男性の声がプレイヤーの聴覚を刺激した。
『私の名は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできるただ一人の人間だ』
良く通る声で男は言った。
「…はぁ?茅場…なんでだ。こんな役回りをするような人間じゃなかったはず…」
ジンが内容を理解するのに時間がかかったのも仕方ない。
茅場という男についてはジンもそれなりには調べていた。いや、それなり以上か。
ゆえに茅場の人間性を知っている。極力裏方に徹しメディアへの露出を避けゲームマスターとしての役割などしないはずなのだ。
そんなジンの思考を置き去りにして茅場が話したことはジンの思考を停止させるには十分すぎるほどだった。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしこれはシステムエラーではない。これは不具合などでなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
「し…仕様だぁ?何を言って…」
クラインが言葉に詰まりながらもつぶやく。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで自発的にログアウトはできない』
「この城…………まさか…アインクラッド…か?」
「おい待て。アインクラッドの頂って100階層だぞ!?βテストの時は2か月かかって7階層だぞ!?何年かかることになる…」
「えと…100÷3で33と3分の1…34÷12で…2年と10か月…です」
だがそれは攻略難易度が常に一定数上がる場合の話。つまり本来はさらに時間がかかる可能性の方が高いということだ。またβテストの時よりも難易度は上がっているだろう。つまり3年はかかると誰もが思った。
「…ふざけるな…こんなこと、ばかばかしい」
誰かが漏らした言葉は不思議と響いた。
『ばかばかしくともこれは私が望んだことだ…伝え忘れていたが、外部による強制的なログアウトはできない。具体的に言えば10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回線切断、ナーブギアに対するロック解除及び分解、破壊の試みのどれかが起きた場合』
そこでいったん茅場は言葉を切った。
『君たちの脳はナーブギアによって焼かれて死ぬ』
「………………………………はぁ?」
長い沈黙の後、ジンの口から洩れた声は言葉というには意味のない疑問の音だった。
『すでにこのことは様々なメディアを通じて報道されている。しかし信じきれなかった親族などの手によって既に213名のプレイヤーが黄泉路を渡った。すでに大量の死者が出ていることは報道されているので君たちへの危険はないだろう。今後は諸君らの肉体はナーブギアを装着したまま2時間の回線切断猶予のうちに病院などの介護可能な施設に運び込まれ厳重な介護態勢のもとに置かれるだろう。ゆえに君たちには楽しんでこの城を、アインクラッドを攻略してもらいたい。クリア条件はアインクラッド第100層の最終ボスを討伐すること。クリアすれば君たちはこのゲームからログアウトできる。では諸君、頑張ってくれたまえ』
「ひゃ、100層…一体それまでの間に…」
何人死ぬんだ…
そう、ジンの口から吐き出されなかった言葉はしかしすべてのプレイヤーが共有して持った疑問だった。
『それでは、最後にこの世界がまぎれもない真実だということを実感できるように君たちに贈り物をしよう。アイテムストレージを見たまえ』
半ば、反射的にほぼすべてのプレイヤーが右手も指2本をそろえ、下に振っていた。メインメニューを出すための動作。そしてアイテムストレージには
「《手鏡》?ナルシストじゃあるまいし…」
クラインがぼやきながら手鏡を出す。
「うーん。やっぱりこの顔は何か自分って感じがしない」
ジンは適当に作り出したアバターを見てつぶやく。
「私はいつもより大人っぽくていいよね?」
「おう、いつもは可愛い系だけどな」
シリカの顔に朱が混じる。
「…もう、本心でしかも他意なく言ってくるから反応に困るんですよ…」
この時のキリトとクラインの心情は「リア充爆発しろ」であっただろう。
不意に全員の体を白い光が包み込んだ。視界がホワイトアウトし、それが回復した後もはやそこにいたのはイケメンアバターや美少女アバターの集団ではなかった。どちらかと言えば、そう、そこら辺のオタクたちでコスプレをして集まった。そんな感じだ。つまり、
「現実の顔だ…」
ジンの容貌も変化していた。いささか鋭すぎる瞳。なかなか取れない隈。端整ではあるが辛辣そうな顔。髪はアバターと同じく肩甲骨のあたりまで伸びており、背は歳にしては大きい。
「え、ジン君?え、だって顔が現実と…」
「お前も同じだよ。つまり、この世界においてこのアバターとHPは現実の、モノだと認識させるため…にこうしたと思う…」
男女比も変化していた。いわゆるネカマという者たちが多いことの証左だろう。唯一の救いは男女の関係においてネカマによって乱れたりしないことか。
「だとするとお前がクラインでこっちの中性的なのがキリトか」
2人が経っていたところにいたおっさんと青年を見てそう言う。
「おめぇ、ジン。冷静だな」
「そういう性格なんだ、しょうがない」
そんな会話をしている間にも茅場は話す。
曰く、このようなことをしたのはテロでも身代金目的でもないと。
曰く、この状況が自身の最終的な目標だと。
曰く、この世界を生み出したため、もはや今の自分に目的はないと。
『これにて《ソードアート・オンライン》のチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の、この世界の健闘を祈る』
そう言葉を残し茅場は消えた。不気味な赤い空は消え皮肉なまでに青い空が戻ってきた。
一拍おいて、
「そんな、ふざけるな!」「いやぁ!ここからだしてぇ!」「嘘なんだろ!?これも演出なんだろ!?そうだと言ってくれ!」「困るぞ!?この2時間後大事な商談が!」「粉バナナ!」
阿鼻叫喚、怨嗟の声が響く。それでも状況は変わらず。しかし、それでも攻略を進めることにした数千人は《始まりの街》を出てフィールドでモンスターを狩りレベルを上げ始めた。
そして、1年と9か月が過ぎた。
最後はいろいろ端折りました。