-不明な個性が接続されました-   作:ゼロ11

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 最近、アーマード・コアにハマりました。にわか知識もいいところなので深くは突っ込まないで頂ければ幸いです。


episode:00

 

 

 

『――昔話をしてあげる。世界が破滅に向かっていた頃の話よ』

 

 

 

 

 

 

 超常が日常に変化した境目を知らない者はいない。だが、それに至るまでの『過程』を知る者は少ないだろう。

 

 人類は新たな力を手に入れた。理解の及ばない力の出現に、当時の現代社会は揺れに揺れる事となる。だが、彼らがソレを容認する暇もなく、ヒトという種の限界を容易に超越させた力は瞬く間に拡散した。そして、当然ながらある種の崩壊が発生する事となる。制御を失った力の前に、人が作り上げた社会制度は余りにも脆すぎたのだ。

 

 暴走した力は、一度は秩序を切り捨てることを選んだ。生物学的に急激な進化を遂げた人類の選択。それは『文明の衰退』だったのだ。一個人が力を己のために行使し、力無き者から富を奪う。時代が原始の明けまで退行するのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 ――だが、人間という種は踏み留まった。

 

 

 

 

 その理由は至極自然なものと断言できる。この世界の全ての事象は、相反する2つの力で成り立っている。質量や実体の有無などは考慮に値しない程の些事。物体から概念まで須らく、この世のモノには対極に位置し合う者が存在する。

 

 

 

 敢えて陳腐な物言いをするのであれば、そう……『正義』と『悪』。

 

 

 

 快楽追究のために振るわれる力に対して、己を律することの出来る、理性を伴った力の行使。自分のためにではなく、万人のために、秩序と安寧を(もたら)そうと反発する抑止の奔流。多くの奪われた者たちはそれを『光』と認識した。廃退するだけの社会に楔を穿つ、新たな灯火。彼らの願いが通じたのか、その灯火は増幅し、やがて行使者として先駆する者たちと拮抗していく。その過程において、世界はそれらの存在を再認識した。

 

 

 

 弱きを庇護する者たちを『正義(ヒーロー)』。弱きから略奪する者たちは『(ヴィラン)』であると――。

 

 

 

 そして今は、体外的に前者が力を得ている時代にある。勿論、後者が陰ながら力を伸ばしている時代もあった。事は単純なことで、ふたつが拮抗し合った後、前者が新しい社会の重石となったに過ぎない。一方が一方を潰し、反転して今度は潰された側が再度潰した側を潰す。果てのない(しがらみ)から抜け出せる道理などない。

 

 

 

 

 

 

 ――だが稀に、この世には往々にして「例外」という存在が生み出される事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャロりーん……聞こえるぅ? 目標の(ヴィラン)が東の下水道に逃げちゃってさぁ。強盗やらかしたゴミムシで現行犯。そっちのルーキー、ソイツ向かわせて……あれ? ちょっと前に死んじゃったんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

「――んじゃまあ、俺が頑張っちゃうとしますか! メンドクサイけど。なんか面白そうな事、起きそうな気がするんだよねぇ……ギャハハハッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 その日は、嫌なほどに快晴だった。

 

 雲一つない空に心地よさを感じつつも、無意識な空虚さを胸に抱いていた。万人が見れば前向きな感情を露にしたことだろうが、ことその少年にとってはそれだけでは飽き足らなかった。

 

 

「僕は……ヒーローに、なれない」

 

 

 意味の薄い独白だと理解しながらも、口にせずには居られなかった。その表情に影を落としながらも、帰路を歩む。その足取りは見るからに鈍重なものだ。

 

 少年が抱いているモノの正体、それは憤りと疑念。それらが混ざり、織り成すのは「何故自分には『力』がないのか」という思考。皆が生まれ与えられたものが自分にはなかったからだ。現代社会において必須とまでは言われないが、自身の憧憬として夢見る場所には、少なからず無くてはならない存在。そして、この世界において『超常』とされる事柄を『日常』という枠に収めてしまった元凶――。

 

 

 

 即ち『個性』が、少年『緑谷出久』には存在しなかった。

 

 

 

 現代社会において、人として身に余る力は『個性』と名付けられ、役所に届け出を出すという形だけの管理が為されていた。生物学的に説明がつかないそれらは個人や医者はおろか、国でさえ手に余る代物。故に、国は『個性』という曖昧な表現を用いることで、それは個人的なアイデンティティであると民衆に認識させたのだ。敢えて身近なものとして扱うことによって、それらに対する危険視や特別視という認識を薄める。氷上に立たされているような社会制度、余りにも脆い体裁を取り繕った。それがこの超人社会の実情である。

 

 無論、それだけであれば数年もしない内に崩壊を迎えたことだろう。だが、各国はとある政策を実行することによって、その体裁を保たせていた。

 

 

 

 そう、ヒーローという存在の明確な職種化である。

 

 

 

 敢えて、それらの力を行使しても咎められない居場所を与えることで、力を持て余す連中の不満を減少させたのだ。元々、自己満足のために力を振るおうとした連中だ。多少の自由、そして歩合的な富や名声をこれ見よがしにちらつかせれば、我先にと食いつくのは自明の理であった。そして、自らの欲を多く満たせる千載一遇のチャンスとして、今やヒーローという職種は大多数が許容し、目指されるものとなったのだ。

 

 だが、ここまでの事実を認識したうえで、とある疑問が生まれる。冒頭で語った事を加味すれば行き着く自然なもの。それは、国がそれらの内容を許容させることが出来た経緯である。

 

 考えても見て欲しい。そもそも、御しきれてない『個性』という力を、どうして体裁だけで管理できようか。力を持った人間が、国に従う理由など一切無い。そのような口車に乗る必要が根底から存在しないのだ。だが、現に国が講じた策に人々は落とし込まれている。それらに従う人々の動機は一体、何処にあるというのか。その問いには、超人社会における殆どの人間がこう答える事だろう。

 

 

 

 

 

 ――平和の象徴『オールマイト』がいるから、と。

 

 

 

 

 

 それはヒーローを目指す者たちの多くが抱いている憧憬だった。超人社会の黎明期において突如として現れた存在。世界に蔓延るヴィランを瞬く間に打倒し、それらや災害から弱きを守る。ヒーローの名に恥じない、寧ろ彼がヒーローの何たるかを示していると言わしめる程の存在。それが平和の象徴という、過剰とも言える肩書きを背負い、その身一つで悪の抑止力となった男である。

 

 

 

「言われたんだ……なら、後は納得するだけじゃないか。難しいって、相応の現実も見ろって……だから――」

 

 

 

 根拠など無かった。だが、最大限の尊敬を抱ける人物故に期待してしまった。存在するだけでその地域の犯罪率を軒並み低下させるといった御伽噺の様な力。まさに象徴の名を冠する人間と言えよう。

 

 だが、希望が胸に灯っていたからこそ、吹き消された後に染まる絶望で何も見えなくなる。そして、最後に残されるものは……殆どが『黒い』のだろう。緑谷出久もまた、その黒さに身を委ねようとしていた。

 

 

「ヴィランがでたぞォ! 商店街の方だァ!!」

 

「……ッ!」

 

 

 反射的に振り向いた。同時に巣食った疑念は一度影を引く。そして、僅かな葛藤に苛まれる。マイナスの理性とプラスの本能が(せめ)ぎあった。

 

 そして、行動を勝ち取ったのは諦観ではなく当惑だった。結果、緑谷出久は走ることを決意する。それで現状が変化するとは微塵も思っていない事だろう。だが、理由など無い故に、足取りも先程よりも軽かった。自身の深層に関わった行動とは理解すらしていない。ただ、訳の分からないまま愚直縋りついただけの事……。しかし、そうであっても少年の眼には「行かなければならない」という確かな意思が刻まれていた。

 

 

 

 

「……こ、これは!?」

 

 

 

 

 ――火の海だった。

 

 少なからず、生物がいるべき空間ではないだろう。あらゆる物体は焼かれ、大気は生気を吸い取られた。呼吸との共存など図れるわけがない。平和に甘んじていた人間にとっては凄惨の一言に尽きる。瞳に映し出されたのは、そんな光景だった。

 

 

「アイツはさっきのヴィラン!? なんで……オールマイトが捕まえたはずじゃあ――」

 

 

 他人事ではない事実に蒼白となった。燃え広がる炎の中心にいたのは、最近見知ったばかりの顔。何を隠そう、緑山出久はかの存在が振り撒く悪意に、その身を晒されたのだ。なんでも、流体によって形成された体躯で、他者の体そのもの乗っ取る事ができるという。動機はヒーローからの逃走、及び擬態だった。対抗手段を持たない緑山出久には、為す術がない。誰に知られることもなく、その路地で息絶える事を強要された。 

 

 だが、彼は幸運だった。悪意が執行される寸前に、阻止される。救いの手を差し伸べた人間がいたのだ。佇んでいたその影は緑山出久の目標そのもの。不適に笑う、その表情は見紛うはずもない。

 

 

 

 

 緑谷出久は、平和の象徴の手によって救出されたのだ。

 

 

 

 疲弊の影響から気絶こそしたが、起き上がってからの行動は早かった。跳躍によって立ち去ろうとする平和の象徴にしがみつき、自信の想いの丈をぶつけようとした。結果的に言えば、彼は否定されるのだが――。

 

 問答を眼前にして、信じ難い事実に直面した。

 

 

 

 

 

 ――緑谷出久は、平和の象徴『オールマイト』の真実に触れた。

 

 

 

 

 自身が追っていた映像の中の姿は、幻想だと思い知らされたのだ。語弊が生じないよう補足するが、今までのヒーロー像が虚偽だったという意味ではない。執行した正義の全ては事実である。だが、それはあくまでも仮の姿。個性を駆使し、平和の象徴として人々に安寧を与えるための姿を象っていたに過ぎなかった。その男の現状は、極めて深刻なものだったと言えよう。見るも無惨に痩せ細り、胴体には完治不可の傷痕。万人が認識する平和の象徴でいられる時間は3時間にも満たない。

 

 衰弱し片羽根がもがれた老人。それが、オールマイトという男の今だった。

 

 

「……まさか、僕が邪魔を……したのか?」

 

 

 その男の現状を鑑みれば、その解に行き着くのは容易だった。公務の妨害、活動限界時間、再度見る同じ敵ヴィラン。状況証拠としては十二分だろう。そして、周囲の野次から、理解を拒否したくなる様な情報が流れてくる。

 

 

 

 

 

 曰く、人質が捕まっている。

 

 

 曰く、有効打を持つヒーローが存在しない。

 

 

 曰く、人質は自身と同じ中学生である。

 

 

 そして、眼に映し出された事実曰く――

 

 

 

 

 

 

 捕まっているのは『爆豪勝己(おさななじみ)』である。

 

 

 

  

 

 

 

 ――気が付けば、周囲が燃えていた。

 

 それが、自身の行動によってもたらされたものだと気付くまで、彼に意識は飛んでいたのだ。状況から一歩引いた傍観者であったのにも関わらず、理性など一瞬で消し飛ばされたのである。そして、次々と遅れてやってくる疑問と共に焦燥を抱いた。何故、どうして、何をしている――。

 

 

「う、うわぁああぁぁ!!!」

 

 

 叫ぶ、迫り上がる畏怖を圧し殺すために。

 

 その渦中で咄嗟に起こした行動は記録の活用。今までに、溜め込んだ知識を駆使した自棄(こうどう)だった。幸いにも、それは及第点だったようで、目の前の悪意は確かに怯んだ。

 

 

「ん"ん……ぶはッ!! デクてめぇ……何のつもりだァ!! 何で、来やがった……あ"ぁ!?」

 

「わ、分かんないよ!! 気が付いたら体が勝手に……!」

 

「ふっざけんなァ!! こんなヘドロ野郎ひとりでどうにか出来――!!」

 

「駄目だよ!!」

 

「あ"ぁ!?」

 

「だって、だって――」

 

 

 

 

 

「君が……助けを求める顔をしてたから……!!」

 

 

 

 

 

 たったそれだけのためだった。自己の安全をかなぐり捨ててまで、本能を優先させた理由。だが、残念な事に対価や報酬は望めない。無力であるが故に、そこにあるの蛮勇の成り損ないだった。そして、闘争に身を投じた弱者が辿る運命は決まっている。

 

 

「クソガキィ、俺の邪魔しやがって……死ねぇ!!」

 

 

 否応なしに与えられる敗北。その形が死という可能性も十分にある。偶然にもそれが今だっただけの話。刹那、緑谷出久という少年の人生が、幕を下ろそうとしていた――。

 

 

 

 

 

「そりゃ無理だな! 申し訳ないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だが、『例外』は必ず存在するのだ。

 

 

 

 轟音が、鼓膜を揺らした。感じた事のない衝撃が全身を襲う。身の安全を確保するため、無意識的に瞼を閉ざした。だが、長くそうする事は愚策であると、理解している。呼吸を整えた後に、状況を確認するべく、目の前の事象に焦点を当てた。

 

 

 

 

 

「……へっ?」

 

 

 

 

 

 そこには、見るも無惨な『ナニカ』がいた。

 

 

 

 それが、先程まで幼馴染を拘束していた存在であると認識した瞬間、悪寒が身体中を駆け抜けた。流体でありながらも、不定形の塊であり続けたソレに、文字通り『大穴』が開いていたのだ。そして数順の後に、ソレからは絶叫が発する。紛れもない、人であった者の悲痛な慟哭だった。だが、緑谷出久にとって二の次の事実だった。何故なら――。

 

 

 

 

 

「ハハハッ!! 見てたよルーキーぃ! 中々やるじゃない? ちょっと時間かかったけどねぇ(笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 ――悪魔がいた。

 

 

 人を悠々と越える身の丈。鈍い光沢を放つ群青。人の温もりを一切感じさせないソレ(・ ・)はまさしく悪魔のものだった。それを絶句したまま眺めることしかできない。だが、目の前の悪魔は、あろうことか自身に語りかけてきたのだ。

 

 

 

 

「ま、ちょうどいい腕かな。(ゴミムシ)の相手にはさぁ」

 

 

 

 

 

 緑谷出久にとって、これが悪魔(ヤツ)との邂逅であり、初めての会話だった。その後、彼の人生を大きく揺るがす存在となる悪魔(ソイツ)は、不気味なほど陽気に笑い続けた。

 

 

 

 

 

 

 こんなにも面白い人間(モノ)はないと、そう告げるように――。

 

 

 

 

 

 

 




 地の文疲れました。頑張ってフロムっぽい言い回しを模索してます。
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