我らがにじ農野球部   作:vtuber好きの一般人

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お久です。一か月ぶりの更新となってしまい、申し訳ない気持ちです。なんだかんだキャラの個性を持たせる表現は難しい。

今回は秦野南戦。舞元にとって初の試合だが、彼は格上相手にどう戦うのか。




時の流れというものは本当に早く、気付けば7月3日、つまり夏の県大会が始まる日になっていた。相手は秦野南、同じく弱小と呼ばれる高校とはいえ、向こうの方が実力ははるかに上。その高校にどこまで食らいつけるかは、選手のやる気と俺の監督としての力で決まる。

「ついに試合が始まる。秦野南は俺たちよりも強いが、同じ弱小校だ。勝てる要素は十分にある。あとはお前らのやる気次第だ。絶対に勝つぞ!」

「おう!」

何としても勝たせてやるからな。

 

先発は二見、中継は剣持、抑えは相馬で、キャッチャーは深町のままでいく。本当なら先発は相馬が良かったんだが、熱が出るほどの不調ぶりだ。剣持もスロスタータで、ユードリックは使えない。これが最善の順番だろう。守備は二見と剣持がどれだけ頑張れるかが鍵だ。攻撃に関しては正直足りていない。チャンスの場面で打つことができれば、何とか形になる程度といえる。攻撃は期待できない以上、守備が頼りだ。頼むぞ、二見、剣持、相馬。

 

一回表。ヒットを打たれ、早々に点を取られてしまうが、なんとか抑え、失点は一点にとどめた。まずまずの結果だ。

一回裏。三振、もしくは内野ゴロしかでず、一気に3死となり、交代となる。芳しくない始まりとなった。

二回表。状況は1アウト、走者1塁、バッターは三番根岸。この打者の後には四番関野が控えているという辛い場面だ。1回表ではヒットを打たれているが、アウトにできるか。二見にサインを送る。

〜相手は高めが苦手だ。そこを狙っていけ〜

二見は一塁の走者を見ながらサインを確認する。そして指から離れた球は外角高めのストレート。相手に空振りを誘う。次は内角低めのストレート。ストライクゾーンを大きく外れ、ボールとなる。なかなかいいピッチングをするじゃないか、そう思ったが次の球、外角高めのストレートを引っ張って打たれる。打球はレフト前に落ち、走者も1、2塁に増える。

避けたかった状況が実現してしまった。守備が上手くない以上、敬遠で迂闊に満塁にはできない。今は二見のピッチングに期待するしかない。

高めのストレートを続けて投げる。二球ともボールで根岸は身動き一つしない。いい選球眼だ。三球目はナックル。球速は大きく落ち、球もしっかり下がっているいい球だ。しかし、根岸はその球をバットの芯で捉えて思い切り上へと打ち上げる。打球は大きく弧を描きながらレフトの上を通り、そのまま柵を超えてしまう。3ランホームランとなり、相手に3点取られてしまう。

次の五番坂間にもホームランを打たれてしまう。その後はなんとか持ち直し、ヒットを打たせることなく2アウトを取り、交代する。

二回裏。0アウトのまま、二見と竜胆が1、2塁へと進塁することができた。1アウト取られてしまうが、冨田がヒットを放ち、満塁のチャンスを迎える。しかし、走者を進めることなく残り2アウトを取られる。

3回表。ヒットを打たせることなく3アウトを取る。

3回裏。こちらもなす術なく3アウトになる。

4回表。3回表では3アウトを取れたとはいえ、球が荒れ始めた二見に変わり、剣持を中継として出す。剣持は一年生ながら三年の二見に劣らないピッチャーだ。公式試合で初登板は緊張するだろうが、相手は下位打線、大丈夫のはず。

 

 高校でピッチャーのマウントに立つのはこれが初めて。舞元監督は僕の力なら十分に通用するといってくれました。対等にやりあえるかどうか、僕のシャープな投球を試す絶好の機会です。全力で投げさせてもらいましょう。 最初に投げる球はカーブ。指が球に引っかかる感覚がよく伝わってきます。今日は調子が良いようです。

 球は理想的な軌道を描いて鋭く打席へ。相手の打者は思い切りの空振り。自分の中で喜びの気持ちが沸き上がるのが分かります。

 これならやれそうですね。

 初球の緊張した手ではなく、今度は自信のある手で球を手にする。

 「まだまだこれからですよ。」

 

 途中から自信がついたのか、力の抜けたピッチングを見せてくれた。相手の打者は三者三振。これは三年になったときは楽しみだな。

4回裏。1アウトで再び満塁のチャンスが舞い込む。しかし、深町がフライ、剣持が三振となり、満塁を活かすことなく交代となる。

5回表。関野に2塁打を打たれ、点を許してしまうが、次の坂間には三振を取り、失点を1点に抑える。

5回裏。打者は竜胆から。竜胆は一年生、そして初心者であり、女子でありなから、非凡な才能と男子に負けを取らない身体能力の持ち主だ。この試合でも必ず進塁している優秀な選手でもある。竜胆は堂々と打席へと立つ。その風格はとても高校生のものではない。

打順を変えるべきだったかもな。俺の采配がチームに噛み合ってないことに自分の未熟さを感じる。

 

ここからだと敵陣の投手の顔がよく見える。少し強張っておるようじゃ。妾は全打席で安打を出しておるからのぅ。警戒するのも仕方ない。然し、次はどんな球を投げてくれるか。楽しみじゃ。

最初の球はストライクゾーンをはみ出し、妾の顔の前を通る。当然手出しはしないぞ。次の球は内角寄りのカーブ。ここも見逃すのじゃが審判からストライクの判定が出てしまう。今度は内角高めのストレート。バットを寄せて打つと、打球は伸びていくが右にそれてしまった。つまりファールじゃ。続けて外角のストレート。これも高めの球じゃが打ちやすい甘い球であった。

 まだまだじゃ。

 球をレフト側に流しながらバットを振り切る。打球はまっすぐに伸びて、左遊間にきれいに落ちたようじゃ。一塁へ走りながら外野の様子を眺めてみるがモタモタしておる。その間に二塁まで進んでしまうかの。

流石、竜胆だ。その俊足でヒットを二塁打へと変えてしまった。これでノーアウトで二塁のチャンスだ。ベンチの部員達も尊様ァ!!と盛り上がっている。次は力一の番だ。今のところいいとこ無しだが上手くやってくれよ。

「さぁ、来い!」

バットをゆっくりと構え、腰を低くし、その時を待つ。球が投手の手から離れる。

バシッ、ストラーイク。バシッ、ストラーイク。バシッ、ストラーイク。バッターアウト!

そして肩を落とした力一が帰ってきた。

「すいません、監督。」

「いいや、よくやった。力一。」

次は伏見だ。頼むぞ。

 

尊ちゃんが頑張って塁に出ている。俺もそろそろチームに貢献しないと申し訳ない。バットをもう一度握りしめてピッチャーを睨む。

球は内角低めのカーブが来た。

この球しかない!

振ったバットが芯を捉えることはなかったけど、低い打球は弾みながらセンターラインを割る。

よし!うまく当たったぜ!

狙い通りヒットを打てたことに小さくガッツポーズする。これでランナーは1、3塁。冨田先輩、ぶちかまして下さい!

 

よくやった、伏見。次の打者は四番の冨田の番に回る。これで最低でもライトフライを上げてくれれば、竜胆の足ならホームへ戻れるはずだ。この場面で失敗はできないぞ。

冨田の方を見れば一年の活躍に鼓舞されているのか、えらく気合が入っている。一球目はボール。二球目はカーブで空振り。三球目は高めのストレートを後ろに打ち上げファールに。四球目もファールとなる。そして、五球目でバットが球を捉えた。打球は高く上がり、三塁側に飛ぶ。そして打球はレフトを超えてフェンスに当たる。竜胆は余裕をもってホームに帰り、伏見、富田の二人がそれぞれ三塁、二塁に。まだまだチャンスは続くぞ。

 五番の露木はライトフライになり、アウトとなるが伏見が帰り、一点が追加される。6番の葛葉からは下位打線となるがどこまで食いつけるか。

 

 ランナーが二塁で2アウトか。この流れ、止めたくないし、結構大事な場面なんじゃね?ここで一発かまして一年生ながらに大活躍してやるか。

 バッターボックスに立ち、敵の投手にガンを飛ばしてやる。次にバットを前に突き出し、イチローファームを決める。

ヘッ、やってやるぜ。

第一球目はインコースのストレートが来たが、ボールと分かったから振らない。第二球目はインコース高めのカーブが来る。思い切りバットを振れば、球は低く飛んでいく。さすがは俺、って言うのは過言だが、これはヒット確実だろう。と高を括っているとその球は逸れてファールになってしまった。まあいい、次で打てばいいだけだ。次もすげぇのを打ってやる、と意気込み、バットをより強く握る。次の球が来た。これもさっきと同じくらい良い打球だったんだが、この球もファールになってしまう。次はファール。次もファール。またファールだ。

クソ、なんでファールばっかになるんだ。なんかやってんのか、あの投手?

ヒットが出ねえことにイラつく。今度の球は外角低めのストレートが来た。ファール続きでついバットを振っちまった。コンッとバットの先っぽに球が当たる音が聞こえる。

や、ヤベェ!今のは振るべきじゃなかった!

俺の焦る気持ちを逆撫でするように球はコロコロとショートの前に転がっていく。

間に合ってくれ!頼むから!

俺はヘッドスライディングし、一塁ベースに全力で飛び込んだ。周囲に砂が舞い、吸い込んでしまった。ゴホゴホと咳き込んで待った、審判のジャッジはアウト。現実はそんなに甘くなかった。

 

葛葉が焦ってしまい、普段なら振らない球で振ってしまい、攻守交代となってしまった。とはいえ、今ので選手達のやる気が上がったのは事実だ。この勢いのまま逆転を狙うぞ。

6回表。剣持は三番根岸にタイムリーヒットを打たれてしまったが、なんとか上位打線を抑え、その失点を1点に抑える。

6回裏。7番岩井は三振に終わる。8番深町が三塁手の送球ミスにより1塁に着く。続くは9番剣持。投手とはいえ、なんとか塁に出てくれ!

 

 僕がここで打てば、竜胆さんに続きます。そこに得点のチャンスはある。どうにかヒットを出して上位打線に繋げますよ。

 一球目はボール。二球目はインコースの球、思わず手が出てしまいました。バットに当たった球は後ろに打ち上がってしまう。マズい!と冷や汗をかきますが、球はフェンスに当たりファールの判定に。情けないアウトにならず、胸を撫で下ろします。三球目はチェンジアップ。バットの振るタイミングを見誤った。これで2ストライク1ボール。

 負けたまま引き下がるのは癪に障ります。せめて疲れるまで打ち続けてやりますよ。

 ピッチャーの動きに注視し、次にくる球の軌道を予測します。そして投げられた球は低めのインコース。

 ここですよ!

 打球はセカンドを置いていき、ライトの手によってようやく止まります。こうしてランナーは1、3塁に着きました。次からは上位打線、僕たちの攻撃はまだまだ終わりませんよ。

 

 剣持が繋げてくれた好機じゃ。それを無下にせぬよう、また妾が打たねばならんのう。

 一球目の球は真っ直ぐと下に落ちていき、地面にバウンドする暴投じゃ。捕手は前のめりになってその球を止める。敵陣投手の焦りが出てしまったようじゃ。やはりは人の子、とそう思い、投手の目を見る。妾と目が合うとそやつは急に怖気だしてしまう。

 おや、隠しておる鬼の気配が漏れ出してしまったかの?

 昂る気持ちを抑え、その気配を薄くする。しかし、二球目は勢いのない球が投げられた。打ってくださいと言わんばかりの球には興ざめしてしまうのう。

 ん〜、つまらぬ奴じゃ。

 バットを球に当てると、その打球は中堅手を超えていく。なかなかいい球が打てたようじゃ。走者も深町、剣持が本塁に戻った。あまり納得がいかぬが、妾の役割は十分に果たせた。それで良しとしよう。

 

 同じ一年とは思えないほどの活躍をしてるなぁ、尊様は。俺もレギュラーなんだし、早くあんな風に打ちたい。

 そう思い、投手の投げる球を待つ。一球目、球は低めのストレートが投げられた。これを見逃すと審判からはストライクの判断が出る。まだ1ストライクだ、と言い聞かせて次の球に備える。二球目、アウトコースのストレートが投げられた。これも見逃すと今度はボールの判定が。三球目、高めのアウトコースが投げられた。これも振らずに見逃す。審判の判断はボール。

 1ストライク2ボール、少し余裕が出てきた。打ちやすい球、それだけを狙おう。

 そう思ううちに四球目が飛んでくる。インコース寄りなんだけど、高さは腰の位置くらいだ。

 打てる!

 バットを強振する。球を打ち返すが、タイミングの早かった。打球に勢いはなく、静かに転がってしまう。俺は焦り、一塁へと全力で駆け出す。そんな俺とは対照的に、ショートは丁寧に球を拾い上げ、ファーストへと投げる。流石の尊様も動けない。そして、どうすることもできないまま送球をもらったファーストの背を走り抜ける。審判のアウト!の声を聞いて、俺は歩みを止めた。

 上位打線にいながら、何て仕事のできないショートだろう。

 ベンチにいる先輩、同期に顔向けができなかった。

 

 「ドンマイすよ、リキちゃん。かわりに俺が打ってくるから。」

攻撃に全く貢献できていないから、と落ち込んでいるリキちゃんに励ましの声を掛ける。あまり反応が良くないな。リキちゃんはショートの仕事ができているから、チームは無茶苦茶助かっているすよ!なんて言っても苦笑いするだけ。

 リキちゃんのことは気になるけど、まず試合に勝たなきゃ意味ないよな。2アウトで二塁、まだ得点のチャンスは残ってるすね。

 バッターボックスに立ち、バットを構える。狙うは左遊間。一球目は高めのチェンジアップが来た。

 これはバットを振らずに審判の判断を待つぜ。

 後ろからボール、と低い声が聞こえる。二球目は弧を描きながら落ちてきた。つまりカーブが来たってこと。

 このボールだと外野まで届けるのは無理そうかな。

 球を見送る。判定はストライクになった。気にせず、次の球に集中することが大事。三球目はアウトコース低めのストレートが来る。

 いい感じの球が来たぜ!

 バットを思い切り振る。すると、ブンッと気持ちのいい空振り音がした。バシッとグローブに速球が突き刺さる音も遅れてやってくる。

 空振っちゃったか。そう簡単に打たせてはくれないってか?その方がやりがいがあって、やる気、出るっすよ。

 四球目はもう一度アウトコース低めのストレートが来る。ストライクゾーンから外れた球だった。わざと外したっぽい。その証拠に審判もボールの判断を出した。五球目はインコース高めのストレートが来る。

 これも、待つ!

 顔を少し後ろに引くと、顔の前を球が過ぎていく。当たり前だけど、審判からはボール、と声がした。

 ちょっと今の球はヒヤヒヤしたぜ。でも、これでフルカウント。もう見逃しも許されないか。

 六球目はアウトコース寄りの高めのカーブが来る。

 まだだ、この球じゃない。

 バットのタイミングを外し、意図的にファールを誘う。球は流し打ち気味にバットに当たった。その打球はライン外で落ち、ファールになる。なんとか目的通りになったぜ。

 七球目はアウトコースのストレートが来た。

 よし、この球ならよく飛ぶぜ!

 その予感とともにバットをフルスイングする。バットの芯をとらえる感覚はなかったけど、球に強く当たる感じが腕に伝わる。打球は正面のライナーとなって、センター前で弾む。打球は早く、センターはなかなか追いつきそうにないな。俺が一塁に走る間に、尊ちゃんは三塁を駆け抜けているのが見えた。

 さすがだぜ!伊達に一念で一番を背負っていねぇよ!

 センターからの送球が飛んでいる間に、尊ちゃんは余裕でホームベースを踏む。

 ヒットでランナーがホームベースに戻ると、タイムリーヒットになるんだぜ✌

 

 伏見のタイムリーヒットに続き、富田がホームランを打つ。続く露木はフライを上げてしまい、あえなくアウトになった。とはいえ、これで相手との得点差をかなり詰めることができた。あとは相手に点数を入れさせず、こちらの攻撃の勢いを保てれば、勝利できる。7-6だ、いけるぞ。このまま乗り切れ!お前ら!

 7回表。8番は2ストライクの追い込まれた状況でインコースに投げ、苦し紛れに打たせてアウトを取る。9番は低めのストレートで打たせたゴロをセカンド露木が取りこぼしてしまい、進塁を許してしまう。続くは1番。ここから上位打線だ。一年の剣持は体力的に厳しくなっているだろう。何とかこの回までは持ちこたえてくれ!

 

 投げる球の切れもなくなってきましたね。これから上位打線ですし、なかなかつらい場面になってきましたよ。

 一球目は高めのカーブを投げます。1番はその球の軌道を見切り、的確にバットを振ってきました。

 ウッ、まずい!

 その低いライナー性の打球はファースト、セカンドの間を抜け、ライトがその弾んだ球を捕る。ライトの尊さんの対応が良かったおかげでランナーは2塁にとどまった。

 今のは冷や冷やしました。ナイスです、尊さん。

 額に流れる汗を拭き、球を手に取る。次の二番はバッターボックスに立ち、こちらを待っています。焦りは禁物です。一球目は高めのストレートです。2番は降らずに待ちますが審判はストライク!と声を上げます。二球目はアウトコース低めのストレートを投げます。2番はバントの構えを取り、僕の投げた球に当てます。ゆっくりと進む打球を拾い、一塁へと投げ、二つ目のアウトを取ります。その間にランナーは2,3塁へと進んでしまいますが、これは相手の2番がうまかったとしか言えません。

 3番の次は4番、ここで止めないと大量失点しかねない状況ですよ。

 背中に冷や汗が流れる。手にある球をもう一度握りなおし、フォームを構える。一球目はインコース低めのストレートです。狙いと違い、高めに投げてしまいましたがストライクゾーンを外れ、ボールになります。打たれてしまうよりはまだマシです。二球目は高めのカーブに投げます。ボールの球でしたが、3番が振ってくれたことでストライクになります。三球目はインコース寄り低めのカーブに投げます。

 これならどうですか。

 しかし、3番はこの球を当てた。地面を低く弾みながら打球は僕の両足を通り抜ける。

 また打たれてしまった!

 僕は後ろに通り抜けた打球を見て焦った。セカンドの露木先輩もショートの力一君も追いつきそうにない。三塁のランナーも走り出すのが見える。

 この一点はしょうがない。

 そう思った。いや、そう思わざるを得ない状況でした。露木先輩も足の力が抜けて、その動きもゆっくりになっています。でも、力一君は違いました。彼はまだ全力で走っていた。打球には届きそうにない、そう分かると頭から飛んでいく。飛びながら打球をグローブでしっかりつかむと、前転して立ち上がり、そこから踏みなおしてホームへ投げる。ランナーも必死にスライディングしてホームベースに向かう。

 間に合え!

 力一君の投げた球が間に合うのか、スライディングしたランナーが早いか、僕はその様子を固唾を飲んで見守っていました。動くことも忘れてその結末を見届けようとしていました。

 投げられた球は深町先輩のグローブへ入っていく。それと同時にスライディングによって砂が舞い上がり、辺りを包んでしまう。球場に静寂が訪れます。その場にいる誰もがその時を待つのでした。

 砂埃が消え、三人の姿が現れます。主審は黙ったままで、何も言いません。なぜかその時間が長く感じます。加えて自分の鼓動が早まるのも実感できます。額から汗がしたたり落ちる、それに気づいた瞬間に主審は片手をあげ

 アウトォォ!!

前に腕を突き出し、深町先輩が1点を死守したことを力強く宣言します。

 良かった。何とか0点に抑えきりましたか。

 僕が安心して一息ついている間にも後ろでは歓声が上がっています。振り向いてみれば、やはり力一君が先輩たちに無茶苦茶に褒められているようでした。さっきの球はさすがに無理だと思うような球でしたから。

 比べて僕は最後まで最善を尽くすことなく焦ってしまった。

 「剣持、そう深刻な顔をしてそうしたんだ。」

 いつの間にかそばにいた深町先輩の一声で無意識に力が入ってしまっていることに気付きます。

 「まだ一年なんだ。そんなに気張るなよ。」

 深町先輩は軽く僕の肩をたたいて、ベンチへ戻っていきます。

 でも僕は本当にこのままでいいのでしょうか?

 先輩の言葉に納得できず、モヤモヤした気分のまま僕も走ります。

 

 今の攻撃をよく止められた。剣持も焦っていたから、あのまま打たれていたらダメになっていただろう。力一のナイスプレーを褒めつつ、剣持に次の回での交代を伝える。剣持はその瞬間、苦虫を潰した顔を見せたのち、真顔になって返事をする。

 「刀也、終わったことに気を留める必要なんてないぞ。今の方が大事だ。ほら、打者として出るかもだろ?さっさと切り替えろ。」

 分かりました、と言うとバッターグローブを手に取り切り、素振りをしに行った。

 溜め込んでしまうタイプの人間か。これからはよく見ておかないと。

 

 7回裏。相手も投手を交代する。球にバットを当てはしたものの、全て内野手に取られてしまい、あえなくアウトとなる。

 8回表。抑えは二年の相馬。いきなり四番の関野からの打順だがどんなピッチングを見せてくれるのか。

 

 マウンドに立ち、深町とコミュニケーションをとる。まずは一球目だ。高めを狙って投げたけど、球は狙いから少し下がったストレートに。四番は投げた球よりも高く振ってくれた。背中にヒヤリとした汗が流れる。なかなか危ない球だった。深呼吸して、腕を大きく振りかぶる。二球目は内角のスライダーだ。四番はこの球に対応し、バットに当ててきた。打球は大きく打ちあがるが後ろへと飛んでいく。ファールになったから、これで二ストライク。一度球を外しておく。四球目は外角低めのカーブだ。あまり回転がかからずストレート気味になってしまった。しかも起動も低い気がする。四番は後がないからだろうけど、ボールか微妙な球に強引にバットを当てていく。打球は早いゴロとなる。しかし、ぎりぎりのところを富田がキャッチし、アウトになった。

 やっぱり思うように球は投げられないか。だけど、二人のためにこのくらいは何とかしないと申し訳ない。

 僕は深呼吸し、グローブの中のボールを握りなおした。

 

 相馬は発熱しているにもかかわらず、失点もなくこの回を抑えてくれた。なるべく相手に打たせることで上手く乗り切ったところだ。そのあたりは流石といえる実力だ。

 8回裏。やはり竜胆が塁に出る。力一も相手の送球ミスで命拾いをした。しかし、伏見のヒットエンドランが失敗し2アウトを取られ交代となる。

 9回表。下位打線から始まったこともあり、危うげなく3アウトを取ることができた。得点差はあと1点のままだ。2点取れば逆転できる。気合い入れろよ、お前ら!

 9回裏。富田がレフト前ヒットを打ち、一塁に出る。露木は打ち上げて、フライになったところをサードに取られてアウトになった。次は葛葉だ。今日に試合はいいとこなしだが活躍を見せられるか?

 

 ここで打たなきゃ秦野南に勝つ見込みはなくなっちまう。また大事な場面で俺に回ってくるのかよ。まったく打ててないから自信ねえな。

 一球目はボールっぽいけど、打てなくはない低めの球。

 頑張って打つ必要もないか?待って見逃すと審判はストライクと叫んだ。チッ、今の入っていたのか。二球目はインコースのスライダー。難しい球が来たな。バットを寄せて何とか当ててみるが、感触は良くない。これはゴロか!?アウトを取られると焦ったが、思うより外れたおかげでファールになってくれた。

 あぶねぇ、引っ張ってなかったらゴロで終わってたぜ。

 三球目は低めのアウトコース、ストレート。もう後がねぇし、疑わしきは全部打て!

 カキンと、球がバットに当たる音がする。今度の感触はいい感じじゃないか?俺の打った球は一塁の頭を超えていく。おぉ!と声を出しそうになった。打球は右にそれてファールに。

 惜しいなぁ。あともうちょっとだったな。

 相手のピッチャーは時折ボールを混ぜながら低め中心に投げてくる。明らかに外した球以外は全部打ったがファールになってしまい、結局進塁できないまま、九球目になった。状況は3ボール2ストライクのフルカウント。

 うぜぇな。いつまで俺に打たせるんだよ、あのピッチャーは。早く甘い球を投げやがれ。

 そうやってイライラしていると、投げた球は高めのストレート。

 さっさとヒットになれよ!クソボールがぁ!

 感情のままにバットを振ると、球は前へと飛んでいく。今度こそファールじゃない、ヒットだ!打球はセカンドを超えて落ちる。

 結構いい球打てたじゃん。やっぱ、やればできるんだよ。俺は。

 富田先輩は二塁に、俺は一塁に着く。これでだいぶいい流れになっただろ。

 

 葛葉がついにヒットを打ってくれた。1アウトで走者が1,2塁。逆転も夢じゃないぞ、これは。

 7番の岩井はセンターフライを上げ、アウトとなる。8番の深町がショートの送球ミスで塁に出る。これで満塁になった。9番の相馬に代わり代打の須田を出したが、サードゴロと振るわず、アウトになってしまった。そして試合終了の音が鳴る。結果は7-6で秦野南の勝利だ。後半からの勢いはすごかったが勝てなかったか。

 

 試合が終わり、三年の何人かは泣いている。もしかしたら勝てると思った試合だ。それだけに余計悔しいと思うのだろう。俺も三年の奴らは試合直前だけしか練習を見てやれなかったのが恨めしい。それに試合内容もまだまだと思うところがある。

 「監督、こいつらは甲子園に連れてやってください。お願いします。」

 「もちろんだ、任せろ」

 主将が涙目ながら俺に頭を下げる。負けて悔しいのに後輩のことを考えれてくれるなんて、本当にいい先輩がいてくれたな。俺も三年の思いを無駄にしないよう、頑張らないといけないな。

 

 こうして、一年目の夏の挑戦は幕を閉じた。




本作では球とボールを分別することで読みやすいようにしているので、キャラに合わないと思うような表現でも大目に見て下さい。

竜胆尊: 鬼の国の女王。角は術で隠しているらしい。鬼らしく身体能力が高く、野球初心者でも数か月でレギュラーになるほど。その安定した打力から一番に抜擢された。
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