我らがにじ農野球部   作:vtuber好きの一般人

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投稿がかなり遅くなってしまい、すいません。


合宿(1)

 「相馬、これからはお前にキャプテンを任せる。チームをうまく引っ張ってくれ。」

 先輩たちの最後の試合から翌日、舞元監督からこの野球部をまとめる役に任命された。このチームは絶対に強くなると確信できる。コールド負けすらあり得た相手に一点差に追い詰めることができたんだ。だから、僕はこのチームから弱小校という評価を撤回しなくてはいけないと思う。それが僕ができる先輩たちへの恩返しだし、才能ある一年生たちに残してあげれることだ。

 新キャプテンとして頑張らないと。

 僕がそう考えて練習していたら、終わり際に自分に厳しくしすぎるなよ、と深町から言われてしまった。そんな深刻そうな顔してたかな。

 

 「夏休みまでもうすぐだが、さっそく合宿をするつもりだ。日にちは7月25日から28日までの4日間行う。」

 舞元監督から夏休みが始まって早々合宿があることを知らされる。監督の合宿がどんなものになるのか、誰も知らないからだと思う。部員の多くは期待した顔をしていた。僕もそんな内容になるかワクワクしてるしね。

 「と、こんな感じでやっていこうと思っている。説明は以上だ。質問はあるか?‥‥ないな。それじゃ、今日は終わりだ。お疲れさん。」

 ありがとうございました、と挨拶をすれば、皆散り散りに帰り始める。でも、その話題は合宿のことばかりだ。

 「合宿楽しみだね。」

 「そうだな、合宿でしかできない練習もあるらしいからな。」

 「えっと、うん、そういうのもあるか。」

 多分ほかの部員たちが期待しているのはレクリエーションのほうだと思うけど。

 そんなことは口に出さず、深町を肯定しておく。他人には優しいけど自分にはとことんストイックなのが彼だ。

 

 1週間何て早いもので、あっという間に合宿当日だ。合宿といっても学校の宿泊施設を使うだけなんだけどね、

 「2年は全員揃っているね。ガク君、一年のほうは全員集まった?」

 「いや、まだです。あと一人、葛葉が来ていないっす。」

 「何か連絡はあった?」

 「俺、葛葉のアカウント持っているんすけど、何も来てないです。」

 「ン~、ほかは?」

 「ダメすね。俺もほかのみんなに聞いてみたんすけど全然でした。」

 「そうか、ありがとね。」

 とりあえず監督に葛葉以外の部員は集まっていることを伝える。どうやら、つい先に葛葉君のお母さんから遅刻すると連絡があったらしい。毎日の練習時間にもギリギリに来ていたし、時間にルーズな子なんだろう。

 「なんだ、葛葉は遅刻か。」

 「うん。でもそんなに遅れるわけじゃないらしいから先に荷物を置いてしまおう。」

 「分かった。」

 それから葛葉君が来るのは早かった。みんなが荷物を整理して監督のところに集合する頃にはやって来た。車からは赤髪の女性、葛葉君のお母さんだろう、も一緒に降りてくる。

 うわぁ、すごい綺麗な人だな。

 まるでハリウッド女優のような人だった。情けないことに僕たち部員はマネージャーも含めてその美貌に見とれてしまっている。尊ちゃんだけは余裕の表情を浮かべながらその人を見ていた。なんだか邪なことを考えていそうに感じるが、きっと誤解だと思いたい。

 「ごめんなさい、遅れてしまって。」

 「母さん、やめろって。恥ずかしいだろ。」

 「あら、車で送ってくれって言ったのは誰かしら?」

 「あ〜、はいはい、分かりました。」

 そう言って逃げるように葛葉君は自分の荷物を取りに行った。母親に対してあの無愛想な態度は彼らしい。

 「こら、葛葉!すいません、迷惑をお掛けして。」

 「ああ。いやいや、ハハハッ。大丈夫ですよ、奥さん。練習はまだ始めてませんから。」

 なんか監督が浮かれた顔をしている。しょうがないとはいえ、見てて恥ずかしい。

 「葛葉、早くしろ。みんな準備して待ってるぞ。」

 ああして監督らしいところを見せているけどなんだかなぁ。

 

 葛葉が結構なイケメンだったので母親も美人さんだろうとは思っていたが、その予想を上回る美貌だった。きっとだらしない顔をしていたはずだ。実際、相馬の俺をみる目が残念な大人を見た目をしている。

 俺をそんな目で見ないでくれ、相馬。俺だって男なんだ!

 俺の思いは胸の内に秘め、もう一度部員達に合宿の概要を伝える。俺の合宿はVtuberらしくその技術の一つをフルに用いた内容だ。練習メニューを絞り、部員達が得能を習得できる可能性を高めることを目的としている。その技術とは得能を会得させる技術を指す。Vtuberはその選手の技能を見て判断するだけではなく、任意の技能を選手に獲得させることもできる。必ずというわけではないが、期間を経て才能や習慣から無意識で身につく得能を、1日で習得させる技術がVtuberをここまで有名にさせていると言っても過言ではない。

 「よし、それじゃ今日は守備を中心に練習していく。それとピッチャーの三人は俺のところに来い。投手陣は俺が指示に沿って投げてもらうから。」

弱小高校が天才になる時間が始まりだ。

 

 内容を聞いただけでも監督の合宿は目新しいものです。僕の場合は中学時代の経験からしか言えませんが、ここまで緻密に練られた合宿はありません。おかげで練習の達成目標もわかりやすいですし、みんなの集中力もいつもより凄まじい気がします。今日の練習で配球の考え方を広げることができたと実感できましたし、明日の合宿にも期待です。

 「刀也、何してんだ〜。もう風呂行く時間だぜ。」

 「もうそんな時間?急いで準備するから、少し待っててください。」

 「おう、早くしろよ。」

 今日の練習を軽く振り返るつもりがすっかり考え込んでいました。さっさと支度しましょう。あんまり待たせるのは悪いですし。

 「待たせてすいませんね、ガク君。」

 「少しくらい大丈夫だって。それじゃ、シャワー浴びに行こうぜ。」

 「ええ、合宿の疲れを癒すとしましょう。」

 学校に宿泊施設があるとはいえ流石に浴場まではなかったようです。高校生になって使える施設が増えたとはいえ、あんまり中学校とは変わらないのは期待外れに感じます。

 「高校は思った以上に中学と変わりませんよね。少し味気ない。」

 「確かに。でも、部活は中学よりも上手い奴多くて楽しいじゃん。」

 「あぁ、そうですね。監督も指導上手いですし、中学の頃よりモチベーション上がってますから。」

 「高校ならそれで十分と思うぜ?」

 「ガク君は大人です。僕は期待してたんですけど。」

 「おお!伏見君に剣持君。今からシャワーに行くの?」

 背後から力一君が声をかけてきました。目立つ髪色なので、夜でもよく分かります。

 「そうです。力一君はもう入ってたのかと。」

 「そういや、俺たちよりも早く部屋を出てたな。」

 「ちょっとトイレにね。これがなかなか出なくってね、困ったもんだよ。」

 「力ちゃん、俺らこれからシャワー浴びるんだぜ?汚い話はやめてくれよw」

 「あ〜、ごめんごめん。それじゃ、綺麗な話でもしよっか。」

 それから力一君の滑稽な話が始まります。彼は話の構成が上手いといつも感心させられます。このシャワー室に行く細やかな時間も楽しくなります。部活終わりも彼が雰囲気を良くしてくれてますから、先輩からも同級生からも人気です。

 「力一君は守備が上手いですよね。どうしてこの高校に?」

 「俺も気になってた、それ。」

 「期待しすぎだよ、2人とも。ただ、どこの高校でもやっていける自信がなかったんだよ。」

 ほら、俺、打つ方はからっきし駄目だからさ。と大袈裟に笑ってみせます。

 「謙虚だな!リキちゃんは。リキちゃんのそういうところ、好きだぜ。でもよ、ネガティブになるのはリキちゃんの悪いところ。」

 ガク君がそんな力一君のフォローにまわります。ガク君の明るい性格には助けられますね。

 「そうですよ。僕たちはまだ一年生です。強くなるのはこれからなんですから、力一君。」

 「優しいね〜、2人とも。その優しさが胸に染みる。」

 メソメソと泣く真似。力一君のいつものおふざけです。

 「俺も聞いていい?2人はどうしてこの高校を選んだの?」

 「俺は刀也と一緒の高校に進みたかったからかな。」

 「昔から仲がいいねぇ。羨ましい。俺、そんな奴誰1人いないよ。それで、刀也君は?」

 「僕ですか。僕は、力一君と大体同じ理由ですかね。」

 「そうかぁ、剣持君ぐらいでも自信無くしちゃうのか。確かに大阪はレベルが高いからなぁ。」

 そう言うと、力一君は片手にボディソープやシャンプーなどの洗髪用具を持ちます。

 「お互い、この高校で頑張っていこうな。」

 喋りながら力一君がシャワー室に入り、僕らも続きます。

 ガク君は何も言いませんでしたが、力一君には少し嘘をつきました。彼はやはり僕よりも野球の才能があるでしょう。それに比べて僕は。

 「なんか顔色悪い?刀也」

 「そうです?気のせいですよ。」

 ガク君のためにも、いつまでも過去を引きずっているのは良くないです。僕も早く上手くなってあの頃の自分と決別しなければ。

 

 

「葛葉、まだシャワー室行ってないだろ?」

「ん?あぁ、もう入った。」

「えっ?いつの間に?」

「練習終わってすぐに行ったから。」

「あのなぁ。」

 これほど我の強い男は見たことがない。聞くに末っ子の長男らしく、顔もイケメンだし、きっと周囲に甘やかされてきたんだろうな。

 「練習終わりの後、いなくなったのはそういうことかよ。」

 「そうだ。」

 「明日は参加しろよ。1人いないだけで俺たちも大変なんだ。」

 「やだね。なんかお前上から目線で腹が立つし。」

 「な、なに?」

 「この際だから言うわ。ユードリック、お前下手くそなわりに態度がデカいんだよ。口出すならまず試合に出て活躍して見せろよ。」

 「こいつ、言わせておけば。」

 自分はレギュラーだからって調子乗りやがって。打者として大した活躍もできなかった癖に偉そうな。

 葛葉の煽り文句を受け、俺の頭に血が上っていくのを感じる。

 「何も言い返せないのか?ユードリック。」

 その一言と馬鹿にしたような顔に、もう辛抱できなかった。体重を前に乗せ、拳に力を込める。俺の様子の変化に葛葉は気付くことなく、隙を晒している。周囲の目も気にせず、俺はそのふざけた顔に制裁を下した。

 「喧嘩はいかんよ、お主達。」

 しかし、それは竜胆によって妨げられた。俺の、それなりに力を込めた一発を彼女は涼しい顔して片手で受け止めていた。いや、腕を全く伸ばせてない状態で止めたのだから威力は出ていないかもしれない。だとしても、彼女の小さな体を考えるとやはり異常だ。

 「うぉ、尊さんか。別に止めてくれなくても、俺ならソイツのパンチくらい余裕で避けていたのに。」

 「何言うとるんじゃ。まともに反応できてなかったであろうが。虚勢を張るのもほどほどにしておくことじゃ。」

 「チッ、分かったよ。」

 竜胆の気迫に吸血鬼の葛葉もタジタジのようだ。彼女は何も言ってないがおそらく鬼だから、ある意味仕方ないかもしれない。

 「ユードリック、お前もじゃ。確かに怒る気持ちもわかるが暴力で訴えるのは悪手であろう。そう容易く力を振るってはいかんぞ。」

 「あ、あぁ、すまない。」

 竜胆に睨まれると背筋が凍る気分になる。分かっていても、この感覚は慣れないんだよな。

 「うむ、2人とも反省しているようじゃの。それじゃ、友好の印に握手でもしようか?」

 竜胆は俺たち2人の手を無理やり握り合わせる。強引なやり方だが、まあいいか。それよりも締まらない顔をしているこいつになんか言ってやらないと、俺の気持ちが収まらねぇ。

 「葛葉。いまに見とけよ。剣持なんかすぐに抜いて、このレギュラーになってやる。なにせ、俺はユードリックだからな。」

 「そうかよ。」

 葛葉の反応は薄い。こいつらしい反応だ。そうやって胡座をかいて待っていろ。

 葛葉への反感を胸に留め、自分の荷物を整理しに戻った。

 

 

 合宿の間、夜は毎日ミーティングで野球の戦術や知識、明日の練習の目標などを中心に行うつもりだ。こいつらも学生だ。学校もある中で野球について学ぶ時間を確保するのは難しいだろう。しかし、それを合宿の機会に集中的に学んでもらい、補充する。野球を知っているほど、練習でも試合でも正しい判断ができるからだ。

 しかし俺のいない間に一年生同士で何かあったようだ。ユードリックは葛葉に強い対抗心を持ち始めたようだし、剣持も何か暗い様子だ。他はあまり変わってないから個人の問題だろうが少し心配だ。よく見ておくように気をつけるか。




ユードリック… ハードルが無駄に高くなってしまったライバー。この作品では才能ないピッチャーだが、何故か自分の才能を信じているようだ。


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