我らがにじ農野球部   作:vtuber好きの一般人

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ひと時の優越

 夏休みも残り僅かになるこの頃、太陽の光は未だギラギラと俺たちを照らす。温度も湿度も高い日本の夏は過ごしにくく、今日もその暑さに辟易としていた。

 この暑い中でも元気に動けるって若いのはいいなぁ。

 などとしょうもないことを考えながら全部員に集合をかける。

 「今日は一ついい知らせがある。来週の土曜日、31日に他校と練習試合することになった。しかも相手は足柄農業だ」

 「「「おお!」」」

 二年生全員と一年生の数人が反応した。評価自体は中の下の高校だ。一年生はまだ知らないのも仕方ないだろう。

 「足柄農業高校の評価はそこそこ、つまり弱小のにじ農よりも格上の高校だ。秦野南ほどではないが、俺たちには十分な強者だろう。」

 「去年なら相手にもされなかった高校だったのに。どうして試合相手になってくれたんでしょう?監督。」

 「まぁ、それは夏の予選で秦野南と善戦していたからだと思うぞ。先輩とお前達が頑張ったからってことだ。」

 「つまりは期待されてる、そういうことですか、監督。」

 「そうだ、深町。分かったな、お前ら。お相手の期待に応えられるよう強くならなくちゃな。この一週間、さらに気合い入れて練習しろ!」

 「「「はい!!」」」

 気持ちのいい返事が返される。発破をかけるつもりで言った言葉だが、部員たちは俺の予想以上にやる気を出してくれたようだ。

 正直勝てるか微妙と思っている。何なら負けるかもしれない。負け癖がついてしまうのでは?と、俺がこの練習試合に消極的だったのが情けなく思える。しかし、それも今の返事で気持ちが変わった。

 なかなか気合いの入った返事をしてくれるじゃねぇか。おれもまだまだ若い奴には負けられんわい。

 「よーし!今日は練習の趣向を変えてするぞ!」

 そこで続く言葉を止める。部員たちもそれを察して真っすぐに俺の目を見る。

 「勿論、ついてこれるよな?」

 「「「はい!」」」

 俺の問いに百点満点のやる気に満ちた顔で答えてくれた。

 でも、やっぱ若いっていいわ。

 こちらが励ましているつもりなのに、むしろエネルギーをもらうのは自分なのだから。

 

 


 

 

 ついに待ちに待った足柄農業との練習試合だ。向こうのウォーミングアップを見た限りでは、にじ農の戦力的に危険な選手がいるわけではないようだ。投手陣も評価通りで心配するほどじゃない。

 「お前らの実力を見せてやれ。今のにじ農は十分に強いってな。」

 さぁ、やるからには勝って来い!

 

 一回裏、にじ農の攻撃から早速試合は動いた。3番岩井がホームランを打つ。続く富田、松尾が塁に出て、深町のヒットでさらに加点した。相馬によって相手を完封したので点差を2点差に開くことができた。

 2回表に足柄農業が1点取り返したのみでお互いに点を取ることができない膠着状態が続いた。こちらは安打を出していたが後が続かず、チャンスを作り出せなかった。それも8回裏、にじ農の攻撃から再び好転する。

 ノーアウト、ランナー二塁、打者は4番富田。

 「富田、ここはバントして進塁させろ。」

 4番なのにバント。富田は俺の命令に困惑するが分かりましたと返事し、ボックスに立った。

 足柄の先発小西の初球、富田はバットを構えて球に当てる。カンッ、音を聞くに、うまく球の勢いを落とすことに失敗したようだ。しかし、バットを上向きに当ててしまったおかげで打球は鋭い円弧を描く。内野が後ろに下がっていたことも幸いした。ピッチャー前で落ち、結果的に上々なバントになった。

 打ち上げた時は冷や冷やしたが、これで進塁はできるだろう。

 そう安心したのもつかの間、

 「岩井!なんで走らないんだ!」

 思わず声を上げてしまった。岩井の奴、尻込みしてしまったのか?高校から始めたわけでもないだろうに、合宿の中でも練習したように、今のは完全に走る場面だ。ベンチも訝しい顔をするものが数人いる。岩井は試合の後で説教だ。

 今怒ってもどうしようもない。気を取り直して、5番松尾。二球連続でストライクを取られる。それは投球を見極めていたから。松尾はベストの3球目で球を打ち返した。打球は伸びてレフトまで届き、その間に岩井はホームベースに帰る。

 これで一点。よくやったぞ松尾。

 6番深町はボールの球を見極め、堅実にライトヒットを打ち、順調に走者は1,3塁に。

 次は伏見か。素直にスクイズして点を取ろう。

 

 

 監督にはスクイズで点を取って来いと言われた。いまだこっちが優勢だし、下手に打つより着実に点を取る行動をしてってわけだ。ボックスに立ち、バントの構えをする。3塁にいる松尾先輩が走り出す準備をしている。足柄も守備を前進している。

 これ、絶対俺がスクイズするって分かるよなぁ。なにげに敵も味方も次どうするか知ってる状況って初めてじゃん?緊張してきたぜ。

 来た!初球。松尾先輩も走り出す。球は捻りもないストレート。打てる球だ。その判断がプレッシャーに変わり、体が強張る。早くバットを当てようと焦りが生まれる。球が目の前に来た時バットを振る。聞こえるのは空気を切る音。バットを握る手に衝撃が伝わってこない。そして、後ろに響く音。

 空振りしてしまった、と悔やむ間もなく松尾先輩が滑り込んでくる。でも、そのスライディングは足柄のキャッチャーに捉えられ、アウトカウントを一つ増やすだけだった。

 「すいません、アウトにしてしまって。」

 「そう、気にすんなって。むしろ俺の分も打ち返してくれ。試合はこれからなんだからさ。」

 「…松尾先輩。そうすよね。俺、絶対打ちます!」

 「その調子だ、伏見。」

 松尾先輩は俺の背中をバシンと叩くとベンチへ帰っていった。

 まだ俺の番は終わってないもんな。反省するのは試合後だぜ。

 松尾先輩の喝で冷静になった俺は気持ちを切り替える。バッターボックスに立ち、深呼吸し、ゆっくりと構える。

 足柄のピッチャーの第二球。同じ失敗は二度はしない。頭の中でタイミングを計りつつ、迫る球を待つ。外角のストレート。だから、球は外に流すイメージでフルスイングだぜ。

 次の瞬間、バットの快い音。手に響く衝撃。遠く伸びる打球。かなりいい球が打てたと実感できた。

 多分、このままなら。

 ベースを回りながら俺の打った球の様子を見る。打球は衰えることなくどんどん離れていく。足柄の奴らは茫然とその様子を眺めるしかないみたいだ。相手に見せびらかすようにガッツポーズしてホームベースを踏むと、大盛り上がりのベンチへと帰った。

 格上高校からホームランを取った。その事実から自分が成長しているのを実感し、嬉しさをもう抑えられそうにない。

 「よっしゃー!ホームランすよ!」

 だから快晴の空に叫んだ。

 

 

 

 スクイズは失敗したが、伏見のホームランで救われた形になった。あれは愚直な判断だった。

 怒涛の8回裏は竜胆が交代した投手に三振を取られ終わった。

 さて、最後の9回表。せっかくだし、一年ピッチャー陣の経験済みでもさせよう。相馬が1アウト目を取った後、投手交代でユードリック、剣持に投げさせた。二人とも堅実にアウトを稼ぎ、少しの隙も見せずに終了した。

 

 


 

 

 「お前達、今日はたくさん食えよ。明後日の公式戦に向けた栄養会だからな!」

 部活は休みで今日は食事会だ。思えばまだ一度もそういうことをしていなかったからな。

 俺の挨拶が終わると部員たちはいっせいに野菜やら牛肉やらを焼き始める。三十路に入った俺には胃がもたれて食えたものではないが、まだまだ成長中の高校生達によって肉がどんどん消えていく。そして、部員たちの会話も弾んできた。話に聞き耳を立てたところ、校内放送についての話題のようだ。

 「この前さ、校内放送で俺らのこと紹介してくれたよな。」

 「あー、急成長中の部活!てやつね。」

 「そうそう。友達に揶揄われて恥ずかったけど、嬉しかった。」

 「足柄との練習試合も話してくれてたし。でも、誰だろうね、紹介してくれたの。」

 「お前のファンじゃね?何人かいたろ。」

 「そうかな~。」

 チームのエースである相馬は女子生徒に人気のようだ。そういや、一年生はイケメン揃いだって女子が言ってたな。もしかしたら一年にもそのうち追っかけとかできそうだ。

 おっ、相馬、松尾の会話に伏見が割り込んだみたいだぞ。

 「相馬先輩、紹介してくれたの葛葉っすよ。俺の友達に放送部の子いたんで。」

 「葛葉君が?意外だな。」

 「へえー、あいつがね。ちょ、行ってくるか。」

 松尾が隅で一人でいる葛葉に声を掛ける。放送部に紹介してくれてありがとう、と感謝の旨を伝えているんだろう。それを見ていた一年生も二年生も葛葉に絡む。葛葉もやめろって!などと言っているが顔はにやついており、照れ隠しなのは一目瞭然だ。

 ごくりっ。今日は酒が進む。きっとこいつらの見せる青春が気分良くさせているんだろう。

 「葛葉く~ん、何照れてんだよ。」

 「ウワッ!酒臭!!」

 「はははは!それはしょうがない、飲んでるからな!」

 「早く帰りてぇ。」

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