凄く普通の決闘者が幻想入り   作:うー☆

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第二十三話 混沌の力、そして時を遡る龍

西行妖の根元が突然爆破され、土煙が舞い上がる中、霊夢達のもとに歩みを進める人影が一つ。いや、担がれている幽々子を含めれば二つの影。

 

「あ、あれはまさか!!」

「無事だったんですね!!」

「あれが……伊藤?」

 

皆が驚きの声を上げる中、気付いたのは霊夢だけだった。伊藤から放たれる、今までに感じたことが無いほどの禍々しい妖気に。

 

「伊藤さん、幽々子様!!」

「半人半霊!待ちなさい!」

 

霊夢の制止を振り切り、妖夢が伊藤らしきものへと近づいていってしまう。

 

「……ああ?」

 

その瞬間だった。突然伊藤の右手に、今まで使っていた白い剣とは対照的な漆黒の剣が握られ、妖夢の首筋に突きつける。

 

「な、何で……?」

「何で?そもそも誰だてめぇは」

 

今までと違う伊藤の様子に、妖夢、魔理沙、咲夜もようやく気づく。『こいつは、伊藤ではない』ということに。

 

「……ああ、ひょっとしてもう一人の俺のお友達かい?悪いな、今の俺は、いや伊藤君は、伊藤であって伊藤じゃないんでね。……殺されても悪く思うなよ?」

 

伊藤はまるで殺人鬼の如く、冷たい笑いを浮かべながら、剣に力を込めてゆく。剣は妖夢の首に少し刺さり、一滴の血が流れ落ちる。

 

「ガハッ……!!てめぇら、また来るぞ!!」

 

気絶していたブラックミストが起き上がって叫ぶと、伊藤ではない何かを亡き者にしようと先端の尖った枝が伊藤ではない何かに襲いかかる。

 

「……しゃらくせぇな」

 

伊藤は持っている黒い剣を枝に向かってひと振りすると、凄まじい音と共に、枝が木っ端微塵に粉砕される。

 

「ほう……あれがNo.か……」

 

幽々子を地面に寝かせ、伊藤は西行妖に向かって歩みを進める。

 

「な、何を……」

 

無言で歩みを進める伊藤を阻止すべく、またも大量の枝が次々と襲いかかる。

 

「貧弱貧弱ゥ!!この程度か!?つまらん!!」

 

伊藤が剣を地面に突き刺すと、漆黒のバリアが展開され、襲いかかる枝を全て弾く。

 

「ハッハッハッ!!消えろ!!」

 

枝がバリアに弾かれた瞬間、バリアから黒い焔が吹き出し、近くの枝を全て焼き尽くす。

 

「……へぇ?まだやるのか」

 

伊藤を守るバリアが消えると、また懲りずに枝が押し寄せる。

 

「めんどくせぇな……さっさと終わらせてもらうぜ」

 

襲いかかる枝を全て紙一重でよけ、妖しく光るスペルカードを発動する。

 

混沌『カオス・デス・ドゥーム』

 

伊藤の手の中に禍々しい妖気の塊が出現する。しかもそれは周りの空気をどんどん吸い込み、少しずつ大きくなってゆく。

 

「な、何よあれ……!!」

 

初めは小石程の大きさだったその塊は、数秒後その数十倍の大きさにまで膨れ上がっていた。

 

「てめぇではその力を使いこなせねぇよ……。大人しくその力を俺によこしな!!」

 

伊藤が宙に浮かぶ妖気の塊に向かって拳を繰り出すと、その塊から極太のレーザーが放たれる。レーザーは途中にある枝を物ともせず、まっすぐ西行妖の幹へと伸びてゆく。

 

「ヒャッハッハッハァッ!!砕けろぉぉぉ!!」

 

レーザーが西行妖の幹を貫き、爆発する。この世のものとは思えないほどの爆音が響き、土煙が激しく舞い、その爆風は遠く離れた霊夢達を吹き飛ばす程、強力であった

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……皆、大丈夫?」

「な、何とか……」

「一体何なんだぜあれは……私のマスタースパークでもあそこまでの威力は出ないぜ……」

 

爆風に吹き飛ばされていた霊夢達が起き上がる。あれほどの威力だったのに対し、幸い誰も怪我をしていないようだ。

 

「あ、あれは!!幽々子様!!」

 

妖夢が少し離れたところに寝かせられている幽々子を見つけ、すぐに駆け寄る。

 

「幽々子様!!しっかりしてください!!」

「うっ……妖夢……」

 

幽々子がうっすらと目を開け、自分の従者の名を呼ぶ。

 

「幽々子様……!!ご無事で、本当によかったです……!!」

「貴女も、よく無事だったわね……。流石うちの庭師ね……」

 

幽々子が泣いている妖夢の頬を右手でゆっくりとなでる。

 

「ゆ、幽々子様……起き上がって大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。そもそも一体何が……」

 

幽々子がゆっくりと起き上がり、西行妖の方を見る。先程の爆風で大量の土ぼこりが舞い上がり、どうなっているのか良く分からない。

 

「あ、あれは……!!」

 

幽々子が突然言葉を失い、舞い上がる土煙を見つめる。

土煙が晴れたそこには、仁王立ちしている伊藤、そして無残に倒れている西行妖。

 

「西行妖が……」

 

目の前の光景に、霊夢達も言葉を失う。先程まで見事な花を咲かせていた枝に花はついておらず、もう既に西行妖は死んでいた。

 

「ハッ、この程度か」

 

伊藤が吐き捨てるように呟くと、突然気絶するように倒れてしまう。

 

「伊藤!!」

 

霊夢達が伊藤に駆け寄る。体が地面につく前に霊夢が伊藤を抱きかかえ、ゆっくりと地面に寝かせる。するとその瞬間、もう一人伊藤のような物が現れ、倒れている西行妖のもとに近づいてゆく。

 

「クックックッ……No.の力とやらはこの程度か?いや違うはずだ。だったら俺がその力をもっと有効に使ってやるよ……!!」

 

伊藤のような物が西行妖に手をかざすと、折れた部分から一枚のカードが飛び出してくる。それを伊藤のような物は二本の指でキャッチし、ニヤリと笑う。

 

「じゃあなてめぇら。もう一人の俺をよろしく頼むぜ?……他の奴なんかに殺られないようにな」

 

もう一人の伊藤はそう言い残すと、黒い光の粒子となって消えてしまった。

 

「うっ……ここは……?」

「伊藤!!あんた大丈夫なの!?」

 

もう一人の伊藤が姿を消したと同時に、地面に寝かせられている伊藤がゆっくりと目を覚ます。

 

「霊夢……それに皆……」

 

皆の名前を呼ぶ伊藤の目は、先程までの燃えるような赤い目ではなく、いつもどおりの優しい黒目だった。

 

「おい伊藤!!腹の傷は大丈夫か!?」

「腹の傷?……あれ、治ってる」

 

伊藤が自分の腹を手でさすると、そこに傷などなかった。確かに服には大きく穴が空いており、大量の血がべっとりとついてるが、肝心の傷が塞がっている。

 

「そうだ!幽々子は!?」

「大丈夫よ。ここにいるわ」

 

伊藤は幽々子が生きていることを確認すると、ホッとしたような表情を浮かべる。

 

「でも……西行妖が」

「いいのよ。皆が無事ならそれで十分よ……」

 

幽々子は伊藤達に笑顔を向けるが、無理に笑っているのだろう。顔が引きつっており、その目には涙が滲んでいる。

 

「幽々子……」

 

その時だった。突然伊藤のズボンのポケットが眩い光を放ちはじめる。

 

「な、何!?」

「これはまさか……!!」

 

伊藤が急いでポケットに入っているカードを取り出す。すると伊藤の思ったとおり、ポケットに入っていたNo.107 銀河眼の時空龍が光り輝いている。

 

「ギアオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!」

 

カードは伊藤の手を独りでに離れ、カードから巨大な黒い竜が出現し、その咆哮は大気を震わせる。

 

「ギアオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!」

 

時空龍がもう一度咆哮すると、赤と青の宝石のようなものがついた黒い四角錐へと変形し、鮮やかな眩い光を放つ。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「ま、眩しいっ!?」

「一体何が……!!」

 

光に包まれた瞬間、伊藤達の意識が途切れた――――――――




今回で終わらなかった……。ノープランで突っ走った結果がこれだよ。しかも、話が結構早すぎて自分でも何だか物足りない感が……。本当に次回で春雪異変は終わる予定です!!まぁ次回もゆっくり見ていってね!!

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