ラブライブ!〜不良とアイドル〜   作:kick up men

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この話のキッカケをヨウタとフミで再現します

フミ「俺とことりのデート回はいつやるんだよ?」

ヨウタ「待っとけ。今ユウノスケ奪還編書いてるから」

フミ「アイツ、抜け忍なの?」



第42話

いつものラーメン屋で2人

 

フミ「お前、そういえば水族館行ったんだよな?」

 

ヨウタ「ああ、お前らが逃げたから俺とレンと穂乃果と絵里で行ってきたわ」

 

フミ「その、どうだった?」

 

ヨウタ「色々あったけど…まぁ、楽しかったよ」

 

フミ「いや、お前らの話じゃなくて水族館はどうだったんだ?」

 

ヨウタ「俺的にはアザラシとペンギン見れたから良かったかな?個人的にはピラルクが凄かったけど」

 

フミ「へぇ〜ピラルクか…」

 

ヨウタ「なんだよ?お前、水族館に興味あんのか?」

 

フミ「別にそういうわけじゃねぇけどよ…ただ、ほら、どんな感じだったか気になっただけだ」

 

ヨウタ「ふーん…まぁ、カップルとか家族連れが多かったな。あと、結構広くて見るとこ多かったし、雰囲気も良かったぞ?」

 

フミ「そ、そうか…雰囲気、良かったのか…」

 

ヨウタ「お前、まさか誰かと行こうとしてんのか?」

 

フミ「なっ…!?そんなわけねぇだろ!」

 

ヨウタ「へぇ〜?まぁ別にいいけどよ」

 

フミ(やべぇ…コイツに勘付かれるとか最悪なんだけど…)

 

ヨウタ「あ!思い出した。最近テレビで紹介されてた水族館があったんだけど、良さそうだったな」

 

フミ「どんな所なんだ?」

 

ヨウタ「何か、光やプロジェクションマッピングとか使ったりしてさ。それにメリーゴーランドとかアトラクションもあるみたいだし」

 

フミ「最近の水族館ってそういうのもあるんだな」

 

ヨウタ「ああ、なんかやたら派手でよ〜イルカショーの演出も凄かったな。テレビでも凄いと思うから生だともっと凄いんじゃね?」

 

フミ「なるほどな」

 

ヨウタ「個人的にはクラゲのエリア行ってみたいと思ったな。Zガンダムのコロニーレーザー内部みたいでよ〜。アレは映えるからカップルとかも集りそうだったな」

 

フミ「へぇ〜映えか?」

 

ヨウタ「お前、やっぱり誰かと行く気なんじゃ…?」

 

フミ「馬鹿!そんなんじゃねーよ!!」

 

ヨウタ「あーあ、俺も女の子と行きてぇな〜」

 

フミ(コイツよく言うぜ…絶対に誘ったら行ってくれそうな奴いるだろーに)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り──放課後の音ノ木坂学院

 

ことり「ねぇ? フミ君、土曜日暇?」

 

フミ「特に予定は無いけど」

 

ことり「じゃあ、どこか遊びに行こうよ」

 

フミ「え?」

 

ことり「私、フミ君と2人でおでかけしたい♪」

 

フミ「……いや、俺と?」

 

ことり「うんっ♪ 2人で、ね?」

 

フミ「……!」(2人でってことは、これって……)

 

ことり「ダメ……かな?」

 

フミ「いや、ダメとかじゃねぇけど…」

 

ことり「じゃあ決まりっ♪」

 

フミ「お、おい! まだどこ行くかも決まってねぇだろ」

 

ことり「それはフミ君と一緒に決めたいなって思って♪」

 

フミ「……まぁ、確かに行きたいとこがあるならお互い相談して決めた方がいいか」

 

ことり「うん♪ フミ君と一緒なら、どこでも楽しそうだし♡」

 

フミ(こんなん言われたら、俺の心臓が持たねぇんだけど…)

 

ことり「じゃあ、また後でLINEするから♪ 楽しみにしてるね、フミ君♡」

 

フミ「…あ、あぁ…」

 

ことりは満面の笑みを浮かべながら手を振って去っていく。俺はしばらくその場に立ち尽くしながら、顔を手で覆って深く息を吐いた

 

フミ(俺達、みんなには内緒で付き合ってるけど…これ、正式な初デートってやつだよな…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして──土曜日の朝

 

フミ(……結局、アイツの受け売りで水族館になってしまった……)

 

俺は布団の上でスマホ片手にアイツが言ってた水族館のホームページを眺め、ため息をついた

 

フミ(別に悪くはねぇけどよ…なんで俺がアイツの話を参考にしなきゃならねぇんだよ…)

 

アイツが言ってたことが俺の頭の中でフラッシュバックする

 

『何か、光とかプロジェクションマッピングとか使ったりしてさ。それにメリーゴーランドとかアトラクションもあるみたいだし』

 

『個人的にはクラゲのエリア行ってみたいと思ったな。Zガンダムのコロニーレーザー内部みたいでよ〜。アレは映えるからカップルとかも集りそうだったな』

 

フミ「何かムカつく」

 

まぁ、結果的にことりも喜んでくれたし、それはそれで良かったんだが…

 

フミ(けど、その情報源があの馬鹿とは夢にも思わないだろうな)

 

なんかモヤモヤするが、もう決めたことだ。気を取り直し俺は布団から起き上がり支度を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日の朝の電車は、平日ほど混んではいないが、それなりに人が乗っていた。窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めながら、俺は小さく息を吐く

 

フミ(……緊張してきた……)

 

手のひらがじんわりと汗ばんでいるのが分かる。

別に、ただ遊びに行くだけだ。それに俺達は付き合ってんだ、変に意識することなんて──

 

フミ(いや、無理だろ……)

 

今日は"初デート"だ。しかも、みんなには内緒で付き合っている。だからこそ、余計に緊張する。そんなことを考えていると、スマホが小さく震えた

 

ことり『フミ君、今どこ?』

 

フミ「っ……」

 

画面に映るたった一行のメッセージだけで、心臓が一段と跳ね上がる。落ち着け…!俺は深呼吸しながら震える指で返信を打つ

 

フミ『今、電車。そっちは?』

 

送信してすぐ、またスマホが震えた

 

ことり『もうすぐ駅に着くよ♪』

 

フミ(何でことりは余裕そうなんだ…?)

 

俺が1人で勝手に緊張してるのが馬鹿みたいに思えてくる。だけど、ことりと会ったら余計に緊張しそうな気もする

 

フミ(……やべぇ、ちゃんと喋れるか?)

 

電車のアナウンスが次の駅名を告げる。俺はもう1度、深く息を吸い込んだ

 

フミ(とりあえず、改札まで行けばいいよな)

 

ことりとは駅で待ち合わせをしている。改札へ向かう足取りが、いつもより妙にぎこちないのは気のせいじゃないだろう

 

フミ「確か、この辺りだと思うが…」

 

人混みの中、改札の前まで来ると──そこに、すぐに目を引く姿があった

 

ことり「あっ、フミ君!」

 

ことりが嬉しそうに手を振るのを見て、俺は一瞬、言葉を失った

 

フミ「……っ」

 

長い髪をゆるく巻き、ふんわりとしたレースのワンピースに身を包んだことり。俺が普段見慣れているスクールアイドルの衣装でもなく、音ノ木坂の制服でもない。柔らかい雰囲気に包まれた"デート仕様"のことりだった

 

フミ「…」

 

声が出ない。というか、なんか…やばいくらい可愛いんだけど

 

ことり「どうしたの?」

 

にこっと微笑むその表情に、俺の心臓が跳ねる。

なんて言えばいい? いや、てか、この場面で普通の反応ってなんだ?

 

フミ「……えっと……その、いつもと雰囲気違うなって思って……」

 

ことり「えへへ、今日は特別だから♪」

 

嬉しそうにすることりを見て、俺は無意識に喉を鳴らした

 

フミ(……やべぇ、こんなの意識しない方が無理だろ)

 

ことり「フミ君もいつもと違うね? なんか緊張してる?」

 

フミ「べ、別に……」

 

ことり「ふふっ、嘘だ〜。顔、赤いよ?」

 

フミ「うるせぇ……」

 

ことりのからかうような笑顔に、俺は思わずそっぽを向く。初デート、開始早々から完全にペースを握られてる気がした

 

ことり「ねぇ?フミ君」

 

フミ「なんだよ」

 

ことり「今日はお願い聞いてくれてありがと♪」

 

その言葉に俺は心臓が止まりそうになった。ことりの笑顔と、その優しい声に、思わず胸が高鳴る

 

フミ「…ああ、別に。俺が行きたいって言っただけだから」

 

でも、そう言って誤魔化すことしかできない自分が、少し情けなく感じる

 

ことり「ふふっ♪そうだけど、フミ君が来てくれてほんとに嬉しいの」

 

その一言に、俺の顔がまた赤くなりそうで、必死に冷静を保とうとする

 

フミ「…それなら、よかったけど」

 

ことり「うん!だから、今日はいっぱい楽しもうね!」

 

ことりは目を輝かせて言う。その笑顔を見た瞬間、俺の心の中の緊張が少しだけ和らいだ気がした

 

フミ「……じゃあ、行こうか」

 

そう言って俺とことりは水族館に来館した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことり「綺麗…」

 

フミ「だな…」

 

俺達は初めに熱帯魚コーナーへと足を運ぶ

 

フミ「水族館なんて小6以来だな」

 

ことり「えっ!大分前だね」

 

フミ「子供の頃なんて、魚に興味無かったしな。アイツは凄いはしゃいでたけど」

 

ことり「ヨウタ君らしいね」

 

フミ「アイツでよく分かったな」

 

ことり「だって、2人とも仲良しだから」

 

フミ「…ああ、まあ、よくつるんでるけど」

 

そんな風に言われると、少し照れくさい。まるでアイツが俺の1番の親友だと思われてそうで

 

ことり「照れてる?」

 

フミ「…別に…」

 

ことり「ふふっ、絶対照れてるよね?」

 

ことりが俺の顔を覗き込むようにしながら、いたずらっぽく微笑む。そう言われると、余計に意識してしまう

 

フミ「…水槽の魚見ろよ、魚…」

 

ことり「ちゃんと見てるよ? でも、フミ君の方が面白いんだもん♪」

 

フミ「俺は魚じゃねぇ……」

 

俺は恥ずかしさから顔を逸らすが、ことりが楽しそうにしてるのが伝わってきて、何だかんだで悪い気はしない

 

フミ「そういやさ、水族館で良かったのか?」

 

ふと気になって、ことりに尋ねる。俺が水族館を提案したけど、本当にことりはここに行きたかったのか?

 

ことり「うん! フミ君が『水族館行こう』ってLINEしてくれた時に、ホームページを見たらね、イルカショーがすごく楽しそうだったから、気になっちゃって♪」

 

フミ「へぇ、そんなに気になったのか」

 

ことり「うん! だってここのイルカショー演出が凄いんだって」

 

フミ(そういえばアイツがそんな事言ってたっけ?)

 

ことりは目を輝かせながら話す。その様子を見て、本当に楽しみにしてたんだな、と思う

 

フミ「へぇ…何時からやるんだ?」

 

ことりはパンフレットを取り出し時間を調べる

 

ことり「えっと…15時からみたい」

 

フミ「じゃあ、それまで魚でも見て回るか」

 

ことり「うんっ!」

 

ことりは嬉しそうに頷きながら、ふと俺の顔を見上げる

 

ことり「ねぇフミ君、私イルカショーも見たいけど、ご飯も食べたいし、アトラクションにも乗りたいの…時間、足りるかな?」

 

フミ「大丈夫。足りるよ」

 

ことり「でも、フミ君が見たい所もあるでしょ? それに、全部回ったら帰りが遅くなっちゃうかも…」

 

フミ「心配ねーよ」

 

ことり「え?」

 

フミ「今日は俺達がしたいこと、全部しよう」

 

ことりが驚いたように目を丸くして、それからふわっと微笑む

 

ことり「……フミ君、かっこいい♪」

 

フミ「…茶化すな」

 

ことり「ふふっ♪ じゃあ、次のエリア、ゆっくり見よっか!」

 

ことりが嬉しそうに俺の腕を引っ張る。なんだかんだで、俺も少し楽しみになってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とことりは、展示を見て回りながらアトラクションにも乗った。イルカショーの時間まではまだ余裕がある。そんな中、俺たちはクラゲのエリアに足を踏み入れた。

 

フミ「……へぇ……」

 

ことり「わぁ……!」

 

青白い光がゆらゆらと揺れ、クラゲが幻想的に浮かんでいる。水槽全体がまるで宇宙のようで、思わず見入ってしまった

 

フミ(アイツが言ってたけど、確かにすげぇな…)

 

思いがけず童心に帰ったような感覚になる。静かに漂うクラゲたちを眺めていると、時間がゆっくり流れていくような気がした

 

ことり「ねぇフミ君、せっかくだし、ここで写真撮らない?」

 

フミ「ん? …ああ、別にいいけど」

 

ことり「スタッフさんに撮ってもらおうよ! 2人で♪」

 

ことりが近くのスタッフに声をかけ、俺たちは水槽の前に並んだ

 

スタッフ「はい、じゃあ撮りますねー!」

 

ことりが俺の隣に立ち、楽しそうに微笑む。俺はなんとなく気恥ずかしくなりながらも、適当にポーズを取った

 

スタッフ「はい、チーズ!」

 

カシャッというシャッター音が響く

 

ことり「ありがとうございます♪」

 

スタッフ「どういたしまして! とても素敵な写真になりましたよ」

 

ことりはスマホの画面を確認して、嬉しそうに微笑んだ

 

ことり「ふふっ、いい感じだね、フミ君♪」

 

フミ「そ、そうか?」

 

照れ臭くて素っ気ない態度を取ってしまう。ことりの嬉しそうな顔を見て、まぁ悪くはねぇか、と思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラゲの幻想的な光景を楽しんだ後、俺たちは小腹が空いたことに気づいた

 

ことり「ねぇフミ君、お腹すいてきちゃったね」

 

フミ「そろそろ昼時だしな。どこかで軽く食うか」

 

ことり「うん♪ ここのカフェ、テーブルが水槽になってるみたいだよ!」

 

ことりが指さした先に、水槽付きのテーブルが並んでいるカフェがあった

 

フミ「へぇ…面白そうだな」

 

俺達はカフェに入り、サンドウィッチとジュースを注文。ちょうど水槽のあるテーブルに案内された

 

ことり「わぁ…すごい、クマノミがいるよ!」

 

フミ「ほんとだ…映画の奴か?」

 

ことり「うんっ、ニモだね♪」

 

ことりが嬉しそうに水槽を覗き込む。テーブルの中で色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいて、食事をしながらでもずっと見ていられそうだった

 

ことり「こういうの、なんだか特別感あっていいね」

 

フミ「そう…だな…」

 

すると、ことりは俺の顔をじっと見つめながら、小さく微笑んだ

 

ことり「ねぇ、フミ君…今日、楽しい?」

 

突然の問いかけに、俺は少し戸惑ったが、素直な気持ちを言葉にした

 

フミ「ああ、すげー楽しい」

 

ことり「ほんとに?」

 

フミ「嘘ついてどうすんだよ」

 

ことり「ふふっ、それなら良かった♪」

 

ことりは嬉しそうに笑いながら、ジュースを一口飲んだ。そして、少し考えるように視線を泳がせてから、俺の方を見上げる

 

ことり「ねぇ、イルカショーまでまだ時間あるでしょ? だから、フミ君が今まで楽しかったこと、私にも教えてほしいな」

 

フミ「俺が楽しかったこと?」

 

ことり「うん♪ だって、フミ君が楽しいって思う事、私も知りたいから」

 

そう言われると、なんだか照れくさい。けど、ことりが本気で俺のことを知りたがってるのが伝わってきて、悪い気はしなかった

 

フミ「…そうだな」

 

俺はサンドウィッチの袋をくしゃっと丸めながら、過去の記憶をたどる。そして少し考えてから、ことりの方を見た

 

フミ「ヨウタとレンと、くだらねぇことで馬鹿やってた時とか、楽しかったな」

 

ことり「馬鹿なことって?」

 

俺はことりにアイツらとやってた事を話す。初めて単車に乗ってツーリングした事。ジャン負けした奴がコンビニで奢った事、ヨウタの家で3人で桃鉄99年やった事

 

ことり「ふふっ、フミ君達らしいね♪」

 

フミ「まぁな」

 

俺は軽く笑ってジュースを一口飲んだ

 

フミ「それに、音ノ木坂に入学したことも、今となっちゃ良かったと思ってる」

 

ことり「そうなの?」

 

フミ「ヨウタと一緒に『真面目になろうぜ』って決めて、ここに入ったわけだけど…まぁ、最初は慣れなかったよな。でも、いつの間にか楽しくなってた」

 

ことり「どうして?」

 

フミ「んー…スクールアイドル部に関わるようになったから、かな」

 

ことり「えへへっ、それは嬉しいな♪」

 

フミ「最初はただのサポートのつもりだったけど、いつの間にかことりの衣装作り手伝うのも、スクールアイドル部のやつらと関わるのも、普通に楽しいって思えてた。まぁ…アイツと仲直りしたってのもデカいけどな」

 

ことり「そっかぁ…♪ それなら、フミ君が音ノ木坂に来てくれて、本当に良かったね!」

 

フミ「ことりのおかげでもあるからな…」

 

ことり「えっ? 私?」

 

フミ「アイツと仲直りできたのも、ことりが背中押してくれたおかげだし……また馬鹿みたいに笑い合えるのも、ことりがいたからだと思う」

 

ことりは少し驚いたような顔をした後、優しく微笑んだ

 

ことり「それなら、私はただのきっかけだよ。だって、フミ君とヨウタ君は本当はずっと仲良しだったんだもん♪」

 

フミ「ま、そうかもな」

 

ことりは嬉しそうに俺を見つめていた

 

ことり「フミ君が楽しかったこと、聞けてよかった♪ ありがとうね!」

 

フミ「どういたしまして」

 

ことり「そろそろ行こっか♪」

 

ことりがジュースの最後の一口を飲み干しながら言った

 

フミ「悪い、先にトイレ行ってくる」

 

ことり「うん、じゃあここで待ってるね♪」

 

ことりはにこっと笑いながら、スマホを取り出して俺を見送った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレの鏡の前

 

フミ「……俺、大丈夫か?」

 

鏡に映った自分の顔を見ながら、思わず独り言が漏れる。さっきのことりとの会話を思い出してみる。アイツの嬉しそうな笑顔、ちょっとした仕草、楽しそうに話を聞いてくれる姿

 

フミ「……可愛すぎる……!!」

 

俺は両手で顔を覆いながら深く息を吐いた。

 

フミ「いや、でも俺…素っ気ない態度取ってなかったか? ちゃんと楽しそうにしてたか?」

 

ことりは俺の楽しかったことを聞いて、本当に嬉しそうにしていた。でも、俺は素直に表情に出せていたのか? 変にニヤついて気持ち悪い顔してなかったか?

 

フミ「落ち着け俺…」

 

一度大きく息を吸って吐く。気を引き締め、表情を整えてからトイレを出た

 

フミ「悪い、待たせた…ん?」

 

ことりの隣には小さな女の子が立っていた。幼稚園児くらいの年齢だろうか、ピンク色のワンピースを着て、心細そうにことりの服の裾をぎゅっと握っている

 

ことり「フミ君、この子、家族と逸れちゃったみたいなの」

 

ことりは優しく女の子の肩に手を置きながら、不安そうに俺を見上げた。

 

フミ「……マジか」

 

突然の展開に俺は一瞬だけ驚いたが、すぐに状況を把握した。女の子は泣いてはいないものの、不安げな表情を浮かべ俺の顔をチラッと見て、すぐにことりの後ろに隠れる

 

ことり「フミ君を待ってたら、この子、不安そうにしてたから…声かけちゃったの」

 

ことりは少し申し訳なさそうに笑いながら、幼い女の子の頭を優しく撫でた

 

フミ「そうなんだ」

 

ことり「やっぱり迷子センターに連れて行ったほうがいいかな?」

 

フミ「そうだな。でも、その前に周りに親がいないか探してみるのもありだな」

 

ことり「うん、そうだね!」

 

ことりは元気よく頷いたあと、俺の顔をじっと見つめる

 

ことり「フミ君、一緒に探してくれない?」

 

フミ「俺はいいけど…」

 

ことり「?」

 

フミ「ことりは…」

 

ことり「え?」

 

フミ「イルカショー、見たかったんじゃねぇの?」

 

俺がそう言うと、ことりは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにふわっと優しく微笑んだ

 

ことり「ううん、大丈夫だよ♪ だって、この子をほっとけないもん」

 

その言葉に俺はなんとなく納得した。ことりは誰かのために動けるやつだった。スクールアイドル部の時も、衣装作りの時も、いつもみんなを支えてた

 

フミ「……そっか」

 

ことりはしゃがんで、女の子の目線に合わせると、優しく微笑みながら声をかけた

 

ことり「ねぇ?どこで家族と逸れちゃったか、覚えてる?」

 

女の子は少し考え込んだ後、困ったように首を傾げる

 

女の子「……わかんない」

 

ことり「そっか…でも、大丈夫だよ!」

 

ことりはにっこりと微笑み、女の子の小さな手をそっと握った。

 

ことり「絶対に見つけるからね!」

 

その言葉に女の子は少し安心したのか、小さく頷いた

 

ことり「ねぇ、お名前なんていうの?」

 

女の子は少し緊張しながらも、小さな声で答える

 

女の子「……ゆい」

 

ことり「ゆいちゃんだね♪ 私は南ことりっていうの」

 

ことりが自己紹介すると、ゆいちゃんは少し安心したようにことりを見上げた

 

ことり「それで、この人は――」

 

そう言いかけて、ことりが俺の方を見ると、ゆいちゃんが俺の顔をじっと見つめて固まっているのに気づく

 

フミ「……俺、ビビられてんな」

 

苦笑しながら俺はしゃがんで女の子と目線を合わせる

 

フミ「俺はフミ。よろしくな」

 

ゆいちゃんは俺の顔を見上げながら、恐る恐る口を開く

 

ゆい「……フミちゃん……?」

 

その瞬間、ことりがクスッと小さく笑った

 

ことり「ふふっ、フミ君、“ちゃん”付けされちゃったね♪」

 

フミ「……まぁ、いっか」

 

俺は肩をすくめながら、ことりの楽しそうな笑顔を横目で見て、小さく息を吐いた

 

ゆい「フミちゃん……よろしく……」

 

フミ「お、おう……よろしくな」

 

ことりは相変わらずクスクスと笑いながら、ゆいちゃんの手を握る

 

ことり「じゃあ、一緒にパパとママを探しに行こうか!」

 

ゆい「うん!」

 

こうして、俺達はゆいの家族を探すことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フミ「……いねぇな」

 

人混みの中を探し回ったが、ゆいの家族の姿は見つからなかった

 

フミ「土曜だから、人が多いのか……それとも、入れ違いになっちまってんのか?」

 

ことり「……うーん」

 

ことりも心配そうに辺りを見渡したが、手がかりはなかった。そんな時、ゆいの小さな手がことりの袖をそっと掴む

 

ゆい「ことりちゃん…」

 

ことり「……うん、大丈夫だよ」

 

ことりはゆいの頭を優しく撫でると、しゃがんで目線を合わせた

 

ことり「ちょっと休憩しよっか? きっとパパとママもゆいちゃんを探してるから、焦らなくても大丈夫だよ」

 

ゆい「……うん」

 

ことり「何か飲み物買ってくるね♪ ゆいちゃん、何がいい?」

 

ゆい「……オレンジジュース……」

 

ことり「うんっ、わかった!」

 

ことりは微笑んで立ち上がると、俺の方を見た

 

ことり「フミ君、ちょっとゆいちゃんお願いしてもいい?」

 

フミ「おう」

 

ことり「ありがとう♪」

 

ことりは軽く手を振ると、売店の方へと向かう。その直前、俺のすぐそばを通り過ぎる時に、小さな声で呟いた

 

ことり「私達が不安な顔してたら、ダメだよね」

 

俺は一瞬、ことりの横顔を見た。普段は柔らかくて穏やかな雰囲気のことり。でも今は、ちゃんと周りのことを考えて、ゆいを安心させようとしている

 

フミ「……ったく、お前はそういうとこ、すげぇな」

 

小さく苦笑しながら、俺はことりの背中を見送った

 

ゆい「フミちゃん、ごめんなさい…せっかくのデート、邪魔しちゃって…」

 

フミ「ぶっ…!?」

 

思わぬ言葉に、思わずむせそうになった

 

フミ「なっ……!? ち、違ぇよ、別にデートじゃねぇし!」

 

ゆい「……でも、ことりちゃんと2人で遊びに来たんでしょ?」

 

フミ「……まぁ、そうだけどよ」

 

ゆい「じゃあデートじゃないの?」

 

フミ「……っ!」

 

子供の純粋な視線に、俺は思わず言葉に詰まる。確かに、ことりと二人で来たのは間違いねぇけど……

 

ゆい「フミちゃん、ことりちゃんのこと好き?」

 

フミ「……っ!!」

 

ガタッと立ち上がりそうになったのをぐっとこらえる

 

フミ「お前なぁ……そういうこと、気軽に聞くもんじゃねぇんだよ……!」

 

ゆい「えへへっ、ごめんなさい♪」

 

ゆいは悪びれた様子もなく、無邪気に笑っていた。くそ、完全に転がされてる気がする……

 

フミ「……ほら、ことりが戻ってくるまで、ここで大人しく待ってろ」

 

ゆい「はーい♪」

 

そう言いながら、ゆいはちょこんとベンチに座り、俺の隣で足をぶらぶらさせていた。子供の純粋な言葉って、時に大人より鋭いから困る

 

ゆい「ねぇフミちゃんは、ことりちゃんのどこが好きなの?」

 

フミ「……っ!」

 

こいつ…さっきから核心ばっか突いてきやがる……!

 

フミ「……別に、そんなんじゃねぇよ」

 

ゆい「え〜? でも顔赤いよ?」

 

フミ「なっ……!? そ、そりゃお前、暑いからだよ!」

 

ゆい「でも、ことりちゃんのことずっと見てたよ?」

 

ぐっ…!何で子供って、大人の事よく見てるんだよ…!?

 

ゆい「ねぇねぇ、教えて?」

 

フミ「…はぁ〜……」

 

俺は小さくため息をつくと、視線を逸らしながらぽつりと呟いた

 

フミ「……なんつーか、あいつは……」

 

ゆい「うんうん!」

 

フミ「……ほっとけねぇんだよ」

 

ゆい「ほっとけない?」

 

フミ「誰にでも優しくて、困ってる奴がいたら迷わず手を差し伸べるし……それでいて、自分のことは後回しにしちまうからな」

 

フミ「……そういうとこ見てると、放っといたら危なっかしくて仕方ねぇって思うんだよ」

 

ゆい「そっかぁ……」

 

フミ「……それに」

 

ゆい「それに?」

 

フミ「……あいつ、笑ってると、なんか……安心すんだよな」

 

ゆいはにっこりと微笑みながら、俺をじっと見つめていた

 

ゆい「フミちゃん、ことりちゃんのこと大好きなんだね♪」

 

フミ「ぶっ……!?」

 

その瞬間、戻ってきたことりの声が聞こえた

 

ことり「ただいま♪ お待たせ~!」

 

フミ「っ……!?」

 

ヤベェ!! ことりに聞かれたか!?俺は思わずことりの顔をうかがったが、どうやらギリギリセーフだったらしい

 

ことり「はい、ゆいちゃんにはオレンジジュース、フミ君にはアイスコーヒー!」

 

フミ「お、おう……サンキュ」

 

ことり「えへへ♪ それで、2人で何話してたの?」

 

フミ「っ!!」

 

俺はごくりと息をのんだ

 

ゆい「んー? ひ・み・つっ♪」

 

ことり「えぇ~? 気になるなぁ♪」

 

ゆい「ふふっ♪」

 

俺はそんな2人のやりとりを見ながら、心臓のドキドキを隠すように、黙ってアイスコーヒーを口にした

 

???「ゆいーっ!!」

 

突然、周囲の人混みの中から女の人の声が響いた。

 

ゆい「……!!」

 

ことり「……あっ!」

 

俺達は声のする方を振り向くと、人ごみの向こうから、心配そうな表情の男女が駆け寄ってくるのが見えた。

 

ゆい「パパ! ママ!!」

 

次の瞬間、ゆいはぱぁっと表情を輝かせ、目に涙を浮かべながら駆け出した

 

ゆいの母親らしき女性がしゃがみ込み、両手を広げる。

 

母親「ゆい……っ! 無事でよかった……!」

 

父親「心配したぞ……どこに行っちゃったんだ!」

 

ゆい「うぇ……ひっく……ごめんなさい……」

 

母親「もういいの、もういいのよ……!」

 

母親はゆいをぎゅっと抱きしめ、涙を流していた

 

ことり「ふふっ、よかったぁ♪」

 

ことりもほっとしたように微笑みながら、俺の方を見る

 

フミ「見つかってよかったな」

 

ことり「うんっ♪」

 

そんな俺たちの元へ、ゆいの父親が歩いてきた。

 

父親「あの……あなた方が、ゆいを?」

 

ことり「はい、偶然ゆいちゃんが迷子になっているのを見つけて、一緒に探していたんです」

 

父親「そうでしたか……本当に、ありがとうございました!」

 

母親も涙をぬぐいながら、ことりと俺に頭を下げた

 

母親「この子、とても不安だったと思うのに、優しくしてくれて……本当にありがとうございます!」

 

ことり「えへへっ、そんな! 当然のことをしただけです♪」

 

フミ「……ま、ほっとけなかったしな」

 

ゆい「ことりちゃん、フミちゃん……ありがとうっ!」

 

ゆいは涙目のまま、俺たちに向かってニコッと笑った

 

ことり「ううん、頑張ったのはゆいちゃんだよ♪ もう迷子にならないようにね?」

 

ゆい「うんっ!」

 

ゆいの家族は、最後にもう一度お礼を言って、ゆいの手を引きながら去って行こうとした時だった

 

ゆい「……あのね!」

 

俺達が見送ろうとしたその時、ゆいがピタッと立ち止まり、俺達の方を振り向いた。

 

ゆい「フミちゃんとことりちゃんって……すっごくお似合いだと思うの!」

 

ことり「……えっ?」

 

フミ「……は?」

 

突然の言葉に、俺とことりは一瞬フリーズする

 

母親「あら♪ ふふっ、ごめんなさい、この子ったら」

 

父親「ほら、ゆい、行くぞ」

 

ゆい「えへへっ♪ じゃあね、ことりちゃん! フミちゃん!」

 

ことり「う、うんっ! ばいばーい♪」

 

フミ「……おう」

 

ゆいは満面の笑みで俺達に手を振りながら、両親に手を引かれて歩いていく

 

ことり「……お、お似合い……かぁ」

 

ことりは照れくさそうに頬を赤く染めながら、小さく呟いた

 

フミ「……ガキの言うことだろ」

 

俺はそう言いながらも、なんとなく気恥ずかしくなって視線を逸らす

 

ことり「ふふっ♪」

 

ことりが俺の顔を覗き込んで、くすくす笑った

 

フミ「……な、なんだよ」

 

ことり「ううんっ♪ なんでもないよ……あっ!」

 

フミ「ん?」

 

ことりは時計を確認して、少し申し訳なさそうに俺の方を見た

 

ことり「イルカショーの時間……過ぎちゃったね」

 

フミ「まぁ仕方ねぇだろ」

 

ことり「ごめんね、フミ君」

 

フミ「気にすんなよ。俺は別に構わねぇし、それに、まだ夜の部があるんだろ?」

 

ことり「……!うんっ、あるよ!」

 

フミ「だったら、それ見りゃいいだけの話だろ」

 

ことり「ふふっ♪ そうだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことり「ゆいちゃん、良かったね♪」

 

フミ「あぁ、家族と会えて本当に良かったよ」

 

ことり「迷子の子が泣いてるのを見ると、なんとかしてあげたくなっちゃうよね」

 

フミ「お前らしいな」

 

ことり「ふふっ、フミ君もね♪」

 

俺は少しバツが悪くなって、視線をそらす。そんな俺を見て、ことりはクスッと笑った後、ふと首をかしげた

 

ことり「でも、こういうことって意外とあるのかな?」

 

ことりの言葉に俺はある事をふと思い出した

 

フミ「……あぁ、そういや夏休みの時も、似たような事があったな」

 

ことり「えっ、何かあったの?」

 

フミ「ヨウタとレンと映画見た帰りに、小学生の男の子が中学生の不良3人にカツアゲされててさ」

 

ことり「えぇ!?それって…大丈夫だったの?」

 

フミ「まぁな」

 

——回想——

 

ヤンキーA「これっぽっちかよ」

 

中学生の不良が小学生の財布の中を覗き込みながら舌打ちする

 

レン「君達〜何してんの〜♪」

 

ヤンキーB「あ? 何だよ?」

 

レン「いや〜、俺っちちょっと気になっちゃってさ〜♪ ガキ相手に強盗とか、さすがにダサすぎじゃない?」

 

ヤンキーC「うるせーな! テメーには関係ねーだろ!!」

 

フミ「ガキから金巻き上げるとか、マジでダセェぞ」

 

ヤンキーA「はぁ? なんだよテメーら」

 

レン「ヤンキーなら悪い事しても、ダサい事すんなよ」

 

レンの圧に中学生のヤンキー達は一瞬ひるむ

 

フミ「どうする? 俺らとやり合うか?」

 

ヤンキー達は顔を見合わせ、しばし沈黙した後、奪った財布を返し始める。その財布を横からヨウタがスッと取りポッケに入れる

 

フミ「何でテメーがポッケに入れてんだよ! コイツに金返せよ!」

 

ヨウタ「おい、テメーら!?もっと出せ!!じゃねーと殺すぞ!このヤロー!!」

 

フミ「お前が金巻き上げてどうすんだよ!!」

 

その光景を見てレンはケラケラと笑いながら、財布を小学生に渡す

 

フミ「お前ら、こんな奴に絡まれたくなかったら、どっか行け」

 

ヤンキー達は俺とレンの威圧感、そしてヨウタの異常さに怯え、慌てて逃げ出してたな。財布を受け取った小学生は「ありがとう」と言ってたっけ

 

——回想終了——

 

ことり「……ふふっ♪」

 

フミ「……何だよ?」

 

ことり「ううん、フミ君達らしいなって思って♪」

 

フミ「バカにしてんのか?」

 

ことり「そんなことないよ♪ でも、やっぱりフミ君も優しいね」

 

フミ「別に…俺はただ、目の前でダセェことしてる奴が嫌いなだけだ」

 

ことりは優しく微笑みながら、そっと俺の隣に並んだ

 

ことり「そういうところ、私は素敵だと思うよ♪」

 

俺は少しだけ気恥ずかしくなりながらも、その言葉を否定しなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ついにイルカショーが始まる

 

ことり「ふふっ♪ じゃあ、夜の部のイルカショー、楽しもうね!」

 

俺とことりは席に着くとショーが始まった。夜のイルカショーは昼間とは違い、ライトアップされた幻想的な雰囲気だった。水面が青白く光り、イルカたちがジャンプするたびに水しぶきがキラキラと輝く

 

ことり「わぁ〜〜!」

 

フミ「すげぇな…」

 

ことり「フミ君、見て! あのイルカ、高ーく飛んだよ!」

 

フミ「おぉ、確かにな」

 

ことりは子供みたいに楽しそうに笑っている。その笑顔を見ていると、なんとなくこっちまで楽しくなる気がした

 

ことり「フミ君、今日はありがとう」

 

イルカショーの青白い光が、ことりの横顔を優しく照らしている

 

ことり「誘ってくれた時、すごく嬉しかったんだ」

 

俺は少し驚いて、ことりの方を見る。ことりはイルカたちを見つめながら、ふわりと微笑んだ

 

ことり「本当にありがとう」

 

その声はショーの音にかき消されそうなくらい小さいのに不思議と俺の胸に強く響いた

 

ことり「今日はすっごく楽しかった♪」

 

そう言って、ことりが俺の方を向く

 

俺が——誰かにこんな感情を抱くなんて、考えもしなかった。観客達は歓声を上げながら、跳び上がるイルカ達に目を向ける

 

けど、俺は——その横顔から目が離せなかった。心臓の音がやけにうるさい。ショーの音も、周りのざわめきも、何も聞こえない

 

ただ——目の前の彼女の笑顔だけが、俺の世界にあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水族館を出ると夜風が少し冷たく感じた

 

フミ「ことり、家まで送るよ」

 

ことり「えっ? でも……」

 

フミ「もう暗いし、危ねぇからな」

 

ことり「……ありがとう、フミ君」

 

こうして俺達は同じ電車に乗り込んだ。電車内はそこそこ混んでいたが、運よく並んで座ることができた。水族館で歩き回ったせいか、ことりは少し疲れているようだった

 

ことり「……フミ君、今日は本当に楽しかったよ」

 

ことりがそう呟いたあと、ふわりと欠伸をする

 

ことり「……ふふ、ちょっと眠くなっちゃった」

 

そう言った直後だった。ことりの頭が、そっと俺の肩にもたれかかる

 

フミ「……ったく」

 

ぼやきながらも、俺はことりを起こさないようにじっとしていた。電車の揺れに合わせて、ことりの髪がふわりと揺れる。安心しきった寝顔を間近で見ていると、なんだか胸が落ち着かなくなる

 

フミ(俺が誰かにこんな感情を抱くなんて、考えもしなかった)

 

俺はことりの寝顔を見守る事にした。そして、ことりがゆっくりと目を覚ます

 

ことり「ん……あ……」

 

眠そうに瞬きをして、少しぼんやりとした様子で顔を上げた

 

ことり「……フミ君?」

 

ことりがそう呟くが、窓に持たれて寝落ちしている

 

ことり「ふふっ、フミ君も疲れてたんだね……」

 

ことりは小さく笑うと、そっと肩に自分の頭を預け直す。そして2人は静かな眠りを続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことり「送ってくれてありがとう、フミ君」

 

ことりの家の前。ことりは少し寂しそうに微笑んだ

 

フミ「別に…気にすんな」

 

ことり「今日は本当に楽しかったよ」

 

フミ「……なら、よかった」

 

フミはそれだけ言って、踵を返す。帰るつもりだった。だけど——

 

ことり「待って」

 

小さな声に足が止まる。振り向くと、ことりがじっとこちらを見つめていた。夜の静けさの中、俺達に微妙な空気が流れる。ことりはそっと目を閉じ、唇を少し尖らせた

 

フミ(これって…)

 

俺は一瞬、躊躇した。けれど、ことりの微かな仕草が、まるで「待ってる」みたいに見えた。そして俺はゆっくりと、ことりの顔に近づいた。そっと触れるだけ。ほんの数秒だったはずなのに、やけに長く感じた。唇が離れると、お互い、驚いたような、でもどこか嬉しそうな表情だった

 

ことり「……ふふっ」

 

フミ「……なんだよ」

 

ことりはもう一度、そっと目を閉じる。それを見た俺も自然と瞳を閉じ、ゆっくりと、もう一度唇が重なる。先ほどよりも、少しだけ深く。静かな夜風が吹く中、2人だけの時間が流れる。そっと唇が離れ俺達は目を開けた

 

ことり「……おやすみ、フミ君」

 

小さな声が夜に溶ける

 

フミ「……あぁ、おやすみ」

 

ことりは名残惜しそうに微笑みながら、ゆっくりと家の中へと入っていく。俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。夜風が心地いいはずなのに、顔が熱くて仕方がない

 

フミ(……やっべ、俺、今めっちゃ顔赤いかも)

 

静かだった夜の空気に、小さく息を吐き出す。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながら、ゆっくりと歩き出した。その時——

 

レン「いや〜、青春しちゃってるねぇ、フミちゃん♪」

 

フミ「——っ!!?」

 

突然、背後から聞き覚えのある陽気な声がして、俺は心臓が飛び跳ねるくらい驚いた。慌てて振り向くと、そこにはニヤニヤと満面の笑みを浮かべたレンの姿があった

 

フミ「い、いつからいた…?」

 

警戒するように問いかけると、レンはしれっと答える

 

レン「ん〜? ことりちゃんと駅で一緒に歩いてたあたりから?」

 

フミ「……は?」

 

レン「いや〜面白そうだから後つけてたけど、まさかキスするとは思わなくてさぁ。俺っちもびっくりしちゃったよ♪」

 

フミ「……っ!!!」

 

顔が一気に熱くなる。いや、さっきの比じゃない。マジでどうにかなりそうだ

 

フミ「何でテメーがこんな所にいるんだよ!!」

 

レン「いやぁ、たまたま近く通りかかったら、すげー雰囲気になってるのが見えてさ? これは見届けるしかないって思って♪」

 

フミ「テメー!今すぐ記憶から消せ!」

 

レンはケラケラと楽しそうに笑っているが、こっちは笑い事じゃない

 

レン「この事、ヨウちゃんにも報告しとく?」

 

フミ「絶対言うな!!殺すぞ」

 

俺はレンの襟元を掴みかかり勢いで叫ぶ

 

レン「はいはい、冗談冗談♪」

 

フミ「絶対、誰にも言うなよ」

 

レン「言わないよ。相手はスクールアイドルだし」

 

フミ「何で、そこだけ聞き分けいいんだよ」

 

レン「だって、ここで借り作っとけば俺っちと絵里さんを取り持ってくれそうだし♪」

 

コイツ、やはり"ソレ"が目的だったのかよ

 

レン「でもさ、フミちゃんがあんな優しい顔するなんて、なーんか新鮮だったなぁ」

 

そう言いながら、レンはにやりと笑う

 

フミ「……もう帰る」

 

これ以上話してたら、レンのからかいに耐えきれず、マジで殴りそうだった。俺は踵を返し、足早にその場を後にする。後ろでまだクスクスと笑う声が聞こえたが、振り向く気にもなれなかった

 

フミ(ことりが、あの時、ちょっと嬉しそうに笑ってたから良しとするか…)

 

レンに冷やかされてイラつく気持ちとは裏腹に、心の奥でふわりと温かいものが広がるのを俺は感じていた

 

つづく

 




とりあえず
ストック無いから貯める
5つくらい書いたら投稿するから
待っといて
今、1つは出来そうやから
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