まぁ、遊びがほぼですけど
学生じゃなくても遊ばせてよ
時は12月。μ'sはラブライブの最終予選に向けて曲を考えていた
絵里「それじゃあ最終予選で歌う曲を決めましょう」
ヤヨイ「歌える曲は1曲だけですから慎重に決めないといけませんね」
シオン「勝つためにな」
花陽「勝つために…」
にこ「私は新曲がいいと思うわ!」
穂乃果「おお、新曲!!」
凛「面白そうにゃ!」
にこの意見に穂乃果と凛が賛成する。
海未「予選は新曲のみとされていましたから、その方が結構有利かも知れません」
フミ「けど、そんな事で曲を決めるのはどうかと思うぞ?」
真姫「それに新曲の方が有利ってのも、本当かどうか分からないじゃない?」
ヨウタ「お笑いの賞レースでも新ネタだと優勝するって訳じゃないしな」
シュウジ「それに、新しさ求めてハロウィンの時みたいになったら本末転倒だしな」
海未「そうなると困ったものですね…」
全員の意見を取り入れると話が難航してしまう。すると、希がある事を提案する
希「例えばやけど…このメンバーでラブソングを歌ってみるのはどうやろか?」
ヨウタ「ラ」
フミ「ブ」
シオン「ソ」
シュウジ「ン」
ヤヨイ「グ?」
希の意外な言葉に俺達は困惑する
花陽「なるほど!アイドルにおいて恋の歌すなわちラブソングは必要不可欠!定番曲の中で必ず入ってくる曲の一つなのに…それが今までμ'sにはそれが存在していなかった!」
ヤヨイ「花陽ちゃん…もっと分かりやすく、ゆっくり話して下さい…」
絵里「希…?」
穂乃果「でも、どうしてラブソングなんて無かったんだろう?」
ヨウタ「決まってんだろ?作詞する海未が恋愛を知らねーからだ」
フミ「コイツの言う通り。海未が恋愛なんてした事あると思うか?」
海未「な、なんで決めつけるんですか!!」
穂乃果「じゃあ、あるの!?」
ことり「あるの!?」
にこ「あるの!?」
花陽「あるの!?」
凛「あるにゃ!?」
海未「なんで、みんな食いついてくるのですか!?」
穂乃果「海未ちゃん答えてよ!!」
海未「うぅ……ありません」
凛「なんだ~やっぱりか〜」
ことり「びっくりしちゃった〜」
穂乃果「そうだよ!変にためないでよ~!ドキドキしちゃったよ~!」
海未「なんであなた達に言われなきゃいけないんですか!穂乃果もことりもないでしょ!!?」
穂乃果「え〜っと…そ、それは…」
ことり「こ、ことりは…ちょっとだけ…」
海未「“ちょっとだけ”って何ですか!?」
ヨウタ「……(視線をそらしながら)」
フミ「……(わざとらしく知らんぷりする)」
シュウジ「どうした?お前ら?」
ヤヨイ「えっと、話を戻しましょう!つまり、ラブソングの可能性を探るってことでいいですか?」
真姫「けど、今から新曲作りはちょっと厳しいと思うわよ…」
絵里「でも…まだ諦めるのは早いんじゃないかしら?」
真姫「えっ?絵里?」
絵里の奴は新曲にこだわってるのか?
希「そうやね。曲作りに必要なのはイメージと想像力やろうし…」
シオン「つーか、どうやって恋愛のイメージ膨らませるんだ?」
そして、俺達が考えて取った行動とは…
花陽「あ…受け取ってください!!」
希「お、いい感じやん♪」
俺達は場所を変え、廊下で撮影をする事になったが…何だこれ?ギャルゲーのイベントシーン?
海未「これでイメージが膨らむんですか?」
希「そうや、こういう時とっさに出てくる言葉って結構重要よ」
穂乃果「でも?なんでカメラが必要なの?」
希「そっちのほうが緊張感出るやろ? それに、記録に残してあとで楽しめるし…」
フミ「それが1番の目的だろ」
希「でも、相手がいないと何だかそれっぽくない感じやね」
ヤヨイ「と、言いますと?」
希「やっぱりカメラは男の子が回した方がええんやない?」
ヨウタ「俺がカメラやるわ」
フミ「いや、俺がやる」
シュウジ「俺も挙手しとく」
ヤヨイ「僕がやましょうか?」
俺がアイサインを送ってヤヨイも挙手させる
シオン「はあ…仕方ないな」
希「おお!みんなやる気やな♪じゃあ、次は真姫ちゃん、お願いしてみよか」
ヨウタ「ほら、シオン、どうぞどうぞ」
フミ「お前に任せるわ」
シュウジ「頼んだ」
シオン「おい!いきなり押し付けるんじゃねぇよ!」
真姫「な、何で私が!?ていうかアンタ達、いったいどういう意味よ!」
ヨウタ「いや…真姫ってカメラ越しに睨んできそうやし…」
フミ「後、ちょっとでもカメラミスったらすごい目で見られそう…」
シオン「それで俺に回すか?普通」
真姫「ちょっと!誰がそんなに怖いってのよ!」
希「まぁまぁ、ええやん♪ほら、可愛いシーン撮ろうな~」
そして場所を移動して中庭へ
真姫「はい、これ」
真姫はシオンの持っているカメラに視線を合わせながら、そっぽを向いて手渡す
真姫「いいから受け取んなさいよ」
シオン「はいはい」
シオンが箱を受け取る。包装だけの空箱、とても軽い
真姫「べ、別に……あなただけにあげたわけじゃないんだから!勘違いしないでよね!」
シオン「分かったよ」
真姫「あなたのことなんて…な、何とも思ってないんだから!」
シオンは少し微笑みながらカメラを回し黙って見ている
真姫「…もう!お礼ぐらい言いなさいよっ!」
ヨウタ「おいおい、それ絶対本命やろ〜?」
フミ「てか、もう告白やん!?」
真姫「……っっっ!!!」
何か2人共、良い感じだったから俺とフミで茶々を入れてみた
真姫「アンタ達!!誰が本命よ!?ふざけないで!!」
ヨウタ「やっべ、マジギレだ!」
フミ「逃げるぞ!」
シオン「やれやれ…」
にこ「ふんっ!何よ、調子に乗っちゃって」
真姫「べ、別に乗ってなんかいないわよ!」
希「じゃあ、にこっちもやってみる?」
にこ「……全く、しょうがないわねぇ〜。そこまで言うなら、見せてあげるわ」
にこが髪を解きカメラの前へ、するとその瞬間――
ヨウタ「ちょ、待て待て待て待て!!」
フミ「誰得だよッ!!!」
ヨウタ「マジで勘弁してくれ!マサの前だけでやれよな!」
フミ「いやマジで俺らの視界に入るな!!夢に出るだろうが!!」
にこ「はあああ!?何よその反応!!誰もアンタ達に見せたいなんて思ってないし!!」
ヨウタ「じゃあそのまま裏でやっててくれ!!マサ呼んで来いマサ!!」
フミ「これ以上見せられたら精神削られる…!」
にこ「ちょっとアンタたち!!そこ座りなさい!!今から説教だからっ!!」
結局、ラブソングのインスピレーションは得られず、曲も決まらなかった
穂乃果「結局何も決まらなかったね…」
ヨウタ「こうなると新曲はムズそうだな…」
真姫「やっぱり、無理しない方がいいんじゃない?」
海未「そうですね。次は最終予選でこれまでの集大成とも言えます。今までやってきたこと精一杯やりきる。それが一番大事な気がします」
シュウジ「海未の言う通りだな」
ことり「私もそれがいいと思う」
絵里「でも、もう少しだけ頑張ってみたい気もするわね!」
絵里の一言に皆が驚いた
真姫「絵里?」
凛「絵里ちゃんは…反対なの?」
絵里「反対…ってわけじゃないけど、やっぱりラブソングは強いって思うし、それくらいでないと勝てない気がするの」
穂乃果「そうかな…?」
海未「難しいところですが…」
絵里「それに希の言うことはよく当たるから」
フミ「なら、もう少しだけ考えてみるか?」
海未「私は別に構いませんが…」
絵里「それじゃあ今度の日曜、みんなで集まって、アイデアを出し合ってみない?資料になりそうなもの、私で探してみるから。希もそれでいいでしょう?」
希「えっ?ああ…うん、そうやね…」
そうして、俺達は日曜日に再び集まる事にした
真姫「可笑しい…」
花陽「可笑しい?」
ヤヨイ「何がおかしいのですか?」
放課後、僕は花陽ちゃん達1年生とタピオカ屋に来ていた
真姫「ちょっと変じゃない?あそこまで絵里が率先してラブソングにこだわるなんて…」
花陽「それだけラブライブに出たいんじゃないかな?」
真姫「だったら止めるべきよ!今までやってきた曲の方が完成度は高いんだし…」
凛「希ちゃんの言葉を信じてるとか?」
真姫「けど、あそこまでこだわるの今まで見たことある?」
花陽「じゃあ、何で?」
凛「はっ!もしかして絵里ちゃんはA-RISEのスパイだったんだにゃ!!」
花陽「ハラショー…」
真姫「なに変な想像してるのよ…ありえないでしょ」
ヤヨイ「コンデション下げる為にしてもやり方が周りくどいですよ。他に理由があると思いますよ」
ミカ「ユウちゃむ〜、ほら早く〜!」
ナナ「ウチらに奢りって言ったじゃ〜ん?」
聞き覚えのある声に、僕は気付いて振り返るとユウヤ君がズルズルと店内へ引きずられて行く。楽しそうに見えるが、本人の表情は明らかに違った
ユウヤ「げっ!!」
僕と目が合うも、ユウヤ君はあからさまに顔を引きつらせる。何とも言えないバツの悪そうな顔をして、目線を逸らした
ヤヨイ「ユウヤ君、相変わらずですね」
凛「その顔、完全に“見られたくなかった”って奴だよね〜?」
花陽「えっと…お2人は知り合いですか?」
ユウヤ「…同じクラス」
ミカ「…えっ?」
ナナ「…ちょ、ちょっと待って。え?ねぇミカ、あれ…」
ミカ「うそっ!?え、真姫ちゃん!?凛ちゃんに花陽ちゃんも!?マジ!?え!?本物!?」
ナナ「え〜〜!?ヤッバ!!ウチらμ'sのファンなんだけど!?ねぇミカ、これ夢じゃないよね!?」
ミカ「えっ、えっ、待って待って、落ち着けウチ……って落ち着けるか〜い!!」
凛「おぉ〜、すごい反応だにゃ〜!」
真姫「…ファン?私達の?」
ミカ「ガチで!真姫ちゃんのツンデレっぽいとことかマジ神だし!」
ナナ「凛ちゃんの元気キャラもマジ尊いし!花陽ちゃんは癒しの女神だし〜!」
花陽「えぇ!?そ、そんな…ありがとぉ…」
ミカ「お願い!一緒に写真撮ってくれない!?ウチら、μ'sに会えたとか一生分の運使ったってレベルなんだけどぉ!!」
ナナ「ユウちゃむまで一緒にいるとか、運命でしょ!?ねぇ、お願い!!」
真姫「ふ、普通に言ってくれればいいのに…まぁ、別にいいけど」
凛「全然いいよ〜!ヤヨイ君も一緒に入ろうよ!」
ヤヨイ「僕もですか?ま、まぁ、いいですけど」
ユウヤ「頼むから…俺は目立たない場所で…」
ミカ「ダーメ!ユウちゃむは真ん中な〜!」
ナナ「はいっ、スマホセットして、ハイチーズ!」
シャッター音とともに、スマホにはタピオカ屋の前で並んで写る7人の姿がばっちり収まった
ナナ「この写真、一生大事にする〜〜!!」
ミカ「マジで今日、伝説の日だわ」
2人共、写真を撮り終えた後もテンションが下がる気配が無かった
ミカ「てか、ウチらだけ別の席行くとかムリじゃない?」
ナナ「だよね〜!このまま一緒に飲も〜よ!」
凛「いいよ〜、席空いてるし!」
真姫「えぇ…勝手に決めないでよ」
花陽「でも、せっかくだし…いいんじゃないかな?」
ユウヤ「……俺はいいとは言ってない」
ミカ「ユウちゃむは“黙って座れば”いいの!」
ナナ「てか何その言い方〜!いつも一緒にいるのに〜!」
結局、当然のように僕たちのテーブルに座り、ユウヤ君も観念したように、渋々その隣へ座る
ヤヨイ「…さっきから気になってたんですが」
ユウヤ「ん?」
ヤヨイ「ユウヤ君、髪型変えました?」
凛「あ、確かに!なんか前よりちょっとシュッとしてるっていうか〜」
花陽「セットされてる…感じ、するよね?」
ユウヤ「っ…!!」
ミカ「それウチらウチら〜!!」
ナナ「正確には、ウチらの髪をいつも盛ってくれる子がいて、その子にユウちゃむの髪、整えてもらったんよ〜!」
ミカ「ユウちゃむ、顔は良いのに髪型が勿体無いから〜無理やり座らせて、クシとかスプレーとかバチバチにキメさせた〜!」
ナナ「ユウちゃむ、鏡見てずっと『…マジかよ』って言ってたよね〜」
ユウヤ「お前ら、全部喋るな…」
真姫「ふっ…努力は買うけど、気取ってる感が抜けてないわね」
凛「でも、似合ってると思うにゃ〜!」
花陽「うんうん、すごく自然だよ〜」
ヤヨイ「確かに、前よりちょっとだけ男前です」
ユウヤ「“ちょっとだけ”は余計だ…」
ナナ「てか〜ユウちゃむ、少しだけモテそうな感じ出てきてない?」
ミカ「わかる!今の髪型ならウチの学校でもイケるって〜!」
ユウヤ「黙れ」
ヤヨイ「…で、えーと、すみません。僕達、さっきまで何の話してましたっけ?」
凛「あ〜、じゃあ話戻すね!」
花陽「ラブライブの予選の曲のことだよ」
真姫「そう、希が“新曲で、しかもラブソング”をやりたいって言い出して…それに絵里が乗り気だから、なんだか変じゃないかって」
ヤヨイ「そうでした。確かに絵里さんがラブソングに前のめりなのは意外ですね」
ユウヤ「…それは、そうだろ」
一同がユウヤ君に目を向ける
ユウヤ「3年ってことは、卒業まであと半年もねぇ。お前らと思い出を作りたいってのもあるかもしんねぇけど――多分、それだけじゃねぇ」
タピオカを一口飲んでユウヤ君は言葉を続ける
ユウヤ「最後に“何か”をやり遂げたいんだよ。真面目なあいつなら、なおさらな…それがラブソングって形だっただけなんじゃねぇの?」
ミカ「うわ〜〜〜、めっちゃ青春語ってる〜!」
ナナ「髪セットした写真に“名言”ってキャプション付けて保存するわ」
ユウヤ「やめろ」
花陽「でも…なんか、納得できるかも」
真姫「……」
ヤヨイ「真姫ちゃん。どうかしましたか?」
真姫「理屈は…分かるわよ。ラブライブが、μ'sが、絵里にとっても大事なのは当然だし。けど…」
ヤヨイ「けど…?」
真姫「気持ちだけで全部がうまくいくなんて、甘いわ。私達が今まで積み重ねてきた“完成度”を崩してまで、やる意味が本当にあるのかどうか…」
ユウヤ「それは、お前らで考えるしかねぇだろ」
凛「でも気持ちは少し分かったんじゃない?」
真姫「少しだけね。でも、納得したとは言ってないわ」
ヤヨイ「まぁ、ラブソングでもμ'sらしさを出せれば、悪くはないと思いますよ」
ミカ「うちら的には、μ'sがラブソングとか逆に激アツなんだけど〜?」
ナナ「推しのラブソングとか解釈無限よ!?むしろもっとやってくれって感じ!」
真姫「ギャルのノリは参考にならないわ」
ミカ・ナナ「えぇ〜!?」
ユウヤ「たく、これ以上は話が進みそうにねぇな」
ヤヨイ「同感です…」
そして日曜日。新曲のラブソングについてアイデアを出し合おうということで、俺達は穂乃果の家に集まっていた
ヨウタ「何で俺も歌詞考えなきゃいけねぇ〜んだよ!?」
ヤヨイ「サポート役だからですよ」
ヨウタ「つーか、あの3人はどうした!?」
ヤヨイ「シオン君とシュウジ君はリョウヤ君の試合に行くみたいです」
ことり「フミ君は何か用事があるみたい」
ヨウタ「アイツら〜」
にこ「文句言ってないで、さっさと手を動かしなさい」
希「そう言ってるにこっちだってまだノート真っ白やん」
ことり「ねぇみんな、このDVDでも見れば何かいいアイデアが浮かぶかもしれないよ?」
ヨウタ「そのDVD、俺のじゃねーか?」
ことり「うん、フミ君から『返しといて〜』って渡されたの」
ヤヨイ「何のDVD何ですか?」
ヨウタ「北野武監督作品DVDBOX。ギャング系だけじゃなくて、恋愛映画もいくつかあるぜ」
にこ「アンタが勧めてくる時点で、なんか裏がありそうなんだけど…どうせ、バイオレンスでしょ?」
ヨウタ「バイオレンス要素があるのもあるけどな、『HANA-BI』とか。でも、あれは詩的な作品で、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞も獲って海外からも評価されてる作品だな」
希「ほぉ〜、なんかすごそうやな…」
ヨウタ「個人的には『あの夏、いちばん静かな海。』が好きだな。セリフ少ねぇけど、めっちゃ切なくて純愛で泣ける」
ヤヨイ「確か聴覚障害者の青年がサーフィン始める話でしたっけ?」
ヨウタ「そう!それ!久石譲の音楽が最高でよ〜」
すると絵里が俺のDVDを手に取り言った
絵里「この『dolls』って作品、気になるわね。ジャケットがすごく綺麗」
ヨウタ「ああ、『dolls』か。恋愛映画で、三組のカップルの物語が交差していくやつだ。四季を通して描かれてて、映像がマジで綺麗なんだよな」
ヤヨイ「これも、ビジュアルで見せるタイプの映画ですか?」
ヨウタ「そ。これもセリフ少ねぇけど、風景とか表情で全部伝わってくる。正直な話、俺的にはアウトレイジより心に来た」
にこ「はぁ!?あの、バイオレンス映画より!?」
ヨウタ「マジで。グロいと言うよりこっちはズシンと来る…何だろうな〜言葉では表せないと言うか…」
ことり「けど、四季と恋、無言の愛情ってなんだか歌詞のヒントになりそうな気がするよね?」
絵里「そうね。言葉じゃなく、気持ちを“感じさせる”っていうのも一つの表現かも」
にこ「じゃあ、決まりね。まずは『dolls』観ましょ」
ことり「うんっ、再生するね〜!」
そして映画を見始めてしばらく――
部屋の照明は落とされ、DVDから流れる映像が穂乃果の部屋を淡く照らしていた。
……穂乃果と凛は開始30分ほどで、こくりこくりと舟を漕ぎ出し、気づけば2人並んで寝落ちしていた。隣でにこが呆れたように眉をひそめる。
にこ「はぁ……集中力ゼロね、あの子達……」
俺と希、そして真姫は、無言で画面を見つめ続けていた。一方、絵里、ことり、花陽、ヤヨイの4人の目には、すでに静かに涙が溜まり始めていた。やがて、とある場面でその涙が頬を伝う
花陽「うぅ…可哀想…」
絵里「そうね…愛してるのに…どうして、すれ違っちゃうのかしら…」
ヤヨイ「言葉にしないのが、逆に刺さりますね…」
ヨウタ「このシーン、マジでよくできてるよな。血が直接映らないで、落ち葉がふわって舞って川に落ちてさ…あれで死が分かるのってオシャレだよな。初見で観た時は絶句したわ」
ことり「ぐすっ…この季節の移ろいと、気持ちの変化がリンクしてるのがまた…」
にこ「うぅ…な、なによ!…安っぽい映画ね…!!」
ヨウタ「いや、泣いてんじゃねぇか…ってか、あの2人は寝てるし…」
希「穂乃果ちゃん達には、ちょっと静かすぎたんかも」
そんな中、部屋の隅っこでクッションを頭に被って耳を押さえながら、1人だけ異様な様子を見せている奴がいた
海未「うぅ…は…破廉恥です…」
真姫「…は?」
ヨウタ「おい海未、何隠れてんだ?別にホラー映画じゃねーぞ」
絵里「そうよ、こんな感動的な映画なのに……」
海未「分かっています!分かってはいるんですが…!でも…恥ずかしいんです…!」
にこ「どの辺がよ?」
そして、映画はクライマックスで冬のシーン。真っ白な雪原で、主演の西島秀俊と菅野美穂が静かに抱き合う。その刹那
海未「ああああぁぁぁぁ~~!!///」
突然、海未が耐えきれなくなり、立ち上がるや否や部屋の電気をつけて、リモコンでテレビを容赦なく消してしまった
ことり「海未ちゃん!?」
海未「恥ずかし過ぎます!破廉恥です!!」
花陽「え、そ、そうかなぁ…?」
海未「そうです!そもそもこんなことは、人前でするものではありませんっ!!」
ヨウタ「いや、濡れ場もない恋愛映画だぞ!!」
希「むしろあそこが一番グッとくるところやのに…」
真姫「なによ…せっかくいいとこだったのに…」
ヤヨイ「海未さんには、ちょっと刺激が強すぎたようですね…」
にこ「ていうかあんた、子供向けアニメのラブシーンでも発狂しそうね」
海未「ふ、ふざけないでくださいっ!!」
海未と付き合う男は苦労しそうだな〜。何とは言わないけど…色々と
穂乃果「あれ…映画は…?」
凛「終わったのかにゃ?」
ヨウタ「やっと起きたか。お前ら開始3分で寝てたろ?」
穂乃果「ごめ~ん。のんびりした映画だなって思ってたら眠くなっちゃって…」
絵里「なかなか映画のようにはいかないわよね。それじゃあ、また始めからみんなで言葉を出し合って…」
真姫「待って!」
絵里の話を真姫が遮った
真姫「もう諦めた方がいいんじゃない?今から曲を作って、振り付けや歌の練習もこれからなのに…完成度が低くなるだけよ!」
真姫の言葉を聞いた穂乃果達は一理として感じていた
海未「真姫の言う通りかもしれません。ラブソングに頼らなくても私達には私達の歌がある」
穂乃果「そうだよね…」
にこ「相手はあのA-RISEよ。下手な小細工は通用しないのよ」
絵里「でも!」
希「真姫ちゃんやみんなの言う通りや。今までの曲に全力を注いで頑張ろう?」
絵里「希…」
希「それに今さっき見たら、カードもその方がいいって言ってた」
希は1枚のタロットカードを穂乃果達に見せるが、見せたのは絵柄ではなく裏面であってなんの絵なのか分からなかった
絵里「待って希。あなた…」
希「ええんや。一番大切なのは…μ’sやろ?」
絵里は何も言わず黙り込んで下に俯いてしまう。その様子を見た時、穂乃果が希に尋ねる
穂乃果「どうかしたの?」
希「ううん。なんでもない!じゃあ今日はもう解散して、明日からまた練習やね!」
希に言われるまま、今日は解散することになった
穂乃果「じゃあね!」
凛「ばいば~い!」
ヤヨイ「暗くなりそうなので送りますよ」
花陽「ヤヨイ君、ありがとう」
真姫「ごめん。先に帰ってて」
凛「えっ?なんで…?」
真姫ちゃんは僕達に理由も言わず、遠く離れた所にいる絵里さんと希さんの後を追いかけるように歩き始めた
凛「真姫ちゃんどうしたんだろう?」
花陽「さぁ?」
絵里「本当にいいの?」
希「いいって言ったやろ?」
絵里「ちゃんと言うべきよ!希が言えば、みんなきっと協力してくれる!」
希「うちにはこれがあれば十分なんよ」
絵里「意地っ張り…」
希「エリチに言われたくないなぁ~」
絵里と希の2人が並んで歩いていく。何か話し込んでいる様子だけれど、距離があって言葉までは聞こえない
真姫(もうちょっとだけ近づかないと)
歩道脇にある大きめの花壇。その背丈のある草木の影にしゃがみ込み、真姫はそっと息を潜めていた
真姫(ああもう、角度が悪い…!もう少しで聞こえそうなのに…!)
スカートの裾を気にしつつも、地面すれすれまで目線を落として、花壇越しに視線を伸ばす
???「…もうちょい足開いてくれたら見れそうなんだけどな〜?」
真姫「っ!?」
ヨウタ「けど、見えそうで見えないのが意外と――」
真姫「――――――!!!//////」
目線を上に上げた瞬間、顔を真っ赤に染めた真姫は、バッと立ち上がる
真姫「アンタなにやってんのよ!!」
躊躇ゼロの鉄拳制裁。拳が綺麗に俺の顔面を捉える
ヨウタ「痛たぁぁぁぁぁたぁ!!!!!」
ユウヤ「馬鹿なことやるからだ」
ヨウタ「違うんだよ!!ちょっとふざけただけなんだよ!!」
ユウヤ「それを“覗き”って言うんだよ」
ヨウタ「俺の中では冗談だったんだよぉぉぉぉ!!」
西木野はスカートを押さえたまま、顔を真っ赤にしてあの馬鹿を睨む
真姫「本当に信じられない…!!」
ユウヤ「…まぁ、あんな角度でしゃがんでたらな。気になるのも分からんでもないけど」
ヨウタ「だよな!?だよなユウヤ!?」
ユウヤ「見ようとしたら負けだ」
ヨウタ「うっ…はい…」
ユウヤ「それより何やってんだ?探偵ごっこか」
真姫「違うわよ。アレを見て」
西木野の視線の先には横断歩道の手前で信号待ちをしている絵里と希だった
真姫「アンタ達のせいで、直接聞かないと行けないじゃないの!」
そう言って西木野は飛び出して行く
真姫「希!」
希「真姫ちゃん…?」
真姫「あなた、前に私に言ってたわよね?面倒くさい人間だって…」
希「…そうやったっけ?」
真姫「自分の方がよっぽど面倒くさいじゃない!」
絵里「ふふっ、気があうわね。同意見よ」
希「…真姫ちゃんにバレしまうと、本当の事を言わないといけんなぁ…」
真姫「本当の事…?何よ…それ?」
絵里「まあここで話すのもなんだから…来ない?」
真姫「来ない?どこによ?」
希「ウチの家に。ウチの家に来れば話してあげてもいいんよ?」
ヨウタ「俺達もそれ気になるな」
希「ヨウタ君にユウヤ君…」
絵里「ヨウタ、その顔…どうしたの?何かあったの?」
ユウヤ「この馬鹿が西木野のスカートの中…」
ヨウタ「はい!はい!じゃあ早速、希の家に行きましょうか!?」
ユウヤ(コイツ、話を逸らしやがった)
真姫「お邪魔します」
希「遠慮せんと入って」
希の家であるマンションに着いた俺達は中へと入る。いやー何か緊張してきました
希「お茶でええ?」
真姫「あ、うん」
ユウヤ「1人暮らしなのか?」
希「うん…。子供の頃から両親の仕事の都合で転校が多くてね」
ユウヤ「なるほどな…」
絵里「だから、音ノ木坂に来てやっと居場所が出来たって…」
希「その話はやめてよ。こんな時に話すことじゃないよ」
希はそう言いながら沸騰したやかんの火を止めて、用意したお茶っ葉にお湯を入れた
真姫「ちゃんと話してよ。もうここまで来たんだから」
絵里「そうよ、隠しておいてもしょうがないでしょ」
希「別に…隠していたわけやないんよ。エリチが大ごとにしただけやん」
絵里「嘘、μ’s結成したときからずっと楽しみにしていたでしょ?」
希「そんなことない。うちが、ちょっとした希望を持っていただけよ」
ヨウタ「2人だけで話を進めないでくれるか?置いてけぼりなんだが」
真姫「そうよ!いつまで経っても話が見えない!どういうこと!?」
絵里「簡単にいうとね、希の夢だったのよ…」
希「エリチ!」
絵里「ここまで来て何も教えないわけにはいかないわ」
真姫「夢?ラブソングが?」
絵里「ううん、大事なのはラブソングかどうかじゃない。9人みんなで、曲を作りたいって!」
ユウヤ「そう言う事か」
絵里「ええ。1人1人の言葉を紡いで、思いを紡いで、本当に全員で作り上げた曲、そんな曲を作りたい。そんな曲でラブライブに出たい!それが希の夢だったの」
ヨウタ「だからラブソングを提案したのか」
希「言ったやろ?うちが言ってたのは夢なんてたいそれたものじゃないって」
真姫「じゃあなんなの?」
希「なんやろうね、ただ、曲がじゃなくてもいい、9人が集まって力を合わせて何かを生み出せればそれでよかったんよ。うちにとってこの9人は、奇跡だったから」
真姫「奇跡?」
希「そう、うちにとって、μ'sは、奇跡」
希がぽつりと語り始める。それは小学生の頃からの過去の話だった。親の都合で転校が多く、気づけばどこにも長く居られず友達ができないまま過ごしてきたらしい。話す相手もいない。気持ちを分かち合える存在もいない。そんな孤独な時間を何度も繰り返してきた──そう、希は言った。でも、転機は高校に入ってからだったという。音ノ木坂学院での出会い。自己紹介の時に周囲とうまく馴染めず距離を取っていたクラスメイト──絵里。希は、その姿に自分を重ねていたらしい
希「それがうちとエリチの出会いやった。その後も、同じ思いを持つ人がいるのに、どうしても手を取り合えなくて。真姫ちゃん見た時も、熱い思いはあるけど、どうやって繋がって良いか分からない。そんな子が、ここにも、ここにも。そんな時、それを大きな力で繋いでくれる存在が現れた。思いを同じくする人がいて、繋いでくれる存在がいる。必ず形にしたかった。この9人で何かを残したかった。確かに、歌という形になれば良かったのかもしれない。けどそうじゃなくてもμ`sはもう既に何か大きなものをとっくに生み出してる。うちはそれで十分♪」
ユウヤ「俺と似ているな」
希「え?」
ユウヤ「俺も、両親が転勤族でさ。友達なんて、1人もいなかった。中学に入ってからは…その寂しさを埋めたくてか、誰かに構ってほしくて、喧嘩ばっかしてた。けど、この馬鹿と喧嘩して気付いたよ」
ユウヤが俺をチラッと見る
ユウヤ「お前らは会うと騒がしくてウザいけど、なんだかんだ一緒にいると退屈しない」
ヨウタ「おい、それ褒めてんのか?」
真姫「…ユウヤの言う通りだったわね」
ユウヤ「ん?」
真姫「一昨日、会った時に…言ってたのよ。“9人で何かを成し遂げたいんじゃないか”って。その時は、そんなの綺麗事にしか聞こえなかった。でも今は、ようやく納得できた気がする」
希「ユウヤ君ありがとね」
ユウヤ「礼なんていらねーよ…」
希「ふふっ……でも、やっぱりウチの1番の夢はとっくに叶ってた。だから、この話はお終いや。それでええやろ?」
絵里「…って、希は言うんだけど。どう思う?」
そう言いながら絵里は真姫と目を合わせる。真姫も何かを決意したようにスマホを取り出した
希「ま、まさか!?みんなをここに集める気なん…!?」
真姫「いいでしょ?一度くらい。みんなを招待しても。だって、友達なんだから」
真姫はそう言うと早速、穂乃果達に希の家に集まるように連絡する。そして、みんなが到着すると希が提案したラブソングを再度考えて欲しいと伝えた
穂乃果「えっ?やっぱり作るの?」
真姫「そう、みんなで作るのよ」
ヤヨイ「それより、希さんって一人暮らしだったんですね」
海未「初めて知りました…」
花陽「何かあったの?真姫ちゃん?」
真姫「何にも無いわよ」
凛「怪しいにゃ~」
絵里「ちょっとしたクリスマスプレゼントよ♪ μ'sから、μ's作ってくれた女神さまにね」
ヨウタ「つーわけだ。みんな頼む!」
穂乃果「分かった。協力するよ!」
希「みんな…」
ユウヤ「けど、お前らどうやって曲作るんだよ?」
ヨウタ「それは…何かみんなで好きな言葉とか出し合ってとか?」
ユウヤ「何も考えて無かったのかよ」
花陽「みんなで言葉を出し合ってか…」
花陽がふと部屋を見渡して、写真棚に目を止めた。そっと手を伸ばし、写真立てを手に取る
花陽「これって…」
その写真は見覚えがあった。あの講堂でライブをした、μ’s復活ライブの時のものだ
ヨウタ「この写真、講堂でライブした時の…」
希「あっ!それはダメ!!」
希が花陽から写真立てを奪い取り、写真立てを庇うようにしてみんなに背を向ける形で距離を取る
凛「あ~っ!希ちゃんが赤くなってるにゃ!」
にこ「へぇ~、希がそんなの飾ってるなんて意外ね」
希「別にいいやろ?ウチだってそのくらいするし…友達…なんやから…」
ことり「希ちゃん!」
凛「可愛いにゃ~!」
希「もう!笑わないでよ!」
凛が楽しそうに希のベッドに飛び込んで近づくと、希は近くにあったクッションを拾い上げて凛の顔に押し当てた
絵里「暴れないの。たまにはこういう事もしないとね」
そう言って、いつの間にか希の背後に回っていた絵里が、そっと彼女を抱きしめて静止させる。希は凛とふざけていたときとはまた違った顔で照れたように頬を染めていた
ヨウタ「お、雪が降ってるぞ」
俺がふと窓の外を見ると、雪が舞い降りていた
穂乃果「本当!?」
俺の声にすぐさま反応したのは穂乃果だった
穂乃果「雪だぁ~!」
穂乃果はそのまま勢いよく玄関の方へ走っていって、外に飛び出して行った。それをことり達が慌てて後を追う
ヨウタ「たく、小学生かよ」
ヤヨイ「ヨウタ君は行かないんでか?」
ヨウタ「俺、寒いの苦手だから」
ユウヤ「意外だな。雪の上でプロレスとかしてそうなのに」
俺とユウヤ、ヤヨイの3人で窓から公園の方を眺めていると、穂乃果達は円を作るように立っていた。背中合わせになりながら、全員で空を見上げてる。雪はゆっくりと舞い降りていて、それをそれぞれの手のひらでそっと受け止めるようにしながら、一つずつ言葉を紡いでいく
穂乃果「思い…」
花陽「メロディー…」
海未「予感…」
凛「不思議…」
真姫「未来…」
ことり「ときめき…」
にこ「空…」
絵里「気持ち…」
希「…好き」
その言葉達が雪と一緒に舞って空へと溶けていくように感じた。こうして、μ'sはラブライブ最終予選に向けてラストスパートを駆ける事になった
つづく
みんなが帰った後、部屋には一気に静けさが戻っていた。あの騒がしさが嘘みたいだ。けど寂しさは無い。不思議と胸のあたりが落ち着いていた
ユウヤ「…じゃ、俺も帰るわ」
俺が立ち上がり、帰ろうとすると希は黙って玄関まで歩いてきて、俺の隣でドアを開ける。外は変わらず雪。街灯の明かりに静かに降る粒が浮かんで見える。俺はそのまましばらく黙ってた。気まずいわけじゃない。ただ、言葉を選んでいた
ユウヤ「…俺と似たような奴がいて、少し気が楽になったよ」
俺は希の顔は見ないまま自然と口から出ていた
ユウヤ「転校ばっかで、馴染む気にもなれなかった。どうせまたすぐ離れるって分かってたから」
希「…ウチも、そんな感じやった。声かけられるの待ってただけやのに。誰にも気付かれなくて…平気なフリしてた」
俺はほんの少しだけ頷いた。言葉はそれ以上いらなかった。すると俺の背に静かな声がかかる
希「…またね」
俺は振り返らずほんのわずかだけ顔を向ける
ユウヤ「…ああ」
それだけ言ってポケットに手を突っ込み歩き出す。背中にあるのは一つの言葉と、どこかあたたかい気配。街は白い。けど、今日は冷たくなかった
なんかユウヤがどうなるのか?
ライブ感過ぎるな
そしてストックが貯まらない
どうしましょう?