GS伊達!~逆行大作戦~(仮) 作:S11
需要あるかな。
「それでは君達の健闘を称え、ここに表彰状を授与します!」
――198X年、都内某所。
ミニチュア四輪駆動自動車模型・全国大会。
その表彰式が執り行われていた。
多数の小学生の羨望の眼差しが表彰台の1番高いところに立つ少年に向けられている。
関東では無敵を誇った新鋭の少年が、関西が誇る
愛車を片手にしたバンダナの少年は、誇らしげに鼻の下をこすり、一段低い所に立つ目付きの悪い少年もどこか誇らしげに胸を張り、バンダナの少年の勝利を讃える、感動にも似た空気が漂う表彰式。
その光景が次の瞬間一変することになる。
「お前は横島かっ!? 何故ここに居る!!」
目付きの悪い少年がビクッと身体を震わせたかと思うと、周囲をキョロキョロと見渡し大きな声でバンダナの少年に食って掛かったのだ。
「ひっぃぃぃ。か、堪忍やっ。わいは正々堂々と戦って勝っただけなんや。悪う思わんでくれっ」
急に怒鳴られた理由は分からない。
分からないが条件反射的に謝ったバンダナの少年――横島忠夫は、両手で頭を抱えるとしゃがみこんだ。
一見すると情けない行動だが、自分は悪くないと主張している辺り、大したものと言えなくもない。
「……勝った? お前は何を言っている!?」
その鋭い目を見開いた目付きの悪い少年は、状況が理解出来ないとでも言いたげに言葉を紡ぐ。
「き、君っ! ちょっとこっちに来なさい!」
何を言っていると言いたいのはこっちの方だとばかりに、慌てた係員が表彰台に駆け寄ると、目付きの悪い少年の腕を掴んで強引に引きずり下ろし、そのまま控え室の方へと連行していった。
「な、なんやったんや……?」
取り残された形になった横島少年は、ホッとすると同時に目付きの悪い少年をヤバイやつ認定し、二度と関わりたくないと心に誓った。
その誓いが叶う事はないのだが、それは少しばかり先の話となる。
◇
「本当にすいませんでした。ほらっ、雪ちゃんも謝って」
控え室に連れてこられた目付きの悪い少年は、係員の男性から説教を受けていた。
そこにやってきていた少年の母親は、もう十分に怒られたしそろそろ頃合いだろう。そう考え目付きの悪い少年の隣に並び謝罪を促す様に後頭部に手を添える。
「……悪かったな」
そっぽを向いた目付きの悪い少年は、頭を下げずばつが悪そうにボソッと呟いた。
「コラッ。ちゃんと謝りなさい」
とある御曹子も使用する伝統ある謝罪法であったが、母親はそれを良しとはしない。
腰に手を宛て如何にも怒っていますといったポーズで目付きの悪い少年に迫り、再度の謝罪を促した。
「……すみませんでした」
「いえいえ、良いんですよ。これくらいの男の子は負けず嫌いな位で当たり前ですから。それでは私は会場に戻ります」
そう言うと係員の男性は、母子を残したまま控え室から去っていった。
セキュリティ的にどうかと思うが
「雪ちゃん? 一生懸命やっても負ける時はあるのよ? それはね、雪ちゃんがダメとかじゃないの。相手の男の子がもっと一生懸命だっただけなの。負けて悔しいと思うのは悪いことじゃないけど、あぁいう風にいちゃもん付けるのは良くないと思うわ」
「ママっ……」
係員が去ったかと思えば母親による説教。
その最中、目付きの悪い少年が母親に抱き付いた。
「あらあら、どうしたの?」
少し叱りすぎたかと反省した母親は、久しぶりに甘えてきた息子の頭を優しく撫でる。
しかし、目付きの悪い少年が甘えた理由は叱られたからではなかった。
超常的な現象が少年の身に起きていたのである。
「ママ……ママっ……!」
目付きの悪い少年は、
◆
このすがるように泣く目付きの悪い少年の名は、伊達雪乃丞という。
伊達雪乃丞は逆行者である。
そして、幽霊退治を生業とする
表彰式で騒ぎが巻き起こった原因は、
中身が大人のクセにガン泣きとかドン引きだわ~、等と言ってはいけない。
何故なら、アラフォー雪乃丞にとってもこのタイミングで過去の自分と融合・定着するとは想定していないハプニングだからだ。
順を追って語ろう。
まず
一つはデ○リアンに代表されるタイムマシンに乗り込んで過去なり未来なりに、肉体を持って乗り込んでいくタイムワープと呼ばれる手法。
この手法は旅行として楽しむ分には適しているのだが、歴史の改変という点においては危険が伴い、予測もしにくい。
もう1つは自分の精神を過去の自分と融合させる、タイムリープと呼ばれる手法だ。こちらは前者と違い未来には行けないし、遡れる過去にも限界がある。
但し、変えたい過去を変えるという点に置いてはタイムワープよりも優れている。
例えば、自分が起こした事故の過去を無かった事にするとしよう。
タイムワープなら過去の自分が事故を起こさない様、事故に至る行動を遮れば良い。
しかし、これでは事故を起こさなかった新たな
事故の過去は変わったとしても防いだ自分にはなんの影響もなく、謂うなれば自己満足に近い。
一方のタイムリープはと言うと、新たな
事故を起こさない様に行動すれば、その後は事故を起こさなかったifの世界の住人として生きていけるのである。
簡単に言えばタイムリープは人生をやり直せるということだが、いくつかの欠点がある。
魂を過去に跳ばした未来の自分は死に等しい状態になり、物品の持ち込みも不可能。持ち込めるのは記憶と経験だけとなる。
又、人生をやり直したからと言って元の人生よりも良くなる保証はどこにもなく、いつの時点からやり直せるのかも不確実。
下手をすれば過去の自分と融合出来ず、本来の自分に戻る事も出来ずに消滅してしまう可能性すらある、非常に危険な方法なのである。
前置きが長くなったが、雪乃丞が行ったのはタイムリープであり、計画上は小学生ではなく高校生の頃の自分と融合するハズだった。
中学生の頃に亡くなった母親との再会は想定しておらず、マザコンであるという事実も手伝ってガン泣きに至ったのである。
重ねて言うが雪乃丞はマザコンだ。
そんな雪乃丞だが母親を助けるために危険を犯して時間を遡ったワケではない。
悲しく辛いことでも母親の死は現実――そう受け止められる程度の分別と強さが雪乃丞にはあった。
では何故、
198X年を起点にして考えた時、これから先の雪乃丞は母を失い、その遺言の“強い子になって”との言葉をそのままの意味で受け止め、ひたすらに“強さ=戦闘力”を求めて闘いの道に足を踏み入れる。
そんな中で、横島忠夫と出会った。
節操なしのスケベでお調子者。
それが周囲の者達からの横島への評価であったが、雪乃丞の評価だけは違っていた。
タダ者ではない。
こいつは自分のライバルに相応しい男だ。
ファーストコンタクトでの闘いに敗れた事もあって、雪乃丞は横島を高く評価したのである。
そして、その評価は間違いではなく、神界や魔界をも巻き込んだ全世界規模の大戦において、横島は縦横無尽の大活躍をみせる。
その闘いの
元より政治的な駆け引きに興味がない雪乃丞は、事の顛末に対して箝口令が敷かれたこともあって、詳しい経緯を知らなかった。
ただ、大戦の後に見せる横島の変わらぬ態度から、傷は大したことがない、もしくは傷は癒えている――そう考えてしまっていたのであった。
それが過ちだと雪乃丞が気付くのは、大戦から二十年近い時を経た、なんの変哲もない夜のことになる。
世界を揺るがした大戦。
それが終結してからの日々は特に語る事はない。
一般人からすれば波乱万丈にしか見えない出来事も、GSからすればありふれた日常なのである。
悪霊と闘い大金を稼ぎ、稼いだ金を浪費しながら修行に励み、実力が付いたと思えば横島に闘いを挑む。
雪乃丞の人生はそれの繰り返しであった。
『のぁ~っ!?』
すっとんきょうな叫びをあげながらも攻撃を凌ぎ
『あ~っ、死ぬかと思った』
雪乃丞が渾身の力を込めて放つ霊波砲を受けてもなお平然と立ち上がり。
『お前は人外レベルなんだから、俺に絡むのは止めてくれっ』
そう言いながらも闘いに付き合う横島。
一度として横島に勝つ事ができなかった雪乃丞だが、そこに不満はなかった。
そんなある日。
雪乃丞は試合終わりに渋る横島を半ば強引に酒場へと連れ出した。
世間からはみ出る浮世離れした
気の置けない友と酒を酌み交わす。
なんの変哲もない楽しい夜になるはずだった。
しかし、早々に愛娘の写真を取り出した横島は、親バカを発揮して自慢話を延々と雪乃丞に語ると酔い潰れ、ルシオラ……と小さく呟き涙を流した。
この時になってようやく雪乃丞は、横島が癒えることない傷を隠していたと気付いたのだ。
気付いてしまったからには黙っていられない。
これが単なる
失恋なら誰にでも起こりうる事で、かくいう雪乃丞にもその苦い経験はあった。
強く印象に残っているのは十代の頃に親しくなった女と、家の都合で別れさせられた事だろうか。
悪の道に足を踏み入れた過去を持つ雪乃丞は、由緒ある霊能家系である彼女の両親から交際を認められなかったのである。
とても辛く、理不尽にも思える出来事に違いはないのだが、そんな事でイチイチ時間を遡っていれば、世界が崩壊しかねない。
しかし、世界の平和の代償をたった一人の男、しかも当時は高校生であった横島に背負わせているとするならば、話が違う。
それからの雪乃丞の行動は早かった。
金を稼ぎ、知人の老人にハッキングを依頼して大戦の真相を知ると決意を固め、時空消滅内服液と霊能力を使いタイムリープを敢行したのであった。
――20XX年、都内某所地下研究室。
『今が変わるワケではないんじゃぞ?』
緻密に描かれた魔方陣の中心に備えられた冷凍カプセルに横たわる雪乃丞に向け、タイムリープの協力を依頼された老人が念を押すように語りかける。
『お主は死に、枝分かれした新たな世界が産まれるだけじゃ。それにな? 修正力というのは厄介なもんでな……避けようとしても似たような出来事が起こり帳尻を合わせてきよる。小僧が悲劇に見回れるのが本来の歴史なら、それを変えても似通った出来事は引き起こされるじゃろう』
そんな事は雪乃丞も承知の上だった。
それでも今の世界を認める事は出来なかった。
ある意味で自己満足に近い欲求から、新たな世界を産み出す事に罪悪感を覚えつつも「やってくれ」と呟いた雪乃丞は、特殊な調合を施した時空消滅内服液を飲み干した。
『…………最後に一つだけ言ってやろう。歴史のうねりとは計算しきれるものではない。お主が無事に過去の自分と成り代われたなら、それは新たな歴史の始まりを示す。あまり考え過ぎず、思いのままに生きよ』
タイムリープに協力した老人――ドクター・カオスと呼ばれる男は、旅立つ雪乃丞に最後の言葉を贈る。
しかし、横たわる雪乃丞はそれに答える事なくビクッと身体を震わせ……そして、この時間軸において二度と動く事はなかった。
『生体反応は有りますが、霊的反応は有りません』
千年の時を生きるドクター・カオスの最高傑作である超高性能アンドロイド、マリアが事務的に雪乃丞の現状を伝えるがその表情は悲しげだ。
『ふむ……上手くいったようじゃな。全っく、どいつもこいつも馬鹿な男じゃわい。まぁ、ワシの目が黒い内はコヤツの肉体を保存しておいてやるとするかの。たんまりと礼金を頂いたことじゃしな』
千年の時を生きるカオスは常人の何十倍もの出会いと別れを経験している。
そんなカオスからみれば、別れを引き摺り続ける横島も、友の別れそのものを無かった事にしようと、この世界での死を選んでまで過去に戻った雪乃丞の選択も理解に苦しむモノになる。
しかし、嫌いではなかった。
それ故に、雪乃丞への協力を惜しまなかった。
『あの小僧が心底幸せに生きられる……確かに、そんな世界が有っても良いかも知れんな』
『イエス、ドクターカオス』
誰に語るでもなく呟いたカオスの言葉に肯定の意を示したマリア。
こうして雪乃丞は時空を遡ったのだった。