ウィンストン・チャーチル
男の子は風邪を引いた
本を読んでいる男の子がいる。
外からはけたたましい鳴き声がする。
外はとても暑い。太陽が赤く照り付け、コンクリートが反射して黒色のなかにキラキラ輝いている。
外を歩いていたら10分も経たずにイラついてしまうだろう。
その男の子はまだ5歳。
いつもなら幼稚園に行っているが、その日は熱が出てた。
医者が言うには只の風邪らしいがもう3日間経っており、夏風邪にしか思えない。両親は心配しどちらも3日休んでいる。
だが、今両親はいない。いや正確にはその部屋にはいない。母は買い物に行き、父は昼寝をしていた。呑気なものである。
男の子は本を読んでいる。
本は歴史の本。彼の父親は歴史が好きで、沢山の歴史の本を持っている。男の子は余りにも暇なのでなんでもいいから、暇つぶしの為に本を読むことにした。
父に「おとうさん。ほんがよみたい。」と言ったら、父は「興味を持ってくれた!」と喜び、小学生の歴史のマンガを貸した。
その後喜び疲れ父は寝た。子供よりも子供っぽいのだ。
マンガの最初のページには、主要な歴史人物がのっている。
だが、そのマンガにはルビがふられていなかった。
勿論、5才児が漢字を分かるわけがない。そして、カタカナもわからない。
平仮名が分かるだけでも、とても頭の良い子だと思うが。
なので男の子は、絵や写真だけを見ることにした。本の中では皆、父が仕事に行くときと同じ服を着ている人だらけだ。
なかにはネクタイではなく、蝶ネクタイの人もいる。
その写真は小太りの男が葉巻を吸いながら、笑顔でピースサインをしている。
だが何人かは、学生服みたいな服装をしていた。
その中の写真には、髪を七三分けにし、髭が海苔の様に四角い。顔も父より年を重ねていた。それに学生服なのにネクタイをしている妙な男がいた。
男の子は学生服をテレビでしか見たことしかないが、学生服は名前の通り学生が着るものだ。
因みに、男の子の言う学生服とは学ランの事である。
男の子は”ヘンなの”と思いながらページを進める。ページをめくった瞬間、後ろから声が聞こえた。
「ここはどこだ?」
野太い声だ。男の子は振り返った。
その男は大人なのに小さかった。
きっと180cmある父と並ぶと、シルクハットがあるお陰で身長が同じに見えるだろう。
その男は、スーツ姿だがネクタイではなく、蝶ネクタイをしていた。
有名な探偵の赤色ではなく、黒色だ。
彼の顔はまるでブルドックのようだった。闘争心にあふれて、頑固な顔をしている.
目もまた、ギラギラと輝いており、まるで”闘犬”の様だ。
左手には葉巻をしっかり握りしめ、右手にはステッキを持っていた。
男の子はその時は気づかなかったが、前のページにそのブルドックの様な男がのっていたのだ。男の子は読めなかったが、その本にはこう書かれていた。
『ナチスドイツの侵略から6年間イギリスを守り続け、鉄のカーテンを宣言した国を愛するブルドッグ』
“”元英国首相 ウィンストン・チャーチル""
と書いていた。
可笑しい。
私は何故立っている。私はベットの上だったはずだ。それに家族がいて、医者もいた。治ったのか?
分からない。
なんで私は服を着ているんだ?それにステッキや葉巻はなんだ?寝る前は病院服で葉巻も吸わせてくれなかったのに。
それよりもここは何処だ?記憶にないぞ。なんだあの黒く四角く薄いものは。あんなの見たことがないぞ。
「ここはどこだ?」
ふと下をみる。子供だ。服からして男の子だろう。顔は丸く、平べったい。アジア人だろう。本の文字はなんだ?アルファベットではない。漢字か?漢字だけでなく他にも文字がある?
このままじゃ何もわからない。話しかけてみようか。
「君、申し訳ないがここは何処かわかるかね?」
男の子は答えない。突然男の子はソファの後ろに隠れようとした。
「おいおい。どこに行くのかね?私は怪しくないよ」
「・・・しらない人とはおはなしちゃいけなんだよ」
男の子は答えた、英語だ。ここはイギリスのアジア人の家庭とかか?
それならなぜ英語じゃない本を読んでいる?・・・分からないことがたくさんだ。
「私は怪しくないよ。大丈夫だ。有名だよ私は。自分でいうのもなんだがな。
私はチャーチル。ウィンストン・チャーチルだ。知らない?これでも我が国の首相をしてたんだ。ずいぶん昔だがね。街頭のテレビで見たことはないかい?
もう君は私を知らなくはないよ。さあ、名前をいってごらん。」
男の子はしゃべろうとする。
だが、その言葉は打ち消された。ドンと、廊下から音がした。何かが落ちた音だ。
男の子は見に行こうとする。
「大丈夫だ。待ってなさい。私が見てくるよ。ついでにトイレに行ってこよう。あー・・トイレは何処かね?」
「ドアを出てすぐ右だよ」
チャーチルはお礼を言うと、ドアまで歩き、ステッキを手首に掛け、葉巻を口にくわえると、ドアを開けようとドアノブに手を伸ばした。
だか、ドアはチャーチルはドアノブに手をかける前に開いた。
そう。開けたのではなく、開いたのだ。チャーチルは驚愕した。葉巻が口から落ちる。
だってその男は20年前に死んだのだ。
地下壕で自殺したはずだ。愛犬のシェパードと愛人とともに。
そこにいたのは、ちょび髭で、七三分け。目は意志が固そうな目をしている。だがその目の奥には、狂気を感じるのだ。
しわが濃く、鷲の紋章がある軍帽をかぶり、軍服を着ている。
その軍服の胸の部分には、鉄十字のバッチが付いている。
左腕にはあの悪名高き
この男もまた、男の子が読んでいた本に載っている。
『世界に戦火をばら撒いた演説の天才で世界一の独裁者。』
””
永遠の争いが人類を強くし、永遠の平和が人類を弱くするのだ
アドルフ・ヒトラー