オールマイト
戦いは終わった。
もう夕方だ。
先生方に、こっぴどくしかられ反省したが、体育の教師の言葉には、反感しか持てなかった。
周りには、救急車や、警察の車両ばかりだ。ヴィランはしっかりと確保され、今は護送車の中だ。
大歴と轟は一緒にいる。大歴は、たいしたケガはしていない。首を絞められて穴に投げ込まれただけだ。
轟のほうは、バッタのような足で、腹を蹴られたのだ。打撲だけですんだのは、ラッキーだった。
「少年たち!無事でよかったな。だがもうあんな無茶をしてはいけない!特に大歴少年!ヴィランに捕まった時の行動。あれは非常に危険だ!!これからはやめなさい。」
「はい・・・すみません・・・。」
「だが、あの行動のおかげで私はヴィランを倒すことができた。・・・ありがとう。」
「いえ、そんな・・・。僕は何もできませんでした。」
「そんなことはないよ。大歴少年。君はまだ10歳だ。ここまでできる子供はそうはいなだろう。自信を持ちたまえ。」
「はい・・・。ありがとうございます。」
「それに、轟少年。君は大歴少年を助けようとしたらしいな!素晴らしいじゃないか!!持つべきものは友人だね!!!」
「はあ・・・。ありがとうございます。」
「OK,OK.It's COOL!!HAHAHAHA!・・・そういえば、君はエンデヴァーの息子さんなんだって。」
「まあ、一応。」
「じゃあ君は将来、ヒーローになるのかな?」
「あいつからはそう言われました。ヒーローになれって。」
「そ、そうなんだ・・・。(父親の事をあいつ呼ばわり・・・?)」
オールマイトは咳をした。
「大歴少年!君はヒーローになりたいとは、思わないのかい?」
「なりたいと思います。ですが・・・。」
「ですが、何かね?」
「オールマイトの個性は、如何にもヒーローって感じですが、僕のは全く違います。僕の個性は、正直、悪者の個性です。銃を取り出して撃ったり、人を召喚して、簡単に人を殺める事ができてしまいます・・・。そんな個性を持っているのに、ヒーローになれるのでしょうか・・・。」
そうだ。その通りだ。彼は彼自身の個性をよく理解していた。
伝馬の個性。其れは歴史である。
彼の個性には条件がある。召喚される人は、もう死んでいて、しっかりとその生涯や人格が表記されており、写真がある。写真は鮮明に人物の顔が写っており、何よりも全身が写っていなければならない。
その条件が合うのは、1900年からの人々であろう。
その時代の著名な人物。文化人では、チャップリンやココシャネルなどがいるが、その世紀で活躍した人物のほとんどが、政治家か、軍人であろう。
1900年は20世紀である。
20世紀は戦争の世紀と呼ばれている。私は異論はない。みんなが納得するであろう。
前半は、二つの世界大戦が起こり、その後も、冷戦が行われた。ソビエトが崩壊し冷戦が終わったのは、1991年である。
何度も、世界崩壊の危機があったのだ。
何度も、文明破壊の危機がありながら、人類はそれを乗り越えた。
だが、沢山の人が死んだのだ。
第一次世界大戦では、戦死者1600万人。二次大戦では、8500万人と言われているのだ。
伝馬は、死ね。と命令をした人々を召喚できる。
それは、10歳の子にはどれだけ重荷であろうか。
彼は、彼の一言で、何百万の兵士を呼び出し、人を殺せるのだ。
何千万も。
彼はヒーローの道をあきらめていた。こんな個性がなっていい職業だとは、とても思わなかったのだ。
彼は怖いのだ。自らの技量が。自らの個性が。堪らなく、恐ろしいのである。
だからこそ、チャーチルとヒトラーは彼を政治家か、軍人にさせようとしたのだ。
そうすれば、彼は、きっと適任だと思うだろうと。そう彼らは思ったのだ。
優しさである。
だが、優しさだけではない。彼らは彼のおじさんである前に、政治家なのだ。
自分のイデオロギーを信仰している。
だからこそ、彼らは伝馬にイデオロギーを教え、政治家か、軍人にさせ、自分たちの理想の国を形成させようとしているのだ。
オールマイトは、人を召喚する。という所に引っかかったが、聞かなかった。空気を読んだのである。
「大歴少年。私の個性だって、すぐに人を殺せるんだ。それに、どんな個性をしていても夢はでっかくだ!!それに君は、まだ何にでもなれるんだ!!夢をでっかく持ちたまえ!!」
「君は・・・ヒーローになれる!!!!」
「ヒーローになれる!!!!」
衝撃だった。こんな個性を持っている僕も、ヒーローになれるのか。
歴史という。この正義にも悪にもなれる個性。
何万人殺したと思っているのだ。
僕に様々なことを教えてくれるおじさん達は、いったい何万人殺したと思っているんだ。
戦争だったのだ。仕方がないだろう。
だが、人を殺しているのだ。ヴィランなんかよりも沢山。
それに僕は、彼らに命令を与える個性だ。
彼らは一体、何万人の兵士を率いることができるんだ。
僕が命令するだけで、全世界と戦争できる個性だぞ。
僕は、僕は・・・本当にいいのか?なれるのか?ヒーローに・・・。
オールマイトが、肩をつかむ。そして抱きしめながらやさしく話してくれた。
「大丈夫さ。もし君がヴィランになっても私が止めに行くよ。大丈夫だ。だから、君は君の夢を貫けばいいんだ。」
泣きそうだ。今までたまっていた何かが、吐き出されそうだ。
「僕は。僕は、ヒーローになりたいです。諦めていた夢だけど、僕は、ヒーローになりたい!!」
「そうか!!良かった!!!じゃあ雄英高校に行きなさい。そこでなら、ヒーローとしての基礎をしっかりと、教えてもらえるよ!!」
それに、私の母校だしね。と言いながらオールマイトは笑った。
オールマイトの笑い。何故かとても安心できる。
「轟少年!!君も、ヒーローになりたいと思っていたら、是非とも、雄英高校にいきなさい!!歓迎してくれるよ。」
「考えておきます。」
「FO~ 手厳しいねぇ!!」
その後、雄英でまた会うことを約束し、轟の父である、エンデヴァーが迎えに来て帰っていった。
その後、伝馬の両親が迎えに来た。すごく怒られた。だが、にやけ顔で聞いていた。
なんでそんな危ないことをしてしまったの!と母が聞くと「考えるよりも先に、体が動いていたんだ。」と答え
父には、なんでそんなに笑顔なんだ?と聞かれた。
伝馬は答える。
「夢ができたんだ。」
「何の夢だ?」
「ヒーローに僕はなりたい!!」
どうやら、チャーチルとヒトラーの野望は、砕かれたようだ。
新しい人材を育てたい。退廃と堕落がはびこる時代から、我々ドイツ民族の未来を救うために、未来のドイツを担うものは、しなやかであらねばならない。しなやかさと、鋼の強さを
アドルフ・ヒトラー