歴史はヒーローになれるのか   作:おたま

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正直であることは立派なこと。しかし正しくあることも大事だ。

ウィンストン・チャーチル


青年は一日を終える

緑谷は、見事にボールを彼方へ飛ばした。

 

だが、彼のその強力なパワーに体は付いてこられない。彼の右手の人差し指は赤黒くなっていた。

 

どう見ても、重症だ。

 

「やっとヒーローらしい記録出したよー。」

彼の記録に喜ぶ者。

 

「指が膨れ上がっているぞ。入試の件といい・・・。おかしな個性だ・・・。」

その代償に戦慄する者。

 

「スマートじゃないよね。」

キラキラしている者。

 

そして、驚くもの。

 

その驚いていた者は、突然、個性の力で右手を爆破しながら緑谷に爆走していた。

 

爆豪である。

 

「どーいうことだ!!こら!!ワケを言え!!デク!!てめぇ!!」

憤怒の表情で、飛んでくる。

 

緑谷は叫んでいる。当然だろう。怖すぎる。

 

「んぐぇ!!」

 

だが、その猛進は止められた。包帯が爆豪を止めたのだ。

 

「ぐっ・・・。んだ、この布。固っ・・・!!」

 

相澤だ。

ギチチチ・・・。という恐ろしい音が鳴りながら相澤が静かに話す。

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ【捕縛武器】だ。ったく。何度も”個性”を使わすなよ・・・。」

「俺はドライアイなんだ。」

 

目を充血させながらしゃべる。

 

『”個性”すごいのにもったいない!!』

 

「時間がもったいない。次。準備しろ。」

 

相澤が、歩いていく。

 

 

 

「指、大丈夫?」

 

麗日が心配そうに、緑谷へ問いかける。

 

「あ・・・。うん・・・・。」

 

明らかに痛そうだが、平気だと言う。どこからどう見てもやせ我慢だ。

 

「だが、ずっとそのままだと痛いし、このまま気に掛けるのも、辛いだろう。効くかはわからないが、応急処置だけはしよう。」

 

伝馬が緑谷の赤く腫れた指に応急処置を施していく。医療キットに入っているものでだ。

その手際はすさまじく、すぐに処置は完了した。

 

「あ、ありがとう。大歴君。」

 

「どういたしまして。緑谷君。だが、いつもこんなケガをしていたら周りの人たちも気が気ではないだろう。」

 

「う、うん。ごめんね。心配させて。」

 

「大丈夫だ。君が心配だしな。私もだが、しっかり制御をしていかなくてはな。さ、行こう。皆行ってしまった。」

 

「うん!」

 

そして、全種目が終了した。

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明時間の無駄なので一括開示する。」

 

皆、祈っている。そりゃそうだ。高校生活一日目でヒーローの夢が潰えるなんて考えたくもない。

 

「ちなみに除籍はウソな。」

 

『!?』

 

「君らの最大限を引き出す。合理的虚偽。」

 

『はーーーーー!!!!??』

 

「あんなのウソに決まってるじゃない・・・。ちょっと考えればわかりますわ・・・。」

ポニーテールの女子が大声で叫ぶ人を見ながら言う。

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから目ェ通しとけ。」

相澤が去りながら言う。

「緑谷。リカバリーガール(ばあさん)のとこ行って、治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ。」

 

皆ポカーンとしている。

脳がフリーズしているのだ。しょうがないことだろう。

 

因みに伝馬は8位だった。そして緑谷は21位である。

 

 

伝馬は教室に帰る途中、一人の青年が気になっていた。

その青年は、髪が紅白に彩られており縁起がよさそうで、目はオッドアイで中二病心がくすぐられる。

 

そう。轟焦凍である。

 

伝馬は、興奮していた。5年ぶりに再会した友だ。

話しかけたいところではあるが、”もし忘れていたらどうしよう”という気持ちのせいで、話かけられずにいた。

そして伝馬は思い出す。

”そういえば、轟君に名前を言うのを忘れていたな。”

すごいミスである。

 

尚更、伝馬は彼に話しかけなくてはならない。彼は伝馬を知らない。いや、知らなくはないのだが、名前を知らないから、彼は伝馬に話しかけられないのだ。

 

轟は、教室に帰る途中一人の青年が気になっていた。

その青年は、ガタイがよく、黒髪、黒目でどこにでもいそうな青年。だが、なぜか大人びており、どこか年上の印象を与える青年。

 

そう。大歴伝馬である。

 

轟は、悩んでいた。5年前にあった友人にどこか似ている。もしそうだとしたら、5年ぶりに再会したであろう友だ。

話しかけたいのだが、本当にその友人だったかの確証がつかめない。オールマイトの勧めで雄英に来たものの、ここの競争率は異常で、本当に入れたかという所は非常に確率が少ないので、「なあ、あんた。前にあったことないか?」なんぞ言ったら、「いや、知らないなあ。」と帰ってきそうなので、話しかけずらいのだ。

そして、轟は思い出そうとする。

”あれ、あいつの名前なんだっけ”

元々伝えられていないから、知っているはずもない。

 

教室に帰る間、轟は必死に思い出そうとする。

 

なんだか、コントのようだ。

 

 

 

「相澤くんのウソつき!」

 

オールマイトが、相澤に言う。

 

「オールマイトさん・・・。見てたんですね・・・。暇なんですか?」

気怠そうに答える。

 

「「合理的虚偽」て!!エイプリルフールは一週間前に終わってるぜ。君は去年の一年生人クラス全員除籍処分にしている。」

 

「ほう。それは本当かね?中々にドでかいことをする人なのだね。先生は。」

オールマイトがびっくりしたように声のした方向を見る。相澤は見ようともしない。

チャーチルだ。

 

「あ、あなたは一体?」

 

「あぁ。すまない。オールマイト先生。少し相澤先生と話したいのだが・・・。よいかね?」

 

「え、ええ。構いませんが・・・。(先生・・・。なんかいい響き。)」

チャーチルは、オールマイトに会釈をすると、相澤に話しかけた。

 

「相澤先生。そんなことをしていたのか。いやはや、ビックリだ。見込みがないからかね?ヒーローになっても稼げなさそうだ。と思ったからかね?それとも、ヒーローと言う夢を半端に追いかけさせるのが嫌なのかね。」

 

「まあ、割とあっていますよ。半端に夢を追わせることほど残酷なものはない。」

 

「君は、とても良い教育者だね。そんな君が、あんなデメリットがある個性を退学にしないわけがない。それに、ボール投げの時に、話していたのは事実上の除籍処分ではなかったのかね?もしそうだとしたら、取り消した理由はあの青年に、ヒーローの可能性を相澤先生は感じたのだな。結構いいところあるじゃないか。」

 

チャーチルが笑みを浮かべながら話す。

 

「もし私がそう思っていても、見込みがないと判断したらいつでも切り捨てます。」

そういうと、足速に去っていく。

 

「いや、済まなかったね。オールマイト先生。あぁ、知っているかもしれないが、私の名前は、ウィンストン・チャーチルだ。よろしく頼む。」

 

「は、はい。宜しくお願いします。(言いたい事全て言われてしまった・・・。)」

 

じゃ。と、言いながら、チャーチルは体育館に向かう。そこには待ちぼうけしているヒトラーが居るだろう。

 

何をしに行くって?煽りに行くに決まっているだろう。

 

体育館にチャーチルが入り、少し経つと、オッサン二人の怒号が飛んだ。相変わらずである。

 

 

 

放課後。 私は緑谷君と、飯田君とともに歩いている。結局轟君には話しかけられなかった。まだ初日だ。機会はいくらでもある。

しかし、嘘だと思っていたが、相澤先生のあの言葉には、はらはらしたな。まだまだ観察が足りないな。精進せねば。

 

「しかし、相澤先生にはやられたよ。俺は「これが最高峰!」とか思ってしまった!教師がウソで鼓舞するとは・・・。」

 

成程。飯田君は、怖いのではなく、真面目過ぎるだけなのだな。少し安心した。

 

「そうだな飯田君。それで皆、いつも以上の力を出していたと思うぞ。私がそうだからな。」

 

「おーい!お三方!駅まで?待ってー!」

 

お、麗日君じゃないか。

 

「君は(むげん)女子!!」

 

無限女子。

 

「麗日お茶子です!えっと飯田天哉くんに、大歴伝馬くん。それと、緑谷・・・デクくんだよね!!」

 

「デク!!?」

そりゃあ、驚くな。それは悪口だろう。

 

「え?だってテストの時、爆豪って人が。「デク!!てめぇ!!」って。」

 

「あの・・・。本名は出久で・・・。デクはかっちゃんがバカにして・・・。」

緑谷君が焦ったように訂正する。

 

「蔑称か。」

 

「そうだろうな。」

 

「えー!?そうなんだ!!ごめん!!」

 

「でも「デク」って・・・。「頑張れ!!」って感じで。なんか好きだ私。」

 

「デクです。」

 

「緑谷くん!!」

飯田君が驚いている。

 

 

「緑谷君、本当にそれでいいのか・・・。」

 

「浅いぞ!!蔑称なんだろ!?」

 

「コペルニクス的転回・・・。」

 

「コぺ?」

 

これで、初めての雄英の一日が終わった。

これから、辛いことは沢山あるだろう。だが、ここにいる皆は、ヒーローになるために邁進する。私も遅れないように気をつけなくては。

 

 

 

「どうしたヒトラー!!そんな所でボーっとして。木偶人形にでもなったのか!?」

 

「なんだチャーチル!何故ここにいる!!帰れ!!私はここにいてもよい権利を根津校長にもらっているのだ。」

 

「なんでいるのだ。まさか、伝馬が来るとでも思っているのか?はッ。外を見ればよかったな!!」

 

「何故だ。」

 

「彼は、教師の意向により、クラス全員で体育テストをやっていたぞ。お前は何処にいても役に立たないな!!」

 

「貴様ぁ!!聞いておれば調子づきよって!!」

身を乗り出しながらヒトラーが食って掛かる。

 

「なんだ!!やるのか!!いいぞかかって来い。もう一度やるか!?戦争を!!」

 

「おお!!やろうじゃないか!!今度こそ貴様はモルモットだ!!」

 

「やってみろ、ちょび髭野郎!!」

 

先生方が諫めるのに、30分かかった。

 

教師方の苦労は絶えない。




思弁ばかりが十分で、理性が不十分であってはならない。

ニコラウス・コペルニクス

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