歴史はヒーローになれるのか   作:おたま

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一切の書かれたもののうち、 私はただその人がその血をもって書いたものだけを愛する。

フリードリヒ・ニーチェ


青年は訓練を終えた

『ヒーローチーム!WIN!!』

 

オールマイトからの終了のアナウンスが聞こえる。

 

そうか。葉隠さん、やってくれたか。

オットーさんたちが付いていたから心配いらないと思っていたが、かなり苦戦したらしい。

10対1で互角とは。

障子君はとても強いな。

 

 

「なあ、お前。前にどこかで会ったことなかったか。」

轟君に話しかけられた。

 

なんだ、覚えていたのか。いや、今思い出してくれたのか?まあ良いか。少し嬉しいな。

 

「ああ。小学生の頃に行ったハイキングで会ったよ。」

 

「やっぱりか。」

 

「あの時に自己紹介をするのを忘れていたから、今するよ。大歴伝馬だ。よろしく頼む。」

 

「ああ。分かった。それと・・・」

 

「あー!!大歴君いたー!!何やっていたんだよ!こっちは大変だったんだよ!!」

葉隠さんが上から降りてきた。

 

「大丈夫だったか。オットーさんはどうした?」

 

「今、上で障子君の手当てしてるよ!!障子君、別にケガしてないって言っているのに。自分のケガの方がヒドイのに、構わずしているんだよ!!早く来て!!」

そう言って、葉隠は伝馬の手を取り、上階へ行く。

 

 

 

 

闘っている伝馬の顔はまさに特殊部隊のような、冷徹な目であった。

 

だがどうだ。

 

終わった後は、高校の顔に戻り、笑顔はとても優しそうだ。ギャップがあり過ぎるのだ。

 

そして、モニタールームに戻り、オールマイトのまとめに入った。

 

「よし!帰ってきたな。早速だが、今回のベストは障子少年だ!」

 

「何故ですか?俺は何も出来ませんでした。」

障子が驚く。

 

「それは、君が一番状況を理解し、動けていたからだ。葉隠少女達が突入してきたとき、よく動けていた。10対1の状況で、モノを守りながら動くのはそう簡単な事じゃない。称賛されるべきだよ。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「大歴君は訓練のテンポを一気に握った点は良かったが、核があるところで銃を撃ち過ぎだ。あの行為は、とっても危険だ。轟君だからよかったが、ほかの子たちなら危なかったかもしれない。ヒーローは人命優先!分かったね。」

 

「はい。すみません。」

 

「だが、君の制圧方法は実に的を得ていた、見事だよ。今回の授業の中で、最も効率よく制圧したね。これからも頑張ってくれ。」

 

「はい。」

 

「轟少年。君は、氷で防壁を作るのはとても良い発想だ。だが、回り込まれるときに階段に逃げていれば、もっとヒーローチームは苦戦していただろう。もっと周りを見渡した方がいいね。君は、もっと伸びるよ。頑張りたまえ。」

 

「分かりました。」

 

「葉隠少女は自分の個性をうまく利用した。とても良い戦い方だ。今後ともその調子で頑張ってくれ」

 

「はい!頑張ります!!」

 

「うん!とても良い返事だ。これで今回の授業は終わりだ!お疲れさん!!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし、真摯に取り組んだ!!初めての訓練にしちゃ皆、上出来だったぜ!」

 

「相澤先生の後でこんなまっとうな授業・・・。何か拍子抜けと言うか・・・。」

蛙吹が不安そうに言う。

 

「まっとうな授業もまた、私たちの自由さ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!着替えて教室におかえり!!」

そう言ったら、オールマイトが爆走しすぐに姿が見えなくなった。

 

「?急いでるなオールマイト・・・。かっけぇ。」

峰田が言った。

 

 

 

彼らは、着替えて放課後になった。

 

だが、帰らない。

 

誰が言ったか緑谷を待とう。と全会一致したからである。

 

「なあ、大歴だよな。お前の個性すげえな。あ、俺は切島鋭次郎だ!よろしくな!!」

切島が話しかけた。

 

「ああ。切島君だな。よろしく頼むよ。」

 

「だけどよぉ。お前の個性は何か、数の暴力みたいで男らしくねえよな。」

 

「まあ、そうだな。でも、私たちは無個性みたいなものだから、数にでも頼らなきゃ君たちには勝てないよ。」

 

「そうか。なんか悪い事言っちまったな。なんかゴメンな。」

 

「大丈夫だ。君の個性は凄いよな。確か硬化だったか。戦闘では、矢面に立てる立派な能力だよ。先鋒は戦の華だな。」

 

「だけど、目立たねんだよな。地味だし。」

少ししょぼんとしている。

 

「そんな事はない、私が保証しよう。私は君の戦いをモニターで見て、少し憧れたよ。あんな王道な個性、私が欲しいぐらいだ。」

 

「おう。なんかありがとな!!」

 

そんなことを話していると、緑谷が帰ってきた。

 

「おお緑谷来た!!おつかれ!!」

と、言いながら、緑谷の方へ歩いて行った。

 

「おお。伝馬じゃないか。まだ帰ってなかったのかね。」

そう言ってきたのは、ヒトラーだ。

 

「ヒトラーさん。何でここにいるのですか。」

 

「いや、以前探索していただろう。雄英は広いからまだ見て回っていたのだよ。最後に教室を見て回ってたら、今ちょうど緑谷君にあったのでね。ご一緒させてもらってたのだ。」

 

 

時間は少し遡る。まだ緑谷が保健室にいるとき。いや、もっと正確に言うとオールマイトが保健室に入ってきたときだ。

 

「入学間もないってのにもう()()()だよ!?なんで止めてやらなかった。オールマイト!!!」

 

と、オールマイトに説教をしているのは、この保健室の保険医である、リカバリーガールだ。

 

「申し訳ございません、リカバリーガール・・・。」

 

オールマイトはシュンとしている。だが、その姿はオールマイトではない。やせこけ、服はダボダボ。ドクロのような形相をしている。

 

「私に謝ってどうするの!?」

 

「疲労困憊の上、昨日の強打!一気に治癒もしてやれない!応急手当はしたから、点滴全部入ったら、日をまたいで少しずつ活性化していくしかないさね!」

 

そう。緑谷は連日のように骨を折り、肉を断っている。この生活を続ければ非常に危険なことになるだろう。今はぐっすり寝ている。安静にしておくのが最善である。

 

「全く・・・”力”を渡した愛弟子だからって、甘やかすんじゃないよ!」

 

「返す言葉もありません・・・。彼の気持ちを組んでやりたいと・・・、躊躇しました。して・・・。その・・・あまり大きな声で、ワン・フォー・オールのことを話すのはどうか・・・・」

 

実は、オールマイトの個性は、ワン・フォー・オールと言う。この個性は、己の力を次の者に引き継ぎ、力を育てていく”個性”だ。何代という人々が継承されていった個性。

少なくとも、私はつないでいく尊さは理解しているつもりである。

王族の血は、長く継承されることで初めて神秘性が出る。護られるべきものだ。

それは血でも能力でも、意志でも変わらない。

 

「ほう。オールマイトの個性はワン・フォー・オールと言うのかね。おや、その姿。本当にオールマイトか?」

 

そう話していると、突然ドアがガラガラと開き、ちょび髭の男が現れた。そう、ヒトラーである。

 

「え、え、い、いや。ち、違いますよ。こんなガイコツがオールマイトな訳がないでしょう!」

オールマイトはごまかそうとするが、明らかにキョドッている。

 

「ですが、なぜそのオールマイトの衣装を着ているのですかな?」

 

「え、そ、それは・・・。そう!私は、オールマイトのファンなのでこの衣装をしているのです!」

 

「ほう。なら何故雄英の保健室でオールマイトのコスプレをしているのですかな?それになんでそんなにダボダボな・・・。」

 

そ、それはぁ・・・。と、言い訳を考えているがもう無理そうだ。

 

「もう無理さ。ありのままを話すしかないよ、オールマイト。」

 

「そんな!リカバリーガール!って、あ。」

 

「やはり、オールマイトなのか。大丈夫だ。私は君のファンなので別に言わないよ。誰にもね。知ってしまったものの義務として、君に起こった事柄をこの私、アドルフ・ヒトラーに話してくれたまえ。」

 

「他言は決してしてはいけませんよ・・・?」

 

「無論だ。その危険性については理解をしているつもりだ。」

 

そう、ヒトラーが言うとオールマイトが覚悟を決めたのか、淡々と自らの個性とこの姿について話し始めた。

 

要するに、この姿になってしまったのは5年前に強敵と戦い、その時のケガでこのような姿になってしまったらしい。

 

「分かった。やはりこのことは決して他言できないな。君は()()だから、()だから。」

ヒトラーが重々しく言う。

 

「ええ。なのでくれぐれも言わないよう重ねてよろしくします。」

 

それからヒトラーは保健室に居続け緑谷が起きた後、オールマイトの事を知ったと説明をし、教室に共に戻った次第である。

 

その後、クラスのみんなと軽く自己紹介をして、各々の家へ帰った。

 

そして、その数日後、彼らは思い知ることとなる。真に賢しい(ヴィラン)の恐怖を。

 




私は支配者ではない。指導者である。

アドルフ・ヒトラー

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