歴史はヒーローになれるのか   作:おたま

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勇気とは、起立して声に出すことである。勇気とはまた、着席して耳を傾けることでもある。

ウィンストン・チャーチル


男の子はあやされている

 

 男の子は泣いた。そりゃあ、知らないオッサン二人が日本語で怒鳴りまくり、果てには父よりもデカく銃を持った男達が突然現れ銃口を向き合わせていたら、訳も分からず泣いてしまうだろう。

 

 だが、そこで危機的な状況は終わった。

 

 後ろで銃口を向けていた軍人が、スゥ・・・と消える。幽霊のように。

 

 さっきまで頭に血が上って、マグマのように赤くなっていた頬が、段々と白くなるのを二人は感じた。

 

 この子を泣き止ませなければ。

 

 思考がそれだけになる。

 彼らにはもう、目の前のいけすかない男を殺すことよりも、今ここで泣いている男の子を泣き止ませることに集中していた。

 

 

 面白い光景だろう。

 

 スーツ姿の男と軍服を着ている二人の男が、一人の男の子をあやしているのだ。

 

片方はイギリスの由緒あるマールバラ公爵の家系で英国首相になった男。

 

もう片方はオーストリアで生まれ、己の才能でドイツ総統にまで上り詰めた男だ。

 

 この二人は、何百万の兵士を一言で戦地に向かわせることができたが、小さい男の子を、あやすことができない。

 

面白い光景である。

 

 

 

 

 何故この子は泣き止まないのだ!!私はこんなに長く泣いたことはなかったぞ!

 

「おい!チャーチル!何故泣き止まない!!貴様は子供がいただろう!早く泣き止ませろ!」

 

「煩い!私が泣き止まらせる訳がないだろう!それに子供が赤ん坊のころは、全て妻か乳母にやらせていた!私には無理だ!」

 

失望した。こんな奴に私は負けたのか・・・。ヒトラーは思った。

 

というか何故この男はドイツ語でしゃべっているのだ。私は英語すらわからないと思われているのか?

 

自分が情けなく思えてきた・・・。

 

いや、クヨクヨしても仕方がない。私は人間だ。モノを使うのが人間だ。

 

周りを見渡すと本がある。

アルファベットではない。漢字だ。中国語か?いや違う。

ほかにも文字がある。これは・・・平仮名というやつではないのか?ヒムラ―が読んでいた日本語の本の文字と同じではないか!!

 

表紙は私だ。私が絵で描かれているぞ。他にも目の前の男や、ムッソリーニや、あの名前も言うのも忌々しい、筆髭野郎もいる!!

 

なんだこの本は?

 

ここはどこだ?

 

なんだあの黒く四角く薄いものは。あんなの見たことがないぞ。

 

「ここは、どこだ?」

 

「呆けている暇があるなら、手伝え!ちょび髭!!」

 

「煩い!!!」

 

 

 

 

隣の部屋から怒鳴り声が響く。

 

なんだ?

 

父は閉じていた瞼をひらいた。

 

耳を傾けると、明らかに日本語ではない言葉で怒鳴りあい、そして、息子の泣き声まで聞こえるではないか。

 

父は慌てた。そりゃあ慌てる。

 

強盗?それともヴィランか??

 

 父は無個性である。母は個性はあるが、その個性は文字をコピーする個性である。日常生活においては非常に便利な能力だが、今の状況ではまるで役に立たない。

 

間違いなく負けると思う。だが息子が誰かに泣かされているのだ。

 

父として、倒さなくては。

 

近くにあった折り畳み式の傘と、目に入ると痛い殺虫スプレーを持ち、闘うことにした。

 

警察や妻に電話をかけることはしなかった。頭の中からすっかり抜け落ちていたのだ。

 

ドタドタと計画性のない頭で考える。多分だが息子を泣かしている糞野郎は二人だろう。

 

 だったら、ドアを開けた瞬間に一人の顔にむけて、スプレーを浴びせ、そのもう一人をこの傘カリバーで一刀両断すればいい。

 

 

 

ドアを開ける。

 

父は叫び声をあげながら、近くにいた本をみていたちょび髭の男に、スプレーを浴びせた。悶絶している。目に入っているのだろう。

 

「Meine Augen tun wehーー! ?(目が痛いーー! ?)」

 

転げまわっている。

 

息子と向き合っていたハゲは

 

「It ’s a reward. Hitler! He knows you're a bad guy! ! !(ざまあみろ、ヒトラー!彼もお前が悪人だってわかっているぞ!!!)」

 

となどと言っている。

 

因みに父は、何を言っているのかは、わかっていない。

 

ハゲが言っている間に、傘カリバーの封印を解くために柄を長くし、敵と向き合う。

 

それを見ていたハゲは、ステッキをまるでレイピアのように構え、父と向き合う。

 

父は相手をよく見る。相手のハゲは自分よりも小さい。

だが、佇まいは洗練されている。よく見ると、ネクタイではなく蝶ネクタイだ。顔もブルドックみたいだ。

 

まるでチャーチル・・・チャーチル??

 

父は話す。

 

「お、お前は誰だ?何が目的だ??」

 

チャーチル擬きは答える。

 

「Why are you here? Why did you spray Hitler?(お前は何故ここにいる。なぜ、ヒトラーにスプレーをかけた?)」

 

話が通じないのだ。

 

これでは全く意味がない。

 

そうすると、息子がチャーチル擬きの後ろから、ひょっこり顔を出した。

目が合った瞬間に

 

「パパーー!!」

 

と叫び泣きながらこちらに駆け寄ってきた。

 

父は抱きしめる。

 

「大丈夫か?ケガはないか?」

 

息子はコクンと傾く。

 

チャーチルと痛みが引いてきたヒトラーは同時に言う。

 

「「Daddy?」「Vater?」((お父さん?))」」

 




傘カリバー:父が息子の危機によって生み出された、緊急用決戦兵器。柄を伸ばすことで封印が解除され、なんかかっこよくなる(イメージ)。切れ味は全くない。最近開きづらくなってきた。


自己をあらゆる武器で守ろうとしない制度は、事実上自己を放棄している

アドルフ・ヒトラー

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