Roidmude W(・∀・)RLD ―ロイミュード・わーるど―   作:あららどろ

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#1

 王都ガライアの中心街。大通りに面したオープンカフェでお茶を飲んでいる2人の男がいた。

 

 1人は赤い服を身に纏った大柄な男。頭の上にHPバーと共に表示されている名前は「ハート」。

 もう1人は緑の服と、メガネが印象的な男。「ブレン」と頭の上に表示されているこの男は、なにやら神妙な顔をして運ばれてきた料理を睨んでいた。

 

 ――ブレンの視線の先。深いお椀の中には、ピンク色の――ミミズやゴカイのような環形動物を連想させる細長い何かが蠢いていた。

 

 

「何だ……この不愉快で不可解でおぞましいものは……」

 

 ブレンは先割れスプーンでその謎の物体を掬って顔に近づけた。にょろにょろと蠢くそれはスプーンから逃げるような仕草すら見せている。

 ブレンは、ひっ、と情けない悲鳴を上げてスプーンを落とした。

 

「ポラッツィというらしい。簡単に言えば動く海鮮スパゲッティだな」

 

 フォークで蠢くそれを弄びながら、ハートが呟いた。

 

「何故食べ物が動く必要があるのです! やはり、人間は愚かで下賤で非合理的だ」

「まあそう言うな。食ってみたら、案外うまいかもしれないぞ」

「……ま、まあ。お金も払っていますし、食べないというわけにもいきませんが……」

 

 ブレンは、先割れのスプーンでポラッツィを掬った。当然ながら、スパゲッティたちはスプーンの上でもうぞうぞと蠢いている。

 

「全く、この国はどうかしている……こんなものが名物料理だなんて……」

 

 ブレンは、躊躇いながらもポラッツィを口へ運んだ。

 

 

 パクッ。

 ……もにょろ……もにょろ。……にゅる……にゅる…………むにゅ……むにゅ……。

 

「ん……?」

 

 一瞬眉をひそめたブレンだったが、すぐに目を見開いた。

 

「なんだ……これは……! この……なんか……こう……!」

 

 何かを伝えようと手を動かすブレンだが、言葉が出てこない。そんなブレンをみたハートは軽く笑った。

 

「どうしたブレン。1つも出てないぞ。そんなにマズいのか?」

「逆です、ハート……あぁん!」

 

 ブレンは、頬を押さえると、女性のような仕草でよよよと、地面に倒れた。かと思うと飛び起きて、凄まじく素早い動作でポラッツィを再度口へ運んだ。

 

「この……口の中でパスタが蠢く感覚……芸術的で感動的で官能的な食感!」

 

 ああああっ。と、ブレンは妙に色気を含んだ声で叫んだ。それを見たハートも、ポラッツィを口に入れる。

 

「なるほど。確かにコレは面白い。やはり、人間の欲は侮れない。より美味に……より面白く食べる方法を模索した結果、動くパスタに行き着くとは……」

 

 ポラッツィで火がついたのか、ブレンは運ばれてきたいくつかの料理を片っ端からかじり始めた。だが、どの料理も美味しいことには美味しいのだが、ポラッツィのような未体験で衝撃的で感動的な出会いは無い。

 

 ハートはそんなブレンを見ながら、コーヒーをすすった。

 

 泊進ノ介に別れを告げ、コアが消滅し、意識が消えた。だが、そう暫く立たないうちに、ハートのボディとコアは復活していた。なんとも奇妙なこの世界で。

 喜ぶべきはこの世界にきてすぐ最高の友(ブレン)と再会できたことだろう。

 

 ブレンは仮面ライダーのいないこの世界なら手中に収めるのもたやすいと言った。だが、そんな無粋な真似をするつもりはハートにはなかった。

 

 全身全霊で戦った。そして敗北した。それは恥ずべきコトでは無い。恥じる余地など無いほど戦い抜いた。

 だからこそだ。

 人間が全力を尽くし、同じく全力を尽くしたロイミュードを倒したのだ。

 

 全力の上で敗北したのなら、未練がましくもう1度人間を襲うなんて情けない真似はしたくないし、何よりもロイミュードに勝利した仮面ライダーから逃げるような情けない真似をするなんてあってはならない。

 万が一、何か特別な理由があってもう一度、ロイミュードが世界を手にしようとするなら、それは仮面ライダーのいる世界でなければならない。故にハートは、この世界で暴れるつもりも、人間にロイミュードという存在を知らしめるつもりもなかった。

 

 世界征服という目的を失った今、ハートたちがこの世界ですることは、ハートたちと同じくこの世界に迷い込んでしまった友を探すことだけだった。

 

 しかし……

 

「見つかりませんね。ロイミュード」

 

 地球にはインターネットというものがあった。それは、遠く離れた地で発信された大量の情報を、一瞬でかき集め、まとめ上げ、閲覧できるようにする技術。地球にいたころ、ブレンはインターネットを使って情報の収集を行っていたが、この世界ではインターネットが存在しない為、それができない。

 

 情報の伝達速度も遅ければ移動手段も限られているので、折角手がかりを掴んでも現地につくころには目標は姿を消しているなんてこともザラだ。

 

「重加速に似た効果の魔法もあるみたいですし、ロイミュードに関する手がかりが掴めませんからね」

 

 ブレンが、机に突っ伏して泣き言を漏らした。それを見たハートはぽつりと呟いた。

 

「……他に手がかりは無いわけでも無い」

「本当ですか?」

「急激に力をつけている団体や個人……特に悪人の周辺を探れば、いずれ友たちに出会えると俺は踏んでいる」

「なるほど……確かに、ロイミュードが進化するには人間が必要……その場合、悪人についている場合が多かった……」

「進化体や超進化体を目指すのは、ロイミュードの本能だ。1人孤独で未知の世界に放り出されてもロイミュードなら進化を目指すだろう」

 

「いや、流石ですハート」

 

 パチパチと拍手をするブレン。そのブレンの後頭部に迫る黒い影があった。

 1秒後、熱いコーヒーを頭から被ったブレンの悲鳴が響き渡った。

 

 

「あっつ! あっっっつ!!」

 

 ばたばたと頭の上に乗ったコーヒーカップを払い落とし、額に垂れてくる熱い液体をハンカチで拭くブレン。突然のことに、ハートも一体何が起こったのか理解できていない。

 

「あああああっ! ごめんなさい!」

「もう、イシュラ、何やってるの!?」

 

 やや遅れて、2人の女がこちらに駆け寄ってきた。

 頭の上に表示されている名前は、イシュラとレヴィア。

 イシュラは髪を2つに結んだ活発な印象の少女で、レヴィアは長く髪を伸ばした、静かな印象の女性だ。ハートは2人に対して「対照的だ」と率直な感想を抱いたが、コーヒーをぶっかけられたブレンは怒り心頭。今にも襲いかかりそうなほどの形相で2人をにらみつけた。

 

「あなた達ですか!! 私にこんなモノをかけたのは!!」

 

 しきりに頭を下げる2人の女性に感情のままにブレンは怒りをぶつけた。イシュラとレヴィアは必死に頭を下げるが、ブレンの怒りは収まる気配を見せない。

 

 尚も怒り続けるブレンに、まずいと思ったのか、イシュラとレヴィアと同じテーブルについていた2人の男性がブレンとイシュラ、レヴィアの間に割り込んだ。

 

「申し訳ありません。イシュラがとんだ失礼を……」

「いやー、本当に申し訳ない! でもほら。悪気があったわけじゃ無いんだし、そこは穏便に……」

 

 この男達もこれまた対照的な2人だ。丁寧な物腰の男――ユーゴと、適当で陽気な印象の男。頭の上に表示されている名前はショウ。

 2人は怒りが収まる様子のないブレンをなだめようとしているようだった。

 

「悪気があったわけじゃない!? ならばあなたは、悪気がなければなんでも許されると思っているのですか!?」

「な、そういうわけじゃないけど……けど、ほら。女の子たちも謝ってるんだし……」

「許すか許さないかは私が決めることです!」

 

 ハンカチをポケットにしまい、ブレンが1歩前に出た。

 

「なっ……コッチが下手に出てれば……言っておきますけどね、僕はこう見えて……」

 そう言って、ショウが何かを見せつけようとする仕草をした。が、ユーゴがそれを遮る。

「やめろ。ショウ。今回は俺たちが全面的に悪いんだ。それなのに、自分の力を相手に見せつけて黙らせる。なんてやり方は好かない」

「……わかったよ」

 

 ショウが下がると、ユーゴは深々とブレンに頭を下げた。

 

「ブレンさん。本当にすみませんでした。クリーニング代も払います。ですから、どうか穏便に。話し合いで解決しましょう。どうか暴力だけは……」

「そいつは聞き捨てならないな」

 そう言って、今まで沈黙を貫いていたハートが立ち上がった。

 ハートの放つ威圧感に、ユーゴとショウの間に緊張が走る。

 

「今のその言い方は、俺の友が抵抗手段も持たないようなか弱い女子供に対して、一方的に暴力を振るうような男に見えたと……そう言っているように聞こえたが」

「い、いえ……そんなつもりでは……」

 

 そう詰め寄ったハートだったが、すぐにユーゴたちから離れ、ブレンの肩をたたいた。

 

「だが友を庇おうとする気持ちもわかる。ブレン。お前もあの程度のことで怒りすぎだ。ここはお互い和解しようじゃないか。同郷のよしみって奴だ」

 

 そう言って、ハートがブレンをなだめると、ブレンも渋々と言った感じで席に戻った。

 イシュラはほっと、胸をなでおろした。

 

「……ん? 同郷?」

「なんだ。その名前とその服装。日本人だろう」

「ええっ! じゃあ、あなたも日本人なんですか!?」

 

 ショウが、驚きの声を上げる。

 なるほど確かに、ハートらは奇抜な格好こそしているが、顔立ちは日本人のそれに近い。

 

 同郷の人間に会えた喜びからユーゴとショウの顔に笑みが浮かぶ。

 だが、ハートはそんなユーゴらを鼻で笑った。

 

「日本生まれというのは間違いじゃ無い。が、日本人ではないな」

「え……?」

 

 ハートは、その意味を答えなかった。

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