仮面ライダーエグゼイド 【裏技】 友情のNEW GAME!   作:度近亭心恋

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人は二つのこと、すなわち考えることと働くことのために生きてきた。
マルクス・トゥッリウス・キケロ(B.C.106~B.C.43)


Part1 真夜中のENCOUNTER

 居酒屋は宇宙だ。

 

 涼風青葉は、ウーロン茶を飲みながらぼんやりとそんなことを考えていた。

 

 揚げ物の揚がる音、甘ったるい洋酒の匂い、ビールのジョッキから漂う冷気、三つ隣のスペースから漂ってくる安タバコの煙。

 この狭い空間には、あまりにも多くの情報が飛び交っている。

 

 何よりそれぞれのスペースから飛んでくる喧騒が、それらを混然一体とした「居酒屋」の空間として成立させていた。

 それはとても賑やかで楽しいものにも見えるが──同時に、どこまでも孤独なのではないかと彼女は考えていた。

 

 大いなる喧騒の中に彼女たちはいるが、このスペースにいる彼女の職場の人間と、隣のスペースの建設会社らしきガタイの良い集まりには何の接点も無い。

 ひとつの店の壁ひとつ隔てただけの近い空間にいながらはっきりと断絶されたそれは、誰も普段意識することなどないが──かなり哲学的な命題ではなかろうか。

 

「青葉さん、どうかしましたか」

 

 後輩の望月紅葉に声をかけられ、彼女ははっと我に返った。

 

「な、何でもないよ! 私なら大丈夫!」

「そうですか? お酒、飲んでいないのにぼーっとしてるから……」

「ひどくない!?」

 

 今この場で執り行われているのは、彼女の上司──八神コウの送別会だ。

 

 彼女は東京都内にあるゲーム会社、“イーグルジャンプ”の社員であり、一年半ほど前に入社し今はグラフィッカーとキャラクターデザイナーを任されている。

 ゲームのキャラクターデザイナーになるのは彼女の長年の夢であった為、早くもそれは叶ったことになる。

 

 夢を叶えるということは素晴らしいことだけのように語られがちだが──その実夢の高みに立てば、そこから見えてくる景色はまた違ってくる。

 その都度その都度発生する問題に立ち向かっていかなければならない。目の前の大きな現実の壁に、打ちのめされる時もある。

 

 彼女が初めてキャラクターデザインを担当したゲーム、『PECO』は先日マスターアップを終え、関連企業への発表会などの発売前のイベントも一通り終わった。

 しかしそこに辿り着くまでに、彼女は幾度も涙を飲み、夢物語のような甘い理想とは程遠い現実に直面してきた。

 

 しかし──どんな苦難も、いつかは終わる。

 本当に色々なことがあったものの、確かに『PECO』は完成したのだ。それが今この場にある「現実」だ。

 

 だが、それと同時に新しい「現実」もまた彼女に突き付けられた。

 

 そもそも、何故彼女がゲームのキャラクターデザイナーを志したのか。

 それは、小学生の頃に遊んだファンタジーRPG、『フェアリーズストーリー』の影響が大きかった。美しさにあふれたそれは、まだ幼かった彼女に無限大の世界と可能性を見せてくれた。

 年齢と共に進路を考える中でも、彼女にとってそれはずっと心の中で輝いていて──決して色あせることは無かった。

 そして、彼女は八神コウの働くイーグルジャンプへと就職を決めたのだ。

 

 その八神コウが、日本を離れることが決まった。

 

 既に三作のフェアリーズシリーズを手掛け、業界やユーザーからの信頼も厚いコウだったが、彼女はまだ一人のクリエイターとして成長したいと思っていた。

 そして、その気持ちの原点は──青葉だった。

 

 前述の通りPECOのキャラクターデザインは青葉が担当したが、キービジュアルや宣伝イラストなど、売り出す際にあたっての宣伝ではコウが表立って動くこととなった。

 

 その理由は単純(シンプル)にして明確。

 

 知名度と信頼、実績の差だ。

 

 出資元からもPECOは高い評価を受けており、確実に売りたいという意見が上がっていた。多くの人と金が動く“商売”において、その結果の為により確実な方法を取るのは当然と言える。

 その点を考えた時、フェアリーズシリーズでの実績を持つコウに白羽の矢が立ったのは自然なことだ。

 ディレクターがフェアリーズを手掛けた葉月しずくだったことも、その意見に拍車をかけたのだろう。

 

 青葉に目をかけ期待していたコウは、青葉を蔑ろにするかのようでもあるそれには当初反対した。

 だが、出資元からは「八神が描かないのならば外部の有名なイラストレーターに頼むことになる」とだけ返された。

 

 つまるところ、二年目のペーペーに商品の顔であるキービジュアルを任せる選択肢は“ありえない”という話だった。

 

 この話に関しては、青葉のほうが物分かりが良かったほどだ。

 本音を言えば悔しいし、辛い。

 だが、これが仕事で、自分だけのものでないということも痛いほどに解っていたのだ。しかしながら、彼女は精一杯の勇気を振り絞って一つの提案を出した。

 

「……でも……一回だけ。……一回だけチャンスを頂けませんか? 八神さんともう一度……キービジュアルをかけたコンペを、やらせてもらいたいです」

 

 出資元の芳文堂側の代表は難色を示したものの、ディレクターの葉月はそれを了承した。

 ただし、次のような「現実」を伝えた上で。

 

「最初に言っておくけど、これは出来レースだよ。仮に八神より上手く描けたところで、決定は覆らない」

 

「涼風くんが相手をするのは、八神がこの八年間積み上げてきた実績さ」

 

「でも、それで二人の納得がいくならやればいい」

 

 コンペの結果がどうなったかなど言うまでもない。先の言葉通り、それは出来レースだというのもある。

 だがそれ以前に──やはり、コウの絵は圧倒的に上手かった。それはしっかりと実力の差が伴った「出来レース」だった。

 しかしながら、圧倒的な差、現実を突きつけられても頑張るその時の青葉の姿が、コウの気持ちに火をつけたのだった。「私も頑張らなきゃ」と。

 

 そして、彼女はフランスの会社でゲームを一本作ってくることを決めた。その為に、しばらく日本を離れることも。

 周りは驚きと戸惑いこそあったが──最後は、彼女の気持ちを汲んでくれた。

 

 今のこの場は、その送別会というわけだ。

 

(私、まだ迷ってるのかな)

 

 憧れたコウの許で学びたいことはたくさんある。

 仕事で一緒に過ごすうちに、コウの色々な姿を見て前以上に親しみを持ち、一人の仲間として見れるようになったのもある。

 

 行ってほしくないという気持ちと、大切な人の想いの足手まといになりたくないという気持ち。その二つは相容れることこそないが、心の中に同居しうるのだと彼女は思い知らされた。

 こんな時ばかりは、酒で自分の気持ちを酔いに溶かせない自分の年齢が恨めしかった。

 

 とは言え──

 

「や~が~み~さ~ん~!」

 

「うちらのこと、忘れんといてくださいねぇ~!」

 

「わぁかったから! 抱き着くなって二人とも!」

 

 飲み過ぎるのも考え物だ。

 

 青葉の一つ上の先輩にあたる篠田はじめと飯島ゆんは、既に出来上がった状態で半泣きになっている。

 元々ふたりともあまり飲める方ではないので、数杯飲んだだけでこの通りだ。

 

「二人とも……そんなにしたら、コウちゃんが……」

 

「まあいいじゃないか。……面白いから、もうしばらく見ていよう」

 

 葉月しずくは、キャラ班のリーダーである滝本ひふみに心底面白そうに言った。

 ディレクターを任されるだけの実力者ではあるが、同時にどこか飄々として物事を楽しんでいるような節さえあるのが彼女なのだ。

 

「お酒って怖い……」

「私たちはああならないようにしようね、ねねっち」

「失礼ですよ、鳴海さん」

 

 桜ねね、鳴海ツバメ、阿波根うみこのプログラマー組は、その騒ぎを一歩引いた立ち位置から見つめていた。

 未成年のねねは青葉同様にソフトドリンクを飲み、ツバメは成年済みだがそれに合わせている。うみこは静かに度数の高い酒を飲んでた。

 

「そして、遠山さんは……」

 

 青葉は個室の静かな一角をちらりと見た。そこでは遠山りんが、既に酔い潰れて眠っている。

 

「コウちゃあ~ん……」

 

 りんは何とも物悲し気な寝言をうっすらと涙を浮かべて呟く。青葉はりんの気持ちを察し、何とも言えない表情を見せた。

 

 りんはコウと同期入社で入社当初から意気投合し、初任給では一緒に日帰り温泉に行ったほどの仲だ。

 元より芸術家肌で人付き合いの苦手なコウにとって、社交的でデキるばりばりのオフィスレディーなりんの存在は、先輩から睨まれることも多かっただけにありがたかった。

 そんな二人が仕事仲間として、人と人として関係を深めていったのはごく自然なことと言える。一年半前に青葉が出会ったころには、二人の息の合いようは長年連れ添った夫婦のようにぴったりだった。

 

 りんがコウにただの友情以上のものを感じているということは、イーグルジャンプの面々には周知の事実だった。

 それを単に同性愛者(レズビアン)という言葉で片づけていいのかと聞かれれば、難しいところではある。

 言うなれば彼女の人生において出会った中で、一番波長が合い、一番大切に思うことが出来た相手が女性であるコウだったのだ。

 ……最も、人の心の機微に関して鈍感さのあるコウには、それを察することはできていないのだけれども。

 

 コウが日本を離れると知った時、誰よりも涙したのは他ならぬ彼女だ。人前で涙を見せることなど、誰よりも「大人」な彼女ならまずあり得ない話だ。

 この時ばかりは、コウも真っ直ぐに、正面から彼女の気持ちと向き合った。

 

「ごめん。私……りんにはずっと甘えっぱなしで。今回のことだって、りんの気持ちも考えずに……」

 

「だから、これからもずっと甘えさせて!」

 

「ありがとうなんて言わないよ! だってこれからも、離れてたってきっとりんにはいっぱい迷惑かけるもん!」

 

「こんな私だけど、ずっと見守っていてくれないかな。そしたら私も、笑って行けるんだ」

 

 ずっとそばにいたい。その気持ちは変わらないだろう。

 

 けれど、その言葉だけで。

 

 人一倍慮るということを苦手とするコウを知るからこそ、思いやりに溢れたその言葉だけで。

 

 彼女の気持ちはだいぶ救われたのだ。

 

(また泣いちゃわないように早めに潰れるのは、どうかと思いますけどね)

 

 青葉がそう思った時、コウがはじめとゆんを振り払って立ち上がった。

 

「……皆、本当にありがとう。突然のことで迷惑はいっぱいかけると思うけど……八神コウ、必ず成長して帰ってきます!」

 

(八神さん……!)

 

「……らから今日は、じゃんじゃん飲むぞぉ! すいまへーんお姉さーん! 生中ジョッキもう一つお願いしまーす!」

 

(八神さん……)

 

 コウも既に回っているのだった。本当にお酒も考え物だと、彼女は一人ごちた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「うゥい……。コウちゃあん……」

「泣くなよぉ~りん~! 笑ってるりんが一番可愛いよぉ~?」

 

「八神、そういうセリフは素面で本人が起きてる時に言ってあげなよ」

 

 しずくは不器用な部下へ、呆れながらそう呟いた。

 

 すっかりへべれけになったイーグルジャンプ御一行様は、店を出て家路に着こうとしていた。

 主賓であるコウが酔い潰れたりんを抱きかかえていることもあり、そのままお開きの流れが出来上がりつつある。

 

 そんな中ではあ、と紅葉が溜息をついたのを見て、青葉は見かねて尋ねた。

 

「どうかした? 紅葉ちゃん」

 

「いえ、その……これが八神さんとの最初で最後の飲み会なんだなって。20歳になったら一緒に飲んだりもしたかったなって思うと……」 

 

 紅葉のその言葉は、不意にぽろっと出た本音であった。

 彼女もまた、青葉と同じようにコウへの憧れを胸にイーグルジャンプの門を叩いて今ここにいる。もっとやりたいことがあったと思うのは人一倍だろう。だが、

 

「『最後』じゃないよ」

 

 青葉はいつになく真剣な、しかし優しい表情でそう言った。

 

「言ったでしょ? 八神さん、『必ず成長して帰ってくる』って」

 

 その言葉に、紅葉ははっとした表情を見せる。

 

「だから、だいじょう……」

 

 青葉が言葉を続けようとしたとき、『それ』は起こった。

 一際強い風がごうっと吹いたかと思うと、一瞬灰色のオーロラが彼女達の身体を潜り抜ける。驚きにきゃっ、わっ、と声が響いた後──

 

「あれ?」 

 

 はじめが一際間の抜けた声を出した。

 

「ここ……どこや?」

 

 ゆんが驚いて辺りを見回す。驚くのも無理は無いだろう。

 彼女たちは確かに、先程まで歓楽街の居酒屋の前にいたはずだ。

 

 だが、今いるのはどう見てもオフィスビル街の中の広場。

 四方を高いビルに囲まれ、その隙間から覗く夜空は四角かった。

 

「……いけませんね、やはり飲み過ぎたのでしょうか」

「いやいや! うみこさん、シラフの私たちも同じものが見えてますから!」

 

 ねねが頭を抱えたうみこを揺さぶる。これが酔ったうえでの幻覚ならどんなに良かったことだろう。

 今の彼女達は──それは“ありえない”ことなのだが──“瞬間移動”してしまっていた。

 

「と、取り敢えずここがどこか把握しましょう! ほら、スマホの地図使えば一発で……」

 

 ツバメが即座に提案し、アプリを立ち上げる。だが、

 

「……何で!?」

「どうしたの、なる」

 

「『位置情報を把握できません』って……」

 

 普段は冷静な紅葉も、親友の言葉にたらりと汗を流す。

 ツバメのスマートフォンが不調の可能性も考え周りの面々も地図アプリ、ナビアプリなどを立ち上げたが、それらのどれも現在位置を把握できずにいた。

 

「これって……神隠し……?」

 

 ひふみが怯えた表情と声色で声を漏らす。

 自分たちの状況が把握できないこと、一瞬でどこかに飛ばされたという恐怖から、一同は背筋が粟立つのを覚えた。

 

「『神隠し』! いやァ、その発想は無かった……。ホラーゲーもアリですねェ」

 

 不意にビルの谷間に響いた甲高い声に、一同はまたもゾゾッとした感覚を覚える。誰かが、彼女たちを観察し会話を聞いているのだ。

 

「驚いた? い~ですよネぇ~、その表情! 怯え! それでこそGAMEは面白くなるッ!」

「『ゲーム』……?」

 

 青葉がその単語に反応した時、いつの間にか彼女らの中に見慣れない顔の女がいた。

 

 年の頃は20代後半ほどだろうか。宵闇の中に溶けてしまいそうな黒い髪を持つ、日本人の女性だ。

 枝毛一つなく人形のように整ったその髪は肩のところで切りそろえられ、市松人形のようなおかっぱだ。

 

 体格はよく、170センチメートルは超えているとみて間違いない。

 女性にしては大柄な身体に見合うかのようにバストは激しく自己主張しており、服の上からでもその大きさがわかるほどだ。

 

 シンプルかつオーソドックスなレディーススーツを着ているものの、その上からは白衣を纏っているのが少しばかり奇妙だった。

 

「誰……!?」

 

 ひふみがまた怯えた叫びをあげた時、女はそれには答えずにいっと美しい顔に似合わぬ悪魔のような笑みを見せ──懐から何かを取り出した。

 

 それは携帯ゲーム機に似てはいたが、ゲーム機と称するにはあまりに大きく、それでいて画面は小さかった。

 ボタンの類も「A」と「B」しか無く、ゲーム機ならばあまりに時代錯誤(アナクロ)な代物だ。

 

 女はその機械をコウに向けると、「B」のボタンを押した。瞬間、機械からオレンジ色の火花のようなものが散る。そして、

 

「あっ、ぐっ、ああ……!」

 

 先程まで元気に酔っぱらっていたコウが、頭を抱え苦しみ出した。

 抱きかかえられていたりんも、その様子にすっかり酔いと目が覚めている。

 

「コウちゃん!?」

 

「ぐるじい……。たすけて……。あっ、あっ、あっ」

 

 引きつったように絞り出したそれが、コウの最後の言葉だった。

 

 コウの身体が「バグった」。

 

 そう、「バグった」のだ。

 まるでコンピュータ画面が乱れたかのように、彼女の身体がブレた。

 

「八神さん!」

 

 青葉の叫びも虚しく、コウは全身の疼痛と耐え難い気分不良にああああああああ、と泣き叫んだ。そして──

 

「『発症』でございまァす」 

 

 女は心底おかしくてたまらないといった声色で、またにやりと笑った。

 コウの身体のバグりは最早留まるところを知らず、身体は不鮮明に揺らぎ続ける。遂には、身体がぼこぼこと沸騰するかのように沸き立ち始めた。

 だがその変化も一瞬で終わり、次に待っていたのは肉体そのものの人間としての終わりだった。

 体の沸騰のスピードが早くなったかと思うと、やがてコウの身体は茶色い風船のように沸騰しながら膨らみ始めていた。

 その変化が終わった時、そこには茶色い肉団子で出来たジャガーのような生き物がいた。“それ”は確かに、先程まで八神コウ「だった」ものだ。

 

 りんはあまりのショックに、ふうっと気絶しその場に倒れてしまった。

 うみこがすんでのところで受け止めたが、当分目が覚める気配はない。

 

 コウが変化したジャガーは、その身体に似合わない鳥のような鳴き声でキョーオオオオと吠えると青葉に向かってきた。

 一瞬のことで、青葉には逃げることを考える暇さえ無かった。

 ジャガーの爪が自らの身体に迫った最後の一瞬、彼女の頭はただ一つのことでいっぱいになった。

 「私、死ぬんだ」と。

 彼女はぎゅっと目を瞑った。

 

 その瞬間、彼女の背後に風が吹いた。

 

「やめろっ!」

 

 若い男の声が、彼女の背後から頭上を駆け抜けていく。一瞬理解が遅れたが、次の瞬間にはジャガーが衝撃と共に後ずさりするのが解った。

 青葉がそろりと目を開けた時、目の前には黄色いバイクに乗った青年がいた。

 

「バグスターユニオンタイプ……? 久しぶりに見た」 

 

 青年はよく解らない単語を呟くと、青葉の方を見やった。

 

「早く逃げて!」

 

「で、でも! その人は私の、私の……!」

 

 怪物に立ち向かう英雄(ヒーロー)が現れる。普通ならば、これほど心強いことはないだろう。

 だが、怪物に立ち向かう英雄は怪物を打ち倒し沈黙させることがセオリーだ。今の青葉にとって、それは何よりも避けなければならない。

 

 見る影もないが、あれは確かに自分が憧れ、尊敬した人なのだ。

 

「早く逃げてください!」

 

 彼女の後ろから女性の声がし、青葉はぐいっと後ろに追いやられ尻餅をついた。

 ピンク色の服の看護師が、厳しい顔をして青葉を見下ろしている。

 

 青葉の周りに仲間たちも集まってきたが、怪物と化したコウが殺されるのではないかという懸念は皆同様にあった。紅葉が険しい顔で看護師に掴みかかる。

 

「殺しちゃダメ! あれは人間です! あの人は私たちの大切な……! 助けなきゃ、助け……!」

 

「ごちゃごちゃうるさい! だから今助けようとしてるんじゃないですか!」

 

 看護師も負けずに声を張り上げた。その表情には鬼気迫るものがある。

 

「明日那さん、その辺で。皆さん!」

 

 青年は見かねて、青葉たちに声をかけた。

 

「患者は……僕が救います!」

 

 青年は誇りと慈愛を込めた表情でそう叫んだ。

 その真っすぐな瞳を見た時、青葉は青年の言葉が心からのもので、信じられると思えた。青年は周りが落ち着いたのを見ると、懐から何かを取り出した。

 

 それはスマートフォンほどの大きさで、人の手でうまくグリップできるような構造になった平べったい電子機器だった。

 青年が握ったピンク色の本体部分の先には、透明な端子がついている。

 

 そして青年はもう片方の手に、こちらは大型の電子機器を握っていた。

 ライトグリーンの本体に五指で握れそうなピンク色のレバーがついており、その形状はどことなく据え置きのゲーム機のようにも見えた。

 青年はその大型の電子機器──“ゲーマドライバー”を自らの丹田の辺りに押し当てる。するとゲーマドライバーの両端から黒いベルトが現れ、青年の腹部に巻き付いた。

 それを確認すると、青年は小型の電子機器──“ライダーガシャット”のスイッチを入れた。

 

“MIGHTY ACTION X!”

 

 ガシャットから発せられた高らかな声と共に、青年の背後にゲーム画面が現れる。それと同時に、周りに電子画面のような空間が広がっていった。

 チョコレートのような立方体のブロックが四方八方に現れ、遊園地のようなファンシーな空間が真反対のイメージのオフィスビル街を侵食していく。

 

 瞬間、青年の雰囲気が変わった。

 その表情は、優しそうなものからどことなく自信満々な俺様系のものに変わっていた。青年はにやりと笑った。

 

「変身!」

 

 “ガシャット!”

 

 青年は叫ぶと同時に、ガシャットをゲーマドライバーに挿しこむ。

 すると、ゲームのキャラクターセレクトのように小さな小窓画面がいくつか現れ、彼の周囲を円を描いて周り始めた。青年はそのうちの一つを選ぶ。

 

 やがてピンク色の光が彼を包み、

 

 

 

 “Let’s GAME!”

 

 

 

 “Meccha GAME!”

 

 

 

 “Muccha GAME!”

 

 

 

 “What’s your NAME!?”

 

 

 

 “I’m a KAMEN RIDER……!”

 

 

 

 青年の姿は、もうそこにはない。そこにいたのは、ピンク色の頭と白い身体を持つ、ずんぐりむっくりとした二頭身のキャラクターだった。ゆるキャラの着ぐるみみたいだ、と青葉は思った。

 

「ふざけてるんですか!?」

 

 紅葉が苛立って叫んだ。この緊迫した状況で、どことなくコミカルなその姿はあまりに不釣り合いだった。

 

「いいから黙ってて! 見ていれば解るわ。これが命懸けの『ゲーム』だってことが!」

 

 明日那、と呼ばれた看護師は一喝し、信頼を込めた目をゆるキャラ──“仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル1”へと向けた。

 

「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!」

 

 エグゼイドは拳をぐっと握ると、ジャガーへと向かっていった。

 

 “ガシャコンブレイカー! “

 

 走りながらエグゼイドは自らの胸を叩き、武器を出現させる。

 ハンマー型の専用武器、ガシャコンブレイカーを右手で掴むと彼は空中のチョコブロックにたんたんっ、と飛び移っていき、あっという間にジャガーの目線よりはるか上、ビルの5階ほどの高さまで移動していた。

 あのずんぐりむっくりな体型からは想像もできない機敏さだ。

 

「マリオみたい……!」

 

 はじめが感心して息を漏らす。

 

 ジャガーは再び鳥のような甲高い声を上げると、目にも止まらぬ速さでエグゼイドのところへと飛びかかる。だがエグゼイドはこれを宙返りして躱すと、はるか下のチョコブロックに飛び降りた。

 一方のジャガーは飛びかかった対象を失ったものの勢いはそのままであり、頭からチョコブロックの一つに突っ込んだ。

 

 “混乱!”

 

 チョコブロックの中には、“エナジーアイテム“と呼ばれるメダル状のアイテムが入っていた。ライダーガシャットで展開されたゲームエリアには、このエナジーアイテムが各所に配置されている。

 これらを上手く駆使して戦うことで、ライダー達は「ゲーム」を上手く進めることが出来るのだ。

 

 そして、ジャガーが引き当ててしまったのは「混乱」のエナジーアイテム。ゲットした対象を混乱させ、行動を不利にさせるという自分が引けばハズレ間違いなしのアイテムだ。

 だがこの場合、エグゼイドはこのアイテムを相手にわざと引かせることで、行動を不利にし抑え込むという手を取ったのだ。ジャガーは混乱し、地面に伏せってしまう。

 

「よっしゃ! 今度はこっちの番だ!」

 

 エグゼイドはまた飛び上がると、まずは飛び上がった目線の高さの真正面にあるチョコブロックをガシャコンブレイカーで叩く。

 

 “強欲!”

 

 「強欲」のエナジーアイテムは、それ単体では効果を発揮しない。このアイテムは、手に入れた後にエナジーアイテムを同時に三つまで併用することが可能となる。

 彼は「強欲」の効果が自分に付与されたことを確認すると、今度は頭上に三つ横並びに並んでいたチョコブロックをガシャコンブレイカーで叩いた。その中のエナジーアイテムを、彼は全て手に入れる。

 

 “挑発!”

 

 “高速化!”

 

 “ジャンプ強化!”

 

 まずは「挑発」のエナジーアイテム。

 アイテムの力でエグゼイドの身体からオーラが発せられ、ジャガーは混乱しながらもエグゼイドの方に首をもたげ、注意が引き付けられた。

 

 そして「高速化」のエナジーアイテム。

 エグゼイドの身体が発揮できるスピードは桁違いとなる。これに「ジャンプ強化」のエナジーアイテムが掛け合わさったことで──エグゼイドは、超高速で高く、高く飛び上がっていた。高さにしてビルの30階ほどもあるだろうか。

 

「これで……フィニッシュだ!」

 

 エグゼイドはその高さから、ガシャコンブレイカーを振りかぶって落下していく。

 「挑発」されたジャガーはその方向を向いたままの為、避けようと思えば避けるのは容易い。しかしながら「混乱」の効果がまだ続いている為、身動きが取れずにいた。

 

「食らえええええええ!!」

 

 落下の勢いがついたガシャコンブレイカーは、そのままジャガーの脳天に振り下ろされた。

 ジャガーは一瞬目を回すかのような動きをすると──大爆発を起こした。

 

「八神!」

 

「そんな……八神さん!」

 

 見守っていた一同が絶望の叫びを上げる。しかしジャガーがいた場所には、爆発の後にコウが横たわっていた。

 

「良かった……」

 

 紅葉は安堵するが、明日那の表情は依然険しい。

 

「まだよ。パターン通りなら……」

 

 明日那が言い終わるか言い終わらないかのうちに、爆発の後に飛び散った破片が集まり、再構成されていく。

 やがてそれは2メートルほどの人型になり、だんだんと全身像がはっきりしてきた。

 

 カーキ色のサファリジャケットのような服装をしているが、その質感は服よりも肉に近い。ハンチングを被ったかのような形状の頭部はてらてらと輝いており、人と獣の合いの子のような醜い顔をしていた。

 

「おめ、ながながやるじゃねぇがよぉ! オラとその女を分離させたってわげかよ」

 

 ひどく訛った喋り方が、否が応でも目を引く。

 

「何のバグスターだ……? こんなキャラ知らないぞ」

 

「あァ? おめオラを()らないとがモグリだっぺよ! オラぁ『ナイトオブサファリ』のバグスター、ヤバンナだっぺ!」

 

「『ナイトオブサファリ』……!?」

 

「ナイトオブサファリ」という単語に、エグゼイドは驚きを見せる。

 どうやらその言葉は、彼を驚かせるに足る意味を持っているらしかった。

 

「ビビっだなァ? ビビっだっぺなァ! んだば……」

 

 ヤバンナはおかしそうに声色を上気させる。そして、

 

「もっどビビらせてやるっぺよォ!」

 

 ヤバンナの絶叫と共に轟音が響く。彼らは一瞬何が起こったのか解らなかったが、すぐに明日那が叫んだ。

 

「上よ!」

 

 ヤバンナはまたおかしくてたまらないと言った様子でアッアッと笑い、いつの間にか構えていた散弾銃を愛おしそうに撫ぜた。

 銃口は煙を吹いており、奴がそれをぶっ放したのだということが解る。

 

 そして明日那の言った通り、「上」だ。ヤバンナの撃った散弾銃は彼女らの後ろに聳えていたビルの壁面をブチ抜いており、そこから瓦礫が降り注ぐ。

 

「危なッ……!」

 

 ツバメは落ちてきた人の頭ほどの瓦礫をさっと躱して避ける。だが、

 

「う、うみこ君! ちょっと待って、足が……!」

 

「寄りかからないでください! 危ない!」 

 

 元々さっきまでへべれけだった酔っぱらい達はそうもいかない。細かい小石やガラス片が服や髪を削る程度はまだ良かった。

 しかし自分たちの上に落ちてくる一際大きなコンクリート片が視界に入った時、その場にいる誰もがその結果を予測し全身を強張らせた。

 

 いや──一人だけ、瓦礫に向かって飛び出していった者がいる。

 それは、ヤバンナの蛮行に驚きながらも彼女たちを守ろうとするエグゼイドだった。

 

「大変身!」

 

 エグゼイドはゲーマドライバーの中心にあるピンク色の“アクチュエーションレバー”を握ると、それを開き起こす。

 その下にはコンソール画面があり──レバーが展開されたことで、より戦闘に適した力が解き放たれた。

 

 “Gotchaaaaaaan!! LEVEL UP!!”

 

 “マイティジャンプ! マイティキック! マイティ! 『MIGHTY ACTION X』!”

 

 青葉は一瞬のうちに、エグゼイドの身体が劇的に変わるのを見た。

 着ぐるみのようなぼてっとした体は消え失せ、すらっとした手足が現れる。ボディも白を基調としたものから、ガシャットの色同様の鮮やかなピンクに代わっていた。

 ころころとしたちびっ子が逞しい戦士に成長するかのようなそれは、緊迫した状況も忘れて見とれるほどだった。

 

 これこそ、エグゼイドの「レベルアップ」した姿──“仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル2”だ。

 エグゼイドはガシャコンブレイカーでコンクリート片を勢いをつけて叩く。瓦礫は一瞬で砕け散り、細々とした破片が四方八方に散らばった。

 

 エグゼイド自身も地面に向かって落下していくが着地点に黄色いバイクが自走してきたため、彼はそれに飛び乗ることで難を逃れた。

 

「サンキュー、レーザー!」

 

 エグゼイドはバイクに話しかけると、そのままヤバンナの方に向かってアクセルを踏み込む。

 そして、手にしたガシャコンブレイカーに付いている「A」のボタンを押した。

 

 “ジャ・キーン!”

 

 ガシャコンブレイカーの内部から刃が出現し、先程までのハンマー部分を柄に見立てた剣が完成する。

 エグゼイドはブレードモードに変形したガシャコンブレイカーを構え、その刃をヤバンナに突き立てんと向かっていく。

 

「近づくんじゃあねえっぺよォ!」

 

 ヤバンナは散弾銃で応戦するが、バイクを手足の様に操るエグゼイドはこれをうまくかわし──刃をヤバンナの横腹に叩き込んだ。

 

「ナメでんじゃあねえど……。行げええええええ!」

 

 痛みに腹を押さえつつヤバンナが叫ぶと、先程のジャガーのかけらから産まれた異形の兵士たち、“バグスターウィルス”がわらわらと現れる。

 めいめい武器を手にエグゼイドに襲い掛かるが、エグゼイドはまったく意に介さずバイクから飛び降り、まずはガシャコンブレイカーを大振りに振って刃で散らし、兵士たちとの距離をとった。

 

 ある程度の距離が出来ると、彼は蹴りや拳で兵士たちの攻撃に応戦していく。その間、瓦礫から難を逃れた青葉たちは明日那の先導の下、コウに駆け寄っていた。

 

「八神さん! しっかりして下さい!」

「コウちゃん!」

 

 青葉と、気絶から目覚めたりんが必死の形相で揺すぶる。だが、コウはまだ苦しそうに呻いていた。

 そして──その身体が、一瞬透けた。

 

「ちょっと待ってよ……。なにこれ」

 

 ねねが怯えて手を引っ込める。

 その場にいる誰もがコウの異常な様子におののいていた時、明日那が訝しげに尋ねた。

 

「皆さん……『ゲーム病』をご存じないんですか?」

 

「『ゲーム病』……? こんな時にふざけてる場合ですか!」

 

 うみこが苛立ちまじりに叫ぶ。この緊迫した状況で漫画にでも出てきそうなその単語は、あまりにも場違いで不謹慎だと思われたからだ。

 だが、明日那はそっちがふざけるなという表情を見せた。

 

「ふざけているわけないでしょ! つい先日の『仮面ライダークロニクル』の脅威、ゲムデウスによるパンデミック! そしてそれに立ち向かったCRのドクター達! 私はそのサポートの為に、衛生省から派遣されたエージェントです! 今年の初めに日向審議官からの会見もあったはずでしょう!?」

 

「……失礼だが、日本に『衛生省』なんて省庁は無かったと思うんだがね。厚生労働省の間違いじゃないかい?」

 

 しずくが珍しく疑わし気かつ怪訝な表情で明日那を見る。

 明日那がまた何か言おうとしたとき、彼女らの方にバグスターウィルスが一人弾き飛ばされてきた。一同は怯え、バグスターウィルスの周りから放射状にのけぞる。

 

「おっと、わりいな!」

 

 弾き飛ばした張本人のエグゼイドが謝りつつ、ガシャコンブレイカーを振るう。

 刃に袈裟懸けに斬られたバグスターウィルスは、一瞬で消滅した。気づけば大勢いたバグスターウィルスは、もう数えられるほどになっている。

 

「フィニッシュは必殺技で決まりだ!」

 

 “ガッシューン……!”

 

 エグゼイドはガシャコンブレイカーを投げ捨て、ドライバーからガシャットを抜き取る。

 そして抜き取ったそれを、ベルトの左腰にマウントされた“キメワザスロットホルダー”に挿しこむとスイッチを押した。

 

 “ガシャット! キメワザ!”

 

 “MIGHTY CRITICAL STRIKE!”

 

 ホルダーからガシャットの全データとエネルギーが右足に流れ込む。

 エグゼイドは力いっぱい飛び上がると──空中からヤバンナに飛び蹴りを決めた。

 

「甘ぇっぺ!」

 

 ヤバンナはすかさず、自分の少し手前にいたバグスターウィルスの足下を散弾銃で撃った。

 その勢いに足下の地面が抉れ、バグスターウィルスが上空に飛ばされる。

 そして飛ばされた体は、エグゼイドの脚が向かう先とヤバンナの間に割って入る形になった。

 

 エグゼイドは焦ったが、もうキックを止める手立てはない。

 その足先はそのままバグスターウィルスに直撃し、着地と同時に一際大きな爆発を引き起こした。

 

「残念無念だっぺなァ? ほいじゃ、もう一発……!」

「はいストーップ」

 

 ヤバンナが散弾銃を構えなおした瞬間、彼の身体はオレンジ色の粒子となって消えていく。

 そしてその粒子は、先程のおかっぱの女の持つ謎のゲーム機──“ガシャコンバグヴァイザー”に吸い込まれていた。

 粒子が完全に吸い込まれると、バグヴァイザーの画面にヤバンナの姿が映る。

 

「ど、どうなっでんだっぺ! オラをこごから出ぜ!」

「あなたの出番はまだまだこれから。どんなゲームも、すぐに終わっちゃあつまらないでしょう?」

 

 女は官能的な指使いで画面をつつっとなぞる。

 エグゼイドは突然の闖入者に、驚きながらも尋ねた。

 

「誰だお前!」

 

「初めまして天才ゲーマー! ドクターライダーズには、いつも我が社の製品をご贔屓にしていただいて」

 

「『我が社の』……?」

 

「あたしは幻夢コーポレーション開発部ディレクター、大門桐子(だいもんきりこ)。よろシクサンジュウロク」

 

 小学生程度の洒落を最後に言ってのけ、そこで彼女はおかしそうにキャキャッとおどけてみせた。

 

「ゲンムの社員……? なんでこんなことを!」

 

「……『元』ね。もうあの会社に用は無い。転職テンショク、ブラック企業からはスタコラサッサが自衛には最善の手段ですよぉ~っと」

 

 そこでまたおどけた仕草を見せると、彼女はグリップを取り出しバグヴァイザーに合体させる。

 すかさずエネルギー弾が放たれ、エグゼイドの目の前の地面に着弾した。

 

 うわっ、と一同が驚き怯んだその瞬間に、女は姿を消していた。

 

「待て!」

 

 エグゼイドは怒りを孕んだ声で辺りを見回すが、そこに聞き慣れない声がした。

 

「無理だぜ永夢。色々と気になる相手だが、今から探すのは手間だ。それより患者を……」

 

「ばっ、ばっ、ばっ……バイクが喋ったああああああああああああああ!!」

 

 ねねが頓狂な声を上げて指さした先には、先程までエグゼイドが乗っていた黄色いバイクがいた。

 そう、確かにエグゼイドを諫めた声は、そのバイクから発せられたのだ。

 

「ロボット……?」

「だとしたら、かなり高性能のAIプログラムですね」

 

 ツバメとうみこは半ば感心するようにそのバイクを見る。

 そんな慌てふためきをよそに、エグゼイドは慣れた手つきでバイクのシート部分にあるゲーマドライバーのアクチュエーションレバーを閉じた。

 

 するとどうしたことだろう。バイクから前輪と後輪が外れ、がしゃがしゃと音を立て変形を始めた。

 そして変形が終わった時、そこにはエグゼイドのレベル1によく似た姿の戦士がいた。

 戦士──“仮面ライダーレーザー レベル1”はドライバーからガシャットを引き抜く。たちまちレーザーの姿が消え、代わりにアロハシャツの上から革ジャンを羽織った男が現れた。

 ど派手な服装に加えて、チャイニーズマフィアを彷彿とさせる丸サングラスが目を引く。

 男は一同を見回すと、よっ、と手を上げて軽く挨拶した。

 

「ばっ……バイクがゆるキャラになってチンピラになったああああああああ!!」

 

「うるさいわ!! ツッコみも長いわ!」

 

 今度ははじめが頓狂な声を上げ、ゆんが大声で返す。

 エグゼイドは呆れながらも、自らもガシャットを引き抜いた。そこで、青葉たちはエグゼイドに変身している青年を始めてまじまじと見ることが出来た。

 

 年の頃は20代前半程度だろうが、どことなく少年のようにも見える童顔だ。

 先程までオラオラと怪人たちを圧倒していた気迫はそこになく、とても温厚な人柄が垣間見える立ち振る舞いだった。

 

 何よりも目につくのは、まだ着ているというより「着られている」という印象を持たせる大きな白衣だ。それを目にして、青葉は恐々と尋ねた。

 

「もしかして……お医者さん、ですか?」

 

「ええ。僕は宝生永夢、聖都大学付属病院所属の研修医です。バグスターウィルス、ゲーム病と戦う専門医としても活動させていただいてます」

 

 青葉の問いに、青年は見た目通りの温和な笑顔で返す。

 

「自分は九条貴利矢。元監察医で、今はバグスターウィルスに対するワクチンの開発研究やってる。よろしく」

 

 グラサンアロハ男──貴利矢は、永夢の肩に手をかけながら名乗った。

 

「あなたもお医者さん!?」

「見えない……」

 

「……よく言われるよ」

 

 青葉とひふみの言葉に笑い交じりに返すと、貴利矢は急に真剣な表情になった。

 

「それより患者だ」

 

「コウちゃん! コウちゃん!」

 

 貴利矢はコウに駆け寄る。りんは半狂乱になりながら、涙交じりでコウを揺すぶっていた。

 

「悪いなお嬢さん、ちょ~~っと失礼するぜ」

 

 貴利矢はりんの両肩をつかむと、優しくそこから引きはがす。そこに、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

 

「私が呼んでおいたの。皆さんお知り合いですよね? 誰か患者さんの家族のご連絡先は……」

「私が行きます」

 

 明日那の問いに、りんが涙を拭いて立ち上がった。

 

「あなたは?」

「遠山りん。コウちゃん……患者の同僚です」

 

「同僚の方ですか……。家族の連絡先などご存知では?」

 

「いえ、その……」

 

 りんが言いよどんだ時、しずくがりんの肩に手をやった。

 りんが彼女の方を見るが、彼女はそのまま明日那と向き合う。

 

「葉月しずく。患者の上司です。今は少しばかり患者の家族と連絡がとりにくい状況で……。私と遠山君が、彼女に付き添います」

「……わかりました」

 

 明日那が承諾し、救急隊と連携を取りつつコウの搬送の手筈が整えられていく。

 りんが乗り込みしずくもそれに続こうとした時、青葉は不安げな声をかけた。

 

「葉月さん……」

「大丈夫、私と遠山君に任せて。皆も病院に来るといいよ」

 

 そう返したしずくの顔は、とても頼もしかった。彼女とて不安なわけは無いであろう。

 だが、ここは上に立つ者がしっかりしなければ全員がまとまらない。

 青葉は、常日頃飄々としている上司のたまに見せるこの真剣な顔に、どきりとしつつも頷いた。

 

 救急車の扉は閉められ、聖都大学付属病院に向かって走り出した。

 

 そしてその一部始終を、物陰から眺める一人の男がいた。

 

 若い男だったが、その顔つきには何か尋常ならぬ生い立ちを感じさせるものがあった。まるで、幾度も死線を潜り抜けた兵士のような。

 

 しかし愛想の無い表情かと思えばそうでもなく、彼はどこか飄々とした眼差しで青葉たちを見つめていた。

 その胸元には、ピンク色のトイカメラが下がっている。彼はそれを手に取るとかりかりと弄り、永夢たちの姿を写真に収めた。

 

「あれがこの世界の『仮面ライダー』……。『エグゼイド』か。大体解った」




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