彼の青春を、恋を、仲間を・・・。
再び出会えると信じて。
序章 支え続ける者
太正二十九年、帝都・東京。大帝国劇場の前を掃除している若者がいた。
年齢は30代に近く、それでも肉体の衰えを感じさせず、目付きの鋭さは彼が修羅場を潜って来ている事を示すかのようだ。
「うーーーん、こんな所かな。次は舞台の掃除とトイレ掃除だな」
彼の名は狛江梨 直仁(こまえなし なおと)此処、大帝国劇場の支配人であり、清掃員でもある。
実際に支配人とは名ばかりで、彼は清掃員としての仕事がもっぱらだ。本人としては気に入っているので気にしてはいない。
舞台に立つとモップとバケツを用意し、水に浸した後に水切りをして床を拭き始める。
それと同時に彼は歌を歌い始めた。
「甲板~♫フラフラ~フラフ~ラ~♫」
彼も舞台に関してはあまり良い印象を持ってはいなかった。だが、ここで出会った出会いが全ての価値観を良い意味で壊してくれた。
「ああ~♫夢のような~甲板~そう~じ~♫」
懐かしく感じる歌をずっと歌いながら、舞台の掃除を終わらせる直仁。舞台から降りて、客席から舞台を見る。
「此処にはまだ・・・」
今でもはっきりと思い出せる。かつての歌劇団との思い出が次々に・・・。彼が清掃員をしているのはこれが要因だった。
『直仁さん!大神さん!お疲れ様です!はい、差し入れのオニギリです!』
『ありがとう!さくらさん』
『ありがとう、さくらくん』
『いいえ、あ・・直仁さん!そんなに急いで食べたら!』
『んっ!?ぐぐぐぐっ!』
『直仁くん!?さくらくん!水だ!』
『は、はい!』
直仁はドンドンと自分の胸を叩き始め、大神はさくらに水を持ってくるように頼んでいた。
「なんてこともあったなぁ・・・」
舞台での回想、花組の隊長であった大神一郎、そして神崎すみれの引退後に花組のトップスタァとなった真宮寺さくら。あの二人、いや・・・歌劇団そのものが思い出の中でしか生きていない。
「あー!やっと見つけましたよ!!」
「げっ!」
「なーにが、げっ!ですか!今日こそ話してもらいますからね!支配人の過去を!あの時に私に言った言葉の意味を!」
「あー、わかったわかった。だったら誠十郎の奴も呼んで来い」
「え?神山さんもですか?」
「良いから呼んで来い!それとお茶くらいは俺が奢ってやる。後、場所は俺の部屋だからな?」
「は、はい!」
「はぁ・・・なんで俺はアイツにあんな言葉を言っちまったんだろうな」
頭を掻きながら愚痴りつつ、彼は走っていく少女の背中を見ていた。彼女の名は天宮さくら、次世代の帝国華撃団・花組の一員だ。無論、歌劇団の一人でもある。
◇
今では彼が此処を一人で支えているのだが、その後ろには神崎重工の強力な後ろ盾があってこそであった。
彼は此処に来る前、荒れ果てた生活をしていた。長屋に住み、必要最低限の金を稼ぐとチンチロや花札といった賭場へ足を運ぶ毎日。
勝てばそのまま酒に使い、負ければ喧嘩で憂さ晴らしをする。最低の日々であった。
偶然にも、酒場で彼を発見し長屋にいるのを知った後、会いに来たのが神崎すみれであった。そして彼女は出会うなり、彼に平手打ちをしたのだ。
「何をしていますの!?腐っている場合ではないでしょう!?」
「みんな・・・みんな居なくなって、どうすれば良いのか解らなくなったんだよ!」
「目の前の現実から逃げるだけでは何も解決しませんわ、それならウチへいらっしゃい」
「え?」
「太尉が太陽なら、貴方は月・・・そう言われていた頃の貴方に戻すためですわ。覚悟なさい」
「すみれさん・・・お願いします!」
それから直仁は士官学校時代の訓練や体験入隊時の訓練、経営、経済、社会学、語学などを徹底的に勉強させられた。
元々、彼は海軍士官学校で首位を争う程の勉強家であり、優秀な頭脳を持っていた。だが、それでも荒れていた時期のサビを落とすことは容易ではなかった。
酒によって鈍った頭脳、訓練していなかった事による、肉体の悲鳴。まさに直仁は一から鍛え直すはめになった。
それでも、彼は歯を食いしばって勉学と訓練を必死に続けた。すみれも厳しく彼を見守り続けた、その裏には想い人を支えていた当時の直仁に戻って欲しいが故のものだった。
そうして鍛え続けた結果、完全とはいかないが当時に近い状態にまで戻る事が出来たのだ。それから、支配人の役割を与えられたが、一から出直したいとして支配人は名前と形だけにし、清掃員として働いている。
◇
「連れてきましたよー!」
「なんで俺まで、って・・支配人?」
「おう、来たか。まぁ、座れや」
直仁は西洋の紅茶も嗜むが、基本的に緑茶を好む。今は季節に合わせるよう、お茶を淹れていた。
「さぁ、早く聞かせてください!支配人が帝国華撃団に入った経緯と私に送った言葉の意味を!」
「まぁ、慌てんな。誠十郎、今からする話はお前にとって、前隊長と比べられる事になるかもしれねえ・・・だが、聞かねえと隊長への一歩はハッキリ言って無い。聞く覚悟はあるか?」
「ええ、聞かせて欲しいです。俺達が来る前の華撃団の話を」
「まぁ、俺の昔話も入っちまうが、話してやるよ。天宮、お前が憧れた帝劇のトップスタァ、それから誠十郎、お前が目指したいと思う男の話をな」
直仁は喉を潤すと同時に静かに語り始めた。十年前、彼が帝国華撃団・花組に入隊した経緯と彼が守りたかった仲間、新世代が集まる前の、秘密にされて来た前・帝国華撃団達との出会いを。
新サクラ大戦、と聞いて思わず書いちゃいました。
サクラ大戦はゲームボーイカラーから入って、それ以降、夢中になっていました。
中の人達の歌劇も実際に見に行き、今は無き池袋のサクラカフェにも通ってました。
OVAもレンタル店に行って全巻を観ていたくらいです。
今でもPSPですが、1と2はプレイしています。
今でも真宮寺さくらさんは「さん」付けする程好きですね。ハイカラさんが好きすぎるというのもありますけどww
この作品は私の自己考察や予想が入りますので、それだけはご了承ください。
サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)
-
倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
-
上海華撃団 ホワン・ユイ
-
新・帝国華撃団の誰か
-
風組or月組メンバー