すみれが登場。
直仁の荒れに荒れていた過去。
直仁はグラスに入ったウイスキーを再び煽ると、中身を空にして誠十郎を見据えた。
「なんで聞きてえんだ?荒れてた俺の昔話を聞いても糧にはなんねえぞ?」
「どうしても聞きたいんです・・・貴方程の人が荒れてしまった降魔大戦に関して!」
直仁は手酌でウイスキーをグラスに注ぐと、誠十郎に視線を合わせず注いだウイスキーを飲まずに掲げて見つめている。それと同時に店の電話が鳴り響いた。
「おっと、済まねえな。もしもし、今日は貸切に・・・ああ、お前か。ああ・・居るぜ・・うん、うん、分かった。貸切にしてあるから遠慮せずに来いよ」
森川は受話器を置き、黙ってつまみなどの仕込みを始めた。しばらくすると店の扉が開き、入ってきた人物に直仁と誠十郎は驚いた。
「「すみれさん!?」」
入ってきたのはまさしく、神崎すみれその人だったからだ。
「まさか此処に来ていたなんて・・・繋がりを感じてしまいますわね」
「どうして此処を?」
「知らなかったのか?すみれは・・・いや、前の帝国歌劇団全員が俺の店の常連客だぞ?」
「ええっ!?」
「マジか・・・。まぁ・・・俺はその当時、体験入隊の時期だったしな」
「黙っていてごめんなさいね。森川さん・・・あれをお願いしますわ」
「あいよ、少し待ってろ」
すみれの言葉を察した森川はある料理を再現し、作った。それは直仁にも思い出深いものであった。
「それは・・・帝劇のランチ・・・」
「ええ、帝劇のみんなで揃って初めて食べた食事ですわ・・・覚えているでしょう?直仁さん」
「はい・・・」
直仁は酔いがすっかり冷めてしまい、食事をするすみれの姿を黙って見ていた。誠十郎も三人にしか分からない思い出に、ただ見ている事しか出来ない。
「ごちそうさまでした・・・」
「アイツ等が居なくなって10年・・・言葉にすると短いが日数だとかなりの時間だな」
森川の言葉をすみれは黙って飲み込んだ、それと同時に誠十郎へと顔を向ける。
「神山くん」
「は、はい!」
「直仁さんが荒れていた時期、それには華撃団の事もありますが、最も重要なのは彼の右腕にあるのですわ」
「直仁支配人の右腕に?」
「直仁さん、右腕を神山くんに見せてあげてくださいな」
「分かりました・・・」
すみれからの頼みで、直仁は右腕だけを見せるために袖から腕を抜き、裸体になった右腕を見せた。そこには蒼い龍の形をした紋様が螺旋を描くように肩付近まで走っていた。
「懐かしいな・・・」
「龍の形をした・・・痣?」
右腕を見た森川は薄く笑っており、誠十郎は目を見開いて驚きを隠せなかった。
「神山くん。サンダーボルト作戦に関して、直仁さんから聞いていると思いますわ。これはその決戦時に受けた代償の表れ・・・」
「代償!?」
「そう。彼は龍脈の加護を受けると同時に、龍脈がもつ爆発的な霊力に耐えきれていなかった・・・。その時に彼の右腕は龍脈に潜む龍に喰われかけたのですわ・・・その痣は身体に纏っている霊力の一部を喰われた証」
すみれが説明している中、直仁は服を着直して、再びカウンター席に座った。
「じゃ、じゃあ!直仁支配人が霊子甲冑で戦うのに制限時間がある理由って・・・!」
「お察しの通り、この痣が原因だ。動かす以上に霊力を使おうとすれば霊力を暴走させかねなくなったんだよ・・・暴走するまでの制限時間が7分って訳だ。その時間以内なら霊力を使っても問題はない・・・」
「もし、その制限時間を超えたら?」
「俺の乗っている霊子甲冑は大暴走・・・俺は右腕が動かせなくなっちまう」
「そんな事が・・・」
「そして・・・その8年後に降魔大戦が始まってしまいましたの。わたくしと彼が置いていかれてしまった。あの戦いが・・・」
「・・・・」
「誠十郎、俺が荒れてた時期とすみれさんに再会した時を話してやるよ。聞いたら幻滅するかもしれねえが・・・」
「構いません」
「それなら、わたくしがお話しますわ」
◇
降魔大戦終結から半年、狛江梨 直仁は突然、行方不明になっていたがとある路地裏でゴロツキ相手に喧嘩をしていた。
「俺らにぶつかっておいて、挨拶もなしか?ああ!?」
「ふん、俺は今・・・気が立ってんだ。ブチのめすぞ?」
「兄ちゃん、啖呵きりおってタダじゃ置かねえぞ?」
「るせえよ・・・さっさと来い」
「やっちまえ!」
その言葉が合図となって、大立ち回りを始めた。ドスと呼ばれる小刀を振り回す者もいれば長ドスと言われる白木の柄の刀身の長い刃を持って斬りかかってくる者までいる。
だが、直仁は身体に染み付いた琉球空手を駆使し、ゴロツキ全員を打ちのめしてしまった。正義の為にと習った武術が今や八つ当たりの道具と化していた。
「あ・・・が・・・」
「金を渡しな・・・10円か、十分だな」
「ぐ・・・・・う」
直仁はゴロツキから奪った金で賭博場へと足を運んだ。行っているのは丁半博打だ。
壺振り役がサイコロを振り、トンと小さな台座に置く。
「丁!」
「半!!」
「(丁の方が奴らとグルか)丁・・・」
「丁半出揃いました・・・・勝負!四・六の丁!!」
霊力すらも利用し、わざと勝ち続け挑発し、喧嘩と博打の毎日。更には一升瓶を片手に酒を浴びるように飲むオマケ付きだ。
「っん・・・んぅう・・・ばぁ・・・!!」
長屋に住み込み、酒を煽る今の彼が帝国華撃団の一員であったなどと誰が信じるだろうか。それ程までに今の彼は堕ちぶれていた。
◇
「彼は見つかりましたか?森川さん」
「すみれか。ああ、バッチリな・・・。例の刀も見つけ出した」
すみれは帝都一の情報屋とも言われた「賽の華屋」である森川に協力を依頼し、直仁を見つけ出していた。
「だが、良いのか?今のアイツは堕ちぶれまくってる・・・其の辺のゴロツキと何ら変わりはねえぞ?」
「良いのです。彼を連れ戻し、あの方と肩を並べていた当時に戻さなければ、帝劇は復興できませんわ!」
「アイツ等の帰ってくる家を守るため・・・か。料金はその言葉に免じて半額にしたが、刀の探索は別料金だからな?」
「分かっていますわ。彼の居場所をお願いします」
「分かった、護衛を何体か付ける・・・気をつけてな」
「ありがとうございます」
すみれは森川の用意してくれた護衛と共に、直仁が今住んでいるゴロツキ長屋へと足を運ぶことにした。
◇
「そんな・・・直仁支配人が・・?」
「事実だ。すみれさんが話した通り・・・俺は喧嘩と博打、酒に溺れまくって身を持ち崩していたんだよ。現実逃避の手段って言ったのはそういう事だ」
直仁は目を閉じたまま、すみれの話す事実を受け入れていた。そこへすみれがさらに言葉を紡ぐ。
「彼はさくらさん、そして巴里華撃団の北大路花火さんを異性と見ていましたから・・・。大切なお二方に残ってくれて良かったと、言われてしまったのが心の傷となったのでしょうね」
「・・・・」
それからの事をすみれは再び話を始める。荒れ果てた直仁がすみれと出会った経緯を。
◇
長屋で寝ていた直仁は外が騒がしい事に気づいて、起き上がり外に出てきた。
「うるせえぞ!なんだ一体・・・ん?」
「・・・」
目の前に立っていたのは気高く、そして美しくあった帝劇のトップスタァでもあった神崎すみれその人であった。
「す・・すみれ・・・さん・・・?」
すみれは直仁に近づいたと同時に思い切り平手打ちをした。その一発は腰が入っており、今の直仁は簡単に倒れてしまった。
「うぐあぁ!?」
「こんな所で何をしていますの!?腐っている場合ではないでしょう!」
「・・・っ」
直仁は叩かれた頬を抑えながらすみれを睨む。だが、落ちぶれた直仁の睨みなど全く動じる様子もなかった。
「さくらさん・・・花火さん、帝劇に巴里・・・紐育のみんなが居なくなって・・・どうすれば良いのか解らなくなったんだよ!俺は・・・俺は何も出来なかった!」
地面を叩き喚く直仁の姿は、まるで自分の心を投影しているようだ。すみれはその気持ちを抑え、直仁を睨む。
「今の貴方は目の前の現実から逃げているだけ、それでは何も解決しませんわ。何もしないのでは意味がありませんのよ!?」
「じゃあ、どうすればいいんだ!教えてくれよ!!」
「一から鍛え直す覚悟が貴方にあって?それならウチにいらっしゃい」
「え・・・?」
すみれは睨むような目つきから、かつて体験入隊した時のように薙刀を指導してくれた当時の目つきになっていた。
「太尉が太陽なら、貴方は月・・・そう言われていた頃の貴方に戻すためですわ。それと、その右腕の制御も満足にできていないのでしょう?」
「それは・・・」
「今の帝劇には貴方が必要なのです。戻ってきなさい!」
「はい!」
直仁はすみれに銭湯へ行く金額のお金を借り、無精髭と全身の垢を落とし、身なりを整えて帝劇に帰ってきた。
そこではかつての直仁の学んだ流派、柳生新陰流の師範代。合気柔術の師範代など勢ぞろいしていた。すみれが独自の繋がりを使い、連れてきたのだ。そこには彼が士官学校時代にお世話になった教官までもがいた。
「直仁よ、落ちぶれたな・・・」
「なんというザマよ」
「師匠・・・申し訳ありません」
「もう一度基本を一から叩き込んでやるから覚悟しろ!」
「教官殿・・・はい!」
直仁を鍛え直すべく、剣術と合気柔術の師匠。そして海軍教官からの特訓が始まった。
短いですが此処まで。次回は直仁のサビ落としです。
その後、また次世代の歌劇団の指導と演目決めの話になります。
サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)
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倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
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上海華撃団 ホワン・ユイ
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新・帝国華撃団の誰か
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風組or月組メンバー