サクラ大戦~もう一つの視点   作:アマゾンズ

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伯林華撃団が研修兼観光(帝国華撃団の歌劇の実力を知る為)をしに日本へ(船の上)。

本格的な舞台女優としての自覚が出てきた次世代の帝国歌劇団のメンバー達。

今回の時間軸は現在のみ

※伯林華撃団隊員の名前は判明している二人以外、自分が勝手につけています。


第十二話 鉄の戦乙女、日の本の国へ

「うー、頭痛え・・・俺、酒に弱くなったかな?誠十郎の奴、酒が入ったら質問攻めだったからなぁ」

 

軽い二日酔いになりながらも直仁は朝の七時に目を覚まし、昨日に落とせなかった垢をシャワーで落とし、髭を剃り身嗜みを整える。本業は清掃員だが、形だけの支配人とは言えど、支配人という肩書きをすみれから預かっている以上、ずぼらな事は出来ないからだ。

 

「さて、今日の予定は・・・朝と夕方に天宮達の指導。それと後は・・・何だ!?」

 

スケジュールを確認していると突然電話が鳴り、受話器を取る。どうやら相手はすみれからのようで、真剣な声だった。

 

「おはようございます、直仁さん」

 

「おはようございます、すみれさん。朝早くからの電話なんて珍しいですね」

 

「ええ、緊急の用事が貴方にありましたので」

 

「緊急の用事・・・ですか?」

 

「ええ、明日に、正確には今から三日後に伯林華撃団の皆様が来ますわ。稽古現場を見学したいと」

 

「はああ!?ちょ、ちょっと待ってください!伯林華撃団のメンバーが来るんですか!?」

 

「ええ、華撃団ではなく歌劇団の方に興味があるそうなので。賢人機関からも正式に依頼されておりますわ」

 

「で、ですが!すみれさんが推薦した演目「シンデレラ」の稽古はまだ一週間しか経っていませんよ!?以前よりもマシになったとはいえ、人に見せられる実力では・・・!」

 

「大丈夫ですわ・・・今のあの子達の目、かつてのわたくし達にソックリでした。あれは本気で舞台をやる気になっている目ですわ」

 

「・・・」

 

すみれの言葉に直仁は黙るしかなかった。確かに今の天宮達は前とは違い、やる気に満ちており、直仁からの指導も積極的になっていた。悪態をついていた事を謝罪し、改めて鍛えて欲しいと直訴もしてきた。

 

「指導だけではなく、あの子達を信じる事も次世代を育てる大切な事ですわよ?直仁さん」

 

「すみれさん・・・分かりました。俺も信じます」

 

「フフ、では頼みますわ。ああ・・それと」

 

「なんでしょうか?」

 

「エリスさんをしっかり見ていてあげて下さいね」

 

「え!?すみれさん!?」

 

それだけを伝えるとすみれは通話を切ってしまった。今はとにかく、天宮達に伯林華撃団が来るという事を伝えなければと思い、受話器を置くと直仁は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

一方、同時刻。船の上でエリスは日本への航路を見つめていた。相変わらず自分の右手の人差し指を自分の唇に優しく当てる癖が抜けきっていない。

 

「この先に、あの時の男が居る・・・」

 

「エリス!やっぱり此処だったのか?」

 

「む・・・どうした?グラーフ」

 

甲板に現れた長身(178センチ)で薄いブロンドの髪と抜群のスタイルを持つ彼女はグラーフ・グローセ。伯林華撃団に所属する隊員でグレネードなどの火力を優先した武装を装備されたアイゼンイェーガーを愛機としており、後方支援を担当する。エリスが隊長になった時、自分のことのように喜んでくれたのも彼女でエリスにとっては掛け替えの無い戦友であり親友だ。

 

「お前が何かを考えている時は、必ず風に吹かれているからな」

 

「そうか・・・」

 

「やはり、Japanisch Hanの件か?一年前にお前を助け、圧倒的な力で降魔の群れを消滅させたという・・・」

 

「・・・」

 

エリスは黙って目を閉じた。それは肯定の意味を指しており、グラーフはやれやれと言いたげだ。

 

「最近のお前を見ていて、みんな心配しているぞ?状況判断や指揮は大丈夫だが、心あらずという感じでな」

 

「・・・そんなつもりはないのだが?」

 

「私だけじゃない。グナイゼナウ、ケルン、ティルピッツも心配しているんだぞ?」

 

「すまない・・・」

 

「気にする必要はないさ、心の問題は自分で解決するしかないからな」

 

「ああ・・・」

 

そう言ってグラーフは船の内部へ戻っていく。エリスはそのまま風を受け続けながら、髪をかき上げた。

 

「(エリス・・・それは恋だぞ・・・自分で気付いていないかもしれないが)」

 

グラーフは己の中でエリスに芽生え始めていた感情を指摘するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻の日本、帝劇では天宮達が次に開催される演目「シンデレラ」の舞踏シーンの練習をしていた。各々の自由を妨げないのが帝劇のやり方なのだが、直仁に発破をかけられ指導してもらった結果、彼女達は直仁からの指導を受け入れ、舞台女優として本気で取り組んでいる。

 

「ストップよ。初穂、ステップが違っているわ」

 

「本当か?どうして出来ねえんだ・・・アタシ」

 

アナスタシアが舞踏の課題曲を停止させ、初穂にダメ出しをする。初穂自身も慣れない舞踏に戸惑っているようだが、アナスタシアや後ろで見ている直仁に改善や動き方の説明を受け、相手がいない状態でステップや足の運び方などを教わっている。

 

「よし、もう一度だ!初穂、互いに支え合う形で舞踏をやってみろ。クラリスを相手にな」

 

「わかった。よろしく頼むぜ、クラリス!」

 

「こちらこそ!」

 

すみれが考案し直仁が行い続けているハードな指導のおかげで、運動量と全身の柔軟性を手に入れたクラリスの身体の軸をブらさない動きは、相手役が何処を間違っているのか分り易く映る。改善箇所を直仁がメモし、具体的な演技を指導しダンスはアナスタシアと協力して練習する。

 

「そうか、避けようとするんじゃなくて・・・相手に合わせればいいのか!」

 

「そうだ・・・自分が思う通りに動かそうとするだけがやり方じゃないんだよ」

 

「へへ・・・今まで男役とか敵役しかやった事がなかったから、こういった役は難しいけど、やりがいがいがあるぜ!」

 

「(本当にみんな、良い表情をしているな。一週間前とは大違いだ)よし、みんな・・・一旦練習を止めてくれ。伝えなきゃならない事がある」

 

パンパン!と手を鳴らし、直仁は自分に注目させる。全員が汗をかいており、それを手拭いなどで拭いながら話を聞いている。

 

「明日、正確には三日後だが・・・伯林華撃団が此処にやって来る」

 

「え、伯林華撃団の方々がですか!?」

 

「そうだ。演劇の方を見学したいとの事でな?まぁ・・戦闘の方もあるだろうが」

 

「突然ですね・・?」

 

「すみれさんから突然、連絡があってな。俺も今朝知ったばかりなんだよ」

 

「なんだよ、それ・・!」

 

直仁のバツが悪そうな表情に、全員が笑顔でほころぶ。だが、すぐに切り替えるとアナスタシアが口を開く。

 

「ベルリンにはオペラと呼ばれる歌劇があるわ。演劇と似ているけど大半は歌で表現するものよ」

 

「歌・・・仮に伯林華撃団が演劇をするとしたら、メンバーそれぞれが凄い歌唱力を持っている。つまり、歌では敵わない・・・」

 

あざみは冷静な口調で伯林華撃団が伯林歌劇団として公演した場合、何が相手の持ち味なのかを分析し、口にした。

 

「そうだな・・・だが、相手の良い所を認める事が出来るのも成長した証だ」

 

「直仁支配人・・・」

 

成長という言葉を聞いて、華撃団全員が笑顔になる。一週間前は指導の厳しさに衝突する事もあったが、天宮の諦めない姿勢に皆が感化されていき、指導を受け続けた。

 

その結果、まだまだ荒削りではあるが、前・帝国歌劇団のメンバーが行っていたような本格的な舞台公演の出来る役者へと成長してきている。

 

「俺のやり方は古いと言われても仕方のないものばかりだ。ただ厳しくしているように感じるだろうし、周りからもそう見えるだろ・・・」

 

直仁の言葉に全員が黙る、自身の反省の意味もあるのだろう。しかし、誰も悪態をつかない、事実として直仁の指導は成長を実感できていたからだ。

 

「叶わないものがあって当然だろう。それでも、今のお前達に出来るのは観客に情景をイメージさせ、浮かび上がらせる事だ」

 

「「「「「はい!」」」」

 

「お前達が今以上に己を高めていけば、前・帝国歌劇団を超えられると俺は強く信じている。でも、それがゴールじゃない・・・お前達もいずれは次世代を育てる立場になるんだ、その時に自分達を超えてくれるように指導出来る様にもなって欲しい」

 

直仁の言葉が全員の心に突き刺さった、天宮だけは驚かず笑顔を返している。先代を超えるだけではなく、次世代を育てられるようにもなって欲しいという言葉は生まれて初めて聞いたのだから。

 

「俺だけじゃなく、誠十郎だっている。頼りたい時は遠慮せずに頼れ、俺達の出来る事でなら協力するからよ、なぁ?誠十郎!」

 

「ええ、俺も協力は惜しみません!」

 

誠十郎の気配に気づいていた直仁は、あえて声をかけることで花組のメンバーに自覚させた。自分じゃなく誠十郎に頼って欲しいと考えながら。あれから誠十郎も鍛錬や自分の仕事ばかりではなく、舞台の知識も入れるようになった。

 

「よし、午後の指導もするぞ!」

 

誠十郎は演技や基本指導などは出来ない、それを自覚している。だが、柔軟体操の手伝いやタオルの準備など裏方のような支えをする事は出来る。目立つだけが支えではないと直仁と食事に行った際に教えられたのだ。

 

主役はあくまでも花組のメンバー達、直仁は演技の技術を向上させる事が出来るだけ、誠十郎も裏方の仕事でメンバーを支え始めていた。

 

「誠兄さんも・・・直仁支配人の影響を受けちゃってるみたい」

 

天宮も演技指導を受けつつ、練習を重ねている中で誠十郎が良い意味で少しずつ変わって来ているのを喜んでいた。指導は出来なくても客の目線から見た意見、台本のセリフ合わせへの協力、柔軟体操や体幹トレーニングの協力、水分補給の準備などをしてくれる。

 

「私も頑張らないと!」

 

天宮は自分の両頬を軽く叩いて喝を入れると、稽古へと戻った。一歩でも憧れの人へと近づいていく為に。

 

 

 

 

 

 

伯林華撃団の乗る船の上、その中で副隊長であるマルガレーテは割り当てられた自室で記録と日記を付けていた。

 

「今回の戦術講義、総復習であったために問題なし。日本へ向かう最終チェックも異常なし」

 

ある程度、書き終えるとマルガレーテはエリスの事を思う。彼女も彼女なりにエリスの変化を心配している一人だからだ。

 

「エリスは最近、成績は問題ないけどメンタル面が不安定・・・私たちじゃ解決出来ない」

 

そんな中、一年前の出来事が蘇る。一年前の華撃団大戦会場での降魔襲撃、伝説と言われた光武二式を駆るあの男を。

 

「帝国華撃団・・・花組、所属。狛江梨・・・直仁・・・・」

 

彼の顔を思い出すと悔しさがにじみ出る。自分達が苦戦していた降魔の大群の大半をいとも簡単に目の前で撃破したのだから。

 

「話してみたい・・・願わくば模擬戦を・・・」

 

マルガレーテは戦術の一環としての情熱を秘め、日本への到着をゆっくり待つ事にしたのだった。




今回は回想ではなく、現在です。

演目が何故シンデレラなのか?それは真宮寺さくらさんの初主演だからです。

次回は伯林華撃団が到着。

その後はもちろん、デ・・・(ゲフンゲフン)

サクラ大戦と言えばヒロイン別ルート!※やはりヒロイン別ルートが必須かと思い次のルートは誰が良いかアンケートします(正ヒロインはエリスですが)

  • 倫敦華撃団 副隊長 ランスロット
  • 上海華撃団 ホワン・ユイ
  • 新・帝国華撃団の誰か
  • 風組or月組メンバー

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